Grand Order Of Fate   作:レモンの人

28 / 60
ロンドン編も駆け足ですが終わりです。








霧の残滓

「過去も未来も現在も無い。これこそが我が悪逆の形…我が醜悪を以って正義を成す貴様らを葬ってやろう」

 

目の前に聳え立つ白き巨塔…魔神柱。それが俺達の前に立ちはだかった。恐らく奴の言う通り、マキリの中の絶望が聖杯の力を借りて偶像化したのだろう。

こういう時は先手必勝に限る。フラウロスの一件で学んだ事だ。

 

「宝具、一斉展開。放て!!!」

 

俺は躊躇い無く宝具行使の指示を下し、それに併せてガウェイン・ジャンヌ・モードレッド・トリスタンの砲撃組による容赦無い攻撃の矢が放たれる。一斉射撃をモロに受けた魔神柱が揺らぐ。

 

「想定より強度は高くない!ベディヴィエール!根元に一撃叩き込め!!!」

「はっ!」

 

ベディヴィエールが義手を構え一気に突貫する。全力で抵抗を試みる魔神柱だったが、その雨を掻い潜ったベディヴィエールに軍配が上がった。

 

剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!!!」

 

美麗なる一閃。それによって魔神柱が大きく傾く。

 

「アルトリア!トドメを!!!」

「はい──!」

 

アルトリアはドゥン・スタリオンを勇気付け一気に突撃する。点滅する目に映るのは黄金の槍。

 

「───最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!!」

 

文字通り肉の壁を突き抜けたアルトリアはアニメっぽく見栄を切り、直後に魔神柱が倒壊した。時間にして8分…相変わらず円卓の騎士達はすごい力だ。

 

「───…もはやこれまで…」

「ジャンヌ、楽にしてやれ」

「さぁ……首を斬りましょう。おさらばです」

 

肉塊からマキリが出て来たが、既に満身創痍だった。取り敢えずジャンヌに介錯を任せトドメを刺した後、俺達は速やかに聖杯の回収を開始した。

 

「はぁッ!!!」

 

ガウェインのどっしりとした剣撃で破壊されたアンクルボザから聖杯を回収した。これで4つ目。後は帰るだけ……!?

 

その時、目の前の霧からスパークが発生した。それは人の影を映し…やがて1人の男を生み出した。

 

「私の名はニコラ・テスラ。雷電たるこの身を呼び寄せたのは何か…天才たるこの身を呼び寄せたのは何だ?叫びか願いか善か悪か…なるほど、それら全てが私を呼びつけたという事か。」

「なっ…!?」

 

ニコラ・テスラ…そう言ったのかコイツは!?半分サイボーグみてぇな姿をしたこのイケメンが!?

 

「私は天才であると同時に奇矯を愛する超人でもある。ならばよかろう…お前達の願いのままに!天才にして雷電たる我が身は地上に赴こう!」

「させるか!!!」

 

モードレッドが襲い掛かろうとクラレントを手に走った瞬間、テスラはそれを手で制した。その空間にはバチバチと光り続ける魔霧が展開されている。

 

「おっと…近付くのは良くない。曰く、これは魔霧の活性というものだ。サーヴァントの魔力さえ際限なく吸い込もう!無論、私は例外だ!接近すれば、活性魔霧は君たちの魔力をも吸収する!霊核ごと取り込まれることも有り得るだろうが、さて、それでも近づくかね?私を倒そうとするなら、まずはこの活性魔霧を完全に排除するしかなかろうなァ───ははは、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「くっ……」

 

それだけではない。この空間にも充満していた魔霧が次々と俺のサーヴァント達から魔力を奪っていた。

 

「なんだこれは……!?」

「──私は悲しい」ポロン

「ドゥン・スタリオン…!大丈夫ですか!?」

 

トリスタンのフェイルノートすら情けない音しか鳴らず、大きく落胆していた。アルトリアの宝具として呼ばれているドゥン・スタリオンも力なく蹲ってしまい、走る力すら奪われていた。これが……天才の力か…!

 

「動けるか…お前ら……!」

「申し訳ありません…彼奴がここに居る間は動けないでしょう……何より先程宝具を放ってしまった事が…」

「すまん、采配ミスだ」

「いえ…この場合は采配ミスではありません。おかげで我々は魔力を吸われる以外は無傷なのですから…」

 

やむを得ない。奴が歩き去るまでやられるフリをするしかない。彼がゆっくりと歩き去るのを見ながら俺達はやられるフリをした。止めてみたまえダァ?だったらその霧を消せやオラァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、魔力補給完了。皆んな、動けるか?」

「はい…もう大丈夫です」

 

全員に100%とは行かないが充分に魔力を補給した俺は改めてテスラの追跡を開始した。ベディヴィエールに聖杯の回収を任せ、俺達は活性魔霧を避けるように後を追う。

 

「クソッ…活性魔霧から出てくるホムンクルスがデケェ!」

「ワカメかよッ!!!」

 

俺も壊れた鉄パイプで戦いを援護しつつ無理矢理にでも突破する。

 

「手はあるのかよ?」

「ぶっちゃけほぼ無い。こっちが充分な出力が出せない以上、あの活性魔霧を吹き飛ばすのは難しい。だが、やらなきゃなんねぇだろ!」

「───最悪オレが特攻してでもブチ破る」

「それはダメだ」

「いや、最後の選択肢って奴だ。オレ以外にこのイギリスを滅ぼす人間はいちゃいけねぇんだ」

 

それは自虐ネタなのか分からないが、頭には入れる事にした。いざという時に俺はその選択肢を選ぶかもしれない。それまでに覚悟を決めよう…そう決意し階段を登った。

 

 

***********************

 

登った先に広がっていたのは光のカーペット。それが遠くまで続き、さらにカーペットの先には階段が用意され…その途中で2人のサーヴァントが目を回していた。

 

「おぅ、アンタらか。奴の言ってた勇者だ何だかってのは。奴の周りに付いていたビリビリは剥がしておいてやったぜ。後はアンタらに任せる」

「そうだったのか…」

 

それはありがたい。後はテスラを追いかけて倒すだけだ。それならまだ…!

 

「よし行くぞ!」

 

俺達は階段を駆け上がり、テスラに追い付くべく息切れを無視して走り出した……が、その時。霧の向こうで何かが飛んで来た。板野サーカスの如く飛んで来るアレはまさか…!

 

「ミサイル!?嘘だろ!」

「全員衝撃に備えて下さい!!!」

「このタイミングで爆薬をぶっ放すバカは誰だ!?後でぶん殴ってやる!!!」

 

その数10発。サイズこそマイクロミサイルだが、大量の爆薬を抱え込んでいる事に間違いはない!!!

 

「ぁあああああああああ!!!南無三!!!」

 

俺は目を閉じて最悪の事態が起きない事を願った。煙の尾を引くミサイルはそれぞれ分散して中途半端な所に直撃。爆風によって1人の影が階段から飛び降りた。

 

「捕まりなさい!」

 

一番近くにいたジャンヌが俺の腰を掴んで階段から飛び降りた。大体7mはあろう高所から一気に飛んだ彼女は旗をなんとプロペラのように回して落下速度を落として見事安全に着地させてくれた。続いて他のサーヴァントもアニメのようにカッコ良く着地する。

 

 

───悪りぃ!待たせたな!!!───

 

 

突然響く声…懐かしさを伴ったその声の主は塔の上に立っていた。

 

「モードレッド!?」

 

そこに居たのは紛れもなくモードレッドだった。全身火薬庫の如く大量のミサイルポッド・両腕に一基ずつ装備したパイルバンカーを持っているという違和感を除けば。

 

 

「モードレッド改め『高性能ミサイル』・『パイルバンカー』を装備した『モードレッド アサルト』只今見参!!!」

 

 

や…ヤバイのキター!?

 

「なにあれ…自分の霊基を弄るなんて悪趣味ねぇ」

 

モードレッドが辛辣な言葉を吐く中、俺は相棒の登場に心の底から安心した。あいつが居るならもう大丈夫だ。

 

「モードレッド。行けるか?」

「任せろ!」

「よし、頼むぞ!」

 

その声に応えるようにモードレッドはテールブースターと新たに追加した両肩の補助バーニアを噴かせて塔から飛び降りた。

 

「なるほど、随分と面白い宝具だ。だが私の活性魔霧を払えるかな?」

 

再びテスラの周囲に活性魔霧が展開される。だが、モードレッドの背中からミサイル8発が発射され、テールブースターの機銃も残弾惜しまず掃射。それらが活性魔霧の中を突き抜けていく。

 

「そうか!魔力を吸い上げ防ぐ活性魔霧は実体のある唯の質量攻撃を防げないのか!」

「いやそのりくつはおかしいぞ!?」

 

ロンドンモードレッドのツッコミを受けたが、モードレッドの動きは凄まじかった。ミサイルを雷で撃ち落とそうとするテスラの顔面目掛けて機銃を掃射している為、防戦一方という状況を生み出していた。防ぐ手段を失ったミサイルが破裂しテスラが吹き飛ばされる。

 

「幾ら魔力が通用がしないのだろうが…こいつは関係無いだろうが!!!」

 

よろめきながら立ち上がるテスラに対し間髪入れずに右前腕の追加アーマーに装填していたパイルバンカーを1発放つ。直線的に突っ込むそれがテスラの腹に風穴を開けた。

 

「かはっ───!?」

「そしてコイツで終わりだ!!!」

 

爆風で濃度が薄まった活性魔霧の中を突破したモードレッドはクラレントを刺突の構えにしたまま突貫し、驚愕に染まるテスラの顔面を貫いた。頭の機能を失った彼はあっさりと消滅した。

 

「あー…疲れた」

 

弾切れとなったミサイルポッドを放り投げたモードレッドはどっかりと石の床に座った。このバカっぽい性格と…斬新な戦いこそ俺の一番知っているモードレッドだ!

 

「よく来たな!コイツめ!」

「マスター!会えて嬉しいぜ!」

 

俺達の子供じみた触れ合いに若干引いているギャラリーを無視して久しぶりの対面を喜んだ。

 

「オェ…アレがオレのIFの姿かよ……」

 

ロンドンモードレッドは嫌悪しているようだが、俺にとってはこのモードレッドが唯一無二。かけがえの無い相棒だ。

 

「さってと…ロマンから一通り事情は聞いたぜ。マシュは強制帰還させたから安心しな。後は聖杯を回収したベディヴィエールが戻って来るのを待つだけだ」

「…その心配は不要なようです」

 

アルトリアが目を向けた先にはベディヴィエールが肩で息をしながらも聖杯を手に走っていた。ご苦労さんって奴だ。

 

「じゃあ、皆んなお疲れ───」

「──待て。まだ来る…」

 

モードレッドは魔霧へ左腕のパイルバンカーを向けた。その霧の中から現れたのは………漆黒の騎士(アルトリア)

 

「どうして……今更、貴方は現れるんだ。ロンディニウムを救うなら、もっと、早くに………………いや。違うのかもな。貴方はオレを殺しに来たのかもな。オレがロンディニウムを救うのが気に入らなかったか?そんなにオレが憎いのか。そうして、オレを殺した槍なんざ持ち出して───」

 

ロンドンモードレッドは目の前のアルトリアの姿に俯いた。相当辛かったのか…その顔は沈んでいる。が、それも一瞬の事

 

「…だが、今のオレはここで凹む程度の人間じゃない」

 

すぐに落ち着いた顔でクラレントを胸の前で構えた。

 

「オレは貴方を憎まない!もし仮に貴方がオレを憎むのであれば、オレは憐れみを以って貴方の魂を救うまで!!!」

 

すげぇ…アルトリアと和解しただけでロンドンモードレッドの顔はあんなにも生き生きしている。クラレントから噴き出す魔力も充分だ。

 

「オレ達は見守る事にしよう。この戦いにオレ達が介入する必要はどこにも無い」

 

モードレッドの言葉により、全員で仕留めようとしていたサーヴァント達の動きが止まった。円卓の騎士達とプラスαがギャラリーとなる中、ロンドンモードレッドと騎士が激突する。

 

「貴方の動きはもう学習してんだよ───!!!」

 

開幕早々に放たれたロンゴミニアドの刺突の雨をモードレッドは次々と見切り、すれ違いざまにラムレイの首を落とす。馬が機能しない事を理解した騎士は素早く離脱し、跳躍。ロンゴミニアドを掲げると一気に落下しながら振り下ろした。

 

「───っ」

 

ひらりと躱すロンドンモードレッドだったが、続けざまに振るわれた薙ぎ払いがその頬を掠める。だが、負けじと踏ん張った彼女は騎士の追撃を屈んで避けるとその腹に肩を打ち込んで弾き返した。そして、クラレントの剣先が騎士の腹に叩き込まんと突き立てられる。だが、それを間一髪ロンゴミニアドで受け止めた騎士の顔とロンドンモードレッドの顔がぶつかる。

 

「オレは貴方を越えるつもりなどない───この剣で貴方の妄執を断つ!!!」

 

凄まじい頭突きが騎士の顔に放たれ、よろけた一瞬を彼女は見逃さなかった。大きく踏み込み、袈裟斬りを放つ。その一撃が騎士からロンゴミニアドを上へと打ち上げた。大きく跳躍したロンドンモードレッドはその柄を握ると空中で一回転した。

 

「───これが私の手にした答えだッ!!!!」

 

振り下ろした一撃を後ろ跳びした騎士の腹に目掛けてロンドンモードレッドは全体重を乗せたロンゴミニアドの突きを放ち、その腹を貫いた。

 

「───かはっ………見事…だ…」

「──安らかにお眠り下さい。オレの妄執…そして、彷徨う父上の魂よ………」

 

消滅しながらも最期に息子を讃えた騎士は、息子の返事に満足げだった。光の粒子となって消えたそれをロンドンモードレッドは見上げた。

 

 

*********************

 

「───ま、何だ。お疲れさん。おまえたちのお陰であれこれ助かったぜ。ロンディニウムは救われた。オレ以外の誰かに蹂躙されることはなかった。めでたし、めでたしだ」

「なかなか良い腕だったじゃねぇか。見直したぜ!英霊の座に行っても頑張れよ!」

「テメェもな!」

 

モードレッド同士が手を握り合い、互いを讃えた。俺はジャックの頭を撫でる。コイツの力が無かったら聖杯の下へ到達出来なかった。

 

「またどっかで縁があったら美味しいお菓子食わせてやるぞ」

「うん!やくそくだよ!」

 

ロンドンモードレッドとジャックの姿が薄らいでいく。歴史の修正が始まったのだ。

 

「よし、俺達も帰るぞ!帰ったら飯だ飯!!!」

「やった〜!オレ、プディング食いたい!」

 

それぞれに家に帰るのだ。いつか、あいつらにも美味しい飯をもっと沢山食わせてやりたいもんだ。




ソロモン(?)「───あれ?」

ソロモンは完全にスルーされました。


※この作品では、モードレッド同士が出会っても個体が別なので「あ、オレがいる」状態になります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。