二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果 作:日λ........
「色々と手伝ってくれてありがとう。……明日、一夏にお弁当を作って持っていこうと思うんだ」
『お力になれたようで何よりです。初めの頃が懐かしくなる位の上達っぷりで、自分も嬉しいです』
「そ、そうか……思い返せばあの時は酷かったな」
あの後何回か、手が空いた時に箒さんとは料理の練習を一緒にしていた。自分は食べられないので彼女の味覚任せではあったものの、箒さんは味覚が悪かったりする訳ではなく単純に料理への経験が不足していたタイプであるので問題ないと思いたい。
ここまで覚えれば後は自力で大丈夫だろう。自分の錆びついてた料理の感覚に頼らなくても彼女は十分に色々と作れるようになる筈だ。
「……そっ、そう言えばそれとは関係の無い話になるんだが。部活内での噂話でまた転校生が来るという話があるんだ。しかも、今回は1組にらしい」
『あ、それって確かドイツからの転校生だと聞いてますね。何でも織斑先生がドイツにいた頃の教え子らしいです。例のプロジェクトに協力しているドイツの方から通達がありまして』
なんでも産まれが特殊なドイツ軍の秘蔵っ子らしく、この前自分の体の調整にやってきた方には『世間知らずの面があるので君にも迷惑を掛けるかもしれない。だが根は純粋な娘なのでどうか受け入れてくれると助かる』と頭を下げられた経緯がある。これに関しては特に機密だとかそういう話はなかったので話しても良いだろう。いつになるかは分からんが、どの道同じクラスの学友になるのだから先に知るか後に知るかの差でしか無い。
「え、そうなのか? じゃああの噂話は単なる誤報か」
『……? 噂とは何か異なる点があったのですか?』
「ああ。きっとその話と何か別の話が混ざったのだろうと思うのだが……自分が聞いたのは、フランスからの転校生が来る。という話だったな」
『その話は聞いてないですが……あり得ない話では無さそうですね』
フランス。IS関連で有名なのは自分も使っているラファールの後継機であり、現在世界で最も普及している第2世代型のIS、ラファール・リヴァイヴの生産元であるデュノア社がある事であろうか。自分のラファールも元はデュノア社で研究用としてコアを抜かれて保管されていた物を提供されたものをベースにされている。
ただ、第2世代で最も普及した機体を作ったものの評価された理由である機体特性が『機体の性能バランスが良く、癖のなく扱いやすい、様々な武器を搭載できる容量をもった機体』という面であったがために、各国の技術力が追い上げて来るとその面は自然とアドバンテージとして薄れてしまった。無論、ラファール・リヴァイヴは傑作機だ。ISを開発する余力のない国でも、ラファール・リヴァイブを対IS用の抑止力としてデュノア社から輸入して運用している程である。『ISコアは2000個前後』が世界各国で使用されているとの事なので、その四分の一がラファール・リヴァイヴやその現地改修機であると言えばどれだけ評価された機体であるかは分かるだろうか?
それ故に、デュノア社は『世界中のラファール・リヴァイヴの予備パーツの生産や保守点検等のアフターサービスに手一杯』であり、金銭的にはプラスだが次世代機を生産する時間と人手が無い状態が長らく続いてしまったという。その為、他にIS関連で突出した企業を持たないフランスは第3世代機開発という面では他国と比べて大きく突き放されていたとの事だった。
そこで自分の提供した体の研究プロジェクトが出てくる。当然ながらフランスは嬉々として参加し、デュノア社は惜しまず資金提供を行ってくれた。それにより、あの場で行われている各国の技術交換によってフランスは遅れていた次世代機開発の為の技術を大きく吸収出来たらしい。
お陰で滞っていた次世代機の開発がようやく進みそうだとデュノア社の社長本人に直接的感謝された事は記憶に新しい。ここに来る前の出来事である。なんでも完成してなかったのはエネルギー兵装の部分だったらしく、あの場での技術交換はデュノア社にとって渡りに船であったらしい。
あり得ない話ではない、というのはフランスの第3世代機の試作型がそろそろ完成するのではないか?という期待からである。
何せ、このIS学園には現在試作型の第3世代機を持った各国の代表候補生が何人もいる。セシリアさんもそうだし、鈴さんもそうだ。例のドイツの転校生がこちらへ来日してくる理由も彼らとの戦闘データの収集のためという理由が間違いなくあるだろう。この学園の生徒会長もロシアの代表候補生だ。ならばフランスもそれをやっても可笑しくは無いとは思うのだ。
それはそれとして、だ。
『まあ噂が本当だったなら、転校生を暖かく受け入れてあげましょう。遠い異国の地に一人でやってくるわけですからね』
「……そうだな。一人ぼっちは、寂しいからな」
そうして翌日のホームルームにて。噂は本当であったと証明された。
転校生は二人居たのである。
「はーい、今日は皆さんに転校生を紹介します!なんと、遠く遥々フランスとドイツから来た子たちになります!!まずはシャルロットさん、入ってきてください」
山田先生がそう言うと、金髪碧眼の少女が教室に入ってきた。
「初めまして、シャルロット・デュノアと言います。フランスから来ました。皆さんよろしくお願いします!」
シャルロット・デュノア。そう、あのデュノアである。デュノア社との関係は語られていない為不明だが、何らかの関係者であることは疑いようが無いだろう。どことなくデュノア社の社長の面影を感じる辺り、血縁者か何かだろうか?
彼女はフランスの代表候補生であり、遂に稼働可能な域まで完成したフランスの第3世代機を持って来日してきたとの事だ。
どれほどの物を仕上げてきたのか大変楽しみである。
そしてもう一人の名を、織斑先生が呼び出した。
「入ってきて来い。ラウラ」
「了解しました。教官」
「……ここでは織斑先生と呼べ」
「しかし……!教官は、教官では……」
「二度は言わんぞ。ラウラ。ほら、自己紹介をしろ」
「……失礼しました」
そう言って、教室に入ってきたのは灰色の髪に左目に眼帯をつけた、冷たい雰囲気を持った赤い瞳の小柄な少女であった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。階級は少佐。ドイツ軍特殊機械化IS部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』所属の軍人だ。本日よりこのIS学園に所属する事となった。以上だ」
彼女がそう言うと織斑先生は前途多難そうに片手で軽く自身の頭を抑えた。が、直ぐに切り替えて彼女を席に座らせた。
そしてそんな彼女は織斑君を見つけると、何やら敵愾心のような物が篭った目で彼を一瞬睨んだ。
……おいおい。仮にも軍人を、しかも少佐を名乗るのなら民間人に対してそれはいかんだろう……が、織斑君は授業に夢中で気がついてない様子。
……取り敢えず、自分も授業に集中しよう。嫌な予感はするが、彼女も織斑先生の言うことは聞くだろうし、授業中は問題にはならないと思いたい……何か起こるとしたら、お昼休みだろうか。
今日のお昼は箒さんが作ったお弁当を織斑君へ持ってくという、料理の練習に付き合った身としては感慨深い日であった筈だったのにな……悲しいことに途端にお昼になってほしくないと思ってしまった。
何故彼女は織斑先生の教え子だというのに、その弟の織斑君にあんな目を向けるのだろう……
今回は自己改変した部分が多く出ています。ご了承ください。
※この作品の束さんは原作よりは世界に絶望してません。この作品では作中に登場しているザイオング博士を始め分野は違いますが彼女に匹敵するほどの科学者が何人か存在している為です。彼女の夢を理解してくれる人間が何人かいた訳ですね。なのでその期待を含めて作ったコアの数は激増してます。原作の四倍強ほど。それでも全コア使っても総数は2000機前後なので数は少ないと思いますが。
原作の量産型含めて476機しかいない、という状態よりは現実味があるのではないでしょうか。この数なら数機位なら学生に渡しておいてもなんとかなると思うので。
※鏃の存在から大手を振ってデュノア社は男性搭乗者のデータを得れます。なのでシャルロットはシャルロットとして初めから学園に来れました。
更にちょうどいい技術交換の場となっているのでエネルギー装備関連と思わしき第3世代機開発の遅れも解消されました。なのでシャルロットは例の機体に乗ってます(※詳細が少ないのでオリ要素入る予定です)
デュノア社の社長大勝利である(尚家庭問題は全く解消してない模様)