今日は牛肉の熟成が終わる頃だ。
昼に起床し早速冷蔵室に向かうと既に汚れて良い格好でモードレッドとガウェインが立っていた。2人ともアルトリアを愛しているが故の行動なのだろうか…いや、モードレッドは食いたいから来てるだけか。
「うし、いよいよ焼き肉用の肉を切るぞ!」
「了解!やってやるぜ!」
「推して参ります」
3人で肉切り包丁を手に次々と肉の塊から肉を切り取り俺特製のタレに漬け込む。臭みを取る為にハーブや香辛料を入れた醤油ベースのタレだが、実際初挑戦の為上手く出来たかは分からない。
「夕方には食えるぞ」
「やったぜ!」
「では一同お待ちしております」
「マシュ・ナイチンゲール・黒ジャンヌも誘ってやってくれ」
「はっ!すぐにご婦人方にお知らせ致します」
ガウェインが急いで出て行くのを確認すると俺米を研いで農業プラントから野菜を回収しに行った。
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食堂
「では、アメリカの特異点修復を祝いまして」
「「乾杯!!!」」
円卓の上に大型のホットプレートを置き、ジョッキに注いだビールで乾杯すると全員でそれを飲んだ。今回はマシュもアルコールを飲むと言い張った為、特別に度数の低い物をマシュ用に用意した。
「ぷはぁ〜!たまんねぇぜ!」
「いや、アメリカは死ぬと思った」
「マスター…食事のバランスです。野菜7割肉3割で妥協しましょう。では、多過ぎる肉は私が処理──」
「ナイチンゲール…お前食いたいだけだろ」
「マスター、おかわりです」
「米も十分炊いてるから安心しろ。ダ・ヴィンチにパシらせてるから米ならまだまだ追加出来るぞ」
「へくちっ!?」
「大丈夫かい?」
「うーん…流石に有給が欲しくなったよ」
野菜を敷き詰め、タレの染み込んだ肉を載せて蒸し焼きにする。ジンギスカン方式で肉を焼いていると、入り口で指を咥えるスタッフの皆んなと農業プラントに従事しているサーヴァント達を認めた。
「お前らも来い!腹いっぱいは無理だが食わせてやる!」
俺の宣言で次々とスタッフとモブサーヴァントが一斉に食堂に入って来た。野菜と肉を分け、ビールを注ぎ、米を食わせる。
「米はおかわりあるからな!ダ・ヴィンチがいくらでも採ってきてくれるぞ!」
余談だが、ダ・ヴィンチはバブル期の日本を15回往復し「レイシフトして穀物くらい持ち運んで帰る力がある」と胸を張って言った事を激しく後悔したという。
「これは…ハラミですね」
「すげぇ!また父上が当てた!」
完全に酔いが回った俺達はよく分からない芸をやってバカ笑いしていた。今やっているのは目隠しして肉を食べて部位を当てるクイズ。さっきまではマシュが盾を手に謎のダンスを踊り酔い潰れてノックアウトしていた。
「私は悲しい──」ポロロン
それとトリスタンが生前多く経験した修羅場(女絡み)を弾き語りしている。ガウェインは勝手に過去の記憶を思い出して泣いているし黒ジャンヌに限ってはしょうもない1発ギャグで笑い転げている。相当なストレスが溜まっていた事は分かった。そりゃ今回の特異点では馴れない射撃戦や足のつかない機動兵器によるホバー移動だったりと自分らしい戦いが出来ない辛いものだった事は間違いない。でも、誰1人として文句を言わなかった事は素直に賞賛したい。
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「や〜、飲んだ飲んだ」
宴が終わり、片付けを終え、静かになった食堂にモードレッドが入って来た。どっかりと椅子に座ると、俺の隣の席に座った。
「マスター、少しいいか?」
「ん?」
「あのさ…オレ、嫌な胸騒ぎがしてるんだ」
「胸騒ぎ…?」
「あぁそうだ」
水を飲み、シリアスモードになったモードレッドは俺に向かって真剣な表情を浮かべている。
「マスター、もし俺に何かあったら──」
「止めろ」
「いや、聞け。マスター」
ずいと近付き視線を逸らさせないよう詰め寄るモードレッド。
「オレ達サーヴァントは元々人間の都合の良いように作られた兵器だ。愛着を持ってくれる事は結構だが既に死人だ。これだけは分かってくれ」
「───もしも何て事は起こさねぇよ」
「もし起きたら?」
「起きないように頑張る。ゼッテー死なせない」
ジーッと睨み合う俺達だったがその緊張を解いたのはモードレッドだった。
「───あーバカらし!止めだ止め!ったく…こんなにも馬鹿な奴は初めて見たぜ」
「馬鹿って何だ!馬鹿って!」
「ハハハハハ!!!」
「──やれやれ」
少しだけ腹を抱えて笑うモードレッドだったが、突然笑うのを止め俺の頬に口付けした。
「オレは絶対生きて帰る。だから最後まで繋ぎ止めてくれよ…マスター」
俺はこの時、何時ものようにやれば勝てる…そう思い込んでいた。そう、この時までは………。
キャメロット編はかなり完成していますので手を加えるのが難しいですが、頑張ってみます。鬱が続きそう…