【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
今話は、事前に以下を読んで頂けると、内容がスムーズに理解頂けるとかと思います。
もちろん、読まなくても、大丈夫です。
興味がある方はどうぞ…。
※「1」
#82486
Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~
第19話 ともだち(真姫編)
~心の乱れ~
※「2」
#82486
Can't stop lovin'you! ~花陽ちゃんへの愛が止まらない~
第34話 ともだち(真姫編)
~ファン第一号~
※「3」
#80532
さざんがみゅ~
第一話
さざんがみゅ~
事故があった『あの日』…
『園田海未』は、大学の弓道部…の飲み会に参加していた…。
多くの同級生が、大学入学と同時に(新歓コンパと称される飲み会で)アルコールデビューするなか、頑なに20歳になるまで、それを拒んできた。
海未の誕生日は3月の終わり。
つまり、公の席でアルコールを口にしたのは、この春…大学3年生になってから…だった。
もっとも…20歳の誕生日を迎えた瞬間『飲酒解禁!』とばかりに、半ば無理矢理『悪友たち』から、呑まされていた…のではあるが。
海未は元々、炭酸飲料が苦手だ。
シュワッと鼻に抜ける感覚、時間差で込み上げてくるゲップ…。
どうも性に合わない。
穂乃果にビールを勧められた時も、激しく抵抗したのだが
「ビールはまったく別だから…」
と説得されて、口にした。
結果、見事に騙された。
「穂乃果の言うことは、金輪際、一切信用しません!」
もう、何年も繰り返されている、2人のやり取り。
それを、集まった元μ'sのメンバーは微笑ましく見ていた。
海未の誕生会。
この時、集まったのは穂乃果のほか、にこ、希、真姫、凛の5名。
メンバーは9人いるが、誕生月は被っていない。
その為、誕生会は、ほぼ毎月開催できる。
全員揃うことは滅多にないが、基本的に本人含めて過半数の参加があれば、OKらしい。
とはいえ、まだ未成年者がいる為、居酒屋などには行くわけにはいかない。
穂乃果の部屋に集まって、わいわい騒ぐのが、お決まりのパターンである。
「ビールがダメやったら、こっちの方が合うんやない?」
『外の世界』では、標準語で会話する希だが、このメンバーの前では『エセ関西弁』を操る。
逆に希が標準語を喋ると「気持ち悪い」とか言われるので、敢えてそうしているのだ。
希は買い物袋をガサゴソと漁ると、日本酒のワンカップを取り出した。
「渋っ!」
それを見たにこが、大袈裟に驚く。
「でも、確かに海未ちゃんのイメージだと、こっちかにゃ?」
凛もメンバーの前では、猫語が出てしまう。
「そうね、ワインとかカクテルのイメージではないわね」
「未成年のあなたがたには、言われたくないです」
海未は眉間にシワを寄せ、険しい顔をした。
「あら、私はあと半月もすれば誕生日だから、今呑んでも、そんなに変わらないと思うけど」
「真姫ちゃん、ズルいにゃ!そうしたら凛も呑みたいにゃ!」
「こらこら、それはダメやって!その後なにかあったら、穂乃果ちゃんのお父さん、お母さんに迷惑かけるやん」
「じょ、冗談よ」
「そう、そう、もうちょっと我慢しなさいよ!」
「…と、一滴も呑めないにこちゃんが言ってますけど…」
「うるさいわねぇ、穂乃果は黙ってなさいよ!」
「海未ちゃんが呑まないのなら、穂乃果がもらうね?」
そう言って穂乃果は、海未が残した缶ビールを手に取ると、グビグビと一気に呑み干した。
「ぷはーっ!」
「ありゃ、穂乃果ちゃん、フライングはいかんよ。まずは海未ちゃんやん」
「あ、ごめん、ごめん。つい…」
「いいです、私は無理に呑まなくても」
「まぁ、まぁ…。海未ちゃんも社会に出れば、そういう席も増えるんやし、アルコールが合うかどうかは調べておく必要があるんやない?」
「でもさ、希ちゃん…いきなり日本酒はキツいんじゃない?まずは3%くらいのカクテルからにした方が…」
「私も穂乃果の意見に賛成。日本人はアルコールの分解能力が、西洋人に比べて低いから、半数がお酒に弱いって言われてるし」
「なんで未成年のアンタがそんなこと知ってるのよ」
「医者の娘として常識よ、常識」
「真姫ちゃん、物知りにゃ!」
「ジャーン!期間限定、プレミアムピーチカクテルを買ってきたんだ!」
穂乃果が缶を見せる。
「桃…ですか?」
「まぁ、これならジュースみたいなもんだから…とりあえず、一口だけ味見してみてよ」
「本当に大丈夫でしょうね?」
さっき『金輪際、信用しない』と宣言したばかりなのだが、もうそれを忘れたのだろうか。
「騙されたと思って、ね?」
「はぁ、では…」
コクッ…
「なるほど、ジュースですね!」
「でしょ?」
「はい、これなら呑めそうです」
「ジュースなら凛も呑みたいにゃ!」
「だからダメやって!」
「うぅ…」
「はい!そう思って、にこちゃんと、凛ちゃんと、真姫ちゃんにはノンアルコールのカクテルを買ってきたよ!」
「穂乃果ちゃん、やるにゃ~!」
「それっていいの?」
心配そうに真姫が訊く。
「一応、ノンアルやったら、法的には問題ないハズやけど…未成年の飲酒への興味を導くから、道徳的にはどうか…って感じやったかも」
「まぁ、まぁ、細かいことは気にしない!じゃあ、みんな開けて?では…海未ちゃん、20歳の誕生日、おめでとう!カンパ~イ!!」
「カンパ~イ」
グビッ…グビッ…グビッ…
「あ、海未ちゃん、そんな一気に呑んだらダメやって…」
「ふぅ…美味しかったです!」
「一気しちゃった…」
海未のいきなりの呑みっぷりに、穂乃果たちは、唖然とした。
「ひょっとして、海未ちゃん、イケるクチなんやろか?」
希がそう呟いた瞬間、海未の顔が、ほんのり赤みが差してきた。
「なんだか、すごく、暑くなってきましたね…」
海未は着ていたブラウスのボタンをひとつ外して、手でパタパタと扇ぎ始める。
「おぉ、海未ちゃん…なんか色っぽい」
「ほんまやね…」
「そうですか?…」
「海未はすぐ顔に出るタイプなのね」
と、にこ。
「ふ~ん、3%といえども、侮れないのね」
海未が空にした缶の表示を、まじまじと見つめる真姫。
「うふふ、身体は正直やからね」
「なんか、アンタが言うと、すごく卑猥に聞こえるんだけど…」
「にこっち、考えすぎやって」
希はニヤッと笑う。
「希ちゃんは、強いよね!なに呑んでも酔わないし」
「ん?ウチ?そうやろか?」
「顔にも出ないし」
「少しは出た方がいいんやけど」
「希ちゃんは、酔っぱらったりしないにゃ?」
「あは!結構、酔うよ」
「へぇ、そうなるとどうなるの?」
「アタシも、アンタが酔ったとこなんか見たことないんだけど」
真姫とにこが、希に問い掛ける。
すると希は両の腕を前に突き出し、掌をパッと開くと、おもむろに指を折り曲げた。
「メッチャ『ワシワシ』したくなる!」
「のわっ!」
「ヴェ~~…」
にこと真姫は、スウェーバックして、その危機から脱した。
「…って言うか、アンタはいつも、発情期じゃない!酔う、酔わない、関係ないでしょ!」
にこが怒鳴る。
「違うんよ、酔うと『メッチャ』したくなるんやって!」
「『メッチャ』なんだ」
穂乃果が笑う。
「誰か久々に試してみるん?かなりバージョンアップしとるんよ!」
「何よ!バージョンアップって!?」
「せやから…試してみ…」
「するか!この色情魔が!」
「ほんなら…真姫ちゃん」
「ヴェッ!?なんで私?」
「発展途上やった5年前から、どれくらい成長したか、確認する必要があるやん!」
そう、真姫は高校入学間もない頃、まったく面識がなかったにも関わらず、背後からいきなり「攻撃(ワシワシ)」されて『発展途上やけど、大きくなる可能性はあるかな』と言われた『屈辱的な過去』がある(※前書き「2」参照)。
「よ、よく、覚えてるわね…」
普通、やられた方は覚えていても、やった方は忘れているものだ。
…やっぱり、この人はいまだに理解不能だわ…
真姫に、かつて抱いた希への印象が、ふつふつと沸き上がってきた(※前書き「2」参照)。
「さぁ、覚悟しぃやぁ!」
希の両腕がストリートファイターのダルシムが如く、ヌッと真姫へと伸びる。
「いい加減に…」
と真姫が怒鳴ろうとした瞬間だった。
「ブフッ!」
と誰かの…堪えていた笑いが漏れた。
「!?」
「うふふふ…8点途上ですか…ふふふふ」
「海未?」
「海未ちゃん?」
「希は面白いことを言いますね」
「海未ちゃん?」
「…ということは、にこや凛の胸は、8点でなく、0点ですね…なんて…ふふふふふ…」
「あ、海未ちゃん、面白いやん!」
「こらこら!なによ、0点って!アンタだってこっちの一員じゃないの!」
「そうにゃ、そうにゃ!凛をにこちゃんと一緒にしないでほしいにゃ!ちょっとは大きくなったんだから」
「凛、アンタねぇ!ミリ単位の話で自慢するんじゃないわよ」
「ぷっ!ミリ単位ですって」
海未がとても楽しそうに笑う。
「なるほど、今日は『フラット5(※前書き「3」参照)が揃い踏みやね」
「ふふふ…そうですね…希とにこ…同じ生き物とは思えませんもね…それにしても、にこの胸はどこに消えたのですか?…二個どころか、一個もないですよ…なんて…」
「海未ちゃん?」
5人は、ここにきて、ようやく彼女の異常に気が付いた。
「あなた、酔ってる?」
真姫が海未に訊く。
「酔ってる?…ですって。真姫は面白いことをいいますね」
「どこがよ…」
「ふふふ…酔ってるかどうかはわかりませんが…ふふふ…いい気持ちですよ…ふふふ…」
…ありゃりゃ…
5人は顔を見合わせた。
…やっぱり、海未も変わってるかも…
真姫はひとり思った(※前書き「1」参照)。
「まぁ、最初やし…気持ちよくなってるんなら、いいんやない?」
「そ、そうね…酒癖が悪いよりはよっぽどね…」
にこが同意する。
「海未ちゃん、大丈夫?…って寝てるにゃ!!」
海未は座ったまま、気持ち良さそうに、眠りに落ちていた。
「しばらく、このままにしておいてあげよっか?」
穂乃果は、海未の寝起きの悪さを知っている。
「そ、そやね」
穂乃果だけでない、みんな知っている。
「でも…海未の誕生会で、本人が寝てる…ってどうなのよ?」
「真姫の言う通りだわ」
「いいやん、いいやん。それはそれ」
「今の内に、海未ちゃんの顔に落書きするにゃ!」
「ちょっと、凛ちゃん!それはちょっと…楽しそうやん!!」
凛と希に悪魔が乗り移った…。
海未が目覚めた時には、にこと真姫、凛はいなかった。
…すっかり、寝てしまいました…
…ですが、非常にスッキリした気分です…
…適度な飲酒は緊張を和らげ、リラックス効果をもたらすと聴きますが…
…なるほど、こういうことですか…
穂乃果と希はグッスリと眠り込んでいた。
見ると結構な数の空き缶が、並んでいる。
…察するに…
…3人が帰ったあとでも、相当呑みましたね?…
…まぁ、今日はこのままにしておきましょう…
…では、私は失礼します…
そして海未は、物音ひとつ立てずに、部屋を出て、自宅へと戻っていった…。
ぎゃあ~~~!!
深夜の園田家に、海未の悲鳴が響き渡った。
家に帰った海未が、化粧を落とそうと鏡に向かった瞬間…
凛と希が仕掛けた『メッセージ』に気が付いた。
両の頬には『祝』『二十歳』とマジックで書き込まれていた。
そして鼻の下には、お決まりのちょびヒゲ…。
…希と凛…ですね…
…次会った時には、命はないと思ってくださいよ…
海未は鏡の前で、ニコッと微笑んだ…。
負けず嫌いな海未は、その日から、少しずつアルコールを口にするようになった。
にこは、体質的に身体に合わないようだが、海未はそこまでではないようだ。
初めての時は要領がわからず、一気に呑んで、いきなり酔ってしまったが、毎日、少量ずつ慣らしていけば、大丈夫。
根拠はなかったが
「何事も日々の積み重ねです」
と海未らしい理屈に基づくものだった。
こうして、6月を迎える頃には、チューハイなら2杯くらいはイケるようになっていた。
そして、あの日…
昼間、大学の弓道部では、新人戦が行われた。
その打ち上げ。
今まで、呑めないことを理由に出席を拒んできた海未だが、3年生になり年齢的な言い訳は通用しなくなった。
同時に…穂乃果たち以外の人間とも付き合う必要性を感じていた。
いつまでも『彼女たちだけ』に依存していると、いつか社会に取り残される。
そんな漠然とした不安。
海未ほど『我が道を行く』タイプの人間であっても、二十歳を過ぎれば、多少のことは考えるようになる。
これから社会に出る以上、周りとコミュニケーションを図ることも大事だと思うようになる。
だから、初めて参加した。
なるほど、こういう席にくると、色々なことが見えてくる。
笑い上戸、泣き上戸、怒り上戸…下戸でも盛り上げ上手もいるし、やたら気の回る者もいる。
まさに十人十色。
呑み過ぎて人に迷惑を掛けるのは、どうかと思うが『飲み会』というものに少しだけ偏見をもっていたことに、反省した。
海未はカンパイの時こそ、ビールを口にしたものの…いや、舐めたものの…あとはサワーをもらい、そのあとはウーロン茶で過ごした。
昔の体育会系ほど、一気だなんだ…とうるさくなく、それで十分許してもらえた。
そして、お開きの時間を迎える。
そのまま、カラオケに行く連中もいたが、海未はここで帰ることにした。
…酒は呑んでも呑まれるな…です…
慣れないことをして、酔いが回り、粗相するようなことはしたくなかった。
「では、今日はこれで…」
大丈夫?送ろうか?と何人か声を掛けられたが、丁重に断り、駅へと歩き始めた。
…大丈夫です…
…足取りはしっかりしてますし、頭も冷静です…
そう思っていた。
しかし…
海未も、衝突した車がこっちに向かってくるのはわかっていた。
普段なら、何事もなく身を躱(かわ)したに違いない。
だが、動かなかった…。
動けなかった…。
それをアルコールのせいにする訳ではないが…
どっちにどう動けばいいのか、わからなかった。
一瞬の判断力が鈍った。
その分だけ、反応が遅れた。
「よけろっ!!」
隣にいた男性に突き飛ばされた。
そして、その人は…
車に跳ねられ…宙を舞い、頭から落ちた…。
それはスローモーションのようでも、コマ送りのようでもあった。
不思議なことに、そのシーンはあらゆる角度から、脳内で再生される。
横から、正面から…そして上から…。
そこからあとのことは、あまり覚えていない。
モノクロの映像のなか、大勢の人の飛び交う声が、ノイズのように響いていた。
かすかに救急車に乗せられたことは、記憶している。
正気に戻ったのは、病院に運ばれ、治療を受けて、何時間も経ってからのことだった…。
~第1部 完~
長くなりましたが、ここまでがプロローグですw