【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「園田先生!夏休みはどこに行くんですか?」
「夏休み…ですか?…部活もありますし、学校でも色々仕事がありますから…特に予定はありませんが…」
春から母校の教壇に立ち、1年生を受け持っている海未。
1学期も終わりに近づいてきた頃の放課後、教え子たちから、そんな質問が飛んだ。
「え~!彼氏と旅行に出掛けたりはしないんですか?」
「彼氏…ですか…」
「あれ?ひょっとして…いない?」
「え~…それはヤバくない?」
「先生は真面目すぎるからなぁ」
「寂しいねぇ。見た目は悪くないのに…」
「やっぱり…だからじゃね?」
『…』の時、彼女たちの視線は、海未の胸元にあった。
「あぁ…」
納得といった感じの一同。
…あぁ…じゃありません!!…
…そもそも、あなたたちの発育が良すぎるのです!!…
どう考えても海未たちが現役の頃と較べ、平均値が上がっている。
それは、穂乃果や雪穂ともよく話すことだった。
「あなたたちには関係ない話です!」
「胸の話ですか?」
「違います!いえ、それもそうですが…いえ、そうではなくて…私のプライベートのことです!」
「でも、興味あるよね?」
生徒は引き下がらない。
「先生はどういう人がタイプなんですか?」
「絶対、理系男子だよね?」
「案外、筋肉ムッキムキのスポーツマンだったりして」
「体育会系?あり得ないでしょ!」
「あれ?みんな知らないの?園田先生はサッカー選手と付き合ってるんだよね」
と、その中のひとり。
「サッカー選手?」
「1年くらい前にさ…夢野つばさの彼氏を奪ったとか、奪わなかったとかの騒ぎがあったじゃん。その相手って先生でしょ?」
「え~…そうなの!?その騒動は知ってるけど…名前なんて出てたっけ?」
余計なことを…と海未は一瞬、目を伏せた。
「実名で出てたかどうかは覚えてないけど…うちのお兄ちゃんが『これってμ'sの園田海未じゃん!!』て。凄いショックを受けてたのを覚えてるもん」
「え~!!」
「そもそも、その時はμ'sって誰…って話だったんだけどさ」
「私は学校入ってから知った」
「だよねぇ!私も音ノ木坂に通ってる…って言ったら、やたら周りからμ'sの高校だ…って言われて」
「その人が、高校の担任になるとは…だけど…」
「先生が、元μ'sって言うのは、みんな知らなくはないけど…」
「そんなに凄い人なの?だって、夢野つばさから奪ったんでしょ?」
「だとしたら、それって略奪婚ってヤツじゃん」
「結婚してないから『婚』ではないよね」
「じゃあ、不倫?」
「不倫?…それも違うんじゃない」
「まぁ、どっちでもいいけど…先生もやることやってるんじゃん!」
海未には「やることやってるじゃん」がとても卑猥な言葉に聴こえた。
「あなたたち…大人をからかうのではありませんよ!」
彼女の額(ひたい)に縦線が入り、口元はヒクヒクとしている。
「あ…」
「か、帰ります!!」
「さ、さようなら!!」
その表情を見た生徒たちは、蜘蛛の子を散らすように教室から出て行った。
「わずか数年で、音ノ木坂の生徒のレベルも落ちたもんやね。『学校の救世主』『カリスマスクールアイドル』『希代の作詞家』も、その娘たちの前じゃ形無しやんね?」
「…はぁ…まぁ、でも今の娘たちは、そういうものかと…。μ'sも名前くらいしか知らないでしょうし」
「『今の娘は』…か。私たちだってまだ、社会人になったばかりなのに、そんな言葉を使うようになるとはねぇ…」
と絵里は、ひとつ大きなため息をついた。
この日は…特別何がある…というわけではなかったが、たまたま都合のついた5人…希、絵里、穂乃果、真姫…それと海未が食事に集まった。
「私なんて、まだ学生なんだけど…」
真姫はそう言って笑った。
彼女は大学5年生だ。
医学部は6年制の為、あと1年半通わなければならない。
「高校1年生か…。ウチらと5つか6つ、違うだけなんやけどね…」
「はい…」
「それで?」
「はい?」
「夏休み、行かんへんの?イギリス…」
「い、行きません!なぜ、わざわざ私が…」
「海未の海外嫌いも相当なものね…」
「ち、違います!私が行ったところで、彼の迷惑になるだけですから…」
と、海未は真姫の言葉を否定した。
しかし、希たちはニヤニヤしている。
信じていない。
「ほ、本当です!別に海外だからどうのではありません!」
「そやけど…心配やあらへん?」
「それは…『ない』といえば嘘になります。…ですが、私が行ったところで、どうにかなるものでもありませんし…」
「そうかしら?」
「絵里?」
「やっぱり、嬉しいものじゃない?わざわざ会いにきてくれるなんて」
「はぁ…そういうものでしょうか…」
「海未がその立場だったら、どう?嬉しくない?」
「それはそうですが…梨里さんは、そういうところは本当に真面目ですし」
「ふ~ん…」
「真姫?」
「ねぇ…ひとつ訊くけど、海未は本当に高野さんのこと好きなの?」
「えっ?」
「逆に高野さんは、本当に海未のことが好きなのかしら」
「えっ?」
「絵里の言う通り…口では『来なくていい』なんて言われても…やっぱり来てくれたら嬉しいんじゃないかしら。私なら行くわ」
「真姫…」
「だって、ああいう人でしょ?周りが放っておかないわよ。私なら、向こうに行くわ」
「!!」
「おっと、爆弾発言!どうする?海未ちゃん!真姫ちゃんが狙ってるよ」
と穂乃果。
海未の耳元で、囁くフリをした。
もちろん、みんなに聴こえている。
「…べ、別に深い意味はないわよ。わ、私は…そういう経験がないから、どうなのかな…って思っただけだから」
と慌てて弁解する真姫。
「わ、わかってます。ほ、穂乃果も変な煽りをしないでください」
「でも、ちょっとドキッとしたでしょ?」
「それはその…いつも不安というか…そういうのはあります。梨里さんは、誰にでも優しいですから」
「ほんま、マメやし…お世辞も上手やし…女の子を悪い気にさせへんもんね。それは真姫ちゃんやなくても、惚れちゃうわ」
「だから、私は関係ないから」
「ですが、マメなのは大勢でいる時だけなんです」
「釣った魚にエサをやらないタイプ?」
「いえ、穂乃果!それは違います!」
ちょっとムッとした表情で、海未は彼女を見た。
「梨里さんは、放任主義と言いますか…『相手を束縛するのは嫌い』と明言されてますので、基本的には電話やメール等はあまりありません。反対に『束縛されるのも嫌い』とのことですから、こちらからも必要以上のことは連絡しませんが」
「それって楽しいの?」
と穂乃果。
「…わかりません…。ただ、今の私たちには、それが丁度いいとは思ってますが」
「ふ~ん…そうなんだ…」
「まぁ、人それぞれってことやね…」
「はい…」
「あっ!…」
「希?どうしました?」
「ウチ、来月、ロンドンに行くんやった!」
「ロンドン…ですか?」
「ウチの会社で新しく始めるヨーロッパツアー…のコースの下見なんやけどね…。様子…見てきてあげよっか?」
「えっ?」
「高野さんの…。現地の人と仲良くなってないか、心配やあらへん?」
どことなく希の言葉が意地悪い。
「い、いえ…結構です。大丈夫です」
「ホンマに?」
「梨里さんは…外国の女性には興味ないと言っていますし…」
「でも、えりちのことはタイプなんやろ?見た目はそんな変わらないやん…」
「そ、それはその…確かに…胸が大きい人とポニーテールが好きというのはそうなのですが…ですから髪を下ろしてる絵里が好きかどうかは…」
「なら、ウチがポニーテルやったらどうやろか?高野さん、ウチを好きになってくれるやろか」
「の、希!」
「冗談やって。海未ちゃんはすぐに本気になるんやから」
「冗談じゃなくなる恐れがあるから怖いのです」
…胸の大きさ…
…ポニーテール…
…胸の大きさはどうにもならないけど…
…髪型なら…
「真姫、どうかした?」
「えっ?なんでもない…」
「?」
「いつ、帰って来るんだろうね…」
「はい…長くて1年と申してましたので…」
「あと半年か長いね…」
「はい…」
その時だった。
誰かのスマホが鳴った。
「LINE?」
各々、自分かと思い、確認する。
「私でした…」
それは海未のスマホだった。
「梨里さんからです…」
東京とロンドンの時差は8時間。
ちょうど向こうは昼だった。
「…高野さん?」
「ん?…あっ!…はい、そうですが…」
そう呼ばれて振り向りむくと、そこには、小柄な日本人女性が立っていた。
「やっぱり…似てる人だとは思ったけど」
「あっ…A-RISEの…」
「初めまして…ですね」
「えっ…あぁ…そうですね…。こっちは一方的に何度も観てますけど…」
「私も…色々あったから、初対面って感じがしないわ」
「『その節』は『2人』がお世話になりまして」
そう挨拶されて、彼女はちょっと返答に困った。
「お世話だなんて…そんなつもりで言ったんじゃないんだけど…」
本当は『逆に感謝してる』…という気持ちがあるのだが、彼にそれを言うのは『不謹慎』だと思った。
「こんなところで会うなんて偶然ね。…旅行?」
誤魔化す様に、話題を変える。
「いえ…サッカー留学…武者修業みたいなもんです…」
「ここで?」
「はい…もう、こっちに来て半年くらい経ちますけどね」
「そうなんだ…知らなかった…」
「当然ですよ。オレなんて世の中的には、忘れ去られた存在ですから」
「そういう意味で言ったわけじゃ…」
「ツバサさんは?」
「私はレコーディングで」
「ひとりでですか?」
「ううん…3人で来てるわよ。今はランチタイムなの」
高野梨里と綺羅ツバサ。
2人が出合ったのは、ロンドンの…とある和食レストラン。
高野が入店してしようとしたところに、ツバサがそれに気付き、声を掛けたのだった。
「ご一緒していいかしら?」
「えっ?あっ…はい、どうぞ」
店員に「何名様ですか?」と訊かれ、高野は指で「2」と示した。
「ここのお店はよく来るんですか?」
「こっちに来た時は必ず寄るわ」
「和食派なんですか?」
「…っていうより、イギリスの食が合わないだけ」
「あははは…同感です。英国料理が不味い…っての事前に聴いてましたけど、ここまでとは思ってなくて…オレもほぼ毎日、どこかしらで日本食を食べてます」
「うふっ…私も英玲奈からは『味覚オンチ』ってバカにされてるんだけど…その私が『無理』って思うんだから、よっぽどよね…」
とツバサは笑った。
「他の2人は?」
「各々、どっか違うところで食べてるんじゃないかしら」
「仲、悪いんですか?」
「まさか!ほぼ、365日24時間一緒にいるんだもん。ひとりになる時間だってあるわよ」
「まぁ、そりゃあそうですね…」
そんな話をしながら、2人はメニューを眺め、それぞれ店員に料理を注文した。
「サッカーの留学?」
「はい。先輩がこっちのチームでコーチ研修を受けてて…その縁で、練習生として参加させてもらってるんです」
「今は…サッカー選手…じゃないんだっけ?」
「はい、無職です」
明るく答えた高野であったが、ツバサにはそれが切なく思えた。
直接会うのは初めてだが、彼を通じて色々な事があった。
最終的にはμ's復活ライブの足掛かりになったワケで…そういう意味ではツバサにとって、プラスの出来事だったと言えなくはない。
しかし本人を前にして、そんな事は言えるハズもない。
「…あんなことがなければ…」
正直、それしか言いようがなかった。
「いえ、それはもういいんですよ。アレがなくても、サッカー選手として、今、どうなってたか…はわからないし…」
「…」
「逆に自分が、ステップアップする為のキッカケになった…ってことで。まぁ、この留学もそのひとつなんですけど」
「強いのね…」
「そう思わないと…やっていけないんすよ」
「…そうね…」
それは本心なのだろう。
ツバサはそう思った。
「チョモ…いや、つばさ…あ、いや…つばさって言っても『夢野』の方のつばさですけど…」
「わかるわよ…それくらい」
とツバサは笑う。
「あ、いや…やっぱツバサさんを目の前にして『つばさ』とは呼び捨てにできないです」
「ゴメンね、紛らわしくて」
「…なので、ツバサさんの前では、ヤツの本名…綾乃って呼びますね」
「そんな気を使わなくてもいいわよ」
「いやいや…ってなんの話でしたけっけ?あ、そうそう…綾乃には負けられない!ってのが、オレのモチベーションになってるんですよ」
「うん、つばささん…頑張ってるわね」
「はい。1年目は苦労したみたいですけど…今シーズンは結果を残してますし…さすがとしか言いようがないですね。もう、実績では、オレの遥か上を行ってますから」
そう言った高野の目は、どこか憂いがあった。
「別れても…好きな人?…」
「そんなんじゃないですって…いや…やっぱ、そうですなんですかね…ライバル?憧れ?…まぁ、今でも特別な存在なのは、間違いないですね」
「私もね…同じ『ツバサ』を名乗る者として、彼女のことは尊敬してるの。アーティストとしても、サッカー選手としても…。いつか私も、彼女のように世界で認められるようになりたい…そう思ってるわ」
「同感です…。あっ!でも、勘違いしないでくださいね。恋愛感情っていうか…それとは別の話ですから」
「うふふ…そこで恋愛感情がある!…って言われたら困っちゃうんだけど…」
「あはは…そうですね…」
ここで店員が、注文した料理を運んできので、2人は一旦、話を止めた。
「それで?」
「はい?」
「園田さんとは上手くやってる?」
「…と思ってますけど…彼女、何か言ってますか?」
「ううん…そうじゃないけど…」
「一応、1週間に1~2回程度は連絡してますし…」
「えっ!?ちょっと待って!」
「はい?」
「1週間に1~2回?1日に…じゃなくて?」
「はい…」
「そんなに少ないの?驚いたというか、呆れたというか…」
「そうですか?」
「園田さんも、それでよく我慢してるわ」
「我慢…ですか…」
「今の時代、いくら遠距離とはいえ…」
「あ、もちろん、何かあったときは、ちゃんと報告してますよ」
「何かあったとき?」
「例えば、今みたいなとき。『綺羅ツバサさんとランチしてます』…とか」
「私でした…梨里さんからです…」
「噂をすれば…っやつね」
「なんて書いてあるの?」
「ほらほら、穂乃果!人のLINEを覗かないの!」
と絵里。
「『ツバサさんと、ランチ、なう』…」
「えっ!つばささん?…夢野?」
穂乃果が聴き直す。
「いえ…カタカナ表記なので…」
「まさかA-RISEの?」
「…どうやらそうみたいです…写真が送られてきました…」
海未は躊躇(ためら)いもなく、画像を見せた。
「ほんまやね…」
「なんで、ツバサさんがいるの?」
「レコーディング…だそうです。偶然、会ったと…」
「ほほう…高野さんも隅に置けん人やね。夢野つばささんの次は、綺羅ツバサさんとは…」
「梨里さんはそんな人ではありません。どちらかと言うと、こういうことについては、何でもオープンにする人ですから」
「そうだよね。あとから『会ってました』…って言われるよりは」
「甘い、甘い。そう見せ掛けておいて…やん。こうやって海未ちゃんを安心させておけば…」
と希は『にひっ』と意地悪く笑った。
「げ、下品です!」
「でもレコーディングってことは…他の2人も一緒でしょ?なんでツバサさんだけなんだろ?」
「さ、さぁ…そこまでは…」
「これは海未ちゃん!ひょっとして、ひょっとするんやない?」
「い、いえ…そんなハズはありません!そもそも、ツバサさんは梨里さんのタイプではありませんし」
「それは関係ないやいんやない?『つばさ』を忘れ掛けてたところに、新たな『ツバサ』が現れて…もう、その名前の響きだけでキュンっとしちゃったんやね」
「たかの…つばさ…。鷹の翼?…出来過ぎてるわね」
真姫はボソリと呟いた。
「あ…あぁ…」
海未はフラフラだ。
ボクシングで言えば…必死にガードを固めて、顔面への攻撃は凌いでいたものの…ボディブローを何発か喰らったような状態。
「『鳥繋がり』なら、ことりちゃんにも気を付けたほうがいいんやない?」
「そうだよね。彼氏と別れたばっかりだし…」
「なぜ、そこでことりが出てくるんですか!」
「あれ?海未ちゃん、知らなかったっけ?ことりちゃんの別れた原因…」
「いえ、もちろん知ってます。…彼氏の束縛がきつすぎて、精神的に耐えられなくなったと…」
「ことりも、ああ見えて独占欲が強いから、最初はお互いさま…って思ってたけど…アレは度が過ぎてたわね」
と絵里。
「私から言わせれば、物理的な暴力がなかっただけで、アレは一種のDVよ」
真姫も「そうだ」と同意する。
「ほんまやね…」
「そ、それはわかりますが…それとこれと…どう繋がるのでしょうか」
「ことりちゃん、ずっと思ってたんだって…。どうして私の彼は、高野さんみたいに穏やかじゃないんだろう…って。今度、付き合う人は、絶対に高野さんみたいな人にしよう…って」
「傷心者の女にとって、あの優しさは『罪』やね。そんな状況やったら、ことりちゃんやなくてもコロッていっちゃうんなやい?」
「は、初耳です!」
「そりゃ、海未ちゃんの前では言わないよ」
「では、なぜ、今、言うのですか!」
「えっと…それは…話の流れで…ねぇ?」
「そう言えば…ことりちゃんも来月ロンドンに行くんやなかったっけ?」
「あっ!言ってた!言ってた!世界的なブライダルショーがあるとかないとか」
「これは…ひょっとしたら、ひょっとするんちゃう?」
「こ、ことり!行かないでください!!」
海未は、そこにはいない彼女の名前を叫ぶと、へなへなと膝から崩れ落ちた。
ボディを打たれるのを嫌って、ガードを下げたところ、ガラ空きになった顔面にストレートを打たれた…という感じか。
10カウントを待たずに、ノックアウト負け。
これには
「ちょっと海未、大丈夫!?…希!穂乃果!ちょっと悪戯がすぎたんじゃない?」
と絵里が眉をしかめた。
「う、うん…ちょっとね…」
と穂乃果は頭が掻く。
「うぅ…みんな…酷すぎます…」
「違うんよ。海未ちゃんが羨ましくて、ちょっとからかっただけやん」
「う、羨ましい…ですか?」
「そ、そうだよ!穂乃果なんか、いまだに彼氏ができないんだから」
「で、ですが…高野さんが誰かに靡かないとは…言い切れないのです…」
「大丈夫やって。少なくともウチらは、いくら高野さんが素敵だ…って言うても、手ぇ出さへんって」
「でも高野さんが…」
「そこは海未が信じなくてどうするのよ」
「真姫…」
「…なんて、私が偉そうなことを言える立場じゃないけど…いいんじゃない?まったくモテない男より、少しくらいモテる男の方が」
「そうね。あの夢野つばさを捨てて、園田海未を選んだのよ。もっと自信を持ちなさい」
「絵里…」
海未は彼女の顔を見た。
絵里は黙って頷いた。
「そ、そうですね。私が信じないと…はい…」
そんな話をしているうちに、またもやスマホが鳴った。
再び、一斉に自分のものかと確認する。
「私でした…」
と海未。
「今度はなんやって?」
「『あんじゅさん、英玲奈さんと合流!A-RISE勢ぞろい!』」
「あっ、やっぱり、みんないたんだね」
「『どうしよう!あんじゅさんの胸から目が離せないんだけど(笑)』…」
そう言ったきり、彼女は固まった。
「…海未ちゃん…」
穂乃果が、恐る恐る声を掛ける。
「梨里さん!!いちいち、そんなことまで報告しないでください!!」
海未の叫びに…もっともだ…と苦笑しながら4人は頷いた。
「園田先生!見ましたか!?」
翌朝、海未が出勤すると、そこに次から次へと生徒が駆け寄ってきた。
「なんですか?朝から騒々しいですよ!」
「ほら、これこれ」
と、そのうちのひとりがスマホを見せる。
『夢野つばさの元カレ。ロンドンで綺羅ツバサとデート』
それは現地で2人を目撃した観光客が、SNSにあげたものだった。
それが拡散して、芸能ニュースのトップ記事になっていた。
「はい、知ってますよ」
海未はまったく意に介さず…と涼しい顔だ。
「先生の彼氏、ヤバくない?」
「不倫じゃん、不倫!」
「略奪婚?」
「結婚してないから、不倫でも略奪婚でもないけどね」
「相手はあのA-RISEの綺羅ツバサでしょ?先生勝ち目ないじゃん!」
しかし海未は微笑を湛えながら
「はい、そうですね!」
と返答した。
「え~…なんか、余裕なんだけど」
「なにそれ、気になるぅ」
「別に、あなたたちが気にすることではありません」
「気にするよ!」
「そうだよ、先生、こんな男とはすぐ別れた方がいいよ!」
「はい、はい…私のことはどうでもいいですから、あなたちは自分のことを心配しなさい」
「え~なに、それぇ」
「明日から期末テストです!」
「あっ!」
「そうだった…」
「1学期早々、赤点なんて許しません…から…ね!!」
表情は穏やかだったなままだが…その口調から冷気が放たれた。
「は、は~い…」
海未は慌てて逃げていく生徒たちに、かつての穂乃果や、にこ、凛の姿を思い出したのだった…。
サッカー留学(後編)
~おわり~