【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
…事故から救った相手が…μ'sの元メンバー?…
「ビックリしたでしょ?」
「…確かに綺麗な人だな…とは思った。一瞬見ただけだったけど…なるほど、そういことか…」
「ナンパでもしようとしたんじゃないの?」
「あのさぁ…そんなことしてる場合じゃないでしょ?時期が時期だぜ!オリンピック前に、そんなことしてるヒマはない!っつうの」
「どうだか…」
「ひょっとして…妬いてる?」
「…バカじゃないの…」
否定も肯定もせず…。
オレはチョモの前でも、平気で「あの人、胸デケーな…」とか言ってしまうタイプ。
そんな性格は熟知してるだろうから「彼女が美人だった」と言ったところで、チョモは何も動じない。
いや、内心、もしかしたら傷ついてるかも知れないが…今さら自分のキャラを変えられない…。
「それが全治6ヶ月の怪我人に対する言葉かね?」
「それだけ元気に喋れるんだし、同情する気なんて、まったく起きない…」
「冷たいねぇ…」
…まぁ、こうやって、普段通りに接してくれてることが、どれだけありがたいか…
「それにしても…スゲーな…オレ」
「なにが?」
「『伝説のスクールアイドル』を救ったんだろ…」
「そうね…」
「それならサインのひとつでも貰っておけばよかったな」
「あとで貰えばいいんじゃない?」
「ん?」
「お見舞いに来る…って聴いてるわよ」
「あっ?そうなの?」
…冗談のつもりだったんだが…
「キミが意識を失ってる間も、ずっと病院にはいて、無事を祈ってたみたい。だけど、おじさんとおばさんが、あまりに気の毒になって『今は面会謝絶だから…意識が戻ったら改めて…』って」
「まぁな…いてもらっても治るわけじゃないしな」
「こらっ!そういう言い方しないの!」
「あぁ、わかってるよ…」
オレはチョモの言葉を遮った。
悪気があって言ったわけじゃない。
助けた相手が『そういう人だったのは想定外』だが、誰であっても見舞ってもらうつもりはなかった。
「どうかした?」
「いや…サイン云々はどうでもいいんだけど…見舞い、断ってくれないか…」
「私が?なんで?」
「責任…感じちゃってるんじゃない?その人…」
「普通の感覚の持ち主なら…」
「…だよな…。オレは別に礼を言って欲しくて、助けたわけじゃないし…。こんな姿見せちまったら…精神的にキツいじゃん」
「…う~ん…」
「『こう見えて』一応、オレも有名人だしさ。関わると色々と面倒なことになる」
「否定はしないわ…」
「それに、今は『普通の大学生』なんだろ?」
「…うん…」
「元スクールアイドルとはいえ、こんなことで注目されても…迷惑なだけだろ」
「キミの言うことはわかるけど…」
「…けど?…」
「直接、お礼くらいは言いたいでしょ」
「いらないよ!」
「りさとっ!」
よっぽどのことがない限り、チョモはオレの名前を呼ばない。
…ということは、よっぽどのことだったのだろう。
「なに!?」
「キミが逆の立場だったら?」
「ん?」
「お見舞断られて、お礼も言えなく…『はい、そうですか』って、納得できる?…人として、感謝の意を伝える…当然でしょ?それを固くなに拒否するのはどうかと思うわ」
「…」
さすがチョモ。
モデルであり、アーティストであり、『なでしこ』の代表メンバーでもある彼女と、サッカーしかしてこなかったオレとでは、同い年にも関わらず、人生経験が違う。
チョモの半生をドラマ化・映画化する話もあるみたいだが、内容が濃すぎて一筋縄ではいかないらしい。
そんなチョモの言葉には、オレを黙らせるだけの説得力があった。
「でしょ?」
チョモはベッドの横に立つと、そう言ってオレの顔を覗きこむ。
ひょいと顔を近づければ、キスできそうな距離。
だが残念ながら、今のオレにはそれすら叶わない。
とにかく身動きがとれないのだ。
「あぁ、そうだな…。ちょっと、先を考え過ぎた…」
「わかれば、よろしい」
「ただ、もし彼女が来るなら、お前もいてくれないか」
「私が?」
「二人きりになったら、恋におちない…とも限らない」
「勝手に…お・ち・れ…ばっ!」
チョモは利き手の左で、オレの額にデコピンを放った。
チョモがオレを嗜(たしな)める時の、得意技。
しかし、このシチュエーションでやってくるとは思わなかった!
脛椎損傷してる、オレ。
全身に電気が走った。
「ぬおっ!…オレ、怪我人だって…」
「ごめん、ごめん!忘れてた…」
「そんなわけ、ねぇだろ!!」
…と言いたかったが、ここはガマンした。
今、この状況下では、オレの全治が延びるも延びないも、チョモの左手の力加減ひとつに懸かっているのだから…。
~つづく~