そうか…いよいよキャメロット編か…
「よし、いい感じで追撃も捗ったし少し休むか」
俺はワシントンに入る前に即席湯沸し器でコーヒーを淹れた。軽食はナイチンゲールが担当し、モードレッドはトレーに載せて運んでいる。
「そうか…俺以外の奴も生きてたのか……」
コーヒーを飲みながら、俺はボソッと呟いた。確かに俺は無力だ。サーヴァントには勝てないし、カルデアの魔力供給が無ければサーヴァント1人維持できない。そんな状態で他のマスターが来たら…
「…俺はお払い箱だな」
そう愚痴ってコーヒーを一口飲んだ時、モードレッドが隣に座ってきた。心配そうな顔をしている事から事情は分かっているようだ。
「聞いたぜ。他にも生存者がいるってな…」
「……」
「他の奴がどう思うかは知らねーけどよ、オレはマスターについてくぜ。お前と居ると楽しいしやる気も出るしな」
「モードレッド…ありがとよ。お前に言われたら俺もやる気が出て来た。よし、お前ら!飯食ったら最後の突撃を仕掛ける!こっから先は覚悟と気合のある奴が勝つ!アメリカを取り返すぞ!!」
俺の言葉に応えるようにアメリカ兵・サーヴァント・機械兵が勝鬨を上げた。チェックメイトまであと一息だ!ありがとよ、モードレッド!
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「カチコミだオラァ!!!」
ヤクザキックで扉をブチ破った俺は、サーヴァントを前面に展開して王の間に居る2人の王を睨み付けた。1人はクー・フーリン、もう1人は白い服の女だった。
「ケッ、しつこい奴らだ。まだ再生が不完全だってのによ」
「あぁ、だからその傷を抉りに来たんだよ。さぁて…懺悔の用意は出来てるか?」
「覚悟しろよトカゲ野郎」
「クー・フーリン。決着を付けましょう」
「貴方にも貴女にも治療が必要です」
生まれる緊張感。女とクー・フーリンはそれぞれに武器を構えて威嚇を始めた。ジッと互いに睨み合いつつ、一触即発の状態で暫く時間が過ぎた。
始まりは一瞬。
「覚悟ッ!!!」
仕掛けたのはモードレッドだった。ライフルモードに変形したクラレントで弾幕を張りつつブースターを噴かせて突貫した彼女は一気にクー・フーリンとの距離を詰め、ライフルモードからソードモードへと速やかに移行させ斬りかかった。意地でもゲイ・ボルグを投擲させまいという判断での行動だ。すかさずカバーに入ろうとした女をアルトリアが体当たりで吹き飛ばし2人の距離を離す。
「このッ!邪魔なのよ猪女!!!」
「なんとでも!意地でも止めます!」
ナイチンゲールは攻撃の余波から俺を守りつつ、自らのスキルを行使してモードレッド達の傷を癒す。勢い任せのゴリ押し戦術…だが、今頼れるのはこれしかない。他に芸が無いからな。
モードレッドは体力の続く限り剣を高速で振り回しクー・フーリンを防戦一方にさせる事で投擲の動きをさせないよう攻める。狙い目は投擲の際に体重が集まる膝と肩。
「もらった!!!」
モードレッドがフェイントを混ぜつつ放った袈裟斬りが回避動作の遅れたクー・フーリンの右膝から下を切り落とした。一瞬驚いた顔をした彼だったが、すぐに尻尾を脚代わりに固定して戦闘を続行する。流石クー・フーリンといったところか…突入する前にロマンから推定スキルを聞かされていたので驚きはしないが。
「クー────!」
クー・フーリンを傷付けられた事で女がブチギレた。アルトリアの追撃を受けながら彼女はクー・フーリンに駆け寄ったのだ。
「何をされるか分からねぇ!全力で邪魔しろ!」
「了解」
続けてクー・フーリンの両肩にクラレントを突き刺し筋肉を引き裂いたモードレッドがアルトリアのカバーに入った。完全に投擲する能力を奪われたクー・フーリン。まだ諦めてはいないようだが所詮は意気のみ。ナイチンゲールの残弾を気にしないペッパーボックスピストルとブースター側面の機銃により完封している。
「クー!今私が…!」
恋する女は強し…という奴か、あの女はアルトリアの攻撃を全力で掻い潜っていた。このままでは何かをされてクー・フーリンの傷を回復させられる可能性がある。いや、何かと言うよりその手に持っている聖杯の力で再生させる魂胆か。
どうすればいい…!?
「マスター、こちらを」
「お、おぅ…ってこれチーズじゃねぇか!?」
ナイチンゲールは突然ビー玉程の大きさのチーズの塊を渡してきた。一体どういう意味が…?
「それをあの女性にぶつけてあげて下さい。きっと目が覚めます」
「なるほどな…」
俺はベルトに挟んでいたスリングショットにチーズの塊を装填すると、女の頭目掛けて放った。
「チーズ食ってもう少しグラマーになりな!!!」
渾身の狙撃は女───女王メイヴの側頭部に直撃。あと一息のところで彼女はバランスを崩し床の上に倒れた。ダメージ自体は無いようだが、史実における死因が弱点に直結したようでメイヴの脳を揺らしたのだ。
それでも這って進もうとするメイヴの脚をモードレッドが掴み、ブースターを使い引き摺りながら引き離す。
この戦いはかなり残酷な事をしているのかもしれない。だが、こっちだってガウェインの分とカルナの分の借りがある。ここできっちりチャラにしてもらうぜ。
「いや!離して!クー!助け──」
「いい加減───ジッとしてろ!!!」
モードレッドは戦闘の際に壊れたベッドの柱の残骸を握って振りかぶるとメイヴの背中目掛けて突き刺し床に縫い付けた……。
──────
「何故殺さねぇ……」
ボロボロのクー・フーリンを置いたまま俺達は聖杯を回収し退却の用意を始めた。
「テメェへの借りはもう無くなったって話だ。あとはテメェを恨む連中が借りを返しに来るだろうよ。まぁ、覚悟しておけよ。その女と最期の時間を過ごすんだな」
「ケッ……最悪の結末だ」
「なんとでも言え」
北側からも通信が届いて来た。ケルト兵の増援が消え、円卓の騎士団と黒ジャンヌの活躍により無事防ぎ切ったらしい。
「聖杯の回収も完了した。人理定礎修復を開始してくれ」
無事任務も完了。一時はどうなるかと思ったが何とかなったという事実に俺は心の底から安堵した。全員無事だし、取り敢えずお疲れ様会でも開くとしよう。その後は…取り敢えず、生存者の調査だな。
「よし、帰るぞ!」
途中、王の間から何度も銃声が響いたが見なかったし聞かなかった事にした。魔神柱も出てくる前に回収出来たのは大きかった。
「マスター!明日焼き肉やろうぜ!そろそろ肉牛がいい感じに育ってるだろうしな!」
「賛成だな。だが食えるまでに最短で5日は掛かるぞ。いいか?」
「マジ!?オレも手伝うぜ!」
「ならやろう。お前ら!5日後は焼き肉だ!腹いっぱいは無理だが楽しんでくれや!」
心地良い歓声を聞きながら、俺達はアメリカを後にした。まぁやった事は悪役同然なんだがな!
今回は胸糞展開が多かったと思います。銃撃に苦戦し、サーヴァントの出番が自由に与えられず、かなりシナリオ運びに苦労しました。キャメロット編は色々改善していこうと思います。キャラクターの掘り下げも行っていく予定です。