【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
海未がこの会に参加していることについて、簡単に萌絵とかのんが説明した。
「色々、驚いたわ。つさばさんと『その人』が、そういう関係にあったこととか…その事故に巻き込まれたのが『本当に』園田さんだったこととか…シルフィードとμ'sのこととか…」
「まったくだ」
ツバサの言葉に、英玲奈が相槌を打つ。
「サプライズだらけね」
あんじゅも、ゆっくり脚を組み替えながら同意した。
『事故』については、大々的に報じられた為、サッカーに興味がない人でも知っている。
当然A-RISEも承知していた。
それと同時にネットで目にした『元μ's 園田海未』の名前。
一時は『重症である』とか『死亡した』とかの情報が流れ、3人にも動揺が走った。
しかし、すぐにそれは『ガセ』だとわかり、胸を撫で下ろしたのだった。
だから今『本当に』現場に居合わせ、そういうことになっていた…という事実を聴かされて、彼女たちは少なからず衝撃を受けているのである。
「じゃあ、ネットの情報もあながち嘘ではなかった?…」
「そこに居た…ということ以外は、全部嘘ですが…。実は、私も一緒に病院に運ばれており…その方が高野さんであったことや…私の名前が出ていることは、あとから知ったのです」
「当事者よりも、部外者の方が情報が早いなんてね…」
綾乃は顔を顰(しか)めた。
「余計なことをする者がいるものだな。…今は、園田さんの名前だけでなく、μ'sのメンバー全員、名前が…」
「英玲奈!」
「あっ!…」
その発言を嗜(たしな)めたのは、あんじゅだった。
「す、すまん…」
「いえ…。μ'sのメンバーに迷惑を掛けてしまっているのは、申し訳なく思っております」
「何を言ってるのよ。それとこれとは話が別でしょ?まずは無事で何よりだったじゃない」
「ですが、ツバサさん。その代わりに高野さんが…」
海未はチラリと綾乃を見た。
「本当になんと申し上げたらよいのやら…」
「…って、思い詰めちゃうと、精神衛生上良くないんじゃないかなぁ…ってことで、実は今日の壮行会は『高野さんの彼女』である『綾乃さん』が誘ったんですよ」
萌絵が綾乃に顔を向けた。
「えっ?綾乃さんが?萌絵さんからお声掛けを頂いたじゃないですか…」
「そうなんですけどね…発案者は綾乃さんなんです」
「そうだったのですか!」
「まあ…梨里はああいう性格だから、病室で暗い顔してても仕方ないしね。それに、ほら…私が誘っても、逆に海未さんが気を遣うでしょ?だから、萌絵に…」
「でも、私たちが会ってみたかった…っていうのは本当なんですよ!」
「ありがとうございます…」
…綾乃さん、芝居は下手だなんて言ってましたけど…
…すっかり、騙されましたわ…
…それにしても…
海未は自分より辛い立場であろう綾乃の思いやりに、心底感心した。
「そういうことだったの?これで園田さんがいる理由はよくわかったわ」
「意外と世の中は狭いんだな」
「まさか、そんなところで、繋がりがあるとはね」
「はい、私もそう思います」
「それで、園田さんは大丈夫なの?色々大変だと思うけど…」
「高野さんが、とても優しい方で…とても救われております」
「それは海未さんが美人だからよ!」
「えっ?綾乃さん?」
「そうじゃなかったら、あんなに優しくしないし…そもそも助けなかったかも」
「そんな…」
「アイツ、スケベだし」
「高野さんは、そんな人じゃありません!!」
「…えっ?」
その場にいる誰もが耳を疑うような、海未の大きな声。
「高野さんのご両親を見ればわかります!とても慈愛に満ちた、素敵な方でした。息子さんのことを大変信頼されてらっしゃいますし…そして、ご本人もこれだけのことにも関わらず、愚痴も文句も言わず、逆に私のことを気遣ってくださり…いくらなんでも、うわべだけでできることではありません。人の容姿で命の重さを判断するようなことなど、ありえません!あそこにいたのが誰であっても、絶対にそうしていたハズです!!」
「そ、そうね…」
海未の剣幕に、綾乃はそう答えざるん得なかった。
…海未さん、それは買いかぶりすぎよ…
…相手が男だったら、絶対助けてないから…
…と、いいそうになったところを、綾乃はグッと堪えた。
「なんだか、園田さんの方が彼女みたいね?」
ツバサが海未の主張を聴いて、ツッコミを入れた。
「はっ!…すみません、綾乃さん!知ったような口を…」
「別にいいわよ。海未さんがそう思ってくれているなら」
「はい、もちろんです!」
「それなのに、まったく関係ない人たちが、まったく関係ないことで盛り上がってるのは、非常に腹正しい!」
そう憤ったのは英玲奈だ。
「それは…『μ's』vs 『A-RISE』のことですね?」
かのんの言葉に、彼女たちは大きく頷いた。
事故が発生してから、まだ1週間と絶っていない。
そんな中、ネットの世界では、ある意味、高野梨里が想像した通りの展開となっていた。
だが、それくらいは高野でなくとも、ある程度予想がつく。
しかし今、現在の状況は…
その想定の、はるか斜め上を行っている。
それこそが、かのんが言った「『μ's』vs『A-RISE』」なのである。
オリンピックの希望の星が、突然の事故により、意識不明の重体…。
この衝撃的なニュースに、誰もが驚き悲しみにくれた。
海外からも同情の声が集まった。
それは今でも変わらない。
集計した訳ではないが、世間の8割~9割は、彼を非難することはしないだろう。
どう考えても被害者なのだから。
ところが…だ。
どこの世界にも『そうは思わない人間』が少なからずいる。
仮にそのカテゴリーに属する者たちを『アンチ』と呼ぶとしよう。
彼ら…あるいは、彼女らは、この悲劇の主人公に対して、実に汚い言葉で罵った。
それは高野梨里の活躍によって、贔屓の選手の出番が奪われた『サポーター』によるものなのだろうか。
それとも彼に対する、個人的な恨みを持つ者なのか。
もしくは、成功者が一転、絶望の淵へと追いやられたことに『悦び』を感じる思考の持ち主なのか。
自分が『名誉毀損や威力業務妨害で訴えられる』ことを、考えることもできない『幼稚な悪ふざけ』なのか…。
そこには、見るに堪えない『誹謗・中傷・罵詈雑言』の言葉が並ぶ。
『火の無いところに煙は立たぬ』というが『根も葉もない噂』が、平然と書き込まれていた。
その被害者の筆頭…とばっちりを受けたのが…
園田海未だった。
~つづく~