【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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幸せな最期って

 

 

 

 

 

つばさと沙紀を車に乗せると、中村は一路、高野が運ばれたとされる病院へと向かった。

 

車内はノリの良い音楽が流れていたが

「さすがにそういう感じではないな…」

と、すぐに消す。

 

後部座席の2人は押し黙ったままで、空気が重い。

 

セットしたカーナビの、行き先を案内する声が時おり聴こえるだけで、それがまた静けさを際立たせた。

 

 

 

車が走り出してすぐに、沙紀はつばさが小刻みに震えていることに気が付いた。

 

「寒い?」

 

つばさは首を横に振る。

 

しかし、震えは止まらない。

 

それを見て、沙紀はつばさの右手を引き寄せ、太股の上に置き、そこに自分の手を重ねた。

 

少しでも落ち着かせようとする配慮だった。

 

 

 

 

 

3年ほど前にも一度、つばさがおかしくなったことがある。

 

生気を失っていた…とも言うべきか。

 

とにかく覇気がない。

 

細い身体が、一段と痩せて見えた。

 

 

 

見かねた羽山と沙紀が問い質(ただ)すと

「中学生の頃の友人が自殺した…」

と告白した。

 

 

 

亡くなる前日、練習中のつばさを訪ねてきて、会話をしたにも関わらず、翌日、遺体で発見された…とのこと。

 

遺書はなかったが、現場の状況からして、他殺ではないと断定された。

 

 

 

沙紀も、その友人が来たことは知っていた。

 

自分と同じくらいの背丈で、なんとなく似てるな…などと思っていた。

 

その人が…自殺…。

 

まったく面識のない沙紀でさえ、ショックを受けるのだ。

 

ましてや、それが友人となれば…。

 

つばさの気持ちも理解できる。

 

 

 

 

 

彼女は何の為に、わざわざ、つばさを訪ねてきたのか?

 

 

 

つばさ自身は

「自殺を止めてもらいにきたに違いない」

と言う。

 

そして、それができなかったことを、激しく悔いていた。

 

チームメイトの前では、何事もないように振る舞っていたが、明らかに様子が変だった。

 

そして、問い詰めた結果、そういう話だった…という訳だ。

 

 

 

 

 

自殺を止めてもらいたかった…。

 

果たして、本当にそうだったのだろうか…。

 

 

 

 

 

真相は、闇の中だ。

 

今となっては誰にもわからない。

 

 

 

ただひとつ、言えることは…

 

彼女が亡くなる前の『最後の話し相手』が、つばさであったこと。

 

これは間違いない。

 

 

 

長らく顔を会わせることがなかった彼女が選んだ、最後の相手。

 

 

 

「きっと、止めてほしいとかほしくないとか…そんなことじゃなくて、ちゃんと挨拶がしたかったのよ…。光栄なことじゃない、あなたは選ばれた人間なのよ」

羽山がつばさを諭す。

 

 

 

「光栄?選ばれた人間?」

 

 

 

「いい?自ら命を絶つ…ってことには賛成できないけど…その娘は達成感があったんじゃないかしら」

 

「達成感?」

 

「一日に、何人の人が亡くなるかわからないけど、どれだけの人が会いたい人に会えて、この世を去ることができるしら…」

 

 

 

「…」

 

 

 

つばさの父…藤 綾乃の父も、朝、普通に職場に出掛けた。

 

まったく、いつもと変わりなく。

 

 

 

しかし…

 

 

 

病院に駆けつけた時には、既に霊安室の中で…顔には白い布が掛けられていた。

 

 

 

父は、妻や娘に別れを言うことなく、この世から去った。

 

 

 

「だから…つばさの友達は、それができただけでも、良かったんじゃないかな…」

 

「幸せだった…とでも?」

 

「そうは言ってないわ。でも、少なくてもあなたは『そうでも理由付けをしない限り』納得しないでしょ?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「だって、その娘があなたに『どうしてほしかったか?』なんて、もう、一生わからないんだし…。それとも、あの世に追いかけて行って、訊いてくる?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「まぁ、そういうこと。よく聴くフレーズかもしれないけど、あなたがクヨクヨしてても、死んだ人は生き返らないんだから。あなたはあなたで精一杯生きなさい!」

 

 

 

羽山の言葉には説得力があった。

 

自身も、一時は引退を考えるほどの大怪我を負ったが、必死にリハビリして、ピッチに戻ってきた経験を持つ。

 

だから、つばさには、この『精一杯生きなさい』は、かなり響いた。

 

「あなたは、あなたの為に生きるのよ。決してバカなことは考えないで。あなたが活躍することで、勇気付けられる人がいることを忘れないで!」

 

 

 

…勇気付けられる人がいる…

 

…そうだ…

 

…無謀な挑戦だとわかってて、飛び込んだ世界…

 

…まだ、なにも成し遂げていないんだ…

 

…まだ、なにも…

 

 

 

これを機に、少し前を向き始めたつばさ。

 

『浅倉さくら』らのフォローもあって、何とか立ち直ったのだった。

 

 

 

 

 

…あの時のつばさも、相当ダメージが大きかったけど…

 

…もし、今回、同じようなことになれば…

 

 

 

…サッカーどころじゃないわね…

 

…下手すると、あとを追うことすらあり得るかも…

 

 

 

沙紀は思わず重ねていたつばさの手を、ギュッと強く握ってしまった。

 

 

 

…バカ!何を考えてるのよ!…

 

…勝手に人を殺すな!…

 

 

 

ダメだ、ダメだと首を振る、沙紀。

 

 

 

…それより、つばさと彼の関係…

 

…メチャクチャ気になるんだけど…

 

…『大切な人』って?…

 

 

 

…訊きたいけど、今はムリね…

 

 

 

誰ひとり喋らない中村の車は、渋滞にはまることもなく、東名、首都高を抜け、高野が収容されている病院へとたどりついた。

 

 

 

 

 

~つづく~


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