【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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恋に落ちちゃうわけではないからね…

 

 

 

 

 

「…園田です…」

 

海未はすっかり暗くなった部屋の中、直立不動でスマホを耳に当てている。

 

高野のショートメールを受信してから、1時間以上が経過していた。

 

 

 

「あ、高野です!…良かったぁ、連絡もらえて…」

 

 

 

…なんて優しい声なのでしょう…

 

 

 

海未は、その言葉を聴いただけで、目頭が熱くなった。

 

高野の声に『心からホッとしている』という、温もりが伝わってきたからだった。

 

「あ、あの…その…」

 

だが、意を決して電話をしてみたものの、海未の言葉は続かない。

 

 

 

逆に、先手を打ったのは高野だった。

 

「色々、辛い思いをさせちゃって…だから、まずは一言謝りたくて」

 

「えっ?」

 

「チョモ…じやない…夢野つばさの分も含めて、謝らさせて頂く。本当に申し訳ない」

 

「そ、そんな…。謝罪しなければならないのは私の方で…。私が余計なことを話さなければ…」

 

「その件は気にしないでほしいんだ。その…『ふたりのこと』については、まぁ、ウソではないし…遅かれ早かれバレただろうから、それはそれで仕方ない…って」

 

ウソではない…という言葉が、海未の胸に突き刺さる。

 

「それよりも、園田さんにあらぬ疑惑が掛かっちゃって」

 

「いえ、私のことは…」

 

「なに言ってるの!そっちの方が大事だよ!!」

 

「あっ…」

 

「あ、ごめん。ちょっと、声が大きくなっちゃった…」

 

「い、いえ…」

 

「オレは園田さんの仲間の事、よくわからないんだけどさ…そっちの方は大丈夫?」

 

「は、はい…それは…。はい、全然問題ありません。あそこに書かれている記事は事実ではありませんし、メンバーとの関係も極めて良好です。今も私を心配するLINEメッセージか止まらないくらいで…」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

「無理してない?」

 

「えっ?安心してください、本当です」

 

「うん、オレも園田さんはそういう人じゃないって思ってるから、ハナから信じちゃいないけど」

 

「はい」

 

「そっか…少しだけ安心したよ。これが原因で、園田さんたちの友情にヒビでも入ったら、どうしようかと…。と、なると…厄介なのは、こっちの話か…」

 

「私なら平気です」

 

「平気なわけないでしょ!オレがこれだけのこと書かれたら、引き籠っちゃうよ」

 

海未もつい今しがたまで、その状態だった。

 

「あのね、園田さん。オレがこんなことを言うのは、どう考えてもおかしいんだけど…オリンピックが終わるまでの…あと1ヶ月間だけ…なんとか耐えてほしいんだ」

 

「耐えるもなにも…」

 

「男子も女子も…オリンピックの結果がどうなろうとも、オレたちは会見を開かなきゃいけない…恐らく、そういう流れになると思う。だから、その時にまとめてクリアにしたいんだ。甚だ勝手な話だと思うけど」

 

「いえ、わかります」

 

海未も、今がどれだけ大事な時期か…を理解していないほど、馬鹿じゃない。

 

「実はオレ、明後日手術を受けるんだ。ヤツには知らせてないけどね」

 

「えっ?」

 

「順調にいけば、1ヶ月後には寝たきりの生活から解放されるんじゃないかと思ってる」

 

「そんなに早く?」

 

「そう。だから…すなわちそれは、オレの『復帰会見』でもある」

 

復帰のハズがない。

 

せいぜい『退院会見』くらいだろう。

 

復帰までは1年以上かかる。

 

だが、海未はそこまで詳しい事情を知らない。

 

素直に

「復帰のですか…」

と、言葉を返した。

 

「お腹の筋肉じゃないよ!…それは腹筋!」

 

 

 

「…」

 

 

 

「…みたいなギャグは嫌いかな…」

 

「すみません、あまりに唐突だったものですから…」

 

「…だよね。オレもそう思う…」

 

「ぷふっ!」

 

「ん?どうかした?」

 

「高野さんはおかしいです」

 

「ギャグが…じゃなくて、オレが?」

 

「はい。ご自身が一番厳しい状況のハズなのに、深刻さがまったくありません!」

 

「え~と…それは怒られてるのかな?」

 

「違います!むしろ、その逆です。とても気持ちの強い人だと感心しているのです」

 

「そうなの?ふっ…基本、能天気だから。深く考えてないだけだよ」

 

「そんなことはありません!この間もそうでしたが、自分より私ばかりを気遣ってくださり…。この電話も」

 

「あ、これも『考えなし』にしちゃって…ちょっと後悔してたんだ」

 

「どういうことでしょう?」

 

「なんて声を掛ければいいんだろう…って。こっちに原因があるのに、頑張ってとは言えないでしょ、だから…」

 

「いえ…その、お心遣いが、とても嬉しかったです。私は自分の置かれている立場から逃げようとしてました。ですが、頂いた電話で気付かされたのです。一番辛いのは高野さんだということを忘れておりました」

 

「ウソでも『嬉しかった』なんて言ってもらえるのはありがたいなぁ」

 

「本当です!」

 

「じゃあ、そういうことにしておこう」

 

「はい」

 

「今から、ちょっとだけ真面目な話をするけど、そのまま聴いてもらえるかな」

 

「はい」

 

 

 

「今、園田さんは完全にアウェーのピッチの上に立たされてるけど、オレが必ずホームにしてみせるから!」

 

 

 

「!」

 

 

 

…高野さん…

 

…今、私の胸にラブアローが突き刺さりました…

 

…その言葉…格好良すぎです…

 

 

 

「過ぎちゃったこと、起きちゃったことは変えられない…それはもう、受け入れるしかない。だけど未来は違う。決まってないんだ。そりゃあ、選んだ道や方法が正しいかどうかなんて、誰にもわからないし…自分の意思だけではどうにもならない事だって山ほどある。でもさ『何かをしようと思わなかったら、何もできない』って、オレはそう考えてるんだ。『意思あるところに道あり。道あるところに光あり』ってね」

 

 

 

…何かをしようと思わなければ、何もできない…ですか…

 

…確かにそうですね…

 

…あの時もそうでした…

 

…廃校を阻止する為、穂乃果がスクールアイドルを始めようなどと言い出さなければ…

 

 

 

「どこかの芸能人がさ…『努力は必ず報われる』みたいなこと言ってたけど、あれ、ウソだと思うんだ」

 

「えっ?」

 

「報われないよ…どんなに努力したって。だってさぁ、どんな世界だってトップに立てるのは、ほんの一握りしかいないんだから」

 

「えぇ、それはそうですが…」

 

「でもね、オレの好きな言葉に『努力した者がすべて報われるとは限らん。しかし成功した者は皆、すべからく努力しておる』っていうのがあって…とある漫画の台詞なんだけど」

 

「…含蓄のある言葉です…」

 

「好きなんだけどね…これもウソだと思ってるんだ。成功する人の要素の8~9割は才能が占めるでしょ…どう考えても」

 

「…そうなのでしょうか…」

 

「どんなに頑張っても、持って生まれた遺伝子は変えられないから」

 

 

 

…このお話はどこに向かっていくのでしょう…

 

 

 

「身体能力とかさ。特にスポーツやってれば、絶対感じることだと思うんだ。でもね、それじゃ、悲しすぎるじゃん。世界に通用しないってわかってて戦うなんて虚しすぎるじゃん。だから、立ち向かう為の努力が必要なのさ。頭と技を使ってね」

 

「はい」

 

「それ以外でも同じで…何もしない人に『いい流れ』なんてくるハズがない」

 

「だから、高野さんは常に前向きなのですね!」

 

 

 

…為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の為さぬなりけり…

 

…上杉鷹山ですね…

 

 

 

「『シュートは打たなきゃ入らない』『反省はしても後悔はしない』それがオレの信条なんだ」

 

「なるほど…」

 

「…で、何を言おうとしたんだっけ?あぁ、そうだ。だから、その…園田さんがこの逆境をどう乗り越えるか…努力とはちょっと違うけど…決して下を向かないでほしいな…って」

 

「はい、そうですね…。私たちの歌にもあります。『壁は壊せるものさ 倒せるものさ 自分からもっと力を出してよ…勇気で未来を見せて』と」

 

「うん、いい歌詞だ…って、ごめん。スゲー偉そうに語っちゃったよ。でも園田さんなら理解してくれるんじゃないかと」

 

「はい。電話して良かったです」

 

「あぁ、そうだ。チョモ…じゃない、夢野つばさが帰国したら、一緒に病室に来ればいい。そうすれば、変な誤解も解けるだろうし…一石二鳥じゃないかな?」

 

「ご迷惑でなければ」

 

「迷惑だなんて、全然…。あ、困ったことあればいつでも連絡して…ヒマしてるからさ。解決はできないかもしれないけど、話くらいなら聴けるし」

 

「ありがとうございます」

 

「盗撮でもされない限り、LINEくらいなら大丈夫でしょ」

 

「そうですね」

 

「じゃあ、そろそろ…あんまり遅くなっても悪いから」

 

「いえ、こちらこそ…」

 

「おやすみ」

 

「あ、待ってください!!」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「ス、スキです!!」

 

 

 

 

 

「…えっ!?…」

 

 

 

「あ、いえ、間違いました!!…ステキです!!…その…あの…高野さんの考え方が…」

 

 

 

「あぁ、そっち…」

 

「えっ?」

 

「いや、別に…あぁ、あれは別に理想論みたいなもので」

 

「す、すみません、今日はありがとうございました!おやすみなさい!」

 

海未は早口言葉の様にまくし立てた。

 

 

 

「…切れた…」

 

高野はスマホの画面を見つめる。

 

 

 

…ビックリしたぁ…

 

…告白されたのかと思ったよ…

 

 

 

そう呟きながら、受話器を置くアイコンをタップした。

 

 

 

 

 

一方の海未は…顔を真っ赤にして、その場にへたりこんだ。

 

確認することはできないが、全身が紅潮しているハズである。

 

 

 

…ビックリしました…

 

…私は何を口走ってしまったのでしょう…

 

 

 

…思わず本音が出てしまいました…

 

 

 

…まだまだ修行が足りませぬ…

 

…すこし頭を冷やした方が良さそうですね…

 

 

 

海未はゆっくりと立ち上がると、そのまま浴室に向かい、頭からシャワーで冷水を浴びた…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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