【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「お疲れ」
今日はオレがヤツの部屋を訪れた。
「そっちこそ…。わざわざ観に来るなんて聴いてないわよ。それも練習サボってまで…」
「一応、オレは『コーチ』だからな。特訓の成果がどれほどのものか、見届ける義務がある」
「ふふふ…偉そうに…。それで点数は?」
「5点ってとこかな?」
「10点満点で?」
「いや、100点満点だ」
「うそっ!?」
「…うそ…」
「 もう…」
「まぁ、上出来なんじゃないの?ゴールこそ奪えなかったけど、あれだけやれりゃあ、たいしたもんだよ。正直、いきなりエラシコとか…『はぁ?』って思ったけど」
「あれはフットサルでもやってたから…あんなに上手くいくとは思わなかったけど…」
そうなんだ。
元々器用なのかもしれないが、ヤツは長身のわりに足技が巧い。
フットサルの狭いコートで、相手を抜く技術を色々身に付けたらしい。
俺と練習で1対1をやった時も、平気な顔をしてシザースのフェイントを交えてた。
だが、今日の紅白戦は、想像通り弱点も露呈した。
「身体…大丈夫か?」
ヤツは2度ほど吹っ飛ばされた。
フットサルは接触プレーが禁じられている故『当り』には慣れていない。
これをどう『いなして』いけるのか…今後のサッカー人生に大きく関わってくる。
「最後のプレーは、背中から落ちたから、一瞬息ができなかったけど…ケガはないみたい」
「ちっと心配したぞ」
「ちょっと?」
…お?なんだ、その寂しげな表情は…
「い、いや…『メチャクチャ』心配した」
オレは即座に言い直した。
「でしょ…」
ヤツは悪戯っぽく笑う。
「なにはともあれ、ケガがなくて良かったよ」
「うん…。でも、やっぱりヘディングは苦手かな…。高くジャンプすると、どうしても『スパイク』打ちたくなっちゃうのよね…」
「あははは…」
「まだ、おでこにちゃんと当たらないし」
「それはしかたない。なんでもすぐに全部できたら、苦労しない」
「まぁ、それはそうだけど…」
「だけど『その高さ』は、結構な武器になる。それは間違いはない」
「不思議な感じ…」
「何が?」
「バレーボールじゃ『身長が低い』から…って、セッターに転向させられたのに…それが高いって言われて」
「あぁ、そうか…そりぁ、競技が違えばな」
…オレは逆に身長が低かったことが、コンプレックスだったんだけどな…
「…どうかした?」
「…いや、なんでもない。それを思うと、ようやくオレも身長は追い付いたかな…と」
「身長は?サッカーじゃユースの代表でしょ?日本の代表なんだから、すごいと思うんだけど…」
「いやいや、夢野つばさに比べれば、オレの知名度なんて『これっぽっち』だよ」
「結構、自分を卑下するんだね。昔はもっと自信満々だったのに」
「小学生の時は、ずっと『チョモには負けまい!』って勝手にライバル視してたんで…。正直、スポーツ以外は全敗だったけど」
「確かに、やたら絡んできたよね」
「絡むとは、人聞きの悪い。勝負を挑んだ…と言ってほしい」
「ライバル視…ね…」
「ん?」
「私のこと…『好きで』ちょっかい出してるのかと思ってた…」
「はい!?」
…やべぇ!…
…いきなり核心をついてきやがった!…
…だけど、その話はまだ早い…
…オレの準備ができてねぇ…
「と、突然、な、なにを言い出すんだよ…」
「そっちこそ、なに慌ててるのよ…」
「あん?あ、慌ててねぇし…」
「ねぇ…当時、好きな娘とかいた?」
「当時?小学生の時か…えっと…須崎…松宮…紅林…」
「なんか、みんなタイプがバラバラだね」
「そうか?」
「須崎さんは目がクリッとしてて可愛い感じだったし、松宮さんは逆に切れ長の目の美人…紅林さんは…ちょっとヤンキーっぽかったかな?」
「…そうだな…。でも、3人とも見た目が良かったことには、かわりない」
「そうね」
「残念ながら、中学は学区が違って、その後は会えず仕舞い…。今、どんなになってるか…」
「彼女とかいないの?」
「オレ?」
「学校、共学なんでしょ?」
「中学の時はいた。すぐ別れたけど」
「どうして?」
「性格の不一致」
「ふ~ん…」
「…今は…何回か、告白(こく)られたことはある!…だが、付き合ってはいない」
「へぇ…」
ヤツは疑っているようだが、ウソではない。
「こう見えて、意外にモテるんだぜ」
「まあ、スポーツができると『カッコイイ』って勘違いしちゃうのよね」
「勘違いってなんだよ、勘違いって」
「付き合ってないんだ?」
「今は『サッカーに命を懸けてる』んで」
そう言うと、ヤツはプッと吹いた。
「笑うところか?」
「本当にそれが理由?」
「…えっと…すまん、ウソをついた。正直に言うと…タイプじゃなかった…」
「あ、可哀想…」
「でも、見た目って大事だろ?そりゃあ、性格がいいに越したことはないけど…そんなのって、すぐにわからないじゃん」
「う~ん…」
「例えばだよ…ずっと同じ空間で過ごしてて『あっ、こいつ、ルックスはそうでもないけど、性格は悪くないじゃん…気が合うかも』…とかはアリだと思う」
「はぁ…」
「だけど、ほぼ初対面みたいな状態で『付き合ってください』…みたいなこと言われても…。そこは第一審査として、タイプかどうかは関わってくるだろ?」
…異論は認める…
しかし、よっぽどの物好きでない限り、まずはルックスありきだろう…。
「チョモだって、同じ性格の人がふたりいたら、自分の好みのタイプを選ぶだろ?まぁ、格好いいかどうかは別として、好みのタイプを」
「…そう…かな…」
「そうだろ…」
「だね…」
無理矢理言わせた感はあるが、世の中、そんなもんでしょ?
「…で?チョモは?」
「えっ?」
「彼氏…」
「いないわよ…。恋愛禁止だし」
「そうなの?」
「いや、禁止じゃないけど…ほら、色々あるじゃない?だから…」
「あぁ…あるな…」
別に誰が誰と付き合おうと個人の自由だが、ファンがいると、そうはいかないらしい。
…現在進行形でなくても、ダメだもんな…
…過去に一緒に撮ったプリクラ1枚で、大騒ぎだし…
「『リベンジなんとか』とか怖いしなぁ…」
…やるほうもやる方だけど、撮ることを許してる訳だから、自業自得のところもあるかのな…
「…って、何の話だっけ?あぁ、彼氏がいるかいないか…か。それでも、好きな人はいるだろ?」
「格好いい人は周りにいっぱいいるよ」
「へぇ…」
「学校…芸能人しかいないし」
「そうだった…」
「だから、マヒしてるかも…」
「なにが…」
「高野くんが…ちょっと、いいなな…って、思うことがある…」
「えっ?」
…マジ?…
「…って言ったらどうする?」
「…だよなぁ…。そりゃあ…チョモとはいえ、夢野つばさだからな…。そんなこと言われれば、光栄っちゃあ、光栄だけど…」
「『チョモとはいえ』は、失礼ね…。夢野つばさとならいいんだ?」
「言葉の綾だ…」
「あ、でも、高野くんは『めぐみ派』だったんだっけ?おっぱい大きいから」
「比較論で言うと『3人なら誰?』って話で…っつうか、本人目の前にして『つばさ』とは言わんだろ?」
「そうなの?」
「当然だろ?そりゃ、これだけ身近にいるんだもん、応援しないわけないじゃん」
「そっか…そういう理由…」
「何かおかしいか?」
「ううん、別に…」
「そもそも、お前にその気がないのに、そんな話されても…」
「そうだね…ごめん…」
「…」
「…」
…なんだ?…
…変な空気になっちまったぞ…
「えっと…」
「あの…」
オレとチョモは同時に声を発した。
「えっ?あ、なに?」
「いえいえ、お先にどうぞ…」
「いやいや、チョモから…」
「高野くんから…」
「じゃあ、オレから」
「えっ、それなら私が…」
「…って、ダチョウ倶楽部か!」
オレの突っ込みにヤツは笑った。
…すげぇな、ダチョウ倶楽部…
…何年経っても、使えるもんな…このネタ…
そのお陰で、少し部屋の雰囲気が緩んだ。
「なにか話があったんじゃない?」
…そう、ここからが本題…
「あ、あぁ…実は…臨時コーチは今日で退任しようと思って」
「!」
一瞬、ヤツの呼吸が止まった…。
「まぁ、ある程度、教えることは教えたし。あとはチームのスタッフがいるだろうから…」
「そっか…」
「それに…そろそろ、こうして会うのもマズイんじゃないかと…。さっきの話じゃないけど、噂にでもなったら問題だろ?」
「…うん…それは…」
「オレはユースに選ばれるようになったし、チョモもこれからスタートだし…今はそっちに集中しないとな」
「…そうだね…」
「サッカーでわからないことがあれば、連絡しろよ」
「うん、わかった…」
「じゃあ、そろそろ行くわ。頑張れよ…」
オレは立ち上がった。
他にも伝えたいことがあったが、今は言うべきじゃない。
そう思った。
「あのね…高野くん」
「ん?」
ヤツが、オレの腕を掴んで呼び止める。
「あのね…これまで、色々ありがとう」
「いいって。将来お前が代表にでも選ばれたら『アイツを教えたのはオレだよ』って自慢させてもらうから」
「うん」
「ほんじゃ…」
「待って!」
「?」
「待って…もうひとつ…伝えなきゃいけないことがあるの…」
「伝えたいこと?」
「さっきの話…ウソじゃないんだ…」
「さっきの話?」
オレは頭の中で、部屋に入ってきてからの会話を、早送りで再生した。
…どの話だよ…
~つづく~