【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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運命感じてよ

 

 

 

 

「オレにとって、ヤツは特別な存在であることは間違いない。でも、それが恋愛感情かっていうと、正直少し違うかな…とも思ってて…尊敬してる…ってのが正しい表現なのかな…」

 

改めて『どんな関係か』って訊かれて、オレはそう答えた。

 

「尊敬…ですか」

 

園田さんが、不思議そうな顔をする。

 

「…その言葉が一番しっくりくるかも。そうなった経緯は…話せば長くなるけどね」

 

「是非聴きたいです!」

 

「穂乃果!!」

 

「えぇ?いいじゃん、いいじゃん!」

 

「そんな面白い話でもないよ」

 

 

 

オレは人の色恋沙汰に一切興味はない。

 

誰がどうやって知り合ったかなんて聴いたところで『だからなに?』と思ってしまう。

 

しかし、彼女たちは違うらしい。

 

それがオレの中で『女子』という生き物の、わからない部分でもある。

 

 

 

「そうだなぁ…小学校の頃のヤツはオレよりも背が高くて、頭も良くて、リーダーシップもあって…それでスポーツもできて…早い話、何もかも完璧だったわけ」

 

あまりに興味津々な感じでオレを見てるので、仕方なく話すことにした。

 

「海未ちゃんみたいだね?」

と南さん。

 

「そうでしょうか…」

 

園田さんは、小さく首を傾げた。

 

 

 

なるほど。

 

確かに根本的な部分では似てるかも知れない。

 

少なくともヤツは高坂さんと南さんタイプではない。

 

 

 

「そんなわけで当然男としては、面白くないわけよ。なんていうかな…こう…何にも勝てないってことに対して。それで、ついついくだらないことで、反発したり、競ったりしちゃってね。その頃は、オレの方が一方的にライバル視してたんだよね」

 

「いるよねぇ。好きな女の子に、ついついちょっかい出しちゃう男の子って」

 

「今思うと、その感情に近かったのかも。当時は認めたくなかったけど、心のどこかで『コイツには敵わないな』って気持ちがあったんだろうね…。言い換えると、それが『憧れ』ってことなのかな」

 

「なるほど」

 

高坂さんも南さんも、メチャクチャ頷いている。

 

 

 

…本当に女子って、こういう話、好きなんだねぇ…

 

 

 

「それで?それで?」

と高坂さん。

 

 

 

…グイグイくるなぁ…

 

 

 

「小学校卒業して、お互い別々の学校に進んだんだけど…ある時、一回だけ地元の公園で逢ったことがあるんだ。本当に偶然に。その時ヤツは、なんか悩んでる感じで…。あとから聴いたところによると、雑誌に読者モデル?みたいな写真が載っちゃって、学校と揉めたらしいんだよね。ヤツはバレーボールの特待生として、中学は進学してたから」

 

「あっ!ことり、その時のこと覚えてますよ!確かその翌月号で『J-BEATの専属モデル』としてデビューしたんですよね。すごく綺麗な人で…とても同い年には見えなかったなぁ…」

 

「うんうん。ことりちゃんが凄く興奮してたのを、穂乃果も覚えてる」

 

「はい!ありましたね、そういうこと」

 

「へぇ…そうなんだ。よく覚えてるね」

 

「ことりちゃんは、ずっとファッションが好きで、あの雑誌読み込んでたもんね」

 

「うん!だからμ'sで衣装が作れることになった時、夢が叶ったって思ったんです。今、思うと、『AYA』さんとの出会いが、この道に進むキッカケだったのかな…って」

 

「ターニングポイントか…。ヤツに言わせると、その時にオレと逢ったことで、何かが吹っ切れたらしくって…まぁ、同じかな。人生の転機っていうの?」

 

「ドラマチックだねぇ!」

 

「うん。オレもそう思う。本当に『あの日、あの時、あの場所でヤツに逢わなかったら』お互いにこうはなってなかっただろうし」

 

「どこかで聴いたことあるフレーズですね」

 

園田さんがクスッと笑った。

 

「でもオレが『ヤツの人生を変えた』かと思うと、すげぇ不思議でさ。ちょっとした責任みたいなのも感じたりして」

 

「つばささんがサッカーを始めるときも、高野さんに相談したのでしたよね?」

 

「そうだね。その公園で偶然逢った時…詳しくは何を話したかは忘れたけど『何か相談があったらのるよ』みたいなことを言ったらしくて…ヤツがソレを覚えてた」

 

「きっと忘れられない一言だったのですね」

 

「…なのかな?」

 

「はい」

 

「海未ちゃんさ、これって、やっぱり『運命!』ってヤツだよね?」

 

「私はあまりそういうことは信じませんが…でも、何か特別なお互い惹かれ合う力があったのでしょう」

 

「まさに『スピリチュアルやね!』」

 

「穂乃果、別に希のマネをしなくてもいいいです」

 

「でもさ、私たちだって『ファーストライブのときに花陽ちゃんが観に来てくれなかったら』9人にはなってなかったかも知れないし…『真姫ちゃんが生徒手帳を落とさなかったら』とかさ『学校が廃校の危機になってなかったら』…とかさ、色々『これって運命!?』って思うこと、いっぱいあったじゃん」

 

「そうだよねぇ。もっと言うと…ことりと穂乃果ちゃんと海未ちゃんと出会ってなかったら…って話だよね」

 

「そこまで遡りますか!?」

 

「オレもね、運命なんて言葉は単純に使いたくないんだけど…人間って、常に取捨選択しながら生きてると思うんだ」

 

「取捨選択?」

 

「例えば、今、こうして屋上にいるわけだけど、まったく同じ話を病室でしていたとして…このあとの生活にどれだけ違いが出るんだろう…ってさ」

 

「『If』」の世界ですね?」

 

「ことりもそういうの、すごく興味あります。例えば衣装作るときも、アクセサリーを付ける?付けない?で、1日中悩んだりして」

 

「ひょえ~1日中?」

 

「お客さんにとっては、もしかしたらどうでもいいことかも知れないし、どっちでも結果は変わらないかもだけど…それだけで印象が変わっちゃったりするかもだし」

 

「あぁ、なるほど!ダンス中にアクセサリーが落ちて、踏んづけちゃって、滑って転んで、頭を打って、救急車で運ばれて…そこで素敵な人と出会って、恋に落ちて、結ばれて…みたいなことがあるかも知れないし…ってことでしょ」

 

「なんですか?その『風が吹いたら桶屋が儲かる』みたいな、ご都合主義の発想は」

 

「えへへ…」

 

「でも、基本そういうことだと思うよ。あの時も…事故のあの日、オレはタクシーで帰るって選択肢もあったんだ。そうしていたら、今回のようなことは起きなかったかも知れないし、逆に乗ったタクシーが事故に遭っていたかも知れない。それは誰にもわからないことなんだ」

 

「…」

 

「オレは自分の意思で歩いて帰った。自分で決めたことなんだから、こうなっても半分は仕方ないと思ってる」

 

「…高野さん…」

 

「だからね…『運命』って死んだ時に使う言葉なんだろうなって思うんだ。進行形じゃないと思うんだよね。だってさ、その時の判断ひとつで、まったく違う結果になる可能性があるわけだから」

 

「む、難しいことを言いますね…」

 

「そうかな?」

 

「大丈夫です。穂乃果にはあとで私から説明しますから」

 

「うぅ…」

 

「この間お話した時もそうでしたけど、高野さんはすごく哲学的なことを話されますよね」

 

「理屈っぽいってことでしょ?」

 

「いえ、私は嫌いじゃないですよ」

 

園田さんは、凄く楽しそうな顔をした。

 

「まぁ、話は横に逸れたけど…そこから先は会見で話した通り。ヤツがサッカー選手に転身したいきさつはみんなも知ってるだろうし」

 

「会見通りか…」

 

「高坂さん、納得してない?」

 

「ううん、そういうわけじゃないけど…よくわからないな。お互い『好き』って思ってるのに、それが恋愛かどうかわからないとか、結婚は考えてないとか…」

 

「あはは…それはオレたちが一番そう思ってるよ」

 

「じゃあさ、もしつばささん以外に、素敵な人が出てきたら?」

 

「穂乃果!!失礼ですよ!」

 

「いいじゃん、折角の機会なんだし」

 

「う~ん、どうかな…その時になってみなくちゃわからないけど…ヤツ以上に好きになっちゃったら、それはそれでそうなっちゃうかも」

 

「えっ?そんなこと言っちゃっていいんですか?」

 

「ことり!」

 

「ヤツも多分同じ考えじゃないかな…。少なくともオレはそう思ってるけどね…」

 

「じゃあ、会見で言ったことって…マスコミ向けの発言じゃないんだぁ」

 

高坂さんは真顔で驚いている。

 

「ほら、よくあるでしょ?そう言っておきながら、翌月結婚してました…みたいな」

 

 

 

…あぁ、あるね…

 

 

 

「それは大丈夫。まだ結婚のケの字もないし、妊娠もしてないから」

 

「に…に…妊…」

 

「海未ちゃん、反応しすぎだよ」

 

南さんはそう言って笑う。

 

 

 

「?」

 

オレは何にどう反応しすぎなのか、よくわからない。

 

 

 

「そうだよね。さすがにお腹に赤ちゃんがいたら、サッカーは無理だもんね」

 

「当たり前じゃないですか!」

 

「いちいち目くじら立てないでよぅ」

 

「あなたがくだらないことを言うからです」

 

「くだらない…ってなによ」

 

「やはり、あなたを連れてくるのではありませんでした…」

 

 

 

「海未ちゃん!穂乃果ちゃん!」

 

 

 

「あっ!私としたことが…」

 

「えへへ…ごめん」

 

 

 

「すいません、高野さん。でも2人はこれが通常モードなんです」

 

「へぇ…そうなの?」

 

「もう、ずっと変わらないんです。ちっちゃい時から」

 

そう言いつつ、南さんの顔は困っている感じではない。

 

「嬉しそうだけど?」

 

「はい。私たちは同級生で…昔から一緒にいるんですけど…ことりは2人の『じゃれあい』が聴こえないと、心配しちゃうんです。どっちかが調子悪いんじゃないかな?って。海未ちゃんもあんなことがあって、しばらく落ち込んでたんですけど…やっといつもの海未ちゃんに戻ったな…って」

 

 

 

「ことり!私は好きでこんなことを言うのではありません!」

 

「穂乃果だって、好きで怒られてるんじゃないよぅ!」

 

「はいはい」

 

 

 

「喧嘩するほど、なんとか…ってヤツかな?」

 

「はい、その通りです!」

 

彼女はにこやかに笑った。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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