【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「園田さん…」
「はい…」
「…あなたを突き飛ばしたことは、間違ってなかった…と思ってます。…自分だけ逃げていて、あなたが亡くなるようなことになっていたら…僕は一生後悔するだろうから」
「…感謝致します…」
「唯一の誤算は…僕がしくじったことですかね!もう少し上手くいくハズだったんですけど…スタントマンのようにはいきませんでした」
「いえ、あの瞬間、高野さんは…自らジャンプして直撃を避けてらっしゃいました」
「へぇ…」
「そうでなければ、そのまま車に挟まれていたかと…」
「そうですか…イケてました?」
「はい、素敵でした!」
…サッカー以外でそんな言葉をもらったことがない…
…この状況下で言われたら…勘違いするだろ…
…やっぱり、チョモがいてくれて、よかった…
「その上で…ですが…」
「はい…」
「僕が『一般人じゃなかった』ことで、あなたに迷惑が掛かってしまうことを悔いてます…」
「どういうことでしょうか?…」
「あなたが、僕のファンに『攻撃』されないか…ってことです…」
「!」
「その表情を見ると…既に実害あり…って感じですね?」
「い、いえ、そんなことはありません!」
「園田さん、嘘はいけないですよ。そんなこと、ちょっとネットを見ればわかることですから」
「ですが…本当にたいしたことでは…」
彼女は強く否定した。
「チョモ…」
「なぁに?」
「正直に答えろ」
「ん?」
「今回の事故について、どういう風に報道されてる?概要を教えてくれ…」
「…わかったわ…」
チョモはそう返事をすると、スマホで検索して、記事を読み上げた。
《サッカー選手でオリンピック代表の高野 梨里選手が、車にはねられ、意識不明の重体です》
《○月×日、午後9時頃、都内の交差点で、16歳の少年が運転していた乗用車が、信号を無視して侵入し、右から来た大型のトラックと衝突。はずみで歩道に乗り上げ、植え込みにぶつかって止まりました》
《この事故で乗用車の助手席にいた、同じく16歳の少女が頭や胸を強く打つなどして死亡。運転していた少年は、足の骨を折るなどしましたが、命に別状はないとのことです。トラックの運転手に怪我はありませんでした》
《車が歩道に乗り上げた際、信号待ちをしていた男性1人を巻き込んだもようで、意識不明の重体です。男性は男子サッカー オリンピック代表の高野 梨里さん(20)であるとのことですが、現在、警察が身元の確認を急いでおります》
《目撃者の話では、高野さんとみられる男性は、同じく信号待ちをしていた女性をかばって、はねられたとのことで…》
「サンキュー…わかった。それが第一報の記事?」
「うん…」
それを受けて
「さっきも言いいましたけど…あれ以降、警察から聴いた以外の情報は遮断してたので…」
とオレは彼女に向かって説明した。
「チョモ、もうひとつ教えてくれ…今の記事には、園田さんの名前は出てこないけど…その後、発表があった?」
「…私も全部、把握してるわけじゃないけど…たぶんオフィシャルにはなかったと思う…。だけど…」
「どこからか名前が漏れた…」
「…うん…」
「誰がリークしたか知らないけど、まったく余計なことをしてくれるね…」
…あくまでも、オレの私見だか…
…この国は『加害者』より『被害者の人権』の方が軽く扱われている気がする…
「僕は警察から、あなたの名前を聴きました。もちろん僕にはその権利はあると思うし、当然のことだと思ってます。ですが、かすり傷で済んだあなたの名前が、表に出ること…それはまったく違うと思ってます」
「そうね…私もそう思うわ」
「つばささん?」
「私も『こっちの世界』にいる人間だから、そういうことは実感としてあるの。苦しめられたこともあったし」
…チョモのこれまでは、決して順風満帆ではない…
…彼女も様々な苦境を乗り越えてきている…
…オレが知ってるだけでも、誹謗・中傷の類いは数多くあった…
「想像するに…きっと、僕も最初は被害者として同情されていたに違いない。だけど日が経つにつれて『なぜ避けられなかったのか』『そもそも、そんな時間に出歩いているのが悪い』などと、言われてるんじゃないかと…」
「そんなこと…理不尽です!!」
「理不尽よね」
チョモが相槌を打つ。
「さらに『あなたを助けたのが原因だ』となると、そのとばっちりが、あなたに向かいます」
「…」
「恐らく『そこにいた女が悪い』…という意見が出てくる…いや、もう出ているのでありませんか…」
「…私は…大丈夫です!」
彼女はひと呼吸置いて、そう答えた。
「園田さん…」
「ご心配頂き、ありがとうございます。ですが、私は大丈夫です」
「あなたは、今は『普通の女子大生』だと聴いてます。僕たちとは立場が違う。僕からは、極力そっちに被害が及ばないように努力しますので…」
「はい…いや、いいえ…そんなご迷惑は…」
「忘れちゃいけないのは、あたなに『落ち度はなにもない!』ということです」
「はい…」
「どうか、気持ちを強く持ってください…」
「あ、ありがとうこざいます…」
「何かあったら、私を頼ってね」
「つばささん?」
「この人よりは頼りになると思うわよ」
「はい…ありがとうございます…。あっ…あの…お渡しするタイミングを失ってしまったのですが…」
「?」
「私の友人が和菓子屋を営んでおりまして…」
「あ、それはわざわざ、ご丁寧に…。りさと、お菓子を頂いたわよ」
チョモが紙袋を上に掲げて、オレに見せた。
「まだ高野さんは、召し上がるのは難しいかも知れませんので、まずは皆様で…」
「『穂むら』のお饅頭ね」
「ご存知なのですか!?」
「μ'sのリーダーのご実家でしょ?」
「はい」
「チョモ…なにげに詳しいな…」
「キミが疎すぎるのよ」
「それはそうだが…」
「私はまだ、音楽業界に片足突っ込んでるし…、リアルタイムで注目してたから」
「こ、光栄です…」
「こっちの世界に戻ってくるなら、それも相談に乗るわよ」
「はい…。では、あまり長居しても、お身体に障るかと存じますので、本日はこれにて失礼させて頂きます…」
「あぁ…わざわざありがとう」
「いえ、こちらこそ…。また、様子をみてお伺い致します…。では…」
チョモによると、彼女は何度も何度も頭を下げて、病室をあとにしていったという…。
~つづく~