【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
「遅いよ…」
「ごめんなさい…初めてのデートなのに遅れちゃいました…」
「オレは、時間にルーズな人は嫌いなんだよ」
「このブラウスのボタンを、開けた方がいいか、留めた方がいいかで悩んじゃって…」
「はぁ?」
「高野さんだったら、どっちが気に入ってくれるかな?…って考えてたら出るのが遅くなっちゃって」
「そんなの、どっちだっていいのに…」
「どっちでもよくないです!女の子のオシャレは、とっても、と~っても大事なんです!…だから…」
「あ、あぁ…わかった、わかった。ごめん、オレが悪かったよ…そんな目で見られたら、許さざるを得ないじゃないか…」
「うふっ!」
「さてと…それじゃあ、南さん、どこに行こうか?」
「ことりでいいですよ?」
「ん?」
「ことりって呼んでください!」
「えっ?あ、あぁ…じゃあ、ことりちゃん…どこに行こうか?」
「虹色のマカロンが食べたいです」
「虹色のマカロン?」
「はい!あ、じゃあ、私が案内しますね?」
「えっ?…あぁ…」
「美味しかったですぅ」
「マカロンって、初めて食べた…」
「今度、チーズケーキ食べに行きましょう!」
「あぁ…」
「疲れませんでしたか?」
「…っていうより、緊張した…」
「緊張ですか?」
「そりゃ、ことりちゃんとデートだもん…周りの目だって気になるし…」
「ふふふ…じゃあ、ここでゴロ~ンって横になって、くつろいでくださいな」
「ここで?」
「はい!背中をマッサージします!」
「ん?」
「もみ、もみ、もみ…」
「あ~気持ちいい…」
「…ちゅん、ちゅん!…はい、終わりです!」
「ありがとう、楽になったよ…」
「次はご飯を食べましょう!高野さんの為に、じっくりコトコト煮込んだスープです。…あんまり自信ないけど、頑張りました!」
「どれどれ?…うん、美味しいよ!」
「本当ですか!」
「ことりちゃんは、いいお嫁さんになれるねぇ!裁縫も得意だし…」
「えへへ…」
「誰かさんとは大違いだ…」
「誰かさん…って、誰かな?」
「ん?え~と…園…」
「ダメですよ!ことりと一緒の時は、他の人を見ちゃイヤです」
「あ…」
「私だけを見つめてほしいの…」
「…」
「ことりは高野さんのこと、好きです!高野さんはことりのこと、好きですか?」
「あぁ、もちろんだよ…大好きだ!」
「嬉しい…。じゃあ、その証拠を見せてください!」
「しょ、証拠?あ、いや…それは…みんなが見てるし」
「じゃあ、私からしちゃおうかな?…」
「あっ…」
「ことり!!破廉恥すぎます!!」
海未はそう叫んで、布団を跳ね上げた。
…えっ?…あっ…
…夢…でしたか…
はぁ…と大きくため息をついた。
時計を見ると、午前3時。
まだ、起床するまでは3時間ほどある。
…そうですね…
…ことりと勝負したら、勝てる気がしません…
…我ながら女子力の無さに、幻滅します…
…ですが、高野さんも高野さんです…
…いくらなんでもデレデレしすぎです!!…
…時間にルーズな人は嫌いだと言っていたのに、あんなにすぐに許すなんて…
…と…私は夢の中の出来事に、何を怒っているのでしょうか…
「おやすみなさい…」
海未は布団を元に戻すと、気を取り直して再び眠りについた…。
「この人が、海未ちゃんの彼氏の高野さん?なかなかのイケメンさんやね?」
「えっ?えぇ…まぁ…あっ、梨里さん。こちらが希で、こちらが絵里です」
「あぁ、どうも。いつも海未がお世話になってます」
「海未?海未は海未って呼ばれてるの?いつからそんな仲に?」
「はい、つい最近…」
「希さんも絵里さんも、動画では何度も観てますが…実物はもっと綺麗ですね」
「まあ、高野さんって、お世辞が上手なのね」
「あれ?絵里さん、そう聴こえます?…めっちゃ本心なんですけど」
「そうなんや、ありがとさん!でも、…ウチらのこと、ほんまにちゃんと見てくれてるん?胸しか見てないやない?」
「あははは…そんなこと…半分正解です」
「り、梨里さん!」
「だって、海未…それはそれで2人のチャームポイントなワケだし、男として興味ない…って言えば嘘になるじゃん」
「梨里さん!」
「むふっ…正直な人やね!…せっかくやから、ウチのおっぱい…見てみるん?」
「えっ?いいんですか!?」
「いいわけないです!」
「あら、希のだけでいいの?私のは?」
「も、もちろん2人とものが見たいです…」
「ハラショー!」
「決まりやね!」
「なにがハラショーですか!希も絵里も、梨里さんも、みんな破廉恥です!!」
「海未、そんなに僻むなよ…無い袖は振れないんだし、それは仕方ないだろ?…あ、違うか…無い胸は揺れない…か」
「梨里さん!なんてことを言うのですか!?」
「まぁまぁ、海未ちゃん…女の魅力は胸の大きさだけやないから…」
「あなたに言われても説得力がありません!」
「じゃあ、海未…そういうワケだから…。梨里さん行きましょう」
「ほな、海未ちゃん」
「絵里!希!梨里さんをどこに連れて行くのです!?」
「ふふふ…どこだっていいじゃない」
「強いて言うなら…『硝子の花園』?」
「意味がわかりません!」
「向こうに花陽と、あんじゅさんと、めぐみさんも待ってるわ」
「ワオ!って、ことで…海未、じゃあな!」
「ま、待ってください!!」
寝ていた海未は、再び、ガバッと上半身を起こした。
…はぁ…はぁ…
…夢ですか…
…それはそうです…
…希は多少怪しいですが、いくらなんでも絵里はあんなこと言うハズはありませんし…
…ですが…
海未は自分の胸を触ってみる。
…はぁ…
…虚しい…
…いえいえ…
…そんなことを言えば、つばささんだって『ありません』でしたし…
…私にだって希望は…
…4時ですか…
…眠るのが怖いですが…
…さすがに、起きるにはまだ早すぎますね…
…二度あることは…と言いますが…
…いくらなんでも…
…大丈夫です…
…もう一眠りしましょう…
海未は布団を掛けると、三度眠りについた。
「海未ちゃん!」
「!」
「どうしたの?そんなビックリした顔して」
「穂乃果でしたか…なら、安心です…」
「ん?なんか言った?」
「い、いえ、なにも…」
「高野さんかぁ…サッカー選手でしょ?…いいなぁ…穂乃果も素敵な彼氏が欲しいよう」
「穂乃果なら、選り好みしなければ、彼氏のひとりやふたり、すぐ作れます」
「それより…ウシシシ…上手くやったねぇ…」
「なんのことですか?」
「だって、海未ちゃんがふたりを別れさせたんでしょ?それで、ちゃっかり高野さんと付き合っちゃうんだからさぁ」
「そんなんじゃありません!」
「穂乃果も、事故に逢おうかな…そうすれば…」
「ば、馬鹿なことを言わないでください!人の生死に関わることです!そんな軽々しく…」
「本当にそうだわ」
「つばささん!?いつの間に!?」
「海未さんが、あの日、あの時、あんな場所にいなければ、梨里は事故に遭わずに済んだのに…」
「…申し訳ございません…」
「まぁ、まぁ…ふたりとも喧嘩しないの…なんなら穂乃果が高野さんと付き合ってあげようか」
「高野さんは、あなたのようにだらしない人とは付き合いません」
「オレは別に穂乃果さんでもいいけどなぁ…」
「梨里さん!」
「穂乃果ちゃん、明るいし、ノリがいいし…海未はオレがボケても突っ込んでもくれないし」
「それなら凛の出番にゃ~!」
「どうして凛が出てくるのです!」
「え~、だって高野さんなら凛の方が、海未ちゃんよりも、楽しくやれそうだもん」
「あなたには、ちゃんと彼氏がいるじゃないですか!」
「そうよ!だから高野さんは、私と付き合うってことになってるの!」
「なんで西木野さんが、凛と海未ちゃんの話に入ってくるの?」
「どこかで聴いたことあるセリフね…」
「凛とも真姫とも、高野さんは付き合いません!そもそも胸が小さい人は…」
「別に小さくてもいいけどさ…オレのこと好きでいてくれれば…」
「じゃあ、このアタシにもチャンスがあるってことね?」
「にこ!?」
「もちろん!っていうか、オレ、全員と付き合うわ!そうすれば丸く収まるんじゃね?」
「収まりません!!」
目を覚ました海未の表情は、殺気立っている。
…危ないところでした…
…あのまま続きを見ていたら、みんなを矢で射抜いていたかもしれません…
…いえいえ、そもそも私は高野さんの何者でもないのです…
…なのに、こんな夢を見てしまうこと自体、間違いなのです…
…修行が足りないのです…
…わかっています…
…高野さんはこれからが大切な時期なのです…
…ですから…つばささんとも別れ…
…わかっています…
…わかっているのですが…
…高野さん…
…私は…
…私は…あなたのことが…
海未はやおら起き上がると、パジャマを脱ぎ、ジャージに着替えた。
時刻はまだ、5時前。
真っ暗である。
それでも海未は、そっと玄関を出ると、夜明け前の街へと走りに出掛けた。
寒い。
寒いが、なぜか海未の瞳からは『汗』が流れ落ちていた…。
~つづく~
次はフロンターレに入ろうかな?
by 梨里