超本気で幻想郷を支配したい二人のおはなし。 作:納豆チーズV
「おはよー!」
はぁ? なんだ? こいつ。
というのが、館の中に図々しく入り込んできていた見知らぬ少女への、率直な第一印象だった。
ここは紅魔館。文字通り外観からして赤い館。人間や妖怪、神さまや妖精など、さまざまな種族が生息する幻想郷の中でも、そのパワーバランスの一角を担う吸血鬼が住むとして有名な館である。
そこの主たる吸血鬼レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレット。諸々の事情で紅魔館の問題児とされ、基本的に孤立しているはずの彼女は今、不審感丸出しな表情で一人の少女と向き合っていた。
「おはよー!」
「いや、反応しなかったのは別に聞こえなかったからじゃないって」
薄暗い廊下に甲高い挨拶の声が再びこだまする。何事もなかったかのように連続で行われたものだから、思わずつっこんでしまった。
親しげに挨拶されはしたが、この少女はフランの知り合いでもなんでもない。むしろ今日この時まで欠片も見覚えすらなかった。初めて出会い、いきなり大声で挨拶を叫ばれたのがつい数瞬前になる。
フランの回答に少女は、ぷくぅー、と頬を膨らませる。そして、いかにもぷんぷんと擬音が出そうな雰囲気で怒り始めた。
「なら挨拶を返してよー! 挨拶は大事! 古事記にもそう書いてある! ……ってお姉ちゃんが言ってた」
「あー? なんだって? 古事記? なにそれ」
「えっとねー。なんか人間の作った本らしいよ。なんか有名みたい。私は全然知らないけど」
「あっそ。人間の作ったルールなら私にはまったく関係がないわね。悪魔だし」
「むぅ、そっけないなぁ」
そもそもお前だって人間じゃないだろうに。フランは、少女の持つ人間にはありえない特徴を見やる。
彼女の体を取り巻く管のような器官と、胸の少し前にふわふわと鎮座する、瞼が閉じた三つ目の瞳。管は少女の体の各所から伸びて、その瞳を包む膜へと集結し、繋がっている。
そんなおかしな特徴の目を携えた妖怪の少女は、ひょこひょことフランの隣に馴れ馴れしく歩み寄ってくると、フランの顔を覗き込みながら小首を傾けた。
「ねぇねぇ、窓の外なんて見てなにしてるの?」
「見てわかんない?」
「わかんないから聞いてんのよー」
別に教えてやらなくてもよかったが、これからやることを考えると、少しでも目撃者が多い方が気味がいいとも感じる。どうせだから見せてやることにした。
「ほら。あれ見える?」
「あれって?」
「あいつよあいつ。あの中央で偉そうにふんぞり返ってるやつ」
窓枠に肘を乗せ、もう片方の手で窓の外の一角を指し示す。これが昼間なら日の光が差し込んできて体を焼いて灰にしてくるところだけど、今は月の魔力が差し込む満月の夜だ。むしろ気分がよかった。
……よくよく考えたらこの時間に「おはよー!」はちょっとおかしいんじゃないだろうか。いやそもそもフランが見たこともない相手、つまりは侵入者が唐突に挨拶をかましてきた時点で明らかにおかしいのだけれども。
少女はフランに指し示されるがまま窓に顔を寄せると、フランが教えた方角と同じ方向に指を向けながら確認するように小首を傾げてくる。
「あのあなたに似てるちっちゃいの?」
「そうそう。あれ私のお姉さまなのよ。あとお前、あれをちっちゃいって言えるほどお前も大きくないから」
「へえー、姉妹なんだ。確かにちょっと似てるかも」
現在、窓の外、館の庭園ではパーティーが開催されている。館の主たるフランの姉ことレミリアは当然として、その従者にあたるメイド長やら居候の魔法使いやら妖怪の門番、数え切れないほどの妖精メイドや雑用係のホブゴブリンなど、さまざまな種族で賑わっている。
毎月、レミリアは満月の夜にはこうしてパーティーを開いたりなどしてなにかしら騒いだりしている。吸血鬼だから満月の日には気分が高揚してそういう気分になるのだろう。騒ぐ場所は紅魔館に限らず、時には知り合いの巫女が治める神社だったりもする。
とは言え、フランはこれまでそういった催しには一切参加したことはない。普段は一人でふらふら館の中を出歩いているか、自室でごろごろとしているだけだ。今日は少し事情が違ったけれど。
「それで、あのあなたの姉がどうかしたの?」
「あんまりに暇だからお姉さまにちょっといたずらでもしてやろうかと思っててね。機会を窺ってたの」
「だから挨拶にもそっけなかったんだねぇ」
それもちょっとはあるが、一番の理由はやはり第一印象が変人であることだろう。
ただまぁ、無断外出があの姉に禁止されているフランは他人との付き合いが少ないぶん、気になったことに関しては割と好奇心旺盛だ。もしもあちらから変に挨拶してこないでいれば、見知らぬ妖怪の存在にフランの方が気になって、自分から話しかけていたかもしれない。
「あ、いい場面見っけ」
妖怪の少女も交えて姉の様子を探っていると、すぐにちょうどいたずらしがいがありそうな場面が訪れた。
レミリアが、咲夜の用意したフルーツの束の中からチェリーを手にとって、口元に運ぼうとしている。ただそれだけの、けれどフランにとっては非常に好都合な状況だった。
「ほら、よーく見てなさいよ」
「んー……?」
不思議そうな声を上げつつも言われた通りに目を凝らし始めた少女を横目で確認すると、フランも自らの姉の方へともう一度視線を移した。
右手を開き、その手のひらの上に『目』を作り出す。
レミリアの口の中にチェリーが吸い込まれていく。フランはその光景に、にやり、と口の端を吊り上げた。
――ぱぁんっ!
「へぶっ!?」
銃声のごとき破裂音を立て、唐突にチェリーが爆発した。その衝撃に弾かれて、奇声を上げたレミリアががたんっとイスから転がり落ちる。
当然、そんなことになれば視線が集まる。情けない姿を見られたレミリアは、さきほど食べようとしていたチェリーのように、その頬を真っ赤に染め上げていた。
「くふ、くふふふ……あっははははははっ! ねぇ、見たっ? 今のお姉さまの顔!」
「すごかったねぇ」
少女の反応は無難ななんでもないものだったけれどフランへの同意には違いない。フランは機嫌よく「ふふん」と頬を緩める。
「でしょうっ? しかもへぶってなによ、へぶって! ぷくく」
レミリアの奇声がこちらにまで聞こえたくらいだから、この嘲笑もあちらに届いてしまっているかもしれない。
それでも構いやしないか。この館で今レミリアにやってみせたような真似ができるのはフランだけだ。どうせすぐに必ずばれる。
「ねぇねぇ、今のどうやったの? あの果物になにかしかけでもしてたの?」
ただ、隣に立つ少女はフランの持つ力について知らない。未だ笑みの消えないフランを興味津々に見つめてくる。
「そんなしちめんどくさいことするわけないでしょ? これよこれ」
「これってどれ?」
「だからこれだってば」
これ、と言いながらフランは右手をひらひらとさせる。当然ながら、なにも知らない相手にそれだけで伝わるわけがない。
ちゃんと教えてよー、と不満そうにする少女に対し、ふふんっとフランは自慢げに鼻を鳴らしてみせた。
「すべてのものには目ってものがあってね、それをきゅっとつっつけばどかーんってわけよ」
「目?」
「そうそう、目。でね、私のこの右手の上にはそのすべてのものの目ってのがあるの。だからあいつがあのチェリーを食べる直前で、チェリーの目をきゅーっとこの右手で一捻りにしてやったってわけ」
これは同じ吸血鬼のレミリアも持ち得ない、フランだけが使える特別な力だ。右手を握りしめることによって、フランが認識した対象を問答無用で破壊する。遅かれ早かれ、それがいずれ終焉の訪れる存在である限り、この能力から逃れるすべはない。
まぁ、今回みたいに集中して使用した場合はともかくとして、いい加減に使おうとすると余計なものを壊してしまうこともままあったりするが、些細な問題だろう。
「へぇ、目かぁ……」
少女が自分の胸の前に浮いている閉じた三つ目の瞳を見下ろしていた。
そういう実際の目じゃなくて、中核だとか心臓部だとかいう意味での目だったのだけど、訂正するのもめんどうなので口出しはしないでおく。あるいはこの少女もそれはわかっていながらあえてこうしているのかもしれない。
「ねーねー、もしかしてさ、私っていう妖怪の目もあなたの手の上にあったりするの?」
「あん? そんなの当たり前でしょ? すべてのものの目は私の右手の上にあるって言ったじゃない。お前の目も、お姉さまの目も、それこそ私自身の目だってこの手の内にあるわ」
「じゃあじゃあ、たとえばだけどあの空に浮かんでる月を壊せたりもする?」
「え? うーん……たぶん壊せるだろうけど……」
「すべてのものの目があなたの手の上にあるんじゃないの?」
「あるわよ? その言葉に嘘なんてない。だから一応、月だって壊せるとは思うんだけど……あのレベルに大きくて遠いのは試したことがないから確実にはね。隕石くらいなら何度かあるんだけど」
そもそも月を壊すなんてことをしたらレミリアに怒られる程度じゃ済まないから試すこともできない。もしもそれができてしまえば――やれる自信はあるけども――、幻想郷中の妖怪だけでなく、あらゆる異界の悪魔や邪神などなど、数え切れないほど厄介なやつらから命どころか存在そのものを狙われるはめになる。
フランは大体五〇〇年近くの時をほとんど自室のみで過ごしてきたのだが、最近館の中を出歩くようになってからはレミリアから口酸っぱく「月とか星とかは遊びでも絶対に壊さないこと! いいっ?」と注意されたものだ。
やるなと言われるとやりたくなるのが
「って、お姉さまがいない?」
なんとはなしにちらっと窓の外を窺ってみたら、いつの間にか姉の姿がパーティー会場から消えていた。
「あ、さっきなんかすっごい怖い顔してこの建物の入り口の方に向かってったよ? もうすぐこっち来るんじゃないかなぁ」
「げっ。そういうのは早く言ってよ」
チェリーを食べる瞬間を狙って破壊の力を行使した。それはつまり、その時点でレミリアを視認できる位置にフランがいたということにほかならない。一応レミリアに見つかる前に窓から身を隠しはしていたが焼け石に水だろう。フランは基本的に館から出ないし、紅魔館は吸血鬼が住む関係で窓が少なくなるようつくられている。場所の特定はそう難しいことではない。
もうレミリアが館の中に入ってきているというのなら、ここに来るのももはや時間の問題だ。
現に、廊下の奥の方からものすごい勢いでこちらに走ってくる足音が聞こえてきている。ばんばんと扉を乱雑に開ける音も一緒にこだましていることから、フランが隠れていないかと一つ一つ近場の部屋を素早く確かめながら進んできているらしい。今更適当に隠れたところですぐに見つかってしまうのは間違いない。
「めんどくさいなぁ……」
部屋を確認しながら近づいてきているということは、逆側へ全力で一直線に進めば逃げ切れるかもしれない。でもそういうのは性に合わないというか、こんな自分が特に得をしないことで必死になるのは果てしなくめんどくさいというか。
レミリアはこういう余計なことに労力をかけたくないというフランの性格まで加味した上で、わざわざ時間をかけて隅の隅まで捜索しながらこちらに向かってきているに違いない。一応はお互いに五〇〇年近く顔を突き合わせてきた仲だ。互いの性質については熟知している。
「もうすぐ来るよ? どうするの?」
「どうするって言われてもねぇ。今更隠れても無駄だし。あー、げんこつ嫌だなー」
もう少し早く姿をくらましていれば話は別だったかもしれないが……ちらりと隣に立つ少女を見やる。
こんな窓のそばに長く居座ってしまったのはこの妖怪と無駄に話し込んでしまったことが原因だ。別に他人のせいにするつもりなんてないけれど。
聞こえてくる足音からしてもう本当にすぐそこまでお姉さまが来てしまっているようだった。そろそろ廊下の角から姿が見えてきてもおかしくない。怒られる覚悟はしておく必要はありそうだ。
「うーん、そうだね……もしどうしようもないなら、あなた、私の手を取ってみない?」
すっ、と唐突に差し出された手に「はあ?」と疑問の声が漏れる。
「急になに?」
「いいからいいから。あなたの力を見せてくれたお礼だよ。今度は私のすごいとこ見せてあげる。むっふん」
「……よくわかんないけど」
言われた通りに自身の手を、左手を彼女のそれと重ねた。フランには、それでなにかが変わったようには特に思えなかったが――。
「ふらぁん! どこにいるのっ! 早く出てきなさい! 今ならまだ怒ってないわよ!」
「げっ」
廊下の角からレミリアが修羅のごとき様相で飛び出してきて、フランは顔をしかめた。
怒ってないとか口では言ってるが、どこをどう見ても怒りに震えている。鏡を見てから言え……と言いたいけれど、そもそも吸血鬼は鏡に姿が映らないからそれはツッコミとして成立しない。
思っていたよりもはるかにレミリアが怒りに満ち満ちていたものだから反射的に後ずさりしてしまう。しかし、それにより解けそうになった繋いでいる手を、彼女は強く握り直してきた。
もうすでにレミリアは数歩歩けばたどりつく程度のフランのすぐそばにいる。げんこつを脳天にくだされる未来が見える。現に、こうしてフランの方に歩み寄ってきて。
「フラン、いったいどこ! どこに行ったのよ! とっくに地下室にでも逃げてっちゃったのかしら……ああ、もうっ!」
「……あ、あれ?」
やってくるであろう痛みに覚悟してぎゅっと目を閉じていたのだが、予想に反してレミリアの怒声は過ぎ去っていってしまった。
振り返ると、フランが明らかにそばにいるのに、まるで姿が見当たらないという風に振る舞うレミリアの姿があった。
「お姉、さま?」
「あんまりしゃべらない方がいいよ? ばれちゃうかもしれないし。まぁばれないけど」
「どっちよ」
これはどうやら、手を繋いでいる少女のしわざだったらしい。「私のすごいとこ見せてあげる」とかなんとか言っていたが、これがそうなのだろうか。
なにがなんだかよくわからないが、今のレミリアには絶対に見つかりたくないので、とりあえず言う通り静かにじっとしていることにした。
しばらくするとレミリアは諦めたように息をつき、姿を消した。フランの自室たる地下室に向かったのか、一旦諦めてパーティーに戻ることにしたのか。どちらにしてもフランが怒られることになるのは後のことになったというわけだ。
叱られることは避けられない。ただ、時間が経てばいくぶんか怒りも収まっていることだろう。今の彼女に見つかるよりは数倍マシだ。
もう大丈夫かな、と言わんばかりに少女がフランの手を握る力を弱めた。しかし解けかけたその繋いだ手を、今度はフランが逃がさないようにと力を込める。
「ねぇ、お前。今のはなんなの?」
「うん? あー、えっとねぇ。私はね、無意識を操る力を持ってるの。それであなたを見つからないようにしてあげたのよ。どう? すごいでしょー」
「無意識? どういうこと?」
「円融無碍の無に悪意占有の意、旧相識の識で無意識よ?」
「読み方がわかんないんじゃないって。っていうかそれだと逆にわかりにくいってば」
「ほら、そこら辺に転がってる小石とかって、見えてても注意を向けたりなんてしないでしょ? それとおんなじよ。私は小石なの」
「あー?」
館の中でしか暮らしていないフランにとっては、そこら辺に小石が転がっていることなんてありえない。だから少しだけ想像しにくくかったが、少しなら彼女の言いたいことがどういうことなのかはわかった気がした。
「つまり、小石みたいに存在感が薄いってこと?」
「そうそう。でもね、小石じゃなくてこいしだよ?」
「はあ?」
「私の名前。古明地こいしって言うの」
「別にお前の名前なんて聞いてないんだけど」
「あなたのお名前はなんて言うのかなー?」
「人の話を聞きなさいって……ほんと、なんなのよお前は」
「お名前ー」
「……はぁ。フランドール・スカーレット。それが私の名前よ」
しかたなく名乗ってみせると、こいしは少し考え込むように宙空に視線を漂わせた後、ふむふむなるほどと意味もなく頷いた。
「フランドール、つまりはフランね。お人形さんみたいな名前だねぇ」
「
「何点くらいかな」
「八点」
「一〇点満点?」
「ニ〇〇点満点よ」
「むぅ、厳しいなぁ。そんなんじゃ生徒に懐いてもらえないよ?」
「赤点の生徒なんて我が校にはいらないわ。自主退校してどうぞ?」
「ここは私が一人で先に帰るからお前たちはこの場に残れー! ふっ、心配しなくてもだいじょーぶ。私がいなくてもお前たちならやれる、きっとやれる! そんなのぱっぱと片づけてあとから追いついてきてね!」
「逆じゃないのそれ」
外の世界の漫画や小説なんかでよくある展開だ。誰か一人が番人やら追っ手やらを食い止めて、他の仲間たちを先に行かせたり危険な場所から遠ざけたりする。しかし今のこいしの発言はいささか自分勝手すぎた。
こいしはとてとてとフランの目の前まで近寄ってくると、くるりと一回転してから、こてんっと首を傾げる。なぜ一回転したかは知らない。
「ねーねー、あなたってこのお館に住んでるの?」
「今更ね。当たり前でしょ。自分の家でもないとこんなぶらぶら一人で出歩いたりしてないっての」
「私は別に住んでないけど一人で探検とかしてたよ? はっ、ってことはつまり逆に考えればこのお館も私の家ってことじゃ!?」
バカなのかな?
「逆にしてもいいなら自宅の逆は他人の家、つまりお前はまごうことなき不法侵入者って証明が成り立つわけだけど?」
「不法もなにも
「それを言っちゃあねぇ。っていうか法なんてなくてもお前が侵入者って事実は覆らないってば。そしてこの私に見つかった……そうねぇ、そんな不届き者にはどんな罰を下してやろうかしら」
「えーっと、こういう時は、なんて言えばいいんだっけ? むむむー……あ、思い出した! 私に乱暴する気でしょ? なんとか同人みたいに! なんとか同人みたいにー!」
「思い出し切れてないじゃない。なんとかってなによ」
罰がどうだとか言ってみても、こいしのハイテンションが揺らぐことはない。元々、罰だなんて冗談のつもりでしかないけど。
「まぁ、それに、ないなら作っちゃえばいいしね」
「作る? なにを?」
「だから法ってやつをよ。ここは吸血鬼の館なのよ? ここの法はその吸血鬼たる私が自由に決めてもいいと思わない?」
そんなフランの発言に、こいしはなぜかぴたり、と動きを止めた。
なに? 急にどうしたの? もしかして本当に罰が怖くなった?
そんな風にからかおうとしたフランを遮って、こいしはきらきらと目を輝かせながら、ぎゅぅっ! とフランの手を両手で強く握りしめた。
「それいいね! すっごくいい! 気に入ったわ! 法を作るだなんて!」
「は?」
「じゃあじゃあ、この世界はすべて私たち二人のものってことにしよう! そういう法を一緒に作ろう! 私たちで世界を支配して、この幻想郷をお菓子とか夢とか恋とか石とかあとなんか希望とかその辺いろいろ詰め込んだ素晴らしい世界に変えてやるのだー!」
「はぁっ?」
フランの手を握ったまま、というか掴んだまま「えい、えい、おー!」と半ば無理矢理一緒に振り上げ出すこいし。
さすがのフランもこの突然の奇行には口が半開きになる。
なにこいつ、頭おかしいの?
情緒不安定で普段頭がおかしいとか思われまくっているフランにそう思われるだけで相当である。
「……えーっと。一応聞いておくけど、もちろん冗談で言ってるのよね」
「なに言ってんのよ! 本気も本気のマジと書いて超本気って読むくらい本気が本気の中で本気に超本気を超越した上でスーパー本気が逆立ち進化したウルトラデラックス超本気だよ!」
「とりあえずその本気の二文字がゲシュタルト崩壊する頭が悪そうな表現の仕方をやめない?」
「じゃあ略してウルデラ超本!」
「もっと頭が悪そうに……」
もう話について行けないとばかりに呆れた顔になっているフランをよそに、こいしはまだまだ一人で盛り上がっている。
やるぞー! 絶対やるぞー! やるったらやるんだからやるんだぞー! やるってことはやるということなのだよ!
そんな感じに意味不明なほどしつこくやる気の主張をしながら、こいしはあいかわらずフランと繋いだ手をぶんぶんと振り回し続けていた。
もしかして私、まだまだこれに絡まれ続けるの……?
なんだか若干辟易としてきて、フランは大きく肩を落とした。
……ほんの少しだけ口元に笑みが浮かんでしまったように感じたのは、きっと、気のせいだったことだろう。
・はぁ? なんだ? こいつ。
→遊戯王ARC-Vより。主人公が唐突に敬語で軽演劇を始め出した際の対戦相手のセリフ。
・挨拶は大事! 古事記にもそう書いてある!
→ニンジャスレイヤーより。アイサツは決しておろそかにできない。ニンジャの礼儀だ。古事記にもそう書かれている。
・私に乱暴する気でしょ? なんとか同人みたいに! なんとか同人みたいにー!
→機動戦士ガンダム00同人誌「私立トレミー学園 炎のKAINYU転校生 セカンドシーズン」よりらしい。やめて! 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!
・他オリジナル設定多数
→できる限り、覚えている限りの原作の情報をもとに作っていますがオリジナル設定も多々あります。ご注意ください。