IS学園での物語   作:トッポの人

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みなさまー?(謹賀新年)
お待たせ。待った?

今更大晦日の話です。やったね。




大晦日

 

「大晦日にこうして家族以外と過ごすのは初めてかもしれんな」

「いやいや、ちーちゃんったらー。親友の束さんをお忘れですよっ! よっ!」

「お前がいたか……ちっ」

「ちーちゃんの投げキッスもこれで今年最後かなぁ」

「誰がしたんだ、誰が……!」

「あ、あの、仲良くしましょうよぉ……」

 

 本人を前にして隠すつもりもない舌打ちをする千冬さんとにこやかに対応する束さん。そしてそれを見てオロオロする真耶さんと大人組が勢揃いだ。

 まぁ千冬さんも親友と言われて否定しない辺り、いつもの二人のやり取りなんだろう。さすがツンデレ教師。それにしても本当に一夏の知り合いのツンデレ率の高さは何なんだろう。

 

『いこーる春人の知り合いになりつつある訳ですがそれは』

 

 俺は一夏という第一人者の後を追っているだけだからセーフ。

 

 さてさて、千冬さんが言った通り今日は大晦日。

 こうして既に酒盛りを始めている大人組は炬燵に入ってお酒を飲みつつ、いつか出てくる鍋をひたすら待っていた。

 

「春人、ちゃんと飲んでいるか。ペースが遅いぞ」

「……あの、そもそも自分は未成年ですが」

「固い事を言うな。今日くらい別にいいだろう」

 

 俺と一緒に。何でやねん。あからさまに浮いてるだろ。というかまだ未成年に酒を勧めないで欲しい。しかも今日くらいって言ってるが、酒飲む場面に出くわすと毎回飲め飲め言われているんですけど。

 

「嫁よ、先生の言う事は聞けとよく言うだろう。ちゃんと聞かないとダメだぞ」

 

 炬燵に入りながら俺の膝の上で一生懸命みかんの白い筋を取っていたラウラが急に口を挟んできた。

 一回だけ箒が綺麗に剥いたみかんを見せてから何かに取り憑かれたようにずっとやっていたので話を聞いてないものだと思っていたが違ったらしい。

 

「……それは時と場合によるんだ」

「むぅ、そうなのか……おっ、出来たぞ!」

 

 背中で語るタイプの職人のように黙々と作業していたラウラには比較的関心はなかったようで、目の前の出来事に頭の片隅へと追いやってしまった。

 そう、ついにみかんの白い筋を綺麗に取り終えたのだ。見て欲しいのか、みかんを天高く掲げてきた。

 

「わぁ、綺麗に出来ましたねっ」

「おー、やるねー!」

「見事だ」

「はい、ありがとうございます!」

 

 見事な出来上がりに大人組が褒めると更に上機嫌に。気が良くなったラウラは瞳を輝かせたまま立ち上がる。

 

「姉に見せてきます!!」

「あっ、走っちゃダメですよ!」

「……転ぶなよ」

「ああ!」

 

 大事に大事にみかんを手で覆い、台所で皆と一緒に準備しているクロエの元へ向かった。真耶さんと俺の注意もあまり耳に入ってないようだったが、まぁ大丈夫だろう。

 

「いやー、可愛いよねぇ。思わずニコニコしちゃうよ」

「でも学園に来たばっかりの頃は人を寄せ付けない雰囲気だったんですよ」

「それがまた随分と丸くなったね」

「色男様々だな」

「ですねー」

「なぁるほどぉー」

 

 微笑ましくラウラについて語っていたかと思ったら急に話と視線が一斉に俺の方へと向いた。というか千冬さんの色男発言だけで俺だと特定するの凄すぎないか。

 

「…………勘弁してください」

「ふっ、一応これでも感謝しているんだ。あいつが変わったのは間違いなくお前が関係しているからな」

 

 お酒を飲みながら話す千冬さんは嬉しそうにしていた。それだけラウラも気に掛けてたんだろう。

 でもタッグマッチトーナメントで俺と組んで暫く一緒に行動しろって指示したの千冬さんなんだけど。というか未だに何でそういう指示したのか全く分からん。

 

「ついでに言うと拗らせ処女も随分扱いやすくしてくれて非常に助かってる」

「ち、ちちちちーちゃん? それは一体誰の事を言っているのかなー……?」

『間抜けは見つかったようだぜ……』

「…………それなら良かったです」

「っ!?」

 

 とりあえず束さんの反応で誰の事言ってるのか察したのでさっさとこの話題は流そう。うん、そうしよう。俺は今何も聞かなかった。

 

「ち、違う、違うんだよはるくん。束さん確かにあの、その、……だけど、拗らせてないから!」

「…………いや、あの」

「ほ、本当だよ!?」

「あっはっはっはっ!」

「織斑先生……?」

 

 何で流そうとしてるのに掘り起こして説明してくるの。しかも俺に。俺は適当に返事しただけだから。誤解してるの千冬さんだから。

 今もテンパりながら必死に弁明してくる束さんの対応に困り果てているその横でこの光景を作り出した張本人が腹を抱えて実に楽しそうに笑っていた。

 

「盛り上がってるところ悪いけど、鍋持ってきたからちょっと退いてくれー」

 

 やってきた救世主、一夏の言われるがままに退くと真ん中に美味しそうな鍋が置かれた。いい匂いに鼻を擽られ、意識が自然とそちらに持っていかれる。

 

「お、美味しそうです! 食欲そそられますね!」

「……ええ、本当に」

「う、うん……」

「ふっ。さすが一夏だ」

「恐悦至極……なんてな」

 

 出てきた料理に絶賛すると自分の事のように嬉しそうにしている千冬さん。さすがブラコンであるが、その弟も執事の真似事のようにして嬉しさを押し隠そうとしている。隠しきれてないけど。何にせよ、一夏に助けられたのは間違いない。

 

「……助かった。ありがとう」

「ははっ。そりゃ良かった。にしても千冬姉があんな大笑いするなんて珍しいな……もしかして酔っ払ったか?」

「ああ、少し酔ってる」

「えっ?」

「ふっ」

 

 冗談っぽく言った一夏に対する返答に何故か問いかけた本人が驚いていた。何度も瞬きしている姿を見て千冬さんは少し笑うと、グラスに残っていたビールを一気に流し込んだ。

 

「春人。空いたから注ぎに来い」

「……はい」

「ああ、お前もグラスを持って来いよ」

「…………はい」

「は、はるくん、あのね……」

 

 ご指名頂いたのでビール片手に千冬さんの隣へ。服の裾を掴んで後ろをとことこ付いてくる束さんも一緒に。うん、気のせいじゃなければ鍋であんまり誤魔化せてなかったらしい。助けて。

 座る頃には台所にいた女性陣も作ってくれた料理を手にこちらへやって来た。

 

「「「お待たせしましたー」」」

 

 一度にこんな大勢来る事なんてなかったのでテーブルなんてなかったが、そこは楯無さんと簪が実家から余っている長テーブルを取り寄せたらしい。自分の家の事なのにらしいというのはいつの間にかあったからだ。もう一度言うが自分の家なのに。

 でも今日は大人組もいるのでちょっと足りないから炬燵も置いて何とかやっている訳だ。長テーブルの方にも鍋と少し料理が置かれていく。これだけの人数だから鍋だけでは足りないだろう。というかそんなに作るスペース良くあったな。

 

『ママンが拡げてくれたおかげですね』

 

 その場面を見ていた一夏曰く、束さんが何やらドでかいマイナスドライバーのようなものを取り出して地面にぶっ刺したらめちゃめちゃ広くなったらしい。何で俺のいないところでそういう事するの。めっちゃ見たかった。

 

「春人くん、まだまだあるからいっぱい食べてね。おねーさんの自信作なんだから」

「お姉ちゃんほどじゃないけど……良かったら……」

「たっちゃんもかんちゃんもだけど、お姉ちゃんも凄くすごーく頑張ってたから食べてねー」

「ほ、本音っ。そういうのはいいから……良ければでいいからね?」

「……ありがたく頂きます」

 

 確かにどれも美味しそうだ。というか量は不明だが、品数からしてシャルと二人ならこれだけでお正月も乗り越えられそうである。

 

「お兄ちゃん! 僕も頑張って作ったから食べてね!」

「…………ああ、ありがとう」

『その間にめっちゃ感情込めてそう』

 

 だって現実でこんな可愛い義妹が出来ただけでも幸せものなのに、そんな義妹が料理作ってくれるとか最高過ぎるだろ……。今も褒めて褒めてみたいなワンコオーラ出してるし、うちの義妹は可愛い……。

 

『上の上でた?』

 

 これは間違いなく上の上。ちなみに俺のために作ったって言ってたら死んでた。

 

『あ、うん』

 

 えっ、何その返事。どういう事? 

 

「クロエも作ったんだ。味は私とラウラが保証する」

「姉のは絶品だったぞ。ナイフの使い方も手慣れたものだった。さすが姉だ……」

「ラウラ、あれは包丁ですから……」

 

 束さんと一緒にIS学園に来てからクロエは箒に料理を教えて貰っている。何度か味見したから分かるがもう立派なものとなっていた。

 隣で途中から見に行ったはずのラウラが最初か見ていたように得意気な顔で語っている。その横でクロエが困ったような笑みを浮かべながら見ていた。

 

「すみません、春人さん……何故かわたくしはあまり手を出さないようにと言われてしまいまして……」

「いや、その、そうね……」

「…………そうか」

 

 すまない、それについては俺からは何も言えない……本当にすまない。あまりの悲壮感にいつもセシリアに冗談言っている鈴も何も言えなくなるほどだ。

 

「千冬姉、いいのかよ」

「ん? 何がだ?」

「リードされてるぜって話。弟としてはそろそろ彼氏はいて欲しいもんなんだけど……なぁ、兄貴?」

「…………何で俺がお前の兄貴なんだ」

「ははっ、何となくだよ。深い意味はないから心配すんなって」

 

 こちらのテーブルに料理を置きにやってきがてら一夏が小言を言い始めた。最後に俺を見ながら兄貴と呼ぶ爆弾を設置して。嫌でもその意味深な発言と視線に含まれている意味を探ってしまう。

 

『大丈夫、大丈夫。白式に聞いてきたけど本当に深い意味はないから』

 

 いや、まぁ、それならいいんだけど。

 

『深い意味はね』

 

 何で二回言ったの。ねぇ、何で二回言ったの。

 

「私はいいのさ」

 

 そんな小言に千冬さんは応えた。短くも余裕たっぷりの態度は言った一夏でなくとも気になるところだ。だがここでまず訊ねる権利があるのは言った人からだろう。

 

「というと?」

「なぁに、簡単な話だ────」

「……?」

 

 続けての質問に千冬さんは俺の方を向いて見惚れるような笑みを浮かべてこう言った。

 

「今は料理が出来なくても共に学べばいいと言ってくれる。そんな相手と結婚すればいい。なぁ?」

「…………はい」

「へぇ、言うなぁ」

 

 確かに以前自信なさそうだった千冬さんにそんな事を言ったが何故この姉弟は俺の方を見ながら言うのだろう。まぁ千冬さんも相手は……見つけてるみたいだし。

 

『ふぁっきん』

 

 何でさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣から逃してくれない千冬さんのお酌をしつつ皆が作ってくれた鍋や料理に舌鼓を打っていると、程よく腹が膨れてきた一夏が携帯を掲げて隣へやってきた。

 

「春人、年末ガチャ引こうぜ!」

 

 夏休みの時に気付いたが俺と一夏は同じソシャゲをプレイしていた。そのソシャゲで復刻ガチャの他に、無料で一回だけ十連ガチャが引ける年末ガチャが存在していた。運営さんありがとうございます。

 ただせっかくの提案だが一つ残念な事が起きていた。

 

「……すまない。今朝引いてしまった」

「えー。何だよ、じゃあ俺も引くかな……」

 

 若干不貞腐れながら一夏は無料十連ガチャを回した。隣で見ていたが何とも言えない結果だったから一夏から長い溜息が溢れる。結果もあるかもしれないが、一緒に引きたかったかもしれない。

 

「……一夏、俺はこの復刻キャラを持っていない」

「俺もだ……つまり?」

 

 言葉と共に顔を上げていき、二人が顔を見合わせたと同時にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「……引くか」

「引きますか!」

 

 しょぼくれていた一夏が一気に元気になる。だが未だ最高クラスの評価を受けているこの復刻キャラ。ここで引かない手はない。

 

「お、課金するのか」

「……ああ」

 

 課金画面に行くと横で一夏が見ていたらしく訊ねてきた。既にすっからかんだった俺は最早課金するしかガチャを回す手段はなかった。

 

「幾ら課金するんだ?」

「……五万円」

「えっ、おまっ」

 

 かなりの額に言葉もないようだが、こういうのは少しだけ課金しても意味ない。経験上、ちまちまやったところで最終的には結構な額になってしまう。だからやるなら最高額をドカンとやるのがいいんだ。

 

「お、お前それで引けなかったらどうするんだ?」

「…………想像したくもないな」

『泣くなよ、ロッズ』

 

 泣いてねぇよ。

 

 でもまぁそうなったら俺は引き攣った笑いしか出ないだろう。そしてそうなる可能性も充分にあるのがまた怖い。案の定というか一回目の俺の結果はダメダメだった。

 

「おっ!!」

「…………まさか」

 

 それに反して一夏から嬉しそうな声が上がる。まさかとは思うが恐る恐る画面を見てみるとそれは予想以上のものが映っていた。

 

「一回目の十連で三体出た!」

「…………おめでとう」

 

 何だこいつの豪運は。たまにSNSで出てくるコラ画像みたいなのが目の前にある。無論、コラなんかじゃない一〇〇%天然物だ。辛うじておめでとうと言えたがかなりキレそう。

 

「春人はどうだった?」

「…………ダメだった」

 

 対する俺は高速タップにより一夏が貴重な一回目を回してる間にもガンガン回していたが結果はダメダメ。知っている人からすればグロ画像と言われても差し支えないのを量産していた。泣けるぜ。

 だがまだだ。俺は負けてない。最後に勝つのは俺だ。

 

『えー? 何で春人は最後に勝つって分かってるのー?』

 

 そりゃあ、今回は天井まで────

 

『わくわく! わくわく!』

 

 あ、ダメだ。これいつもの俺の返答に期待しているやつだ。

 それまでいつも通りだったミコトちゃんが急に娯楽に飢え始めたので付き合う事に。こういう時はなるべくいい声で決めると相場は決まっているものだ。まぁ相棒にしか伝わらないが。

 

 当たり前だぜ、相棒。なんて言ったっていつも俺は────

 

『いつも俺はー?』

 

 ────無敵のジョーカー、だからな。

 

『ヒュー!!』

 

 さて、その後天井まで回して漸く欲しいキャラを手に入れた無敵のジョーカー。今年最後になるであろう相棒との馬鹿をやり終えた俺は酒とずっとくっつかれていたのもあってじんわり汗を掻いていた。

 とりあえず膝の上にいたラウラを持ち上げて退ける。力なく身体を伸ばしている姿に猫を連想してしまう。

 

「む、どうしたんだ?」

「……少し熱くてな。外の風に当たってくる」

「今日は寒いから風邪引かない内に戻ってくるんだぞ」

「……ああ」

「上着持っていかないとダメですよ」

「……ありがとうございます」

 

 立ち上がり、外に向かおうとすると、ソファーに掛けていた俺の上着を手に真耶さんが渡しに来た。ありがたく受け取るとあまり聞かれないように耳元で話し始める。

 

「なるべく早く戻って来てくださいね」

「…………何でですか?」

 

 元々このくそ寒い時期に外に長居するつもりなんてなかったが、誰にも聞かれないようにってなると非常に気になる。ちらりと何かに視線をやり、その理由を明かした。

 

「織斑先生も篠ノ之博士も寂しがりますので」

「……本当ですか?」

 

 今も酒を飲みながらわいわいやっているのを見ていると本当にそうなのかと疑いたくなる。

 

「はい。それに私も春人くんいないと寂しいです……」

「…………もしかして酔ってます?」

「はいっ」

 

 急にしょんぼりして言うからおかしいと思ったら案の定だった。笑顔で明るくはっきり返事しないで欲しい。

 

「でも寂しいのは本当ですから早く戻って来てくださいね」

「……分かりました」

 

 からかわれるのもそこそこに、受け取った上着と飲み物片手に外に出ると急速に熱が失われていく。雪が降ってもおかしくない寒さだ。

 後ろから寒さも一時忘れさせるような皆の暖かで賑やかな声が聞こえてくる。自分の家から、それも親ではなく自分の友人や知人からかと思うと感慨深いものがあった。

 それをBGMに縁側に座って一口飲むと背中に軽い衝撃が走った。それなりの付き合いだ。振り返らなくても何が起きたのか手に取るように分かる。

 

「……本音か。どうした」

「はるるんの様子を見に来たんだよー」

「……そうか」

 

 のんびりとした声と共にやって来た本音。様子を見に来たと言いつつ、いつものようにくっついてきたのでそのまま俺が戻るまで一緒に居座るつもりだろう。背中だけ暖かくなったがこれだと本音が風邪を引きそうだ。

 

「……ほら、羽織ってろ」

「うん、ありがとっ。えへへ……」

 

 持ってきた俺の上着を手渡すと嬉しそうに袖を通していく……羽織ってろって言ったのに。おかげで袖も丈もかなり余っている姿になってしまった。でも本当に嬉しそうにしているし、本音って大体萌え袖みたいになってるからまぁいいか。

 

「じゃあ、はるるんが寒くならないようにもっとくっつくね!」

「…………いや、それは別にいい」

「ぎゅーっ」

 

 恩返しのつもりか、こちらの静止の声を無視していつもよりも密着してくる。擬音を口にしながら背中に顔を押し付けて抱き着いていたかと思えば、少し体勢を変えて肩に顎を乗せた。いつも浮かべている明るい笑顔から不満そうな顔に変えて。

 

「うー……はるるんお酒臭い……」

「……すまない」

 

 大人組に勧められるまま飲んでたのもあって結構な量を口にしていた。だからそう言われるのも仕方ない……仕方ないが、そもそも抱き着かなければ問題ないというのに気付いて欲しい。

 

「はるるん、いっつもいい匂いしてるのに……んー……」

「…………嗅ぐな」

 

 鼻をくっつけて酒で消された俺の体臭を探している本音。というか背負った時に毎回嗅いでたのかよ。恥ずかしいからやめてくれ。

 

『でも春人はいい匂いしてるよ?』

 

 素直に喜んでいいのか分からん。まぁ汗臭いよりはいいんだろうけど。

 

 ある程度俺の体臭を探して何処も酒臭くなっていると分かって漸く本音は嗅ぐのをやめてくれた。諦めたと言った方が正しいかもしれない。

 

「今年は色々あったねー」

「……そうだな」

「来年はどうなるんだろ?」

「……さぁな。だが穏やかな年を過ごしたい」

「はるるん頑張ってたもんね。良い子、良い子っ」

「…………撫でなくていい」

 

 肩に顎を乗っけている本音と夜空を見ながら話していた。思い起こせば色々な事があった。ついさっきも、そして今も現在進行系でその色々に含まれる事が起きているが言わないでおこう。

 

「……本音は来年どうしたい?」

「私? 私はねー……」

 

 少し悩むような素振りを見せるも既に決まっていたようで、答えは直ぐに出た。

 

「はるるんと一緒ー」

「…………というと?」

「皆で穏やかに過ごしたいねって」

「……そうだな」

 

 だよね。そうだよね。あー、びっくりした。はるるんと一緒って俺と一緒になるとかじゃなくて俺と一緒の願いってことか。本当に心臓に悪い……。危うく恥ずかしい勘違いをするところだったぜ……。

 

「あとははるるんが皆の事に気付いて応えてくれたらなぁ」

「へっ?」

「私は一人よりも皆と一緒がいいな。仲間外れはするのもされるのも嫌だもん」

 

 追加で言ってきた事に自然と間抜けな声が出た。何か話が変わってきている気がする。皆ってのも俺が想像している皆と違う気がする。皆とはどういう単位だってとある芸術家みたい事を言いそうになった。

 確認しようと横を見ると何を想像しているのか……いや、想像しているのは決まっている。これからの未来だろう。それを夢見てとても幸せそうに微笑んで、ジッとこちらを見ている本音とバッチリ目が合う。

 

「……来年は皆穏やかで幸せに過ごせるって楽しみにしてていい?」

「えっと、あの、その……」

 

 幸せにって追加されてるぞとか、いやいや、俺頼みかよとかそんな冗談が言えるような雰囲気じゃない。ひたすら吶るしか出来なかった。

 だが本音は焦る俺の様子に呆れる事も急かす事もなく、こちらの様子をただ愛おしそうに微笑んで見ているだけ。

 

「が、頑張ります」

「うんっ」

 

 そうして漸く出た答えは何ともお粗末なものだったが、本音は笑って受け入れてくれた。

 

「そろそろ戻ろっかー。はるるん、お願いしますっ」

「…………分かった」

 

 すっかりいつもの様子に戻った本音を背負い、皆のところへ。来年に向けてもう頑張らないとダメかもしれない。でも皆と穏やかで幸せに過ごすためだと言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

『ちなみにミコトちゃん予想では来年IS学園に隕石降ってきてそこから出てきたBETAみたいなのと戦ってると思うよ』

 

 そんなん来たら目ガン開きからの起きろ、ストラトスして殲滅するわ。

 

『阿頼耶識のリミッター外してそう』

 

 BETA死すべし、慈悲はない。




一夏に対する答えが違ったちーちゃん先生のif

「というと?」
「なぁに、簡単な話だ────」
「うおっ」

 ビールを注いでいたら急に千冬さんが肩を抱き寄せてきた。ニヤリと笑みを浮かべて。

「私はそんな小細工は使わない。やるなら一息に本丸を落とすさ。なぁ?」
「…………はぁ」
「「「っ!?」」」

 やだ、イケメン……。いや、でも俺に聞かれてもなぁ。と思っていたら耳元で俺にしか聞こえないように囁いてきた。

「……間の抜けた返事しやがって。絶対落としてやる」

 助けて、俺食われるかもしれない。

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