【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

16 / 173
Winning wings ~引き籠り、始めました~

 

 

 

 

A…無期限の停学。

 

B…自主退学。

 

C…特待生扱いを解除(バレーボールを退部)の上、一般生徒として通学。

 

 

 

綾乃の選択肢は3つ。

 

 

 

Aは単なる『言葉遊び』であり、停学と言いながら、通学できる可能性はゼロ。

 

実質、自主退学を促している。

 

 

 

Bはそれを即決するかどうかということ。

 

 

 

そしてCは…

 

一見、情状酌量したかのように感じられるが…この学校には、バレーボールをする為に進学したようなもの。

 

それができないのであれば、わざわざ、ここに通う意味はない。

 

 

 

いずれにしても、その先にあるのは『退学』という二文字…。

 

3つの選択肢から決断するまでは、2週間の猶予が与えられている。

 

早い話が、それまでに『転校先を見つけろ』…ということだった。

 

 

 

 

 

綾乃は『通達』を受けてから、すっかり引き籠ってしまった。

 

バレーボールを始めてから欠かさずに行っていた、ランニングも、筋トレも、ストレッチも…まったくヤル気が起きない。

 

自堕落な生活…。

 

昼前に起きて、ブランチを摂り、大量に借りてきた映画や音楽のDVDを、一日中観て過ごす。

 

おそらく…物心が付いてから、これまで生きてきた十年あまりの情報量を越えるであろう、映像や音楽を一気に詰め込んだ。

 

 

 

だが、なにも感じない。

 

感動も刺激もなかった。

 

ただ観ているだけ…。

 

 

 

綾乃を心配して、クラスメイトやバレーボールのチームメイトが、携帯に電話やメール、LINEをよこしたが、その返信すらしなかった…。

 

少しでも、バレーボールも学校のことも忘れたかった…。

 

 

 

しかしながら、ギリギリ暗黒面に堕ちなかったのは、志半ばにして逝った父の存在。

 

 

 

…パパがあの世から見てる…

 

 

 

そう思うと、自暴自棄になりそうな心にブレーキがかかった。

 

 

 

「どうしたらいいの?」

という問い掛けに

「自分の道は、自分で決めなさい」

そう言っていた…。

 

 

 

 

 

割りきれるハズはない。

 

それは母の久美子も十分理解していた。

 

 

 

綾乃に落ち度はない。

 

それでも、どうにもならないことがある。

 

 

 

夫を亡くした時もそうだった。

 

 

 

交通事故による不慮の死。

 

 

 

夫は普通に横断歩道を渡っていただけ。

 

相手は飲酒運転…。

 

どこに落ち度があったろうか…。

 

 

 

今でも悔しい。

 

悔しくて、悔しくて、たまらない。

 

 

 

だから、程度の差はあれ、娘の気持ちはよくわかる。

 

自分も綾乃がいなかったら、今のようには生きていなかったと思う。

 

気持ちの整理がついたのは、半年以上経ってからだ。

 

その間の記憶はほとんどない。

 

 

 

 

 

ふと我に帰った瞬間…

 

 

 

 

 

それは綾乃が発熱で倒れた時のことだった。

 

 

 

何日か前から具合が悪かったにも関わらず、母親に心配掛けまいと、素知らぬフリをして、学校へ、バレーボールへ行っていた綾乃。

 

結局、無理がたたり、練習中に病院へと運ばれた。

 

幸い大事には至らなかったものの、この時初めて、娘の存在の大きさに気付かされた。

 

 

 

…母親失格…

 

 

 

何度も何度も自分を責めた。

 

責めて、責めて…たどり着いた答えが『前を向いて生きること』だった。

 

 

 

脱け殻のような半年間を救ったのは、娘の健気な…優しくも強い心だった。

 

 

 

この時から久美子は『母として』『父として』生きる決意をする。

 

 

 

今の綾乃を見て、脱け殻だった自分を重ねる。

 

だが、いつまでもこの状態を続けるわけにはいかない。

どこかで前を向いて歩き出さなければいけない。

 

綾乃は、それができる。

 

そうさせるのは…今度は自分の役目だ。

 

 

 

 

「綾…いい加減にしなさい!いつまで寝てるの!?」

 

「…ん…?…今日…日曜日だもん…」

 

「この一週間、ずっと日曜日だったでしょ!?放電しすぎ」

 

「…うぅ…なにもやりたくない…」

 

「最低限、着替えて顔くらい洗いなさいよ」

 

「…う…ん…」

 

「それと…今日は永井さんに会ってよね。気持ちはわかるけど、誰かを恨んだところで、仕方ないでしょ」

 

永井は、あの日以来、毎日、藤家を訪ねて来ていたが、綾乃が面会を拒んでいた。

 

しかし、さすがに一週間通い詰められるとなると、多少は「申し訳ないな…」という気持ちが、綾乃の中に芽生えていた。

 

「うん…わかった…」

 

渋々ながら、綾乃は了承した。

 

 

 

 

 

すでに選択肢は…B…と決めている。

 

転校先については、地元の公立中学校へ通うこととした。

 

…というより、今からでは、そこくらいしか受け入れ先がない。

 

 

 

問題は…

 

 

 

バレーボールを続けていくモチベーションが、失せてしまったこと。

 

世界を目指していたわけではない。

 

そこまで自分の実力を過信していない。

 

 

 

それでも…

 

 

 

上手になりたい、負けたくないと、上を目指して練習を重ねてきた。

 

 

 

だが今は…

 

 

 

セッターの面白さをわかり始めてきたと同時に感じていた、漠然とした不安…。

 

それは、この1年間、身長が伸びなかったことに起因している。

 

立ちはだかる、10cm…20cmの壁…。

 

これ以上続けても、アタッカーとしてプレーするのは、叶わぬ夢…。

 

 

 

バレーボールを諦めるかどうか…綾乃の心は揺れていた…。

 

 

 

 

 

追い討ちをかけたのは、訪問してきた永井が発した一言だった。

 

 

 

 

 

「うちの専属モデルになって欲しい」

 

 

 

 

 

~つづく~

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。