街で買い物を楽しんだ後、俺は真剣に考えていた。あれだけのアイドルを殺す事が果たして相応しい行為なのかどうか…と。いっそ侵略行為などに及んでくれれば喜んで倒すのだが、イマイチ覚悟を決め切れない。
どうしたものか…と思ったその時
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「ぎゃああああ!!!糠味噌腐る〜!!!」
凄まじい音痴な歌を耳にした。その音源へと向かってみると、1人の亜人がノリノリで歌っているではないか。他の観衆はとうに気絶し意識を手放していた。
「ストップ!ストップ!」
そう必死に叫ぶと、彼女は歌うのを止めた。代わりに鬱陶しそうな目でこちらを見返してくる。
「何よ、あんた。私の路上ライブを邪魔するっての?」
「ライブ!?今のが!?」
彼女の声そのものは綺麗だ。一体その声からどうやってあのデスメタルみたいな歌が出来るんだよ!?
「そうよ、全く。折角このフランスで華々しくアイドルデビューを飾ろうとしたのにいつの間にか私の専売特許は奪われるわあっちにファンを取られるわ散々よ!」
プンスカ怒る亜人の少女に半ば呆れながらも、取り敢えず水筒を渡した。
「気が利くわね!私のプロデューサーにしてあげてもいいわ」
「謹んでお断り致します」
「私の名前はエリザベート・バートリーよ。エリザでいいわよ」
「拒否権無いのかよ!?」
ヤバい雰囲気だな…と思ったタイミングで、モードレッド達がやって来た。
「こんな所にいたのかマスター、ん…誰だこいつ?」
「エリザベート・バートリーだってよ。多分サーヴァントだと思うんだけどどんな奴か分かるか?」
「知らね、竜の尻尾とか羽とかツノとか生えてる辺り多分ロクでもねぇ奴だぜ」
「それな」
「さっきから失礼ねあんた達!?」
悪口に堪えられなくなったエリザが怒気を孕んだ声で叫ぶが、そのボイスですら軽い音波攻撃となり、窓が吹き飛んだ。
『エリザベート・バートリー…史実に存在し、実在が確認されている。十六世紀~十七世紀の人物だよ。1560年、ハンガリー家の名家、ドラゴンの歯を紋章とするバートリ家に生まれ、美しい吸血鬼カーミラのモデルのひとりであり、600人以上の娘の生き血を浴びて己の美貌を保とうとした悪女と言われてるけど……何でアイドル要素が加わったんだ!?』
「解説ありがとうロマン」
「私のこのプリティな所は、スキル『無辜の怪物』で魔人化しているからよ。私の知らないところで本当に竜の血が交じっているみたいだけどね。そしてアイドル要素は〜昔見た日本のアイドルを見て憧れたからよ!」
なんだこのメチャクチャなサーヴァントは…。
「エリザベート・バートリー、その武器を見るに…貴女はランサーですね?」
「よく分かったわね!この槍はマイクスタンドにもなる優れものよ!欲しいって言ってもあげないわよ♪」
そんな風に騒いでいた時、いきなり物陰から大量の兵士がやって来た。皆、怒りを孕んだ顔でエリザベートを睨んでいる。
「そこの女!数々の暴力行為及びジャンヌ・ダルク様への侮辱行為…許すまじ!!!ここで討ち果たしてしんぜよう!!!」
「「ジャンヌ・ダルク様の為に!!!」」
ヤベ…面倒事に巻き込まれたなこれ。と、思った時…エリザが前に出た。
「私はエリザベート・バートリー!ここで路上ライブをやって生計を立てているアイドルよ。私の邪魔をしようって言うのなら相手になってあげる!!!」
彼女はマイクを外してポケットに仕舞うとマイクスタンドに短剣を取り付けてクルクルと回した。モードレッドが加勢に行こうとした所、エリザはそれを制した。
「アイドルは熾烈な争いをするわ。でも、それは正々堂々とした歌での勝負で無ければならない…だから、私は歌わせずに追放しようとするあんた達を許さないわ!」
「やれ!!!ブチ殺せ!!!」
兵士達が槍を手に襲い掛かった。彼女はそれに対してマイクスタンドの柄で踊るように受け流すと穂先で武器のみをピンポイントで斬り裂いた。さらに、ポールダンスのようにマイクスタンドを軸にターンすると遠心力で尻尾を振るって薙ぎ払い1人の意識を刈り取った。わずか5秒で2人が戦意喪失・気絶という状況になり、兵士達が後ずさる。
「どう?まだやる?」
「チッ!引き上げだ!」
兵士達が一斉に立ち去るのを確認したエリザはマイクスタンドから剣を外してマイクを付け直した。
「どう?私の力は」
「オレ3秒で5人イケるぞ?」
「ウソ……っていうかその武器!?あんたらまさか…!?」
「あぁ!オレは円卓の騎士モードレッド」
「私はアルトリア・ペンドラゴンです」
「私はマシ──」
「やだぁ〜!円卓の騎士と王様だなんて!もしかしてイケメンな王子様とか知ってる?アーツ3枚のカッコイイ人とか❤︎」
「あー…バスター3枚の芋ゴリラなら知ってるぞ…」
完全にスルーされたマシュはショックのあまり四隅でいじけてしまった。強く生きろよ。死んだら盾ぐらいは拾っとくからな。
「ところで、アイドルの座を追われたという話について詳しく聞かせてくれ」
「いいわ。でも見てなさい!今にトップアイドルの座を奪い返してあげるんだから!!!」
彼女から得た情報は貴重だった。
音響施設の情報・音響道具の作り方・アイドルのイロハをとある人物に教えた所、突然ジャンヌ・ダルクというアイドルが出て来てお払い箱にされた…………か。
「全ての元凶テメェじゃねぇか!!!」
モードレッドがブチギレて壁を拳で叩き割った。流石に俺も同情した。これのせいでアイドルであるジャンヌ・ダルクを責める事が出来なくなったのだ。しかも、伝説のアイドル級のカリスマが俺に殺す気を奪っていた。どうすりゃいいんだ…。
「だから〜、私をジャンヌと歌唱力勝負させ───」
「論外。お前と釣り合うかボケ」
「酷いッ!この人女の子にボケって言った〜!」
「いや、いつものマスターだしなぁ」
「責めませんよ私も」
「えぇ…(困惑)」
ジャンヌ・ダルクに対抗出来るアイドルなんているのだろうか…?取り敢えず、情報提供をしてくれたエリザには報酬として水筒を一本を渡して俺達はラ・シャリテを後にした。
──────
「これ似合ってるか?」
「似合ってるぞ。なかなか可愛いじゃねぇか!」
モードレッドもアルトリアも戦闘服では無く、フランスの町娘の服を着ている。モードレッドは赤を基調とした物を、アルトリアは白と青を混ぜた物だ。
「私はどうでしょう?」
「アルトリアも中々のチョイスだな。可愛いぜ」
「モードレッドの服のセンスも侮れないものです」
「それどーゆー事だよ〜」
「ふふ、冗談ですよ」
「───私も着ればよかったです」
親子が仲良くしている姿は絵になる。武器さえ握っていなければ2人とも普通の家族として生きられたのではないか…まぁ、普通の家族としても不貞の子となると確執は出来るが、それでも真っ直ぐに向き合えばこうして幸せな親子になれる。対話の大切さを感じるな。
「おい、サーヴァントが近くにいるぞ。警戒態勢だ」
モードレッドは肩に担いでいたクラレントを構え、アルトリアも手綱で引いていたドゥン・スタリオンに飛び乗り、懸架していた聖槍を引き抜いた。
が、物陰から出て来たのは…歴史でよく見る方のジャンヌ・ダルクだった。
エリザベート・バートリー
愛称:エリザ(自称)
真名:エリザベート=バートリー
誕生日:5月17日 / 血液型:不明
身長:154cm(尻尾含まず) / 体重:44kg
出典:史実
スリーサイズ:B77/W56/H80
属性:混沌・悪 / カテゴリ:人
性別:女性
趣味:アイカツ
特技:歌
概要:自称アイドルことエリザベート・バートリー。本編より早めに登場。強キャラ面が強調されているが、キャラがブレないように気を付けたとは作者の談。実は今回の原作との相違点の元凶だったりする。