「では出陣じゃ!カルデアの者よ!余を導くのだ!」
結局、目を開ける事すら出来ない程疲労困憊した状態を今日まで引き摺ってしまった俺はネロの乗る馬車の中で体を動かせずに横になっていた。
「マスターに代わる臨時の指揮官ですが……指揮権はモードレッドに託します。私は補佐として息子を助けましょう」
「え!?オレが!?」
「えぇ。私の血を引くモードレッド…貴女なら指揮を執ることが出来る筈です」
「ありがとよ!じゃあ編成だ。トリスタンが最前列でその次にガウェインと父上…そして、オレとベディヴィエールがネロとその精鋭部隊数人による小隊を守るように進む陣形を取る…頼む!オレの言葉をマスターの言葉と思って聞いて欲しい!」
モードレッドが円卓の騎士達に頭を下げる。今回はアルトリアが弁護せずその様子を見守っていた。
「私は従いたくありません」
反対したのはガウェインだった。だが……
「が、それは昔の話です。今のモードレッドは随分と良い顔になったようです。私は彼女を推薦しますが反対する者は他にいますか?」
意外にも彼はモードレッドを庇った。これがガウェインなりの成長なのだろう。反対は出ず、編成を速やかに済ませたカルデアの部隊は進軍を開始した………。
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「私は嬉しい───初陣でここまで活躍の場を与えてくださるとは…」
トリスタンが馬に乗りながら己の武器である妖弦フェイルノートを爪弾き、その音波によって通り魔の如く敵軍を殺し回る(現地人は武器を破壊するに留める辺り腕前は見込んだ通りだ)。その活路をアルトリアとガウェインが維持しネロと小隊がモードレッドとベディヴィエールに守られながら強行突破する。
「マスターには指1つ触れさせません!」
そういった激しい戦闘の音で、俺は漸く覚醒出来た。懇々と眠り続けた事で頭がフリーズしていたがゆっくりと溶け出し状況を理解した。
「そうか、任務は遂行中か…」
とにかく敵陣の突破が終わらなければならないと思い、荷物を盾に祈りを捧げた。今回ばかりは無能ですまん。魔力供給だけで限界だ。
「マスターが起きた!取り敢えず追っ手を振り切るぞ!走れ走れ!!!」
アルトリアが追っ手に対しロンの槍から放つビームで威嚇する。砂埃を起こして視界を奪った後、急いで離脱した。
「よかった…!マスターが回復してよかった!」
モードレッドが嬉しそうに抱きつき、円卓の騎士達が温かく見守る中…俺はやや照れ気味に彼らを見回した。
「よし、ここまでは順調のようだな。挟撃される前に突破せねばならんが、馬が疲れておる。一旦休憩としよう」
ネロの提案により、身を隠した状態で休息を取る事になった。アルトリアから事情を聞き、モードレッドとガウェインを素直に褒めた。非常に良い傾向だ。円卓の騎士達のギスギス感がまた少し無くなった。
「現在地を教えてくれ」
「メディオラヌムだ。明日には余の傘下のキャンプに到達する予定である」
「キャンプ…!」
「マスター、1度補給するべきだ。今回の進軍で思ったより人間と馬の疲労が重なってる。まぁ敵の数が多すぎたのが原因かなぁ…って俺は認識してる」
「思うようにはいかないもんだな…」
連合首都までの距離はざっくりで1400km。今乗っている馬の移動速度は計算した所48km/h。約2日で強襲出来る予定だったが、俺がダウンした事で馬車が必要になった事・敵陣の突破・複雑な地形などの状況に阻まれた。まぁ、結果として俺のミスだ。
「距離で云えばいい感じだな。だが、ガウェインが実力を発揮出来る時間には到達辿り着けない…大人しく休もう」
「はい、では休憩と行きましょう。今回は私が料理を作ります」
「アルトリアが?」
「えぇ、私も貴方に触発され作り始めたのですよ?形こそ歪ですが味は保証します」
そう言うと、アルトリアはネロが用意した食料を取り出し調理を始めた。ぎこちない動き・時々包丁で指を切ったり火傷するなどの過程を経て、彼女の料理がやっと完成した。
「出来ました。皇帝のお口には合わないかもしれませんが、どうか胃の中にお納め下さい」
「すまんの…お〜!これは!」
アルトリアがチョイスしたのはローストポークとトマトスープ。そして俺が作っていたパンだ。
「トマトスープはやや酸っぱすぎるが、ローストポークは美味い。やるな、アルトリア!」
「ありがとうございます!」
「父上の飯ならほぼ何でも食えるぜ!」
アルトリアには脱帽モンだ。ここまで作れるなら充分だ。あとは地道に修正すれば上達するだろう。
「じゃあ明日に備えて英気を養うか!」
急がば回れという諺もある。一度落ち着いてからやろう……。
トリスタンはチート。はっきり分かるんだね。