【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
しばらくの間、高野の戯れ言にお付き合いください…。
渋滞で車が動かない間、点けっぱなしにしていたFMラジオから何曲か流れたあと、番組のコーナーが変わり、DJがニュースを読み上げ始めた。
》まずは嬉しいニュースが飛び込んで来ました!女子サッカーの日本代表で、先月末、フランスに渡ったリヨンの緑川沙紀選手が、初ゴールを挙げました。
》モンペリエとの試合で、2-1の後半20分に出場した緑川選手は、中盤でパスカットすると、そのままドリブルで駆け上がり、一気にペナルティエリアに侵入。DF2人をかわして右脚を振り抜くと、ボールは詰めてきたキーパーの脚に当たりながらもゴールに吸い込まれ、移籍後3試合目にして、嬉しい初得点となりました。
》その後も、緑川選手の持ち味であるハードワークで相手にプレッシャーを掛け続け、チームの勝利に貢献。リヨンは終了間際にも1点を加え4-1で快勝。ウィンターブレイク前の不調を脱し、3連勝と波に乗って来ました。
》一方、ドイツのフランクフルトに移籍した夢野つばさ選手ですが、3試合連続でベンチ入りしたものの、出場はありませんでした。
》チームも格下相手に力なく敗れ、引き分けを挟んで5連敗。地元メディアでは監督解任論も流れており…
「明暗…分かれましたね…」
「ん?あぁ…まぁ、一筋縄じゃいかないってことだ」
「ですが、請われて移籍したのに、試合に出してもらえないなんて…」
「そりゃあ、色々事情はあるさ。『オファーを出したのはフロントであって、監督じゃない』…ってことかも知れないし」
「どう違うのですか?」
「話すと長くなるけど…警察で言えば、キャリア組とノンキャリア組みたいな感じ?現場では犯人はAだって思ってるのに、上からの的外れな指示でBを追え!みたいな」
「ドラマの話ですか?」
「現実はどうだか知らないけど、観るでしょ?そういうの」
「そうですね」
「サッカーの世界も同じでさ…現場からは『補強してほしいポイントはこのポジション』なのにフロントが引っ張ってきたのは『別のポジションの選手』で…『違うだろ~!』的な」
「その場合、監督さんはその要望を伝えないのですか」
「ケース バイ ケースだと思うけどね。伝えた結果、やむなくその選手しか獲れなかった…ってことも、無きにしも非(あら)ず」
「はぁ…」
「監督は…責任は負わされても、権限は何も持ってないからね」
「そうなのですね…」
「それに…『余所からポンッて入ってきた選手』より『自分が育ててきた選手』に『情が入る』ことだってあるだろうし…あ、それは選手も同じか。…コミュニケーションの問題とか…戦術の問題とか…そんなの無視して監督の好みか好みじゃないか…も大きいし。自分が選んだ選手じゃなきゃ、なおさらね」
「そうなのですか?外国はもっと勝利の為ならドライというか、ビジネスライクというか、そういうイメージがあるのですが」
「それはある意味間違いじゃない。特にサッカーは成績に対してシビアだからね。でも、そこはやっぱ人間のすることだから…。それに夢野つばさは…アジア人だからな」
「どう関係があるのですか?」
「いまだに人種差別的な感情を持ってる人がいるってこと…」
「差別…ですか?」
「偏見って言い直してもいい。あ、これは監督がどうの…とか、選手がどうの…ってことじゃなく、欧米諸国全体に言えることだけどさ。今はだいぶアジアの選手も活躍してるから『薄まってきている』のはそうなんだろうけど…それでも時折、選手なりサポーターなりが大きな問題を起こしてる。FIFAもそのあたり、相当厳しくしてるんだけど…それって教育の問題だからね…。サッカー選手やサポーター以前の…人としてどういう教育を受けてきたか…って問題」
「スケールの大きな話になりましたね…」
「あっ、ごめん。つまらないよね、こんな話、聴かされても」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「そういう偏見みたいなのは、恥ずかしい話、少なからずオレの中にもある」
「えっ?」
「例えば、オレのチームメイトに韓国人選手が『いた』。いや、やめたのはオレだから、彼はまだ『いる』んだけど」
「はぁ…」
「オレは彼にプレーヤーとしては、何のわだかまりも持っていなくて、むしろ異国の地にきて、孤軍奮闘しているわけだし、リスペクトもしている。ところが『本国の人たち』があーだこーだと騒ぎを起こすたびに、オレのなかでは『面倒な国民だ』ってことがインプットされちまってる。『それとこれとは無関係だ』『スポーツに政治の話を持ち込むな』ってことは、頭ではわかってるけど、心のどこかで、彼らに対する嫌悪感みたいなものがある。練習してるときとかは、それに集中してるからそんなことはないけどさ…オフってる『ふっ』とした瞬間に思っちゃうんだよね…」
「…」
「もっと究極なことを言うよ。サッカーに限らずだけど、日本は今、急激にハーフとかクォーターとか…帰化した選手って増えてるじゃない?」
「そうですね。アスリートではありませんが、μ'sだと絵里もそうですね」
「あぁ、そうだっけ…」
「それが?」
「『日本人って何?』って思うことない?」
「えっ?」
「えっと…言葉を選びながら話す必要があると思うんだけど…長らく日本のスポーツ界は『柔よく剛を制す』みたいなのが『美徳』ってされてきたでしょ。身体が小さいのをハンデとしながらも、スピードとテクニック…それと根性で立ち向かう…っていうのが」
「はい」
「実際、1980年代後半くらいまではそれで闘えてる部分もあったし、屈強な相手に挑んでいくことこそが、日本人としてのアイデンティティでもあった」
「はい」
「ところが、海外のスポーツのレベルはどんどん上がっていき、やがて、日本人がどう足掻いても『体格の壁』に太刀打ちできない時代がやってきた。否が応にもアスリートの大型化は避けられなくなっていく」
「…」
「時を同じくして、サッカーはJリーグというプロスポーツが誕生。恐らく日本国民が初めてオリンピック以外の世界大会…つまり『ワールドカップ』という名称を強く意識し始めたんじゃないかと思うんだけど」
「それ以外の競技にもワールドカップってありませんでしたか」
「あるよ。ラグビーなんかはサッカーなんかよりも、前に日本は出てるし。だけどラグビーをバカにするわけじゃないけど、大会規模が違うし…話題性ってことで言えば、全然違ったんじゃないかな…。ほら、初めて日本がワールドカップに出れるかどうかって時の『ドーハの悲劇』とか」
「聴いたことはあります。あと少しのところで出場できなかったのですよね…」
「ロスタイムにコーナーからのヘディングシュートが決まっちゃってね…。その時、ピッチにいたのがラモスさんなんだけど、あの人っていわゆる帰化選手じゃん」
「えっ?…あっ、確かに…」
「サッカーはJリーグになる前から、南米出身の日系二世選手がプレーしてて…そのころはどちらかと言うと『技術交流』が主だったわけだけど…セルジオ越後さんとかもそうだったハズ」
「そうなのですね…」
「そういう土壌があったから…かな…、その後、呂比須ワグナーさんとか、三渡主アレサンドロさんとか…サッカーは他の競技に較べれば、割と早い段階で帰化選手の日本代表入りが進んだんだ」
「さすがにお詳しいですね」
「でも、親父に言わせれば『相当な違和感があった』ってさ。『見た目日本人の二世』ならまだしも、明らかに異国の容姿の人が『日本代表』…って。今のオレたちでは理解できない感情だし、外でそんなこと言おうものなら、袋叩きにされるだろうけど…」
「そうですね」
「それから30年以上経って、今やどの競技にも普通にハーフとか、クォーターとかの『日本代表選手』がいるわけじゃん。日本の国技、お家芸だっていう柔道でさえも」
「はい。ここ数年特に増えましたね」
「それだけ日本の国際化が進んだ…ともいえるし、世間もハーフの人たちに対する偏見がなくなったってこと」
「えぇ…」
「世論だけでいえば『海外の血をどんどん増やすべきだ』みたいな声も散見される。『日本人そのものの体質改善をしない限り、世界で戦うことはできない』って声も」
「わからなくはないですが…」
「だとすると『日本人って何?』ってことにならない?」
「あっ…」
~つづく~
チャリティライブまで、あと3話です。
しばし、お待ちを。