「……大儀であった」
獅子王は受け取った銀の腕を胸に抱いた。ベディヴィエールの忠義は果たされた。世界が次々と修復されていくのを確認しながら俺はこの戦いが終わったことを理解した。と、カルデアから通信が入る。回線を開くと、目元の涙を拭う黒ジャンヌの姿が映った。
──聞こえてる?これからレイシフトを開始するわ。もうこの特異点からは一刻も早くおさらばした方がいいわ。
「そうだな!帰ろうぜ!帰ったら祝勝会と葬式だ!取り敢えず、帰って寝ようz……アルトリア?」
帰ろうと言った時、アルトリアは俺達に背を向けた。
「申し訳ありませんが、最後にやらなければならない事があります。待っていただけないでしょうか?」
「待つって…まさか」
「もう2度と同じ機会には出会えないかもしれません……今しかありません」
決意は固いようだ。どうしようか迷っていた時、獅子王が突然指を鳴らした。暫くしてから馬の嘶きと共に漆黒の馬がやって来た。
「これは……」
「私を目覚めさせてくれた礼だ。私の力がいつまで保つか分からんが幾つかの加護もやろう。願いを叶えて帰るが良い」
「───感謝します。獅子王」
「フッ……」
『アルトリアは僕達カルデアスタッフが責任を持って監視してるから先にレイシフトしてくれ。いいね?』
「分かった。全員!元の世界に帰るぞ!聞こえてるか!!!ナイチンゲール!」
『はい、データの回収も完了しました。帰還準備、出来ました』
──では、転送!
俺達は勢いよく城を飛び出すアルトリアとその名馬「ラムレイ」を眺めながら、この世界から消えた。
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「ハィヤァッ!」
私はラムレイを急かしながら、只管に走った。今はマスターからたっぷり供給してもらった魔力がある。ある程度は保つだろう。
「間に合ってくれ!」
体が少しずつ強制的にレイシフトしようと光り始めている。今はこのラムレイを信じるしかない。焦燥と不安の中で私は手綱を握り、必死に祈った。砂漠を抜け、山を越え、川を渡り、草原を駆け抜ける。
「最果てより光を放て…其は空を裂き…地を繋ぐ!」
風王結界と獅子王の加護を使い、海を駆ける。森を駆け抜ける。全てはあの人に借りを返す為に…!
「ここだ……」
剣に遺っていた兵士の魂の導くままに走り抜いた私は、木造の家に辿り着いた。軋んだ扉が開き、農婦の格好をした女性が現れた。私を見た途端、彼女は腰を抜かした。
「あ…アーサー王……!?」
「申し訳ありません、本日は大切な用事があって参りました。貴女の旦那様はモードレッド軍の兵士でお間違い無いでしょうか?」
「しゅ…主人をご存知なのですか?」
「はい、彼からこの剣を奥様に返還するよう頼まれました……どうか、受け取って下さい」
私は傅き、僅かに輝きを残す鈍剣を差し出した。彼女は拳を握り締め、私を見下ろした。
「教えてください。主人は……どのようにして死んだのですか?」
「聖槍ロンゴミニアドを携えた私を相手に勇敢に戦い、戦死を遂げました。もし私に恨みをお持ちでしたら、どうか私の首を刎ねて下さい………」
そう言い、私はマントを外して首を見せた。だが、彼女は涙を流しながら剣を胸に抱いた。
「主人の最期を看取っていただき…ありがとうございます……」
「………報告が遅れ申し訳ありませんでした───」
その顔を見る事が出来ただけで充分だ。名も無き兵士よ…どうか安らかに眠りたまえ………。
以上、アルトリア回でした。イスラエルからイギリスまでどうやって言ったんだよ!馬じゃ無理だろ!というツッコミは多いかもしれませんが、そこはご愛嬌で(笑)