Grand Order Of Fate   作:レモンの人

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しばし、シリアスになります。新たな弄られ要員爆誕





オルレアンにて…4

「なるほど、そっちの状況は理解した。」

「はい、私としても何故こうなったのか…よく理解出来ないのです」

 

信仰を失ったフランスの地は、今やアイドルを神のように崇め神の声すら聞こえなくなったとジャンヌはそう言った。

ジャンヌ・ダルク─以下、黒ジャンヌ─はフランスの国民から信仰と心を奪った。結果として、フランスの国力そのものが低下の一途を辿り、ほぼ毎週参覲交代状態の貴族達は兵力を整える事すらままならない。恐らく、落ち込んだ瞬間を狙って何らかの方法で黒ジャンヌを女王として担ぎ上げるのではないか…というのがジャンヌの推測だ。

 

「あの人は一体何を考えているのでしょうか…?」

「だが、本物のジャンヌ・ダルクが出て来たおかげで俺も本腰を上げる気になれた。とにかく、俺達はあの黒ジャンヌをどうにかして倒して聖杯を回収する必要がある。」

「よっ!待ってました!」

 

俺の宣言にモードレッドも拍手で応えた。黒い方しかこのフランスに居ないと思っていたのだが、本物が居るなら別だ。おまけに、彼女の推測はおそらく間違ってはいない。ならば、上手くやってあいつを引き摺り出して聖杯を掻っ攫わねぇとな!

 

「で、こっからオルレアンまでどうするよ?オレ達側には世間で言う偽物のジャンヌ・ダルクが居るんだぜ?」

「ジャンヌの素性は隠す。取り敢えず、その聖女みてぇな格好は脱がした方がいいな」

「えっ?」

「賛成です。ただでさえ瓜二つなのですからドン・レミの村娘の格好をさせなければですね」

「えっ?」

「私も先輩の意見に賛成です。顔には煤でも塗って田舎臭さを出しましょう」

「えぇええええええええええええええええ!?」

 

悪いが変装をさせなければその容姿ではバレてしまう。取り敢えず、健啖家な村娘として役割を演じてもらうより他ない。

 

 

 

 

 

 

 

「悪くありませんね!昔を思い出します!(半ギレ)」

 

昔の格好に心躍らせる(?)ジャンヌを引き連れ、俺達は再びラ・シャリテに向かって歩を進めた……が、俺は遠くの方角から火の手が上がっている事に気付いた。あれは…ラ・シャリテではないか!?

 

「あれは…!」

「急ぐぞ!ジャンヌの預言が現実になる前に!!!」

 

俺はアルトリアに偵察を任じ、モードレッド達を引き連れて走り出す。遠くを見るにワイバーンが飛翔しているが、ビラを撒いてた個体と色が違う。あっちは緑だったが、こっちは赤だ。

 

「ジャンヌ、戦闘には参加するな!身元を明かせば面倒な事になる!!!」

「いえ!人が犠牲になっているのです!私が止めずしてな───」

 

アルトリアの報告ではワイバーン10頭が飛翔して街を襲っているのだという。対してこちらは飛べない剣士と槍兵と盾持ちが1人ずつ…これは厳しいか。

 

 

 

 

そう思っていたその時であった。

 

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・へイン)!」

 

突如ワイバーン達に何処からか飛翔した黒剣が突き刺さる。街中央のオベリスクの上で旗を掲げているのは……あの黒ジャンヌであった。

 

「さぁ、我が旗よ!祖国フランスの大地を守りたまえ!!!」

 

凛と響く声は、逃げ惑う人々から不安と恐怖を奪った。黒ジャンヌの力はワイバーン達を全て撃退させる程に強力であった。

 

「「ジャンヌ様、バンザーイ!!!やはりジャンヌ様は我らの救世主だ!!!」」

 

 

 

 

「なんてこと…!」

 

間違いない。マッチポンプだ。普段使役している個体と異なるワイバーンを使って街を襲わせ黒ジャンヌ自らが撃退し英雄に見せる………なかなかのやり手だ。学のない国民には彼女こそが英雄と見えているに違いなかった。

その方法にジャンヌは唇を噛み締めた。それは間違いなく自分の名を利用し且つ貶める行為であった。だが、今出て行けば悪者は自分になる。何故ならば、自分は偽モノなのだから…!

 

「さぁ、皆は街の復興に努めなさい。私が居る限りフランスは永遠の栄光を得られるでしょう」

 

そう言い残し彼女はゆっくりと歩き去った。が、一瞬だけ…ほんの一瞬…彼女はジャンヌの顔を見てニヤリと笑った。

 

 

──────

 

「復興の手伝いありがとうございます!」

「やる事をやっただけだ。礼は要らん」

 

取り敢えず、ワイバーンが破壊した屋根の修理を手伝ってから、俺は皆を集めて酒場へと向かった。今やるべきなのは腹を満たす事と作戦会議だ。

 

 

 

 

 

 

「さて…俺の考えとしては拠点オルレアンへ真っ直ぐ向かい、直接本丸を潰す事が得策だと思っている。それについて、反論はあるか?」

「ワイバーン10頭」

「ッ…」

「今のだけでもワイバーン10頭だぞ?恐らく拠点にはもっと居る…そいつら+サーヴァント全部を相手に戦うには危険過ぎるんじゃねぇのか?」

 

酒場で出てきたチーズ料理に舌鼓を打ち、酒を煽りながら会議をする。俺は突貫案を出したが、モードレッドは現実を突き付けて否定した。彼女の言う事は本当だ。だが、どうすればいいのか…?早くも行き詰まり始めていた。

 

「私の提案です」

 

手を挙げたのはジャンヌだった。先程からもぐもぐと腹にどっしりくる料理を7皿も平らげている。

 

「ジルに協力を仰ぎたいのです」

「ジル?」

「はい、現在このフランスで生きている…あのジルです」

 

ジャンヌが死んだ今のフランスに居るジルに会い、彼を説得して味方に付けよう…それが彼女の考えであった。

 

「出来ればこの方法は使いたくなったのですが……ジルならば!彼ならば私の話に耳を傾けてくれるかもしれません!」

「しっ!声が大きいですよ。ジャンヌさん」

「あっ///ごめんなさい」

 

なるほどな……それはアリだ。彼の兵力を借りて総力戦を仕掛ける…いい案だ。ただしこれには欠点があった。

 

「もし、ジルと兵士が黒ジャンヌのファンだったらどうする?弓引く事が出来ないかもしれねぇぞ?」

「それは……」

「私からそれにもう一個追加したい。よろしいでしょうか」

「なんだ?」

 

今度はアルトリアの案だ。

 

「他のサーヴァントを味方に付けて戦うのはどうでしょう?」

「それだ。まずは現地の味方になりそうなサーヴァントを引き連れてジルを説得。勝てる可能性がある事を伝え協力を仰ぎ総力戦にする。民衆が加勢に来る前にカタをつける。いい作戦だ。それで行こう」

 

『ふぁ…おはよう。あれ?何か重要な話をしていたのかな?』

 

と、そのタイミングでロマンが通信して来たので事情を説明した。彼はすぐにGOサインを出した。

 

『ただ、忠告するよ。現在確認されている限り、何人かのサーヴァントには狂化が施されている。それは間違いなく黒ジャンヌの構成員だろう。なるべく接触を避けるように』

「了解!じゃあ行くぞ」

 

支払いを済ませた俺達は早速周囲の捜索に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、各自散開してサーヴァントを探そう。モードレッドは俺と来い!」

 

各自散開してサーヴァントを探す。未登録のサーヴァント反応を頼りに周囲を調査するが、ラ・シャリテには1つしか無かった。ボロボロの塔だ。

 

「ロマン、サーヴァントを召集してくれ。俺とモードレッドは先行して救助要請をしに行く」

『分かった。そうしよう』

「行くぞ、モードレッド」

『了解ッ!』

 

塔に突入した俺はモードレッドを先行させ、俺も弓を手に取って螺旋階段を登った。恐らくサーヴァントは最上階に居る。

 

『気を付けてくれ!別のサーヴァント反応だ。狂化されているぞ!!!』

「んなこたァ分かってる!!!マスター、オレの手を取れ!」

「サンキュ!」

 

モードレッドは俺の手を握ると背中に背負って勢い良く階段を飛び越える。直後、モードレッドが居た場所に何かが飛んで来た。アレは…矢か?

 

「狙われてる!魔力供給を優先的に回してくれ!」

 

一瞬見えた窓から見えたのは、矢を番える猫耳の女だった。

 

「次来る!」

「了解ッ!」

 

短く跳躍すると、先読みの一射がモードレッドの顔を掠める。一瞬驚くが、走る足を止めずに一気に駆け抜ける。

 

「父上が来るまで時間を稼ぐぞ!ロマン!父上は何処にいるんだ!?」

『アルトリアはもうそろそろ着く!それまで辛抱してくれ!』

「父上にあいつの座標を送ってくれ!」

『分かった!』

 

次の一射は数歩先の階段を射抜いた。モードレッドは咄嗟に俺を次の階段まで放り投げクラレントを抜く。俺の着地点を予測した狙撃は続いて飛び込んだモードレッドにより弾かれる。負けじと俺も矢を番え牽制射撃を行った。尤も、短弓ではアウトレンジだが、攻撃手段がある事だけでもアピール出来れば充分だ。

と、そのタイミングで馬の駆け抜ける音が響いた。良かった!アルトリアが間に合った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせるものか!!!」

 

アルトリアは塔に向けて狙撃を繰り返す弓兵に襲い掛かる。ドゥン・スタリオンの跳躍をバネに跳躍したアルトリアがロンの槍を突き立てる。ひらりと避ける弓兵だったが、それは予想済みだった。

 

「ならばこれはッ!」

 

腰に提げた鞘から鈍剣を高速抜刀し一閃。右腕をへし折ったが切断までには至らなかった。しかし、結果として分が悪いと判断した弓兵は離脱してくれた。

 

「モードレッド、早く行きなさい!」

 

再び感じた殺気。鈍剣を振るい、それを受け止めるとそこに居たのは槍を手にした老人だった。

 

「恐らく妨害をしてくるとヤマ勘で潜伏していたが…やはり罠に掛かってくれた」

「最初から反応を消して隠れていたのか…!」

 

なんとか押し返したアルトリアはロンを引き抜き、口笛でドゥン・スタリオンを呼んだ。跳躍し老人を牽制した彼はすぐに主人の下へと戻った。再び馬に跨ったアルトリアは穂先を老人に向けた。

 

「続けるか?サーヴァントよ」

「無論」

 

老人はニヤリと笑った瞬間、直感で危険を感じたアルトリアは馬に後退の指示を出す。ところが、それより早く老人の腹が爆ぜた。一気に襲い掛かる臓物の杭がアルトリアからロンを弾き飛ばした。

 

「その手は見切っ───!?」

 

冷静に鈍剣で斬り払い距離を詰めようとした時、腹部に強い衝撃を感じた。冷たい感触…何かを吸われる異物感…腹に刺さるのは避けていた筈の臓物の杭。

 

血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)。甘いな…アーサー王よ」

「な…に……」

 

その一撃で意識を失ったアルトリアだったが、ドゥン・スタリオンが彼女を乗せたまま後退して老人の槍を躱し、逃走した。

 

「フム、浅いか……しかし、これ以上遠くへは逃げられまい…」

 

老人……ヴラド三世はその背を見送り、一気に最上階へと跳躍した。

 

********************

 

最上階

 

「父上の反応が無くなった…どうなったんだよ!?」

『アーチャータイプとの交戦中にランサータイプと遭遇。腹部に宝具攻撃を受けて現在離脱している。今、マシュとジャンヌが応急処置をしている筈だ』

「情報サンキュー!取り敢えず、あいつを助けるぞ」

 

アルトリアは心配だが、今はあそこの床で倒れているサーヴァントの救助が優先だ。

 

「助けに来たぞ!そこの兄ちゃん!」

「───ッ」

 

サーヴァントの青年は俺を見るなり剣を振るってきた…が、その腕はあまりに弱々しく、俺でも受け止める事が出来た。

 

『酷いな…恐らく呪いの類だろう』

「マスター!避けろ!!!」

 

その時、モードレッドが悲鳴に近い叫び声を上げた。慌てて彼を抱えたまま横っ飛びに避けた瞬間。槍が俺のいた所を打ち抜いた。

 

「避けたか。サーヴァントの居なければ死んでいたな…人間」

「父上の仇か!」

 

壁を破壊し現れたのは老人であった。しかし、そこには弱々しい部分は一切無く、寧ろ荘厳な雰囲気が感じられる…恐ろしい奴だ。かなりの猛者である事も頷ける。

 

『気を付けろ!そのサーヴァントはヴラド三世…後世でドラキュラのモデルとされたワラキア公だ!』

「さて、私の狙いであったサーヴァントは…弱っているか」

「ッ…!」

 

凄まじい気迫……モードレッドですら彼の放つプレッシャーに押されている。が…彼は意外にも槍を拾った後、ゆっくりと戻っていった。

 

「ならば、引き入れる価値も無し。退却するとしよう」

「待て──!」

 

軽いステップで破壊した場所から下へと飛び降りたヴラド三世の姿は彼の体から発生した霧に隠れて消えた。俺達はそれを見送る事しか出来なかった。

 

「クソッ!!!」

 

モードレッドは悔しさのあまりクラレントを床に叩きつけた。敵討ちと決めた筈なのにプレッシャーに押し負け戦わずして負けた事に彼女は怒っていた。

 

「落ち着け、今はこのサーヴァントを助け出すのが先だ」

「すまない…」

 

俺は青年を背負い、階段を降りた。壊れた段はモードレッドに渡して進んでいく。その間も周囲を伺いながら階段を下り……

 

『待て!出るんじゃない!サーヴァント反応多数!そして味方の反応…これは……!!!』

「人質か!!!」

 

「その通りよ」

 

その声と同時に壁が吹き飛ばされた。モードレッドがクラレントで破片を防いでくれたが、煙が晴れた先には出来れば見たくない光景が広がっていた。

 

 

漆黒のローブで全身を隠した仮面の女…それがアルトリアの腹を踏み付け、他のサーヴァント達がマシュとジャンヌ、そして彼女達の武器と馬を拘束していた。

 

「まさか、異国の者がこのフランスを荒らそうとしていたとはねぇ…」

「その声は…ジャンヌ!」

 

そう告げると彼女は仮面を外し、ジャンヌ・ダルクの顔を晒した。それは聖女でもアイドルでもない…悪事を企む悪党のそれであった。

 

「それにしても面白い事を考えたわね…私の贋作を担ぎ上げて謀反を企てようだなんて」

「がっ──!」

 

ジャンヌがアルトリアを踏む力が強め、傷口から血が噴き出した。

 

「テメェ!!!」

「あら?良いのかしら?あんたが私を殺そうとすればこのサーヴァントとジャンヌ…そして貴女の“お父上”を殺すわよ」

「クッ……」

 

相手を蔑むような笑みでモードレッドを見下すジャンヌ…だが、彼女が従えるサーヴァントを見て、俺は疑問を覚えた。

何人かのサーヴァントは……この行為を良しと思っていない?

 

「因みに要求はなんだ?」

「えぇ、極めて短く簡単よ。“私の贋作の処刑”、それと“この特異点に2度と関わらないでちょうだい”。どう?これでもかなり譲歩したわ。人質も解放してあげるし、良い案でしょう?」

「あぁ、アーサー王さえ足蹴にしてなければな」

「私は寛大だから3分、3分だけ時間をあげるわ。その間に答えを出しなさい」

 

ジャンヌは再び仮面で顔を隠し、腰の細剣を抜き出すとアルトリアの喉元に向けた。八方塞がりって奴だ。その間にも俺は周囲の様子を伺っていた。反撃の糸口は無いか…と。

そして3分が経った。

 

「さぁ、時間よ。要求を聞こうかしら?」

「あぁ、いいだろう」

 

答えは出ている……。

 

「───殺れよ!!!」

 

直後、彼女達の死角から別の攻撃が飛んで来た。魔力の弾丸…それらが殺到する隙を突いてマシュが拘束を解き、自分を拘束していたアサシンのサーヴァントを殴り飛ばしジャンヌを解放。

 

「うらぁああああああああああああ!!!父上ぇえええええええ!!!」

「何ッ!?───ッ」

 

続けてモードレッドがジャンヌに決死のタックルを仕掛けて弾き飛ばしアルトリアを救助した。降り注ぐ魔力の弾丸が上手く砂埃を発生させ煙幕を張る。それを利用して俺達は武器とドゥン・スタリオンを回収して離脱した……。

 

 

 

 

 

「すまねぇ!助かった!」

「いいえ、貴方こそ怪我は無かったかしら?」

 

俺達を助けてくれたのはライダーとキャスターのサーヴァントだった…………。




ジャンヌ・ダルク(白い方)
身長:159cm / 体重:44kg
出典:史実
スリーサイズ:B85/W59/H86
属性:秩序・善 / カテゴリ:星
性別:女性
趣味:不明
特技:旗振り
概要:カルデア組から散々弄られているルーラー。サーヴァントなりたての状態にまで霊基が低下しており、宝具程度しか役に立てない。健啖ぶりは健在。





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