【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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初恋はミステリー

 

 

 

 

〉園田海未です。

〉おはようございます。

〉昨日は手術、お疲れさまでした。

〉お加減はいかがでしょうか。

〉落ち着かれたら、ご連絡ください。

〉お見舞いにお伺いしたいと思います。

〉女子のサッカーは残念でしたね。

〉微力ながら、精一杯応援させて頂いたのですが…。

〉それと、つばささんの怪我は大丈夫でしょうか?

〉とても心配です。

〉それでは、また。

 

 

 

「手紙か!」

 

オレは絵文字もスタンプもない…良く言えば「飾り気のない」…別の言い方をすれば「味も素っ気もない」彼女からのLINEメッセージを見て、思わずそうツッコんだ。

 

「真面目か!」

 

 

 

…真面目なんだろうな…

 

 

 

オレは勝手に…彼女が書道でもするが如く、床にスマホを置き正座しながら入力している姿…を想像して笑った。

 

ブラジル戦の結果、手術中に見た悪夢、そしてネットの反応…気が滅入ることばかりだったので、彼女からのLINEは嬉しかった。

 

ヤツが見たら

「バカじゃない?ニヤニヤしちゃって…社交辞令でしょ?」

と言われるだろう。

 

そんなことはわかってる。

 

 

 

わかってるけど…

 

 

 

なんとなく、女子と初めて付き合った頃を思い出した。

 

 

 

中1の時か…。

 

小学生の時もモテてはいたけど、当然、個人的に付き合う、付き合わないなんてことはあり得なかった。

 

けど、進学したとたん、突然交際を申し込まれて…「前から好きでした」なんてね。

 

可愛い子だったし、そりゃあ、舞い上がったよ。

 

恥ずかしいくらいにね。

 

まぁ、結局、性格が合わなくて、サヨナラしちゃったんだけど…

 

そういえば、彼女、今、どこでなにしてるんだろうな…。

 

あのまま付き合ってたら、オレの人生はどう変わってたのかな…。

 

 

 

…みたいなことを考えているうちに、当時のドキドキした感覚が甦ってきて…今の気持ちとリンクした。

 

 

 

…考えてみれば、ここ数年、チョモ以外の女子にLINEなんていたことないからな…

 

 

 

オレもスケベを自認しながら、口だけ番長で、こう見えて意外と一途なのである。

 

 

 

「えっと…『おはようございます。高野です』『お気遣い頂き、ありがとうございます』『手術は無事終わりました』『なにもなければ、2~3日後にリハビリを始められそうです』…と。それで…『女子は力負けでしたね。まだあと2試合残ってるので、引き続き応援お願いします』『つばさは心配ですが…怪我には強いので大丈夫でしょう』『では、また』…ふぅ…できた」

 

LINEのメッセージで、こんなに丁寧な文章を打ったことないからな…緊張するわ。

 

代表の広報の小野さんに添削してほしいくらいだ。

 

しかし、そうも言ってられないので、勇気を出して送信する。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ふと頭の中に過(よぎ)った。

 

 

 

…オレ、チョモのこと…本当に心配しなくていいのか?…

 

 

 

心配してないわけじゃない。

 

あの痛がり方は、相当なものだ。

 

 

…だけど…

 

 

 

今はオレの事で余計な心配は掛けたくない、サッカーに集中してほしい…と、敢えて連絡を絶ってきたのだが、今、この状況下にあって、本当にそれでいいのか?

 

手術は無事終わったと伝えて、安心させてあげるべきなのでは?

 

敗戦のショックを慰めて、または叱咤激励すべきでは?

 

そして何より、怪我の心配をしてあげるべきなのではないのか?

 

 

 

オレはヤツが意思の強い人間だと思ってる。

 

泣いてる顔を見たことがない。

 

でも、それは…

 

泣いていないのではなく『見せない』だけだ。

 

知っている…オレはそれを知っている。

 

だけど、オレの役割として、本当にそれでいいのだろうか?

 

少なくともオレは彼氏であるならば、ヤツが普通に弱味を見せられるような存在でなきゃいけないんじゃないか?

 

 

…オレは薄情な男なんじゃないかな…

 

…いかん、いかん、園田さんのLINEに受かれてる場合じゃない…

 

 

 

オレは自分を戒めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海未ちゃん、それはやっぱり『恋』じゃないかな?」

とことり。

 

「『Carp』ですか?確かに、今年も広島は調子良さそうですが…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「にこと凛がいないと、誰もツッコまないのね…」

 

真姫はそう呟くと、絵里とことりが苦笑いしながら同意した。

 

穂乃果だけが「?」という顔をしている。

 

 

 

ここは、穂乃果の部屋。

 

真姫が『提案した計画』の打ち合わせに、希、にこ、凛、花陽以外のメンバーが集まった。

 

 

 

あの一件以来、引き籠り状態だった海未は、久々の外出である。

 

高野と直接話ができたことで吹っ切れたらしく、顔色も表情もいつもの海未に戻っている。

 

その海未が、あまりに饒舌に『高野の人柄』について語るので、そこにいる誰もが「ひょっとして…」と感じていた。

 

そこで穂乃果が、芸能リポーターのように根掘り葉掘り訊くと、彼女は「高野さんの事を思うと、なんだか切なくなりました」だの「声を聴いたら、心が晴れやかになりました」だのと言い出したので「これはやはり!」となったワケだ。

 

 

 

「海未、ボケてる場合じゃないわよ。やっぱりそれは、ことりが言うように恋したんだと思うわ」

 

「真姫、今なんと?」

 

「いい加減、現実を見なさいよ」

 

「私が高野さんに恋をしていると?」

 

「ズルいよ、海未ちゃん!穂乃果を差し置いて!」

 

「穂乃果は黙っててよ、話がややこしくなるじゃない!」

 

「うぅ…」

 

「きっと『吊り橋効果』ってヤツだと思うけど」

 

「真姫ちゃん、吊り橋効果って?」

 

「そうねぇ、穂乃果にもわかるように説明すると…心理学的なことなんだけど…吊り橋の上のような不安や恐怖を強く感じる場所で出会った人に対して、恋愛感情を抱きやすくなる現象のことをいうの。そういう状況下で普段と同じことをしても、何倍も格好よく見えたりして」

 

「あぁ、なるほど。聴いたことあるかも」

 

「パニック映画とかアクション映画でもよく観るわね。ピンチに陥った主人公とヒロインの2人が、危機を乗り越えていくうちに、だんだん恋愛関係になっていく…っていう…」

 

「うん、うん、あるよねぇ!たぶんそうなるだろうな…って思ってても、やっぱり2人が結ばれるとキュン!ってしちゃうよねぇ」

 

「わかるわ」

 

「絵里もことりも、案外ベタなのが好きなのね…」

 

「確か…昔、スノハレの曲を作る時も、DVD観て号泣してたよね?」

 

穂乃果は「そういえば…」と手をポン!とひとつ叩いてから言った。

 

「あの時は花陽ちゃんもいたんだよね!」

 

ことりは絵里の顔を見ながら言うと、彼女は「そうだったわね…」と懐かしそうに答えた。

 

「穂乃果は寝てましたよね?」

 

「そう言う海未ちゃんは、座布団頭から被って『破廉恥です!』って、ずっと怒ってたじゃん」

 

「破廉恥なものは破廉恥なのです!」

 

「どこがさ?」

 

「観てもいないアナタに言われたくありません!」

 

また、いつものが始まった…と顔を見合わせる絵里と真姫と、ことり。

 

それでも、やっと海未が海未らしくなってきた…という感じでもあり、表情は穏やかだった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

 

「まったく、毎回毎回飽きないわね…」

 

「すみません…。穂乃果のせいで、話が逸れました。えぇ…と…そうでした。高野さんのことですね?私が高野さんに恋をしているのではないかと…」

 

穂乃果は「自分のせい」…と言われ膨れるが、ことりに「まぁまぁ」…と制せられる。

 

「ありません!私が高野さんに恋心を抱くなどありえません。確かに高野さんは素敵です。吊り橋効果などなくても、十分格好いいです。ですが、高野さんには夢野つばささんがいます。私など…出る幕などありません!」

 

 

 

「でも好きなんでしょ?」

 

 

 

「はい!」

 

いとも簡単に、真姫の誘導尋問に引っ掛かる海未。

 

一堂、目が点になる。

 

 

 

「…」

 

 

 

「あ、いえ、違います!そ、その男性としてどうのでなく、ひとりの人間として尊敬できると言いますか…」

 

「まぁ、海未ちゃんは恋愛経験がないからねぇ…。それが恋かどうかなんてわからないんだよ」

 

「穂乃果に言われたくはありません!!」

 

「まぁまぁ…。でも、海未がそこまで惚れ込んでいる人なら、一度会ってみたいわね」

 

「真姫!ですから『惚れている』というのは語弊があります」

 

「私も会ってみたいなぁ…海未ちゃんの初恋の人」

 

「ですから初恋の人ではありません!それに高野さんは手術したばかりですし、穂乃果のような騒がしい人を連れていくわけには参りません」

 

「だったら、落ち着いてからならいいのかな?」

 

「そうね。オリンピック終わってからなら…」

 

「ことりと絵里は絶対ダメです!」

 

「えっ?」

 

「どうして?」

 

「…あ…いえ…なんでもありません…」

 

「?」

 

 

 

…確かつばささんの話では、高野さんは胸が大きい人が好みだと言っていました…

 

…であるなら…絵里とことりを会わすのは危険です…

 

…そんなことしたら、私など見向きもされなくなってしまいます…

 

 

 

…希と花陽も会わせないようにしましょう…

 

 

 

「海未ちゃん…どうかした?」

 

「!」

 

「大丈夫よ。ちょっとからかってみただけだから」

 

「そうそう。海未が珍しく男の人のことを語るから…ちょっとね」

 

「…絵里も真姫も酷いです…」

 

 

 

…でも、ちょっと心配だわ…

 

…おかしな方向にいかなきゃいいけど…

 

…海未ちゃん、意外と「こう!」と思ったら周りが見えなくなっちゃうんだよね…

 

 

 

絵里、真姫、ことりは海未を見て、そう思った。

 

 

 

 

 

「ところで、肝心の計画の話だけど…」

 

ひとしきり穂むらの饅頭でお茶をしたあと『発起人』である真姫が切り出した。

 

 

 

「往復の飛行機と、観戦チケットは希がなんとかしてくれるみたいで、目処は立ったわ」

 

「ひゅ~!!さすが希ちゃん!持つべきものはツアー会社に勤めてる友だねぇ!」

 

「でも、さすがにホテルはどこもいっぱいで…諦めざるを得ないかも…」

 

「ひょっとして野宿?ガーン…」

 

古風なリアクションで、大袈裟に倒れる穂乃果。

 

「だけど、パパの知り合いが、近くにコンドミニアムを持ってて…そこを使っていい…って言ってくれたの」

 

「ハラショー…」

 

「さすが西木野財閥!持つべきものは…」

 

「や、やめてよ!」

 

抱きつく穂乃果を真姫が振り払う。

 

「それじゃあ、みんなでお泊まりできるんだね?」

 

ことりが目を輝かせて彼女を見る。

 

「ま、まあね…だけど全員は無理かもしれないわ…」

 

「そうね…私たち学生は夏休みだから融通が利くけど…」

と絵里。

 

「今日はここにはいないけど、凛もたぶん大丈夫…って言ってたわ。希とにこちゃんは…調整中みたい」

 

「花陽は…やっぱり難しいのかしら?」

 

絵里が寂しそうな顔をすると、みんな同じ表情になった。

 

「仕方ありません。いえ、むしろ仕事が忙しいのはいいことです。あの花陽が異国の地で、しかもひとりで頑張っているのです。感慨深いというか、私たちの仲間として、実に誇らしいではありませんか!」

 

「おぉ!久々に海未ちゃんが、海未ちゃんらしいことを言った!」

 

「茶化さないでください!」

 

「そうね。それは海未の言う通りだわ。ただ、あの娘は手を抜くとか、楽をするとか知らないから…。あまり頑張りすぎて身体壊さなきゃいいけど」

 

「私も絵里と同意見」

 

「でも、それはお互いさまでしょ?絵里ちゃんも、真姫ちゃんも…そして海未ちゃんも」

 

「ふふふ…ことりもですよ」

 

「えへっ」

 

「えっと…みなさん…誰かひとり、お忘れでは?」

 

 

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

 

 

「ほらほら…『穂』の付く人が抜けてますよ?」

 

 

 

「!」

 

 

 

「もうおわかりですね?せ~の!」

 

 

 

「『雪穂ちゃん』!」

 

4人が声を合わせて答えた。

 

 

 

 

「ガーン」

 

崩れ落ちる穂乃果…。

 

 

 

あはははは…

 

 

 

何週間ぶりかに、穂乃果の部屋に明るい笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「呼びました?」

 

ドアを開けて顔を出す、穂乃果の妹。

 

 

 

「ごめんなさい。呼んだだけ…」

 

 

 

 

 

~つづく~

 







女子バレー。
ぶるん、ぶるんのサオリンがいないよぅ…。

セッターだったら、まだ出来たんじゃないかな?

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