【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
A…無期限の停学。
B…自主退学。
C…特待生扱いを解除(バレーボールを退部)の上、一般生徒として通学。
綾乃の選択肢は3つ。
Aは単なる『言葉遊び』であり、停学と言いながら、通学できる可能性はゼロ。
実質、自主退学を促している。
Bはそれを即決するかどうかということ。
そしてCは…
一見、情状酌量したかのように感じられるが…この学校には、バレーボールをする為に進学したようなもの。
それができないのであれば、わざわざ、ここに通う意味はない。
いずれにしても、その先にあるのは『退学』という二文字…。
3つの選択肢から決断するまでは、2週間の猶予が与えられている。
早い話が、それまでに『転校先を見つけろ』…ということだった。
綾乃は『通達』を受けてから、すっかり引き籠ってしまった。
バレーボールを始めてから欠かさずに行っていた、ランニングも、筋トレも、ストレッチも…まったくヤル気が起きない。
自堕落な生活…。
昼前に起きて、ブランチを摂り、大量に借りてきた映画や音楽のDVDを、一日中観て過ごす。
おそらく…物心が付いてから、これまで生きてきた十年あまりの情報量を越えるであろう、映像や音楽を一気に詰め込んだ。
だが、なにも感じない。
感動も刺激もなかった。
ただ観ているだけ…。
綾乃を心配して、クラスメイトやバレーボールのチームメイトが、携帯に電話やメール、LINEをよこしたが、その返信すらしなかった…。
少しでも、バレーボールも学校のことも忘れたかった…。
しかしながら、ギリギリ暗黒面に堕ちなかったのは、志半ばにして逝った父の存在。
…パパがあの世から見てる…
そう思うと、自暴自棄になりそうな心にブレーキがかかった。
「どうしたらいいの?」
という問い掛けに
「自分の道は、自分で決めなさい」
そう言っていた…。
割りきれるハズはない。
それは母の久美子も十分理解していた。
綾乃に落ち度はない。
それでも、どうにもならないことがある。
夫を亡くした時もそうだった。
交通事故による不慮の死。
夫は普通に横断歩道を渡っていただけ。
相手は飲酒運転…。
どこに落ち度があったろうか…。
今でも悔しい。
悔しくて、悔しくて、たまらない。
だから、程度の差はあれ、娘の気持ちはよくわかる。
自分も綾乃がいなかったら、今のようには生きていなかったと思う。
気持ちの整理がついたのは、半年以上経ってからだ。
その間の記憶はほとんどない。
ふと我に帰った瞬間…
それは綾乃が発熱で倒れた時のことだった。
何日か前から具合が悪かったにも関わらず、母親に心配掛けまいと、素知らぬフリをして、学校へ、バレーボールへ行っていた綾乃。
結局、無理がたたり、練習中に病院へと運ばれた。
幸い大事には至らなかったものの、この時初めて、娘の存在の大きさに気付かされた。
…母親失格…
何度も何度も自分を責めた。
責めて、責めて…たどり着いた答えが『前を向いて生きること』だった。
脱け殻のような半年間を救ったのは、娘の健気な…優しくも強い心だった。
この時から久美子は『母として』『父として』生きる決意をする。
今の綾乃を見て、脱け殻だった自分を重ねる。
だが、いつまでもこの状態を続けるわけにはいかない。
どこかで前を向いて歩き出さなければいけない。
綾乃は、それができる。
そうさせるのは…今度は自分の役目だ。
「綾…いい加減にしなさい!いつまで寝てるの!?」
「…ん…?…今日…日曜日だもん…」
「この一週間、ずっと日曜日だったでしょ!?放電しすぎ」
「…うぅ…なにもやりたくない…」
「最低限、着替えて顔くらい洗いなさいよ」
「…う…ん…」
「それと…今日は永井さんに会ってよね。気持ちはわかるけど、誰かを恨んだところで、仕方ないでしょ」
永井は、あの日以来、毎日、藤家を訪ねて来ていたが、綾乃が面会を拒んでいた。
しかし、さすがに一週間通い詰められるとなると、多少は「申し訳ないな…」という気持ちが、綾乃の中に芽生えていた。
「うん…わかった…」
渋々ながら、綾乃は了承した。
すでに選択肢は…B…と決めている。
転校先については、地元の公立中学校へ通うこととした。
…というより、今からでは、そこくらいしか受け入れ先がない。
問題は…
バレーボールを続けていくモチベーションが、失せてしまったこと。
世界を目指していたわけではない。
そこまで自分の実力を過信していない。
それでも…
上手になりたい、負けたくないと、上を目指して練習を重ねてきた。
だが今は…
セッターの面白さをわかり始めてきたと同時に感じていた、漠然とした不安…。
それは、この1年間、身長が伸びなかったことに起因している。
立ちはだかる、10cm…20cmの壁…。
これ以上続けても、アタッカーとしてプレーするのは、叶わぬ夢…。
バレーボールを諦めるかどうか…綾乃の心は揺れていた…。
追い討ちをかけたのは、訪問してきた永井が発した一言だった。
「うちの専属モデルになって欲しい」
~つづく~