Grand Order Of Fate   作:レモンの人

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モードレッド「なんで父上と仲良しなのか?」のストーリーをぐだ男視点でアレンジしつつ加えました。
ウチのアルトリアは感情豊かでヘタレ。




閑話休題1 モードレッドの告白

その日…俺は聖晶石の入った袋を手に召喚システムの前に立っていた。カルデア内の戦力の補充が目的を目的とした所謂レアガチャである。

 

「マスター、それって聖晶石だよな?」

「あぁ、手持ちの金を換金してな。どの道金なんて意味は無いからよぉ。結構いい数換金出来た!早速溶かすゾォ」

「あーぁ…癖ついちまうぞ……まぁいっか」

 

まず30個の聖晶石を放り込み、召喚サークルでサーヴァントの召喚を試みる。今ピックアップとやらをやっているらしいからこの機会を見逃すのは有り得ない。

サーヴァント達が召喚される間にモードレッドに缶ジュースをプレゼントし、2人でぐびぐび飲んでいると次々と出てきた。

 

「応えよう。私は貴方のサーヴァント、ランサー。最果ての槍を以て、貴方の力となる者です」

「円卓の騎士、嘆きのトリスタン。召喚の命に従い参上しました。どうか我が身が役に立つことを祈ります。ご命令を、マスター」

「円卓の騎士ガウェイン。今後ともよろしくお願いします」

「セイバー、ベディヴィエール。此よりは貴方のサーヴァントとなりましょう。それが、我が王の御為になるものと信じて」

 

「ブッ!?」

「なんかいっぱいキター!!!」

獅子のような甲冑を纏った女騎士…常時目を瞑っている竪琴使い…堅物そうなイケメン騎士…優しそうなイケメン騎士……てか全員円卓じゃねぇか!!!

 

「何ッ!?モードレッド……あの叛逆者がなぜ英霊などと……!?」

堅物はモードレッドを見た途端に憤慨した。その態度の変化たるや、よほど嫌われているようだ。

 

「ガウェイン卿、発言は控えよ。マスターへの挨拶が済み次第、指定された部屋を城とする。各自所定の位置へ移動し休息を取るように」

「「はっ!!!」」

 

女騎士は彼らにそう指示すると、騎士達は全員真面目に返事して挨拶をした後、俺が指定した部屋に向かって歩いて行った。かなり統率の取れた部隊である事がハッキリと感じられる。

 

「待ってくれ!父上!」

「…」

 

モードレッドは父親(?)を呼び止めようと声を掛けたが、彼女からの返答は無く…そのまま馬に乗って去って行った。別に良いけどさ…せめて馬から降りろや。馬舎がまだ出来てないんだぞ…?

 

 

 

 

 

「よし、今日はカレーだ。遠慮せずに食え」

「いっただっきまーす!!!」

 

キッチンにて、モードレッドの為に作ったカレーが彼女の手で食べられていく。まだ計画が第一段階の為、止むを得ずキッチンで作って立ち食いで済ませなければならない状態だが、充分イケるだろう。

しかし、美味しそうに掻き込んでお代わりするモードレッドの顔は何処か曇っていた。

 

「大丈夫か…?」

「気にすんなって!それより、お代わりあるか?」

 

美味いと言いながらカレーを掻き込む彼女の頭をポンポンと撫でた後、俺は皿洗いを始めた。

 

 

 

 

 

「アーサー王の死…か」

 

夜…1人になった後、図書室に用意されていた歴史コーナーからアーサー王伝説の本を取り出して読み漁ってみた。

モードレッド視点から見るとあまりにも可哀想な物語…と俺は解釈した。親に息子と認められず、必死に父親の背中を追う姿に、ガキの頃の自分を重ねてしまった。

 

俺も…昔、イタリア料理店をやっていた親父に憧れてその背中を追った事があった。でも、いくらそれを真似ても上手くいかず、追い付く事が出来ず周りからはいつも比較されその環境の所為でグレた。親父と何度も衝突し、悪い奴と連んで喧嘩に明け暮れた。センコーの説得でやっと更生した時には全てが遅過ぎた。

親父が事故で死んだ、死因は信号無視した車両による轢死。

俺がこのカルデアに来たのも親父に出来なかった親孝行と、あの世に行った時に親父に褒めてもらう為だった。

 

「よし……」

 

本を放り投げた俺は思い立ってモードレッドを呼び出す事にした。場所は…食堂でいいか。

 

*********************

 

食堂

 

モードレッドに正直な言葉を伝えると、帰ってきたのはパンチだった。それを受け止めた俺は彼女を引き寄せる。

 

「離せよ、テメェは関係ねぇだろ!家族の問題に首突っ込むな!!!」

「たとえ不貞だろうが何だろうがよ!家族だろうが!お前も!あの獅子王も!頭湧いてるんじゃねぇのか!」

 

クラレントを握ったまま頭に血が上ったモードレッド、歯を食いしばり、荒い息をする彼女からは今にも斬り付けようという殺気が漏れ出ている。俺は臆さず食い下がった。

 

「いいかモードレッド。ここはカルデアだ!キャメロットとかふざけた城じゃねえ。ここではアルトリアに王なんて箔は付けさせるもんか!今がその時だろ!親子が向き合って話すんだ!……俺の顔をちゃんと見ろ!!!」

「───ウゼェんだよ!」

 

ブチっと何かが切れたような音がした。咄嗟に食器棚に立て掛けていた俎板を手に取り、盾とした瞬間に俎板からクラレントの刀身が突き出した。幸いにも俎板と俺がマスターである事への抵抗のおかげで刃先は俺の肌の数ミリ手前で止まった。

 

「俎板が使いモンにならなくなったろうが…」

「っせぇな!それはテメェがまな板で受け止めたからだろ!?まな板───ぶふぉっ」

 

突然、モードレッドが噴き出したかと思うと腹を抱えて笑い始めた。どこが面白いのか分からなかったが、しばらくゲラゲラ笑った後すぐに目元の涙を拭い顔を整えた。

 

「いいぜ、話の席…俺も座ってやるよ!!!」

 

表情はさっきまでとは違い、キリッとしたものだった。どうやら素直になれたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「話になりません!」

 

バンっとテーブルを叩いたガウェインが俺に詰め寄る。ここは休憩所。円卓の騎士達が居座っていたそのタイミングで俺はアルトリアを誘ったのだが、ガウェインが逆上してこの状況が出来上がっている。

 

「叛逆の騎士モードレッドと我が王を引き合わせ“話をする”?あの知性のカケラもないモードレッドの事だ。どうせその席で我が王を暗殺しようという魂胆であろう!!!」

「今俺はアルトリアと話をしているんだ。テメェに用はねぇよ!すっこんでな!!!」

 

負けじと言い返す俺の気迫でガウェインが少し気押された。さらに続けて罵倒でもしてやろうかと思った所で、兜からくぐもった声が聞こえた。

 

「モードレッドが私に直談判…良いでしょう」

「しかし!」

「私が行くと言った。反論するのであれば…」

 

そう言ってアルトリアはロンの槍をガウェインへと向けた。ガウェインはクッと悔しげな表情で引き下がった。

 

「15:00に食堂で待っている。今日は貸切にしてるから腹を割って話せよ」

 

後はアルトリアが心を開いてくれるかに懸かっている。祈るようにお部屋を後にした。

 

*********************

 

食堂

 

「………」

 

目を閉じて沈黙するモードレッドを心配げに眺めながら、アルトリアを待った。彼女が来たのは3分遅れであった。

 

「遅れてすまない。ガウェイン卿の説得に時間が掛かった」

 

その後ろには、仏頂面のガウェイン卿とその他面々が付いてきている。やはりついて来たか。ここで、俺は話を切り出す事にした。

 

「今日呼び出したのは他でもない。お前らのギスギスした雰囲気を改善する為に対話が必要な行為だと判断したからだ」

「………」

「我が王よ、彼女の話を聞く必要は無いのです!生前のモードレッドの行いを忘れたのですか!?彼女は王を裏切り、諸侯を唆し、妻ギネヴィアを強引に娶ろうとした外道であります!そんな女が何も考えずに面会を要求するとは───」

「そこまでにしとけよ外野共、さっき言ったよな?アルトリアとモードレッドの一対一の対話をすると。良いか?元田舎者のチンピラですら約束は守ったぞ?それすら守れないとは、ハッ!円卓の騎士様も程度が知れるな!!!」

 

いい加減鬱陶しくなって言い返した。ガウェインがカッとなり剣を抜こうとした時……アルトリアが口を開いた。

 

「ガウェイン卿…これは私も望んだ事です。頼むから邪魔しないでください……マスター、すまなかった。私が代わりにお詫びしよう」

「王…」

 

アルトリアは眉すら動かさずそう言った。どこか機械的で、型に嵌った話し方だ。これじゃ会話にならんな。そう思った時…モードレッドが話し始めた。

 

「父上…かなり前、オレ言ったよな?『オレはお前の息子だ。オレにも王位継承の権利がある』と」

「えぇ、それに対し私は『貴女にその器はありません』と返しました」

「あぁそうだ。オレはあの日に狂ってしまった。今まで母上から父親だと教えられたあんたの背中をオレは眩しく感じた…どんなに手を伸ばしても……背伸びしてもジャンプしても…!父上には絶対届かない…!」

 

悔しげで、しかし愛おしさを滲ませてモードレッドはポロポロと涙を零す。

 

「でも…唯一繋がっていたのは……この浅ましい体から流れる血だけだったんだ。それで充分…それで充分なんだとオレは必死に満足しようとした……でも出来なかった!」

「だからオレは子供みたいに…縋り付くようにあの言葉を言った!決してあのクソババァに唆されたからじゃねぇ!オレは……オレは………!」

 

彼女は拳でバンバンとテーブルを叩きながら感情を爆発させている。そうだ、腹の中に溜まった憎悪を全部吐き出しちまえ。もう少しだ。

 

「オレは…!ただ繋がりが欲しかった!!!王位継承も!王としての器も!!そんなくだらねぇものは要らない!!!ただ……アルトリア・ペンドラゴンの息子でいたかった!!!」

「モードレッド…」

「ホントは甘えたかった!ホントは頭なでなでして欲しかった!ぎゅーって抱きしめて欲しかった!一緒に駆けっこしたかった!お父さんの夢を聞いて『カッコイイ!』って言いたかった!いっぱい褒めて欲しかった!!!!!!!!でも…父上は温もり1つくれなかった!!!オレが欲しかったのは…そんな時間だった……」

 

それが本当に欲しかったものだったのか…モードレッド。子供っぽさが残っているのも、憎しみと共に溜まった彼女の願いの残滓だった……俺でもそうハッキリと感じ取れた。

 

「お父さん!!!」

 

食堂全体に響くような大声で子供のように叫んだモードレッドは最後、床に崩れ落ちて泣き噦るだけになった。よくやったな…後はアルトリアだが…

 

「話す事はそれだけか?」

「ぅ……ぅぅ……」

 

 

父上ははぁーっと息を吐いた。それは溜め息では無く…。

 

 

「私もホントはいっぱい可愛がりたかった!!!!!!」

「「王!?」」

 

いきなり父上は頭に載せていた王冠をぶん投げた。

 

「あぁああああああああああああああああああああ!!!モードレッドはズルい!私だっていっぱい褒めてあげたかった!!!キャメロットで見る星座を一緒に見上げたかった!!!ドゥン・スタリオンに乗って一緒に野原を駆け回りたかった!!!ぎゅーって抱きしめて頭ナデナデしたかった!」

 

不満をぶち撒け、ついでに聖槍やら鎧やらをぶん投げていくアルトリアの姿は完全にワガママを言う子供のそれだった。アイツも相当キていたらしい。人間らしい感情を失っているなんて大嘘じゃん。

 

「でも時代が許してくれなかった!!!私は守らなきゃならなかった!!!清く美しい王様でなきゃならなかった!!!部下の信頼が深まるほど真面目にならなきゃいけなかった!!!圧政なんて敷きたくなった!!!こんな槍なんか!!!こんな槍なんかぁあああああああああああああ!!!」

「王よ!落ち着い──ゴハァ!?」

「ガウェイン卿ぉおおおおおおお!!!」

 

感情を爆発させ槍を何度も踏ん付けるアルトリアを離そうとしたガウェインは父上の振り回す腕が鳩尾に命中しノックアウト。円卓の騎士達から悲鳴が上がった。

 

「ブリテンなんて知るかオラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!私悪くないもん!!!周りがそうしろって言ったからやっただけだもん!!!」

「うるせぇ!!!お父さんのばかぁあああああああ!!」

 

感情のままのアルトリアの顔を拳で打ち抜いたモードレッド。だが、アルトリアは抵抗せず息子を抱き締めた。1000年以上の親子の確執…その雪解けの瞬間であった。

 

「ごめんなさいモードレッド!!!お父さん今日から王様辞めてモードレッドのお父さんになるからぁあああああああああ!!!」

「オレ…オレも2度と逆らうもんか!!!お父さん!!!お父さぁああああああああああああああん!!!」

 

親子揃って子供のように泣き噦る。俺はその姿をホッコリしながら眺め、円卓の騎士達はバツの悪そうな顔をして眺めていた……。

 

************************

 

次の日、アルトリアは俺の斜向かいにあるモードレッドの部屋に引っ越して来た。

 

「マスター、おはようございます!」

 

彼女曰く、本音を暴露した為に円卓の騎士達は変に気を遣うようになったらしく、誰もモードレッドをこき下ろす事は無くなった。これからはモードレッドのお父さんとして与えられなかった親子の時間を用意したい、第二の人生を親子で過ごしたいとの事だ。

 

「おぅ、後で料理差し入れてやるからな!」

「ありがとうございます。」

「父上〜!こっちに荷物置いてくれよ〜!」

 

今は親子水入らずで、そう判断した俺はキッチンへと足を運んだ。俺が叶わなかった親子の和解を果たす事が出来た……腹の中にあった心の闇が晴れた気がした。




アルトリア・ペンドラゴン
愛称:アルトリア
身長/体重:171cm・57kg(諸説あり)
出典:アーサー王伝説
属性:秩序・善 / カテゴリ:天
性別:女性
年齢:25歳
趣味:食事・武術鍛錬 →息子と遊ぶ
特技:乗馬・槍術・剣術
概要:俗に言う獅子王と呼ばれているアルトリア。ぐだ男が早期に息子と和解させた為、表情や感情はかなり柔らかくなった。が、同時にモードレッドと和解する=ブリテンの王を捨てるという行為であり、結果として彼女は円卓の騎士から人望を失っている(本人は気にしていない)上に緊張が解けた事でヘタレ化した。
彼女の部屋には鈍剣が置いてあり、いつも大事に持っている…。




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