【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
GW明けのゲー校…。
登校した綾乃の挨拶に、クラスメイトが応える。
だが、その胸中は十人十色。
羨望の目で眺める者。
嫉妬で対抗心を剥き出しにする者。
敢えて無関心を装う者もいる。
「綾乃、おはよう!」
「おはよう、さくら!」
「ふふふ…」
「どうしたの?」
「周りの顔を見ればわかるでしょ…みんな相当衝撃を受けてるわよ。『Project A』は大成功だったみたい」
「…なんか騙してたみたいで、ちょっと心苦しいけど…」
「まぁ、この世界は狐と狸の化かし合い…喰うか喰われるか…だからね。特にあなたを『格下』と見ていた連中にとっては、気分が悪いんじゃない?」
「はぁ…」
「さて、噂をすれば…来るわよ…ボスが…」
さくらの目線の先には、島崎圭がいた。
「おはよう、藤さん!いや『AYAさん』と言った方がいいかしら」
「おはようござ…」
「いきなり専属モデルとは…なかなか面白いことをしてくれるわね?」
「はぁ…そうですか…」
「浅倉も!」
「なにか?」
「しらばっくれて!」
「なに怒ってるのよ?」
「ふん!ドッグだかキャッツだか知らないけど、せいぜい頑張ることね。あなたみたいな『ポッっ出』がやっていけるほど、この世界は甘くないんだから」
「はい…ご忠告ありがとうございます」
「…まぁ、これで立場が逆転したなんて、考えないことね!」
「『お圭!』」
さくらの大きな声を出したので、クラスメイトの視線がすべて集まった。
「なによ、浅倉!?」
「いい加減にしたら?別に仲良くしろ…とは言わないけど、そうやって先輩風吹かせて、あ~だこ~だはどうかと思うんだけどねぇ」
「あんたこそ、カリスマモデルとか言われて、調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「はい、はい…。『前座さん』で焦ってるかも知れないけど、人に当たるのは良くないなぁ。まずは自分の心配をしたら?」
「弱小事務所が、吠えるんじゃないわよ!」
「この際だから、ハッキリ言っておくわ。学校の中じゃ、芸歴の長い短いは関係ないから。もちろん事務所の大小もね」
「くっ…」
「ホームルーム、始まるわよ」
さくらに促され、圭は舌打ちをしてから、席に戻っていった。
「どうかした?」
さくらは自分の顔をボーッと見ている綾乃に、声を掛けた。
「さくらって、強いんだね…」
「そう?多かれ少なかれ、この世界にいる子は、みんなそうだと思うよ。ただ、その主張すべきポイントがどこかは、人それぞれ違うんだろうけど」
「前々から、島崎さんはあんな感じ?」
「まぁね…。『四天王』って言われてる私が、毎日登校するのが目障りなんじゃない?」
「四天王?」
「『J事務所』のジュニア…『田中 成臣』、『Aファクトリー』の15期生で将来のセンター候補…『小野 ルカ』、…そして二世俳優の『井原 龍太』」
「名前は聴いたことあるかも…3人とも、まだ会ったことがないけど」
「一週間に一度、顔を出すか出さないかだからねぇ」
「それだけ忙しい…ってこと?」
「まぁ、そうね…で、その3人と…私を含めて四天王…って呼ばれてるの。私はその呼び名、好きじゃないけど」
「それと島崎さんの話はどう繋がるの?」
「前にもは言ったけど、無駄に芸歴だけ長くて…子役時代からチヤホヤされてきたから、なんでも思い通りにならないと、気が済まないのよ。それなのに自分よりも『後輩』が活躍するから、許せないわけ」
「はぁ…」
「それで、毎日学校に来てる私を標的に…。目障りで仕方ないのよ」
「なるほど…他の3人は学校にいないから…ってことか…」
「そこにあなたが加わったものだから…」
「それは心中穏やかじゃないわね…」
「いつになったら、目を醒ますのやら…」
さくらも綾乃も、事務所の方針が学業優先であるため、平日に休むことは、あまりない。
そもそも、2人ともモデル一本なので、そこまで忙しくない。
撮影は都内近郊で行われる為、泊まりもないし、土日…いや、放課後でも充分こと足りる。
それ故、さくらは知名度のわりには、出席率が異様に高いのだ。
「それより『アフター』は、何を受けるか決めた?」
「うん、それなんだけど…永井さんの勧めもあって『ギター』を習おうかと…」
「へぇ…そっちに行ったか…」
『アフター』とは、一般の学校でいうなら『部活』のことである。
ただし、ここはゲー校。
通常授業にも発声やダンスは組み込まれているが、アフターでは、専属のインストラクターから、徹底的な指導が受けることができる。
コースは演技、歌、ダンス、楽器の4つ。
『部活』である為『入部』は自由だが、仕事の忙しさとアフターへの参加は反比例となる。
逆に言えば、さくらのように時間に融通が利く者は、レクチャーを受けない手はないのだ。
中学を卒業したら、J-BEATでのモデル活動は終わる。
そのあとは、その上の年齢層をターゲットにした『Super-J』に『昇格』するのが規定路線。
だが、さくらは将来、女優になることを見据え、アフターは演技を選んだ。
モデルとしてのキャリアも長くなり、表情を造ることに対しては、得意と言えた。
それは、つまり感情を表現するということ。
さくらは
「私は運動音痴だし、リズム感もないから…消去法で残ったのが演技」
と綾乃に説明したが、芝居をすることが、もっとも自分を活かせると感じていた。
一方、綾乃は…
スポーツをしていただけあって、リズム感はいい。
もちろん運動神経は抜群だ。
しかし…敢えてダンスではなく…楽器を選択した。
「ギターが弾ける…というのは、この世界で生きていくうえで、大きなストロングポイントになる」
「さくらとは違う路線を歩んだ方がいい」
と永井のアドバイス等を受け入れた格好だ。
確かに自分でも、人前で演技をする柄じゃない…とは思っている。
楽器は…ピアノ、ドラムという選択肢もあったが「ギターなら持ち運べる=どこでも練習できる」ということで、そうなった。
ゼロからのスタートだったが、去年一年間、黙々とレシーブとトスアップばかりしていたことを考えれば、反復練習もそれほど苦ではない。
永井が綾乃にギターを勧めた、もうひとつの理由。
それは…
「左利きのギタリストは、目立つ!カッコいい!」
だった…。
~つづく~