【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
永井は、2階からリビングへと降りてきた綾乃の顔を見ると
「今回の件は本当に申し訳なかった」
と謝罪した。
いえいえ、お気になさらずに…などと言うのが、大人の対応。
それは理解しているが、綾乃にはそんなセリフは言えなかった。
「何を言っても、起きてしまったことを元に戻すことはできない。我々は今、ただひたすら謝ることしかできない…本当に申し訳なかった」
永井は再び頭を下げた。
「とりあえず座りましょ」
と久美子が着席を促す。
「今回の件で我々は『一枚の写真の重み』を改めて痛感した。写真一枚で人の人生が左右することの重みを…ね」
「…」
「綾!いつまでも、そんな恐い顔しないの!いくらなんでも失礼よ」
「いやいや、それは仕方ない。そもそもそんなに簡単に許してもらえるような話じゃない」
綾乃は…許すとか許さないとか、それはもう、かなりどうだって良くなっていた。
ただ、急に「はい、わかりました!」とは言えない。
…素直じゃないな…
それは自分でもわかっていた。
「色々考えた…どうしたらよいか。そこで、せめてもの『罪滅ぼし』…と言ってはなんだが…」
永井は綾乃の目をジッと見つめる。
「うちの専属モデルにならないか」
「えっ!?」
「いや、うちの専属モデルになってほしい」
「専属…モデル?…私が?…」
…この人…何を言ってるんだろう…
「どういうことですか…」
「まず、ひとつ…モデルとしてのキミの反響が大きかったこと」
「反響?」
「各方面から、問い合わせが殺到しててね…」
「問い合わせ?」
「あの娘はどこの娘だ?って」
「私が?」
「キミはまだ、自分自身の魅力に気付いていないかも知れないが、我々はわかるんだよ、そういうの」
「魅力?」
「整った顔立ち、スラリとしたスタイル、長い手足、大人びた雰囲気…同年代の娘にはない魅力がキミにはある」
「お母さんに似てよかったわねぇ」
久美子は自慢気に、ふふふと笑う。
「べ、別に…」
綾乃はやたら持ち上げられて、逆に気味が悪くなった。
「ふたつめ。バレーボールへの興味が無くなっていること」
「えっ!どうして?」
「それはお母さんから聴いたんだ…」
「あなた、この一週間、一回もトレーニングしなかったでしょ?責めるつもりはないけど…情熱が無くなってるように見えるわ」
「勝手なこと言わないでよ!」
「わかるわよ、親だもん!」
「…」
「続けるつもりがあるなら、やめないわよ…どんなことがあってもね」
「…」
「まぁ、そこはキミの心の中のことだから…でも、迷っているなら、新しいことを始めてみるのも悪くないと思うが」
「だから迷ってるとか、勝手に決めないでください!」
「じゃあ、続けるの?バレーボール」
「それは…」
「ほらね?即答できない」
「あ、だから、それは…」
「仮に、モデルをやるのであれば、転入先も考えてある…」
「転入先?」
「聴いたことあるだろ?通称『ゲー校』」
…芸能人御用達学校?…
「心配はしなくていい。マネジメントはこっちに任せてくれれば…悪いようにしない」
「…」
「綾!どこ行くの!?」
「ちょっと、外に出てくる…」
「外?」
「頭の中を整理したい…」
「…そうね…」
「そうだな…。これはもちろん、強制する話じゃない。よく考えて結論を出せばいい」
「…行ってきます…」
綾乃は永井の言葉に返事はせず、部屋を出た。
特に行くアテはなかった。
とりあえず、家に閉じ籠っていたから、外の空気を吸おう…そう思った。
そして、近くの公園まできた。
決して大きくはないが、ブランコや鉄棒、砂場などがある。
対象年齢は小学校の低学年くらいまで…というところ。
今も、父娘が逆上がりの練習をしていたり、幼子が鬼ごっこして遊んでいる。
サッカーボールでリフティングをしている少年もいた。
…何年ぶりかな…
…小さい頃はよくここで、缶蹴りや鬼ごっこをして遊んだっけ…
綾乃は誰も使っていなかったブランコに、腰を下ろした。
…小さい…
綾乃のサイズでは、無理があった。
さすがに自分で笑ってしまう。
仕方なくベンチに移り、座り直した。
…はぁ…
…いきなりモデルだなんて、バカじゃない?…
…でも…
…バレーボールを続けるかどうか、迷っているのも事実…
…どうしよう…
…モデル…か…
そんなことを想いながら、綾乃はリフティングをしている少年を、ボーッと見ていた。
その視線に『オレ』が気が付いた。
そして、オレはヤツが誰だか、一目でわかった。
髪はだいぶ伸びていたが、ついこの間、ヤツの顔を見たばかりだ。
わからないハズがない。
「チョモ?」
オレは近づいて声を掛けた。
「えっ?」
ヤツは不思議そうな顔をしてオレを見た。
誰?っ感じで。
「…チョモだろ?何してるんだ、こんなところで…」
「その呼び方は…高野…くん?」
「なんだ、今、わかった?」
「えっ!あ…」
「珍しいな…こんなところにいるなんて」
「高野くんこそ」
「オレは結構来てるよ、ガキの頃からここでリフティングしてたし…っていうか、ちょっと会わないうちに、女子みたいな言葉を使うようになったんだな…この間までは高野って呼び捨てだったのに」
「なに言ってるのよ…」
「ちょっと、立ってみ?」
「なに?」
「いいから…う~ん…やっぱり、デカイな…」
「失礼ね!急になに?」
「あ、いや、オレ、この一年で結構、背ぇ伸びたんだけど…まだ、届かねぇな」
「そうだね、少し伸びたんだね…。でもね…私、中学に行ったら、チョモじゃなかったよ」
「あん?」
「…私より大きい人…ばっかりだもん…」
「ん?あ、そうなんだ…まぁ、バレーとかバスケとかは、高けりゃ高いほど有利ってスポーツだからな」
「…うん…」
「でも、チョモくらいのジャンプ力がありゃ、たいした問題じゃないだろ?」
「…うん…そうだね…」
「その点サッカーは、そこまで身長、関係ないからな…」
「…サッカー…続けてるんだ?…」
「あ、オレ『マリノスのユース』に入ったんだ」
「へぇ…」
「将来、日本代表のエースだから!サインしておこうか?」
「すごい自信だね…」
「そりゃ、それくらいの目標を持ってやっていかなきゃ…」
「…だよね…やっぱり、そうだよね…」
「ん?なんか、元気ないじゃん…」
「えっ?そ、そう?別にそんなことないよ…」
「そういえば、出てたな…雑誌…」
「えっ?あ、あれ?…」
「学校じゃ、その話題で持ちきりだぜ…これって、あの『藤』だよな…って」
「それは、ちょっとした間違いで…」
「はっ?」
「いや、その…」
「あ、逆にオレが先にサインをもらっておかなきゃ…か…」
「ないない…ないから、サインなんて…」
「ふ~ん…まぁ、頑張れや」
「えっ!?」
「なんか…悩んでるんだろ…」
「!」
「あ、顔見りゃわかるよ…。チョモはいつでも自信満々だったからな…」
「…」
「じゃあな、なにかあったら力になるよ」
「高野…くん…」
「あ、勘違いすんなよ…オレは…ほら、チョモのことライバルだと思ってたから…競う相手がいないとつまらないべ」
「高野…」
それが小学校を卒業してから、一年ぶりの再会だった。
~つづく~