二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果   作:日λ........

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模擬戦

 

 

『どうもすいません千冬先生。自分一人だとISの装着が難しくて。義肢を外さなければいけないのがどうしても……』

「その体では仕方あるまい。今つけてる義肢をこちらに渡してくれ』

 

装着された腕を外し、千冬へと渡した彼は特例で渡された第一世代機『ラファール』へと乗り込む。

この『ラファール』は研究用に残されていた機体を彼専用に改造した急造品である。元々全身装甲型であった第一世代機であるコレは、義肢という『中身』を仕込むにはとても都合のよい代物であったからだ。

彼はドラム缶状の体をラファールの腹部に差し込むと、そのまま普段の生活用の脚部の接続を解除、及びパージし流れるように自らラファールへと組み込まれていった。

本来ならば人が入るべき部分には人工筋肉と本体を守るための装甲が埋め込まれ、パワードスーツと言うよりはもはやロボットや人形と言いたくなるような改造が施されていた。

これは戦闘用の義肢の試作品とも言える代物であり、義肢ならぬ『義体』とも言える産物である。現状、持ち主である彼しかコストや人道的に扱えないが、後に来る宇宙を人類が駆ける時代となれば非常に有用なものであろうと彼は考えていた。

 

『装着、完了しました。ハイパーセンサー、視覚用カメラ、各種計器異常ありません』

「最早、乗り込むというよりは組み込まれると言った方が正しい姿だなこれは……よし。では飛ばずに歩いて着いてこい」

『分かりました。手伝ってくれてありがとうごさいます。千冬先生』

 

そういって彼はアリーナの道をガチャガチャと音を立てながら歩いていく。

本来ならばまだまだ実際にISを装着しての訓練はまだの予定なのだが、彼は自分専用のISを所持しているという理由から試合を行うこととなってしまった。

まず、一番目に発見された男性搭乗者である一夏と、イギリスの代表候補生がクラスの代表を掛けた模擬戦を行うこととなった。そしてそのついでという形でなんとか改造が完了したラファールのデータの収集を望んだ研究者達の要望を聞いて、試合を行うこととなったからである。

一夏とその代表候補生の試合が終わり、鏃の番となった為、教員である千冬がISの装着を手伝っていたのである。

そうして、アリーナの入場口までたどり着いた。

 

「では、いってこい。オルコットは既に準備が整っているようだ」

『胸を借りる気持ちで挑んできますよ。彼女の方が、長い時間鍛練を積んでますしね』

 

そういって、鏃はラファールを飛ばす。

肉体がないせいか、搭載されたマニュアルの通り素直に動かせる。手も足も人工物であった鏃は、その状態に慣れた今ではその延長線上の感覚でISを操れた。

だが、本人はそれが普通なのだと思い込み、特別な例だとは感じていなかった。

 

「……来ましたか」

『ええ、お待たせしてすいません。何分この体は少々手間が掛かる物でして。自ら望んだ姿であり、同時に誇りでもありますが、ね』

「誇りですって……ッ!?やはり、納得できませんわ!貴方、何故そんな簡単に自分の体を捨てられますの?!」

『__捨てたのではありません。捧げたのです。人類の未来を、少しでも輝かしい物にするために』

『今の社会は女尊男卑などと言われていますが、その原因であり宇宙への可能性を人類の半分が諦めなければならない理由になりうるISに乗れないという理由を、解決できるのならこの体の一つや二つ、惜しくはありません』

『先祖が繋いできた未来を受け継ぎ、次へと繋ぐ糧となれる。そのためならなんでも手放せる。私は、そういう類いの人間だったというだけの話です__すいません、長くなりましたね。模擬戦を、始めましょう』

「……ええ。始めましょう」

 

 

(……この方はとても、とても誇り高い方……なのですね。自らの信念に揺るぎ無く、そのために自分の体すら差し出すことすらに……後悔を感じない。今まで、私が知っていた男性とは__いえ、どんな人とも違う誇りを持っている)

 

 

セシリア・オルコット。彼女はイギリスの名家オルコット家を受け継ぐ貴族であり、その血を受け継いている事を誇りとする価値観を持っている。だから、自分の体を研究機関に差し出し、人間とは言えないような姿と化した彼の事の一切を理解できなかった。恐ろしい狂人のようにしか受け取ってなかった。

だが、そんな彼と言葉を交わし、そのなかに一切の後悔も、淀みもないということを感じ取った彼女はその人間とは思えない姿の中に、誇り高き魂を感じ取った。

言葉は交わした。ならば次は、戦いの中で彼の言葉を真意であるか感じるべきだ。

 

試合の開始を告げるアラームが鳴り響くと同時に、双方から銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

(……レーザー兵器。射線が直線的なのが助かったな)

 

現状、戦況は硬直している。直線的であるが故にハイパーセンサーによる発射点からの弾道予測が容易であるため、IS側のアシスト機能をフル活用できる鏃はギリギリではあるが直撃は避けていた。

セシリアの操る第三世代型ISの『ブルー・ティアーズ』は遠距離戦闘用に調整をされている。一方こちらは改造されているとはいえ第一世代型の『ラファール』だ。

相手の得意な距離で戦った所で勝ち目は無い。ならば距離を詰めて戦うべきと、鏃は接近するがセシリアはそれを許さない。世代によるブースターの出力の差から、簡単に引き剥がされてしまう。

キリがなく感じていた。しかしそれは__

 

(ここまで__ここまで私の攻撃を避けますの、第一世代のラファールで……っ!?)

 

まるでフラフラと漂う、実体のない幽鬼を射ち続けるような感覚を味わうセシリアにとっても同じであった。

本当に、まるで掠めるような感覚で避けるのだ。当たったかと確信をもった一撃すら、もう既に何度もかわされている。狙撃主である彼女からしたら堪ったものではない相手であった。

ビットを飛ばしてもそれなのだ。ビットの操作中に動くことができないセシリアは、その隙を突いてくる鏃相手に、しだいと手にしたレーザーライフルで相手をするようになっていた。

そして__

 

試合終了のアラームが響いた。

 

『……ああ、時間切れか』

「そのようですね……残念ですわ」

 

 

どうやらお互い集中しすぎて時間のことを失念していたようだ。

判定は、セシリアの勝利である。かすり傷とはいえ、塵も積もれば山となるように、徐々にシールドエネルギーを削られていたのが敗因であった。

 

 

(底が知れませんね……この方は。わたくしも、考えを変えるべきなのかもしれませんね。織斑 一夏、そして……鏃頭、か)

(流石、代表候補生だ。自分も、積み上げなければ)

 

そうして、お互い自らの存在を認めつつ、この試合は幕を閉じた。




感覚的には彼にとって、今の姿はシュトロハイムや大統領の感覚に近い。
一切の恥も汚点もない、誇り高き姿である()

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