【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~ 作:スターダイヤモンド
オレたち4人は病室を出ると、エレベーターに乗り込み、屋上まであがった。
病院は12階建てである。
都心のビル群の中では、決して高い建物ではわけではないが、それでもこの身にあっては、心身とも開放できる貴重なスペースだ。
一番手前を歩いていた南さんが風除室のガラスドアを開けると、ビュッ!と突風が吹き込んできた。
「きゃっ!」
「おっと…」
彼女の細い身体が飛ばされそうになり、オレの方へと倒れてくる。
「ごめんなさい、よろけちゃって…大丈夫ですか?」
南さんは車椅子に座っているオレの目線に合わせる為、わざわざしゃがみこんでそう言った。
顔が近い。
看護師さんと理学療法士さんは別として…チョモ以外の女性とこんなに接近したのは久々だ。
…可愛い…
思わず声に出そうになった。
少し舌足らずな感じの…いわゆるアニメ声と、視線が逸らせなくなるような上目遣い…。
確かオレと同い年で…つまり、もう成人しているはずなのだが、とてもそんな風には思えなかった。
『正統派の美少女』
オレは新文の記事を思い出す。
…なるほど…初対面でもすぐ惚れちゃうという話はよくわかる…
もっとも、そんな仕草もルックスが伴ってなるから許されるわけだが、きっと彼女は自然にこういうことができる人なのだろう。
「南さんこそ、大丈夫?」
オレは動揺を隠すように、声を掛けた。
「はい」
「ことり!気を付けてください」
と園田さん。
…ん?…
…一瞬、園田さんの目が、一瞬光ったように見えたんだけど…気のせいかな?…
「うん、そうだね。思ったより風が強くて…」
南さんは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「うわぁ、風が気持ちいいねぇ!!」
屋外に出た高坂さんが、両手を広げてクルクルと周る。
さすが元カリスマスクールアイドル。
ただそれだけなのに、とても格好良く見える。
「そうですね!今日は湿度も低いですし、心地良いですね」
園田さんは宙に手を翳(かざ)して、目を閉じる。
それもドラマとか映画とかの…そんなワンシーンに見えた。
意識しているわけではないが、目の前にいる人たちが『μ'sのメンバーだ』って思うと、動作のひとつひとつが普通の人と違って見えるから不思議だ。
「地上は無風だったんだけどねぇ…」
と南さん。
「やっぱり、地上12階ともなれば、それなりに高さがあるから…」
院内にいたら感じることができない、夏の暑さ、太陽の眩しさ、そして吹き抜ける風…。
生きてるぅ!!て感じがする。
幸いなことに、今は誰もいない。
隅にあるベンチは空いていた。
「あそこに座ろうか…」
とオレは彼女たちをそこに誘う。
「屋上かぁ…。なんかμ'sの練習を思い出しちゃうね?」
「うん。ことりも同じことを思ったよ」
「はい、私もです」
3人が口々に言った。
「練習?」
とオレ。
「はい!私たちは高校時代、練習場所がなくて…辿り着いた先が屋上だったんです。だから、周りの景色は違うけど、こうやって空を見上げると、その頃のことを思い出しちゃって…」
「そういえば高校を卒業してから、屋上に出る機会など、そうそうないですものね」
「確かに…ことりも久しぶりかも」
「屋上が練習場所?…μ'sってスクールアイドルのカリスマって言われてるんでしょ?それがそんなところで?」
「カリスマだなんて、大袈裟だよ」
「うん。私たちは全然そんなこと思ってないよね」
「まぁ、そう言ってくださるのは、本当に嬉しいことではあるのですが…」
「でも最初は…『残ってた』のが、そこしかなかったから…ってことだったんだけど…大きな音を出しても迷惑にならないし、自分たちしかいないから他の部活の邪魔にもならないし…今思えば、最高の場所だったのかな?って」
「そうだよね、ことりちゃん!寝てても怒られないしね!?」
「穂乃果は場所を問わず寝るじゃないですか!」
「あははは…まぁ、そうだけどさ」
…高坂さんか…
…面白い人だな…
「実は…園田さんには話したことがあるんだけど、オレ、μ'sのことは恥ずかしながら知らなくて」
「いえいえ、そんな…穂乃果たちなんて『知る人ぞ知る』みたいな存在ですし…ねぇ?」
「はい」
「皆さんのことについては『新文の特集』で、勉強させてもらったんだけど…」
「あっ…」
「改めて、迷惑をかけてしまって…申し訳ない。それと園田さんを支えてくれてありがとう!」
「高野さん!?」
園田さんが驚いた顔をしてこっちを見た。
「そ、そんな、高野さんに謝られる理由はないですよ」
「いやいや、高坂さん。園田さんが相当精神的に追い込まれていたことはオレも知ってるんだ。もしかしたら、自ら命を絶ってしまうんじゃないかと思ったし…それに対してどうしてあげることも出来ない自分に、虚しさもあった」
「高野さん…」
「だけど、園田さんから聴いたよ。素晴らしい仲間たちに救われたって。園田さんが元気になってくれることによって、オレも救われたんだ。本当にありがとう」
「いえ、お礼を言うのこっちです。あのとき海未ちゃんを助けてくれなければ…」
「それでね」
と、オレは無理やり高坂さんの話を打ち切った。
「どうしても心残りなことがあって…」
「えっ?」
「それが、このことがキッカケでμ'sの皆さんにまで、話が及んじゃったこと。さっき冗談半分で『特集』のことを言ったけどさ…正直読んでて腹が立ったし、どうしてこうなったのかな…みたいな。本当はひとりひとり、直接、謝りたいんだけど…」
「そんな必要はないよ!!」
「高坂さん…」
「確かに、あの記事が出たときは、何これ?って思ったし、頭にきたけど…穂乃果なんか太ったとか書かれてるし…」
「穂乃果ちゃん、それは事実だから…」
「うっ!ことりちゃん…違う、違う…そういうことじゃなくて…えっと、穂乃果はさ、今回のことがあって、またμ'sの絆がグッと深まったと思ってるんだ。卒業してからも、個々に集まってるし、仲が悪いなんてことはないけど…なんていうのかな、困難を乗り越えて、またひとつ強くなったというか」
「うん、それはそうだね。怪我の功名って言ったら、ちょっと違うかも知れないけど、9人全員集まったのも久しぶりだしね」
「はい。おかげさまで、つばささんを始めとした皆さまとも、つながりが出来ましたし…他のメンバーも喜んでましたので。ですから…」
「そっか…それは良かった。そうやってポジティブに考えてくれてるなら、本当に良かった」
オレは安堵した。
だが、不安の種は残っている。
「でも、このまま、あの新文の柏木ってやつが、黙って引き下がるとは思えないんだ。もし、何かあった時は、迷わずつばさを頼ってくれて構わないから」
「はい。ありがとうございます」
3人が揃って頭を下げた。
「ところで、高野さん、実際のところ、つばささんとの関係ってどうなんですか?」
「ぶっ!」
オレはあまりに直球な質問に、飲もうとしたジュースを吹き出しそうになった。
口に入れる前で助かった。
「穂乃果!」
「だって、海未ちゃん。興味あるじゃん、本当のところはどうなんだろう…って」
「いえ、あまりにも失礼です!本当に穂乃果は非常識です!」
「まぁまぁ、園田さん、そんなに怒らなくても…」
「ですが…」
「そうだなぁ…会見で述べた通りなんだけどね…。付き合ってるって言えば、付き合ってるし…付き合ってないと言えば、付き合ってないし…」
「そうなんですか?じゃあ、つばささんって彼女じゃないんですか?」
「彼女って言えばそうかも知れないし…」
「どっちなんですか!?」
「う~ん…あはは…よくわからない」
「えっ?」
3人ともビックリした顔でオレを見た。
~つづく~