【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「なにかあった?こう見えても、私、結構忙しいんだけど…」
海未に呼び出された真姫は、いつものように面倒くさそうな顔をした。
「すみません。相談できる人が真姫しかいなかったものですから…」
「まぁ、いいけど…それで、相談って?」
「はい…あの…その…真姫は…人を好きになったことがありますか?」
「はぁ?」
「真姫は…その…」
「そ、それは…ないわけじゃないけど…」
真姫の脳裏に真っ先に浮かんだのは、今、アメリカで仕事をしている同級生。
「な、なによ?藪から棒に…」
「私は…私は…今、好きになった人がいます…」
「高野さん…でしょ!?」
「はい…」
一回頷いた海未だが
「な、なぜ、わかったのですか!?」
と大きな声で叫ぶ。
…知り合って5年以上経つけど…
…海未のこういうところがいまだに理解できない…
「わかるでしょ、普通…」
「そうなのですか」
「そうなのですか…って…まぁ、いいわ…それで?」
「私のこの想いを、どうにかしてほしいのです!」
「はぁ?…そんなこと本人に言いなさいよ。私に言ったって仕方ないでしょ?」
「それが出来れば苦労しません」
「だとしても…電話でも言ったけど、恋愛相談なら希とか絵里にしなさいよ。私に話したって何の解決にはならないわ」
「希や絵里ではダメなんです。サイズが違いすぎます!」
「サイズ?」
「い、いえ、レベルが合わないと言おうとして間違いました」
「?」
「気にしないでください」
「まぁ、確かに色々経験値は高そうだけど…」
「はい」
「でも穂乃…は無理か…えっと…ことりだっているじゃない」
「私は真姫に話を聴いて欲しいのです!!」
「…わ、わかったわ…」
海未の剣幕に圧(お)され、真姫は思わず首を縦に振った。
「ありがとうございます」
…希や絵里と較べて、レベルが低いって思われてるのは癪だけど…
「ズバリ、私はどうしたらよいのでしょう?」
「嘘でしょ?そんな丸投げの相談ってある?」
「…すみません…いささか直球過ぎました…。では、まずは話だけでも聴いてください」
「…」
「私は…高野さんに助けられて以来、ずっと胸の中に彼がおりました。最初は真姫が言った通り『吊り橋効果』もあったのかもしれません。ですが、日が経つにつれ、高野さんがただ優しいだけの人でなく…考え方とか、生き方とか、共感することが多く…人間として尊敬できる存在へと変わっていったのです」
「へぇ…海未がそう言うのなら、よっぽどなのね」
「もちろん、高野さんにはつばさんがいらっしゃいましたので、私の出る幕などありませんでしたから、それはそれで自制心が働いていたのですが…」
「どうやら2人は別れてしまったらしい…と…」
真姫も、おおよそのことは聴いていた。
「…はい…」
「それを知って、ブレーキが利かなくなってきた?」
「はい」
「まぁ、別に人を好きになることは悪いことじゃないと思うけど…」
「実は、毎日のように夢に現れるのです」
「夢?」
「はい、高野さんが…」
「そこまで?」
「そして…」
「そして?」
「…そして…」
「そして?」
「…みんなが高野さんを奪っていくのです…」
「…みんな?…」
「μ'sのみんなです。ある時は希や絵里が大きな胸を見せつけて…ある時はことりが女子力を武器に…この間は花陽まで私を裏切りました…」
…なるほど…
…そういうこと…
…それじゃあ、彼女たちに相談できないわ…
「ん?今、みんなって言ったけど私は?」
「はい。当然含まれてます」
「なにそれ、意味わかんない!私がそんなことするハズないじゃない!」
「しかしながら、真姫は主犯ではありません」
「主犯…って」
…ってことは、なに?…
…海未の中では「私は安心」って思われてるのね…
…女として魅力がないってことかしら…
…そう思うと少し、腹立たしいんですけど…
真姫は思わず苦笑いをした。
「やはり、こんな夢を見てしまう、私はおかしいのでしょうか?」
「精神科は私の専門外…」
「すみません」
「ただ、海未がその人のことを本気で好きだということはわかった」
「ありがとうございまさす」
「だったら、その気持ちを書き留めておけば、いい歌詞ができるんじゃない?園田海未、初めてのラブソング…完成したら曲をつけてあげるわ」
「からかわないでください!」
「真面目に相談に乗ってるのに、それはないんじゃない?」
「すみません…つい…」
「言っちゃえばいいじゃない」
「えっ?」
「…メンバーに。『園田海未は高野さんのことが好きです!だから誰も盗らないでくださいって』」
「そ、そんなこと…それに…まずは高野さんがどう思っているかが大事かと…」
「なら、答えは出てるでしょ」
「えっ?」
「本人に確かめるのが一番…ってこと」
「そ、それはそうなのですが…いえいえ、やはりそうはいきません。それに…」
「つばささんの存在を気にしてる?」
「もし、仮に…高野さんが私の好意を受け入れてくださったとしても…それだと、まるで週刊誌に書かれた通りなってしまいます…」
「それは、確かにわからなくはないけど…別に海未が別れさせたわけでもないし…たまたまそういうタイミングだったわけで…」
「そう簡単には割り切れません」
「でも本当に、高野さんってそこまでの人なの?結構女好きなんでしょ」
「そんなことあり…ま…せん…たぶん…」
…正直、そこは否定できないのですが…
…つばささんは『口だけ番長』と申してましたし…
「でしょ?もう少し冷静になった方がいいんじゃないかしら」
「私は至って冷静です!」
「ふ~ん…」
…海未がそこまで入れ込むなんて…
…ちょっと興味あるかも…
「そうしたら、一回どこかに誘ってみたら?」
「えっ?」
「別にデートってほど大袈裟なものじゃなくて…ちょっと食事にいきませんか?くらい。ひとりで不安なら、私も付き合ってあげるわ」
「はぁ…」
「丁度いいじゃない。もうすぐクリスマスだし」
「…って、真姫はクリスマスの予定はないのですか?」
「ヴェー…よ、余計なお世話よ…私はそういうのは面倒くさいから…その…」
「…」
「…」
「とりあえず、ありがとうございました。話を聴いてもらえて、少し楽になりました」
「…役に立ったなら何よりだわ…」
「そうですね…確かに、まだ自分がどこまで本気なのか、よくわからない部分がありますので、一回落ち着く必要はあるかと思います。…では、今日はこれで…もう少しどうしたらよいか自分で考えてみます…」
「そう…わかったわ」
そうして2人は「また…」と、軽く手を上げて別れた。
年の瀬も近づいてくると、音楽番組がやたらと多くなる。
TVでA-LISEとアクアスターを見ない日はない。
稼ぎ時と言えば、稼ぎ時か…。
そんな彼女たちが、持ち歌ではないクリスマスソングを披露している。
「早いなぁ…今年も1ヶ月足らずで終わりだよ…」
高野にしてみれば、入院生活が長かった為、初夏からいきなり冬になった感覚だ。
Jリーガーであれば本来、この時期はまだ、天皇杯を戦っていなければならない。
天皇杯の決勝は1月1日。
従って優勝を争う2チームは年が明けなければ、仕事納めにならない。
しかし、それはサッカー選手として、すごく幸せなことなのだ。
逆に言えば早々に敗退してしまったチームは、もう、今シーズンが終わったことになる。
以前、サッカーは『アップセット(番狂わせ)』が起きやすいスポーツだと紹介したが、日本国内においては、この大会こそ、それが顕著に現れる。
天皇杯は高校生、大学生、社会人、クラブチーム…そしてプロが混じって予選から戦う。
実際、梨里の所属チームも高校生に不覚を取った。
がっちりと守りを固められ…放ったシュートはバーを叩くなどの運にも見放されたが…結局は延長戦も無得点で終わり、PK戦で涙を飲んだ。
ベスト16入りすらできなかった。
プロ入りしてから3年、常にベスト8入りをしていただけに、これほど早く終戦を迎えるのは初めてのことである。
もっとも、チームが勝ち進んでいたとしても、高野がベンチ入りすることはなかったわけだが…。
…ということで、彼は久々に家で中継を観た。
その結果、今年のベスト4は川崎vs鳥栖、仙台vs神戸となった。
どのチームが勝っても初優勝という、とても面白い顔合わせである。
「準決勝は12月23日…川崎と鳥栖は…『等々力』かぁ…たまには観戦に行ってみるかな」
『等々力』とは川崎フロンターレの本拠地のこと。
神奈川に自宅がある高野にとって、ほぼ地元と言っていい。
…もしかしたら、次のオレのホームグラウンドになるかも知れないし…
そんなことを考えている時に、高野のスマホが鳴った。
「園田さん?」
~つづく~
アクアサクラスター
セイントアクア スノー
ビミョーに似てない?