二人目が、『自己犠牲精神』が過剰な人間だった結果   作:日λ........

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早起きして作ってきたから六時投稿です()


幕間『きみのためにはやおきしておべんとうをつくってきたんだ!』

 

 

 

 

 

私、更識簪には最近とても気になる相手がいる。あ、別に恋愛とかそういう意味でなくて、単純に知的好奇心的な意味で気になる人がいるのだ。

 

昼休み、誰もいない整備室で今日も私は自分の……未完成のISに頭を悩ませながら色々と手を尽していると、彼はやってくる。

 

 

ドラム缶に手足を生やしたような姿の彼が。

 

 

 

……え?間違ってないよ??比喩表現じゃなくて、ホントに小さめのドラム缶のような金属の塊に人の手足が生えてる感じなんだ。初めて見たときはちょっと面食らうと思う。その、なんというか……ちょっとシュール過ぎて言葉に詰まる。

 

 

 

でも私が気になる理由はそこではない。彼は毎回昼休みに整備室に来て、自分のISを展開して乗り込むのだ。彼の機体は第一世代型のラファール……なんだけど……そうとは思えない程に、別物だ。

 

 

資料で見た姿が残ってるのは輪郭くらいである。まず腕。人工筋肉や外骨格で構成された強靭かつ太い腕。脚も同じだ。みっちり中身が詰まっているように見える。

普通ならば人が装着する関係上空洞になってる筈の部分が一切見当たらず、代わりに唯一空洞になっている部分は胴体部だけだ。それだって彼に合わせた物で、胴体部の上に頭のような形状のカメラユニットが装着されているのも見逃せない。

 

ISというよりもSF作品で見たことがあるようなパワードスーツや義体にしか見えないそれは、手足の接続を外した彼を自らの手で掴み、腹部へと収めた。そうして鳴る金属と金属が合わさる音。やがて接続が終わると、頭部にあるカメラユニットに淡い光が発せられる。

 

初めて見たときは物凄く感動した。だって目の前でアニメや特撮でしか見たことがないような動きをする、『ロボット』が目の前に現れたのだと思ってしまったから。

 

 

でも、現実は非情なまでに生々しく、悍ましい物だった。彼はロボットなんかじゃない。少し前までは私達と同じ姿をした人間だったと知って、私は青ざめてしまった。

 

彼の名前は鏃頭。世界で二人しかいないISの搭乗適正を持つ男性。そんな彼が世界に対し行った行動とは文字通り『自分の体を切り売る』行為だった。自ら被検体になることを志願し、その結果……あのドラム缶のような容器の中には彼の脳と、それを生かす為の器官しか残っていないという。

 

それを強制されたならただ悲劇として受け止められただろう。でも、彼は志願して行ったのだ。正直理解が及ばなかった。

 

……そして今、そんな彼が私に『もしよろしければ』と言って何故かお弁当を持ってきた。

いみがわからない。なんで?どうして関わりの無い私に??

混乱する私に、彼は言葉を続けた。

 

『何時もここで作業をしていて、お昼に何も食べてないようですので心配になりまして……友達の料理の練習で一緒に作ったは良いですが自分は食べれませんから。あ、味見は友達にやってもらったので平気なはずです』

 

 

しかも彼の手作りだと言う。失礼だとは思うけど、そんなメカメカしい体で料理を作っているとかちょっと想像がつかない。

 

……でも確かに最近、根を詰め過ぎていた気がする。ちょっと前までは購買でサンドイッチやおにぎりを買っていたが、集中しすぎて食べないことが多くなり結局最近は買うことすらしてなかった。

これはいけない。一つのことに気を取られすぎて別の所が疎かになってるのでは話にならないぞ、私。

 

『あっ、ご迷惑でしたか?もし出過ぎた真似をしたようでしたら申し訳ありません。これは持ち帰りますので……』

「えっ。あ、あの、心配を掛けたみたいでごめんなさい! その、ありがとう。ありがたく、食べさせてもらうね……?」

 

 

私は彼の持ったお弁当の包みを受け取った。

……なんかすごいずっしりしてるんだけど。お弁当だとしてもこれはもしかしてお重なのではなかろうか……?混乱してて気が付かなかったが結構大きいし、食べきれるか心配になってきた。

 

『自己紹介が遅れました。自分は一組の鏃頭というモノです。同じ一年生の方、ですよね? 別のクラスですが、同じ一年生同士よろしくお願いします』

「わ、私は……更識。四組の更識簪。その、名字で言うと上の学年にいるお姉ちゃんと被っちゃうから、簪って、呼んでほしい」

『分かりました。よろしくお願いします、簪さん。あ、お弁当の容器に関してはまた整備室に来ますので、その時に渡してくれると助かります。では、今日はちょっと用事があるのでこれで失礼しますね』

 

 

そう言って、彼は整備室から出ていった。普段しているISの展開や調整もせずに。つまり、彼は態々私にこれを渡すためだけにここまで来てくれたって事……?

 

……私、彼に対して酷い偏見を抱いていたのかも。確かに彼は尋常ではない行為を行ったかもしれない。その結果、あの姿に成り果てたのかもしれない。

でも、彼も血の通った『人間』だった。それも、見ず知らず……とまでは言わないが、話した事もない相手を心配して、お弁当を作ってくるような。ちょっと、善意が行き過ぎてるんじゃないかと思わないことは無いが、それでもだ。

たとえ鋼鉄の塊に身を包んでいたとしても、彼は『ロボット』なんかじゃない。

 

 

「……でも、ちょっとこれは女の子にあげるお弁当にしては大き過ぎると思うんだけど……」

 

 

案の定、包みを開いてみると三段のお重が姿を表した。中身は和食で、煮物や焼き鮭、厚焼き卵等どことなく懐かしい雰囲気を感じるおかずとおにぎりが詰まっていた。

……これは私一人では食べきれないな……

 

「もしもし、本音?まだ、今日はごはん食べて無いかな?実は貰ったお弁当があるのだけど、食べきれなさそうなくらい大きいお弁当なの。お重が三段もあって……だから、一緒に食べない?」

 

 

ちょっとお節介が過ぎるけど、私の憧れるアニメや特撮のヒーローのような『優しさ』をもった人。

 

そんな人の優しさに触れて、焦りからささくれていた私の心が潤った気がした。

 

そんな、お昼の一時だった。

 




シリアスだったからギャグ挟みたくなったがこの主人公、日常生活を送ってるだけでシュールな絵図になるのが本当に卑怯である()
細かい時期を決めるのが面倒だったので幕間にしたが、一応無人機襲撃前の出来事です。箒の料理の練習に早起きして付き合った感じ。

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