慣れた手つきで尻ポケットから煙草の箱を取り出し、口にくわえ、吸いながら火を点ける。
深呼吸のように大きく息と共に煙を吸い、肺の中へ。ヤニで黒くなった肺は健康を害するはずの煙を心地よい陶酔感へと変えてくれた。一瞬の後、紫煙を吐き出す。中空に吐き出された煙は、霧散して景色に溶ける。
この一連の流れ、煙草を吸うことを覚えてから、一体何度繰り返したのだろうか。数えたこともないし知りたくもありませんけどね。
「かぁー、この一服こそ生きてる証っすわ」
けどまぁ、オレの救った命の数よか確実に多いんでしょうねえ。
……いかんね、どうも卑屈になっちゃっていけない。こんな立派な英雄様だらけの中にいちゃあ尚更だ。ロビンフッドなんて大層な名前こそ貰っちゃあいるが、実際オレなんてそこらで粋がってる十把一からげのチンピラとなんら変わりない。そりゃ身も縮こまるってもんですよ。
そもそもオレは、なんで煙草を吸い始めたんだっけ?
こんな身体に悪い、歯は茶色くなる、肺は黒くなる、可愛いおねーちゃんとキスする時に気遣うようになる。そんなデメリットしかないものをなんで吸おうと思ったんだっけ?
「まあとっくに死んでるんだけどね、俺たち」
「かはは、それなら健康に気遣う必要もなくていいっすわ」
そんな自虐ネタをへらへら笑いながら紫煙と共に吐き出すのは、ヘクトールだ。言わずとも知れたトロイアの英雄である。
「あーあ、ここにもキレイなおねーちゃんがタバコ吸いに来ないかなあ」
「あれ、ヘクトールの旦那はタバコ吸う女の子は許せるタイプ?」
「そんなの別に気にしないよ。俺も吸ってるからチューしても気にならないし」
「あっはっは、間違いねえっすわ」
「でもカルデアじゃあ吸う子いなさそうだねえ」
「似合いそうなのは何人かいるんですけどね」
「おっ、歴戦のナンパ師ロビンフッド君のお眼鏡に適ったのは誰?」
「モードレッドの嬢ちゃんとか、どう?」
「かぁー、似合うねぇ! 是非ともジタンかラッキーストライクを吸って欲しい!」
「銘柄のチョイスがまた渋いねぇ旦那。一度でいいからモードレッドの嬢ちゃんみたいな気の強そうな女の子とシガーキスしてみたいっすわー」
「いいねえ、浪漫だねえ」
喫煙所でいい歳した野郎二人が哄笑する様は中々に滑稽だった。
ちなみにシガーキスってのは火の点いている煙草の先っちょを、火が点いてない方にくっつけて火を点ける行為のことだ。煙草ってのは吸いながらじゃないと火が点かないから、煙草越しにキスをしているように見えることからこう呼ばれる。
男同士ならともかく、男女でやるとそこはかとなく退廃的な趣があって絵になる。相手がとんでもなく気の強い女なら尚更だ。
ただまあ、片方に火が点いてんのに二人とも火種を持ってないなんて状況、滅多にないんですがね。
「しかしあれだねぇ、こんな喫煙所なんてもんまで作っちゃって、現代では喫煙者も肩身が狭くなったもんだ」
「本当にねえ。なんでかね、孔明の旦那? おたく、中身はともかく器は現代人なんだろ?」
「ふむ、そうだな……少し長くなるがよろしいか」
とんとん、と紙巻煙草の灰を落とし、オレ達の会話にも無関心を決め込んでいた諸葛亮孔明ことウェイバー・ベルベットが読んでいた本を閉じる。
彼もよくここで見かけるが、いつもしかめ面で本を読みながらむっつりしているので会話はあまりない。
今回も世間話のつもりで話を振ったのだが、興が乗ったのか腕を組み、手のひらを上に向け右手の指先で輪を作ってみせる。
「結論から言ってしまえば、嫌煙は金になるからだ」
「金ェ? 煙草を嫌うのが金になるのかい?」
「ガンガン売った方が金になるんじゃないの?」
「そも現代の嫌煙、禁煙の発端は行き過ぎた健康ブームが主だが、煙草税が国家予算の一部を担っているのも確固たる事実。ならば国は税金を上げつつも喫煙を推奨するべきなのだが、世論がそれを許さない」
「まぁ、お上が正面切って身体に悪いモンを勧める訳にも行かないわな」
「そこに目をつけたのが製薬会社だ」
「製薬会社?」
「ああ。現代の製薬会社は法によって、昔からある薬で利益を上げる事が難しくなっている。製薬会社は認可されていない新しい薬を作り売ることが最も利益に繋がるんだ。そこで嫌煙というブームを自ら作り出し、『煙草を止める為の薬』を作ったのさ」
これも眉唾ものだがね、と新しい煙草に火を点け、孔明は続ける。
「つまり、この風潮は時代の流れでも何でもなく、単純に金儲けの為の世論操作ってことかい」
「その通りだ。彼らにとっては自分の意思で喫煙を止められない人間が金になる。健康第一を看板に掲げる事で企業のイメージアップにも繋がる上、嫌煙ブームによって禁煙を試みる人数が増えれば尚好し、と一石二鳥どころか三鳥なのさ」
「何ともまあ、世知辛いねえ」
「煙草くらい好きに吸わせて欲しいもんだ」
「全く、喫煙愛好家にとっては迷惑もいい所だよ。現代で煙草は百害あって一利なしの悪の権化のように語られるが、間違いなく煙草自体は悪ではない。人類史上最悪の発明とさえ言われる核兵器ですら、使う者の意思が反映され初めて悪になり得る。正しい運用をすれば世界平和も夢ではないのだがね。そう言う訳で、煙草に悪と呼べるものがあるとしたら、マナーの悪い喫煙者だろうな」
珍しく、その年季の入った仏頂面を僅かに緩ませて孔明は紫煙を吐く。
「…………」
「…………」
「……なんだ、その顔は」
その言葉は、オレとヘクトールに対して発せられたものだ。
まあ、大の男ふたりに豆鉄砲食らったみたいな顔を向けられちゃあ、そうなりますわな。
「あんた、いっつもしかめっ面で黙って本読んでるのに、割とよく喋るんだな」
「はっはっは、休憩中くらい眉間にシワ寄せるのやめたら?」
「…………失礼する」
孔明は恥ずかしかったのか、点けたばかりの火をもみ消すと咳払いをひとつしてそそくさと喫煙所から出て行ってしまった。ちとからかいすぎましたかね。
さっきも言ったように、現代に限らず、いつだって喫煙者は肩身が狭い。喫煙者同士でちょっと饒舌になっちまう孔明の気持ちもまぁ、わかる。
「それじゃあ俺も失礼するよ」
「うィース。またカードでもして遊びましょうや」
「おう」
言って、ひらひらと手を振りながらヘクトールも去って行く。ただでさえ人の少ない喫煙所に残るのはオレ一人だ。
いくらヒマとは言え、ずっと何もしないってのも性に合わない。オレもこれを吸ったら世界を救うお勤めに戻りましょうかね。
「……ふぅ」
最後のひと吸いを、名残惜しく堪能しながら吐き出す。
ああ、思い出した。オレが煙草を吸い始めた理由。
「あ……」
「ん?」
「あー、また煙草なんて吸ってる」
煙草をもみ消してさぁ出よう、と思ったところに現れたのは、我がマスターと……後ろに隠れてるのは、最近召喚されたパッションリップだ。アルターエゴって特殊クラスのサーヴァント。
まあ、可愛い顔に似合わないごつい両腕と胸を持ってる彼女だ。実際は全然隠れられてないんですがね。
「いいじゃないですか。口寂しい野郎の休憩中の唯一の楽しみなんですから」
そのリップは喫煙所から出てくるオレに怯えた子犬みたいな視線を浴びせてくる。今までは持ち前の軽薄さで気付かないフリこそしているが、リップにはカルデアでの初見の時から、避けられてるようだった。
オレとリップはカルデアに来る前から面識があるせいで、心当たりは腐るほどあるんですがね。リップはどうか知らないが、オレから進んでそのことについて触れるつもりはない。
「それとも可憐なマスターの唇がオレの口を塞いでくれるんですかい?」
なんて軽口を叩きながらマスターの元へ。リップも反応して一歩下がる。
やだねえ、理由が理由とは言え、女の子に避けられるってのはいい気持ちはしないねえ。
「そうだねー、タバコやめたら考えてあげよっかな?」
「その言葉に嘘はないなマスター? ……って言いたいところだけど、残念ながら煙草はやめられそうにありませんねえ」
「大体、なんでそんな煙たいもの吸ってんの?」
「ん?」
「タバコなんて百害あって一利くらいしかないじゃない」
煙草が害しかないと言わないあたり、さすがはマスターだ。
煙草を吸い続ける理由、ね。
「カッコつけてんですよ。仕事の後の一服とかワイルドで様になってるでしょ?」
「ふうん?」
何か言いたそうに首を傾げるマスター。まあ、本音や核心は滅多に外に出さないのが天邪鬼なオレのやり方だ。マスターもその辺りはわかってくれているでしょ。
それに、こんなオレの辛気臭い話なんて聞いて面白いもんじゃねえですしね。
「あんまり吸いすぎるとサーヴァントでも身体に毒だよ。はい、これあげる」
「んん? なんだこれ」
マスターがポケットから取り出したのは、ケースに入った十本ほどの紙巻き煙草。マスターが煙草を吸うところなんて見たことないけれど、ひょっとして吸うのか、なんて考えるのも束の間、
「なんだ、チョコレートじゃないの」
確かシガレットチョコとか呼ばれてる駄菓子だ。
「なんでこんなもの……配給ですかい?」
「食堂でタバコの話してたらエミヤがなんか大慌てで作ってくれたんだよ。今度タバコを吸いたくなったらこれ吸ったら?」
何やってんだあの弓兵……多分マスターが煙草を吸わないように、と代替品を与えたつもりなんだろうけど……あの野郎、ちとマスターに対して過保護が過ぎるんじゃないですかね。
「まあいいや、あいつが作ったってのはちと癪だけど、折角のマスターからの贈り物だ。喜んで頂いておきますよ」
言って、一本咥えてみせる。口にした途端につんと香る、チョコレートとミントっぽい鼻をつく匂い。
「…………」
「あっはっは、似合う似合う」
分かっていたことではあったが、様にはならなかった。いい大人が駄菓子を咥えても滑稽なだけだ。
ところでどうやって食うんだ、これ。吸っても中のチョコは出てこない。まさか紙を剥いで中身を取り出すのだろうか。
「それよりさ、リップ」
恥ずかしさを払拭するためにも話の舵を切る。
二人きりじゃあちと億劫だが、マスターもいるしいい機会だ。ちょっとだけリップに踏み込んでみましょうかね。
「は、はい?」
「避けてるでしょ、オレのこと」
「え、えええ!?」
「そうなの?」
なんでわかったんですか、とでも言い出しそうな表情で驚くリップ。いや、本当に気付かれてないと思ってたら生粋の天然モノですがね……いや、あり得るな、リップの場合。
「いやまあ、人様に嫌われんのは今に始まったことじゃないんでいいんですけどね……どうも、昔のことを引きずったままってのは消化不良っつーか、気持ち悪くてね」
オレのやって来た事なんてのは、あの気障な弓兵と一緒で、一括りにしちまえばただの人殺しだ。そこに正義なんてもんがあったとしても、事実が変わる筈もない。それが原因で死後もこうやってロビンフッドなんて名前で喚ばれちゃあいますが、オレがやって来た事を顧みれば、石を投げられ唾を吐きかけられても仕方ない。
「どうなのリップ?」
「え、えと……」
臆面もなくリップを問い質すマスター。流石はマスター、二人きりじゃあこうは行かない。
気遣いと驕慢は紙一重だ。マスターはその辺りをわかっているのかどうかは知らないが、絶妙なラインでどんなサーヴァントとも接するあたり、カルデアのマスターと言うべきですかね。
「は、はい……そう、です……」
「なんで? ロビンになんか変なことされた?」
「してませんよ。むしろされたのはこっちだっつーの」
「あの……ロビンさんが悪いんじゃないんです……わ、私が悪いんですけど、苦手というか……」
「?」
「その、SE.RA.PHに召喚されたロビンさんと……ちょっと……」
「何かあったの?」
と、リップから聞き出すのは難しいと判断したのか、矛先をこっちに向けるマスター。
まあ、今更隠すようなことでもない。
「いやなに、SE.RA.PHでBBの手下だったオレに、リップのお守りを申し付けられましてね」
「…………」
「ところがそこでこの子と来たら、仕事はサボるわ、オレの
「あー……なんか、その光景が目に浮かぶよ」
「ち、違うんです! SE.RA.PHでの私は悪い子で……ロビンさんはそれを叱ってくれたって言うか……!」
「いいよ、オレはもう気にしちゃいねえし。そこにオレなんかが召喚されたのがお前さんの運の尽きだ。たとえロビンフッドでも、オレじゃないロビンフッドならまだ――」
「ちがいます!」
「っ!?」
と、何の脈絡もなく迫るリップに思わず一歩退く。これじゃあさっきと立場が逆だ。
「わ、私、本当は、ロビンさんに一言お礼を言いたくて……その、SE.RA.PHでは私を叱ってくれる人なんて、い、いなかったから……!」
聞けばリップたちアルターエゴは、複数のサーヴァントの霊格を持つハイサーヴァントとか言うものらしい。その中でリップは三人の女神を核に形成されたとか。つまりは単純計算でも破格の英霊三人分の霊格。
オレみたいなそんじょそこらの英霊では歯すら立たないサーヴァントだ。SE.RA.PHの仕組みは未だに詳しくは知らないが、あそこでもリップやメルトはかなりの猛威を奮っていた。
加えてあの頃、アルターエゴである彼女たちは産まれたばかりの赤子に近かった。この世に力を持った子供ほどタチの悪いものはない。
そんな善悪の区別も定かじゃない彼女たちを叱れるのは創造主であるBBくらいのもんだが……生憎、あの性根がフワフワした嬢ちゃんにそんな甲斐性がある筈もない。やりたい放題やらせといて、散々愚痴った後に尻拭いはオレみたいなのにさせるのがBBのやり方だ。ああ、思い出したくねえ。
「私はあの時、いいことも悪いこともわからなくて……ロビンさんは悪いことをした私に、悪い子にはこれが一番効くんだって、お尻を叩いてくれて……」
「いやいや、実際は叩いてませんからね? そこんとこ大事よ?」
「私にとってのロビンフッドさんは、あなただけなんです……!」
「…………」
誰かにとってのロビンフッド。
リップの言葉が脳内で反芻される。
さっきも言った通り、ロビンフッドなんてのはただの言葉だ。オレもただ、ロビンフッドっぽいからそう呼ばれるようになったってだけで、本物なんているかどうかすら定かじゃない。
だが逆を言えば、ロビンフッドなんて誰でもいい。誰だってロビンフッドになれる。重要な箇所があるとすれば、何をもってロビンフッドとなるか、だ。
ふと、口内に甘い香りが広がるのを感じる。口の熱で溶けたチョコレートが、流れて口に入って来たらしい。本来はこうやって食うものなのだろうか。
ああ、リップに向ける筈だった軽口も、つまんない見栄も、全部チョコと一緒に飲み込んじまった。
甘ったるくて、喉が渇く。
ああ、煙草が吸いてえ。
「そうかいそうかい……じゃあリップ、お前さんがオレのリトル・ジョンになってくれるってのかい?」
「へっ?」
「冗談はさておき、まあなんだ……悪かったよ。お前さんがあの時より精神的にも成長してるってのは、この間の事でよく理解したつもりだ。お前さんはお前さんなりに頑張って来たんだろ」
「ロビンさん……」
「偉かったな、リップ。せめてお前さんが頑張ってる内は、オレもお前さんのロビンフッドでいられるよう、頑張りますよ」
なんて、ガラにもなく頭を撫でてやる。
本当にこいつはその反則級の身体に反して、中身は子供そのものだ。
子供相手に愚痴ったり皮肉を言ったって何にもなりゃしない。まだ狂化EXクラスの女バーサーカーを口説いてる方が益になるってもんですよ。
「ちょいと失礼するぜ」
言って、お二人さんと距離を取り喫煙所の中へ入ると、もう数え切れないほど繰り返して慣れた動作で煙草に火を点ける。最初の一口を深呼吸のように深く吸うと、いつもより多めの紫煙を吐き出す。
「あー! 言ったそばからタバコ吸って!」
「チョコは貰ったけど、禁煙するなんて一言も言ってないでしょ」
オレが煙草を吸い始めた理由。
それはストレス解消やカッコつけもあった。なす術もなく死んで行った奴らの痛みを、百万分の一でもこの身体に刻まなきゃ気が済まない、ってのもあった。
吸うことで自分はアウトローだって思い込む、自分に対する自己催眠の側面もあった。悪ぶって、自分は人を傷付けていい人間なんだって何処かにありもしない救いを求めてたこともあった。
けど本当の理由は。
どこまで行っても中途半端な自分の在り方とか、死にそうなってまで戦う理由とか。
どうにもならねえ理不尽とか、いつの時代になっても尽きない不義不当に対する歯痒さとか。
全部飲み込む事なんて、根が弱っちいオレには土台無理な話なんだ。だから嫌なもんは全部一度胸に溜め込んで、誰も知らない内に煙に巻いて吐き出す為。
何もかもしょい込める程、強かないんですよオレは。
と、マスターが何を思ったのか、喫煙所の中に入って来て顔を寄せてくる。思わず煙草を持つ手を頭上高くへ。
「……ありがとね」
「はい?」
リップに聞かれたくないのか、小声で礼を言ってくるマスター。
「リップのこと、気遣ってくれたんでしょ? あの子、色々と繊細だから」
「――――」
「ああもう、タバコ臭いなぁ」
マスターと、いつか何処かでローマ皇帝様と戦った時の誰かさんの顔が並んで頭に浮かぶ。
外見は普通のくせに、中身はとんでもなくて、真面目で、どこか危うくて。
「…………」
「えっ、ちょっと、なに?」
「あんたも、あんまり無理しなさんなよ」
煙草を持つ逆の手で、少々乱暴にマスターと頭をぐりぐりと撫でる。
どこの世界にも、こういう奴はいるもんだ。ほっとけないっつーか、危なかしいっつーか。
そういう奴は大バカか大人物のどっちかだ。マスターがどちらなのか、なんてのはオレにはどうでもいいですけどね。オレはオレが主と定めたお人についていくだけだ。
「そんじゃま、今日も元気にお役目を果たすとしましょうかね」
煙草の火を消し、カラ元気に近い声を上げる。
こんな事言うのはガラじゃねえんですがね。
オレがロビンフッドであることを求めてくれる奴が一人でもいるなら、オレはどこまでもロビンフッドでいられる気がする。
それが可愛い女の子なら尚更ってもんですよ。
「ねえロビン、やっぱりタバコやめようよ。健康に悪いよ? ロビンの好きな女の子もタバコ嫌いな子の方が多いよー?」
「……そんな言い分ではいそうですか、って釣られると思われてんですかね、オレ。そうだとしたら問題なんですが」
「そ、そうですよ……ロビンさんが死んだら私、悲しいです……今なら多分」
「多分かよ……そうだねぇ」
多分オレは、この先も煙草はやめられない。
それは煙草に対する依存もあるけれど。
何よりオレは、マスターみたいに強い人間じゃあない。煙ごと飲み込んで、何事もなかったかのようにやっていける程のタフネスは、いつか失くしちまった。それはサーヴァントとなったって変わりゃしない。
マスターが何と言おうと、オレぁ煙草はやめませんよ。
「世界が平和になったら、禁煙しましょうかね」
「本当に?」
実際のとこ自信はないけど、この先どうなるかなんて誰にもわかりはしない。
オレがロビンフッドになったように。
オレが禁煙する未来だって、どっかに転がってるかも知れませんしね。
「はいはい、約束しますよ」
今はそういうことにしときましょうや。