二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果 作:日λ........
無人機が襲来したクラス対抗戦から数週間。色々とゴタゴタしていた雰囲気が収まり、ようやく周囲が落ち着いてきた。
IS学園に襲撃を行うというのはつまり出資を行っている世界各国に喧嘩を売るという行為と同義である為、厳重に残された無人機を調査したものの犯人発見に繋がるような形跡は発見されなかったそうだ。
この時点で色々とおかしいが、この件に対し学園側から箝口令が敷かれた為この話題に関してはあまり話さない事になった。まあ、そういう事なのだろう。あまり生徒が関わるべき事では無いというべきか。ともあれ幸い怪我人や死者は居らず、被害は学園の設備のみとなったのでまだマシと考えるべきだろう。
今回の一件で、自衛の為にラファールの装備を自分の適正にあった物へ一新する事になった。様々な改良を施された機体ではあるが、あくまでも義体とも言える本体のテストやこの状態の自分の保護を最優先で行われた改良である為装備品はライフルやナイフ等の汎用品以外は改良前の旧式の装備のままであった為である。
可能な限り望んだ装備を送ってくれるとの事だったので、弾速の早く取り回しの良い射撃兵装と、牽制用に使える高速ミサイル、それと広範囲攻撃が可能な射撃武器を希望した。自分の戦闘における適正を考えるなら至近距離の戦闘は無謀である為、中距離からの機動戦に特化した構成に変えたのである。そして今日、それらの装備は送られてきた。
ラファールの後継機であるラファール・リヴァイヴにも採用されているライフルであるヴェントと、その派生機種でIS用の銃器としては小型で取り回しの良いマシンガンを一丁づつ。
IS同士での戦闘を想定し、破壊力ではなく当たった時の衝撃に特化させることで相手の足を止める高速追尾ミサイル。
そして、片手で撃てるグレネードランチャーが送られてきた。後継機であるラファール・リヴァイヴでも扱われている装備なので、性能的にはそれを超えているらしい自分のラファールでも問題なく扱えるとの事だ。
それらを受け取り、今まで拡張空間に入っていたライフルやハクサンを返却した。その存在を知ったときは使うことは無いだろうと思っていたハクサンだったが、先日コレのおかげで来客の方々を助ける事ができた。世の中何が起こるか分からない物である。
そんな訳で、新装備を受け取って試し撃ちを終えた自分は最早恒例となりつつある放課後の織斑君達との自主訓練でその効果を確かめる事となった。あの後鈴さんも加わって、更に訓練が捗る集まりになりつつある。
IS学園では専用機持ちは提供されている機体の整備や調整、データ収集や専用機を作った国や企業へのそれらの提供の為に放課後の部活動への参加は自由参加となっており、そうではない学生もISの習熟の鍛錬を行う為であれば申請を行えばそちらを優先出来る。
その為、搭乗時間の関係上不利である織斑君の技量を高める為に始まったこの集団での訓練はいつものメンバーの予定がない場合は休日以外はほぼ毎日行われるようになっていた。
「今日も模擬戦の相手よろしくな鏃」
『よろしくお願いしますね織斑君』
お互いISを装着してアリーナに上がる。数週間前に荒らされていた筈のアリーナはほぼ完全に修復されていた。流石最新設備を備えた施設である。特にアリーナ部分はISでの模擬戦も想定されている為に、直ぐに修復出来るように備えられているらしい。その為、襲撃の痕跡を見つけるほうが難しいほどである。
模擬戦開始を告げるブザーが鳴る。それと同時に、織斑君はコチラへ一気に距離を詰めてきた。
『イグニッションブースト』と呼ばれるISの特殊な移動方法である。動作が直線的になる欠点があるものの、行った機体は爆発的なスピードで動く事が可能となる。近接型の機体であるなら覚えておきたい技能の一つだ。白式の能力を踏まえると一番必要な技能である為織斑君が頑張って習得していたのを覚えている。
確かに白式の刀の威力は絶大だ。このまま近寄られるのは確かに不味い。
が、それはつまりこちらへまっすぐ読みやすい軌道で近寄ってきてくれると言うことである。
それなら、こういうことも可能なのだ。
「……っ!?しまっ」
織斑君がイグニッションブーストを行う姿勢に入ったと同時に、自分は予測できる軌道に追尾ミサイルを『置いた』
事前に予測した移動ラインにミサイルを数発撒いておいたのだ。いくらISがミサイルより早く動けてそれらを撃ち落とせると言っても自分から突っ込んでくるなら話は別だ。加えてイグニッションブースト中はISの利点である細かい姿勢制御が効きにくい欠点も存在している。
撒いたミサイルは破壊力は無いが、当たった相手を吹き飛ばし動きを固める衝撃力に長けた物だ。その為織斑君の白式は足を止められる形となる。
足が止まったなら、後はひたすら弾をぶつけるだけである。手にしていたライフルを拡張空間へ放り込み、グレネードランチャーを取り出す。そのまま織斑君の周囲へと旋回しつつ、両手に持ったマシンガンとグレネードランチャーの引き金を引く。
何とか制御を取り戻した織斑君であったが、もう遅い。容赦なく大量に放たれた感知式のグレネード弾は織斑君を爆風に包み込んでいった。
『こういうことになるから初手でイグニッションブーストは良くないですよ織斑君。特に自分達は何回も模擬戦してるんで、初めからやると動作がバレバレなんですから』
「はい……とても理解しました……ぐ、グレネードが……大量のグレネードが……!」
「うわえっぐ。一夏からの映像だと四方八方からグレネードとマシンガンの弾が飛んできてる……や、やり過ぎじゃないの鏃?」
『うーん。確かにここまでやると弾の無駄が出るかもしれませんね。初めて使ったのでイマイチ勝手が分からなかったので念入りにやりましたが……』
「一夏、大丈夫か一夏?おーい……駄目だ、何処か遠い所を見ている……」
「仕方ないですわ。一瞬でこんな光景に叩き込まれたんですから。ショックでボーっとしても無理はないでしょう。おいたわしや一夏さん……」
使いたかった装備を使った初めての戦闘だった、というのもあるだろう。初めからこんなにもしっくりくるとは思ってもなかったが。
まあここまで一方的に撃破できるのは至近距離の白式位だろう。近づくしか勝ち目がないのが分かりきっていた中で直ぐに突撃して来てきたのだから織斑君の自業自得である。
セシリアさんのブルー・ティアーズ相手には撃たれる弾を躱しつつこちらが近づくしかない。お互い距離を取って戦うことになるが、こちらは射撃武器なら躱すのが得意だがグレネードの射程が足りないので双方致命打となる一撃に欠けた戦いとなる。先に集中力の欠けた方が負けになる戦いになるだろう。
箒さんの借りてる打鉄は近接よりだが射撃武装も持っているし、防御に優れた機体なのでミサイルは迎撃されるだろう。そうそう直で当てられない為牽制にしかならない。となるとグレネードも当てられないだろう。ライフルとマシンガンで戦うのが無難かもしれない。
鈴さんの甲龍相手なら余計にそうなる。弾も砲身も見えない龍砲はセンサー類での感知もしにくいので、正直今のこのメンバーで一番鬼門な相手であった。ただ撃つだけならなんとか躱せるが、接近して近接武器と織り交ぜられるとまったく対応し切れなくなる。なので新装備でもガン逃げに徹しつつマシンガンとグレネードをばら撒いて時間切れの判定勝ちを狙うしか無さそうだ。
「……すまん、取り乱した。今後、イグニッションブーストを使うタイミングには気をつける事にする」
『それが良いと思います。折角白式にはイグニッションブーストに頼らなくても高い機動力があるんですから、それは切り札に取っておくべきかと』
「ふむふむ。たしかに言われてみないと実感出来ないもんだな……というか、よく考えたら白式ってスペック上だと更に自由に速度出せるはずなんだよな。俺が使いこなせてないだけで。もっと精進しないと駄目ってことだなぁ。ごめんよ白式……」
織斑君は待機形態となって腕に収まる白式に対しそういった。
「今日も模擬戦に付き合ってくれてありがとな鏃。いい経験になったわ」
『いえ、自分も新装備の使い勝手が分かったので助かりました。今後ともよろしくお願いします。さて、次は……っと。もう結構いい時間になってしまいましたね』
「そうね。鏃が新装備を受け取ってくるまでに私達も何戦かしてたし……そろそろ帰って熱いシャワーでも浴びたいわ」
「そうだな。今日はもう十分だろう。明日に備えて寮に戻る事にしよう」
「そうですわね。そろそろ溜まった稼働データを英国の開発チームに送らないと……」
「じゃあ、今日の自主練は終わりだな。寮に帰ろうぜ、皆」
そうして、今日の放課後の自主練は終わりとなった。
皆、こうして集まる事にはそれぞれの理由はあるが共通している面が一つあった。それは、ISに関しての努力を怠っていない学生と言う面である。
故に、ISの操作の習熟に関しては皆ストイックな姿勢で取り組む良い流れが出来ていた。ここに鏃が混ざってなければ一夏を巡る駆け引きがあったかもしれないが、彼がいる事でそういった事は露骨に表に出さないよう女性陣には暗黙の了解が行われていた。
なんだかんだでこのドラム缶のような姿をしている男には、皆助けられたりしている為か迷惑を掛けるわけにはいけないという共通認識が出来上がっていたのである。善意が行き過ぎて全身を捧げてしまった彼だが、見てくれが奇天烈なだけで本人は極めて善良なのは皆体験済みである。
本来の歴史よりも、それは一夏にとって幸せな事かもしれない……