【ラブライブ μ's物語 Vol.4】オレとつばさと、ときどきμ's ~Winning wings 外伝~   作:スターダイヤモンド

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2人の関係は?

 

 

 

 

 

》単刀直入に…夢野つばささんは今、お付き合いされている方がいらっしゃる?

 

「…付き合ってるという表現が正しいかどうかはわかりませんが、大切な人ではあります」

 

》それは『高野梨里』さん?

 

「…はい…」

 

》改めて、どういうご関係か教えて頂けますか?

 

「えっと…高野くんとは小学生時代の同級生で…私がサッカーを始めるにあたって、色々相談に乗ってもらいました」

 

》相談だけですか?彼の身体の上には乗ってないですか?

 

 

 

「…」

 

 

 

》おいおい、さすがにこの場でその質問はないだろう…

 

》飲み屋の会話じゃないんだから

 

と仲間内から、その発言をした質問者にヤジが飛ぶ。

 

先ほどから、失礼な質問を繰り返していたヤツとは別人のようだ。

 

 

 

》当時、つばさんはフットサルをされてましたが、その人たちから教わるということは考えていませんでしたか?

 

》なぜ高野選手だったのですか?

 

気不味い空気の中、別の記者が話を続けた。

 

「家が近所だったからです」

 

わはは…と会場が沸く。

 

しかし冗談みたいな話だが、嘘ではない。

 

あの日、あの時、近所の公園で偶然会わなければ、こうはなっていなかった。

 

「それに、サッカーとフットサルでは、ボールの大きさも人数もまったく違う競技なので、ルール、システム、身体の使い方やテクニックまで…すでにユース代表だった高野くんにイチから教えてもらいました。」

 

》身体の使い方、テクニック?若いのにお盛んだねぇ!

 

 

 

「…」

 

 

 

》おい、誰だよ、こんなヤツ入れたのは!

 

》連れ出せよ!!

 

記者会見場が騒然となる。

 

慌てて警備員が、セクハラ記者を外に引っ張っていく。

 

「バカだな!視聴者や読者が一番知りたいのはそこだろ!」

 

そいつはそう言い残し、会場から消えていった。

 

 

 

》え~と…まぁ、そういう関係でお互いの仲が深まっていった…と?

 

「そうですね…えぇ…まあ…はい…」

 

》告白はどちらからされたのですか

 

「…告白…ですか?…どっちもしてない…ですね…」

 

 

 

…一応2人の間では同時…ということになっている…

 

 

 

》ご家族ぐるみの付き合いだとか?

 

「家が近所なので…」

 

》今回、週刊誌の報道から熱愛が発覚したわけですが…

 

「熱愛って言われると…ちょっと、違うかな…と思うんですけど…」

 

》実は、その高野選手が病院でこの様子を見てらっしゃるとのことで…

 

「ハッキリさせなくちゃいけないことがあるので…本当は一緒に会見できればよかったんですけど」

 

》中継が繋がってるんですよね?呼んでもらってもいいですか?

 

 

 

「…はい…高野くん?…」

 

 

 

オレが見ていたモニターの画面が、ヤツの顔からオレに切り替わった瞬間、向こうの会場から「あっ」とも「えっ」ともつかない声が聴こえた。

 

 

 

それは恐らくオレの容姿が、あまりに変わっていたからだろう。

 

そりゃ、そうだ。

 

入院してからの1ヶ月、オレはほとんど固形物を摂っていない。

 

運動もしていない。

 

体重は10kg以上落ちた。

 

げっそりとやせ細り、自分でも驚くほどの別人になっていたからである。

 

報道陣だけでなく、ヤツも驚いているかも知れない。

 

 

 

「高野です」

 

オレは構わず返事をした。

 

 

 

》ま、まずは…高野選手は今回大変な事故に遭われたわけですが…現在のお加減はいかがですか?

 

「お蔭さまで、一時は生死をさまよいましたが、何とか死なずに済みました。先日、無事手術も終わり、リハビリを始めたところです。このような状態ですが、口だけはよく動くので…みっともない格好で失礼します。」

 

》ファンの皆さんは復帰を楽しみに待っていると思います。

 

お世辞にも『お元気そうでなによりです』…などとは言えまい。

 

「そうですね…1日でも早くピッチに戻れればと思っております」

 

》さて、こちらには夢野つばさんがいらっしゃってます…オリンピックの様子はご覧になられました?

 

「はい」

 

》つばささんのプレーはいかがでしたか

 

「個人としては、よくファイトしたと思います。決められたところ、決められなかったところ、色々あると思いますが、冷静で浮き足立ってもいなかったし、気合負けもしていなかった。まぁ、僕は出場さえしていないので、偉そうなことはいえませんけど」

 

》ご自身は不幸なアクシデントがあって、そういうことになってしまったわけですが、その想いをつばさんに託したという感じですか?

 

「いえ、それはないです。『こっちのことは気にしないで、暴れてこい』と伝えまし。ただ彼女の方が、それを背負い込んでしまったのかな…とは思いますけど」

 

》それはどのような部分で?

 

「…本番前に、皆さんが騒いだことじゃないですかね?」

 

》具体的にお願いします。

 

「ひとつは私と彼女の関係について。もうひとつは私が二股を掛けているのではないかということについて。まぁ、今日はこのことについて…今流行の『説明責任』…って言うんですか?それは果たしに来ました」

 

》なるほど、では順番にお訊きします。まずつばさんとのご関係を、改めて。つばさんは『大切な人』とおっしゃいましたが

 

ここでモニターの画面が分割され、右にオレ、左にはヤツの顔が映し出される。

 

「『憧れの人』ですかね」

 

向こうの報道陣のリアクションが「えっ?」て感じになった。

 

そしてヤツは「ぷっ」と吹き出した。

 

お互い意外な回答だったのだろう。

 

》憧れの人…ですか?

 

「まぁ、みなさん、ご存知だと思いますが…私は小学校のとき、彼女と同じクラスでした。その時から彼女はバレーボールのエースで、背も高くて、頭も良くて、明るくて『スター』でしたから。…で、そのあと、モデルやってアーティストやって…サッカーでも代表になって…そんな人生、憧れません?普通できないですよ」

 

》確かに華々しい経歴ですね。

 

「当時から精神的にも、大人びてましたし…頼りになる女性だと思います」

 

》尻に引かれてる感じですか?

 

「…彼女のイメージがあると思うので、そこはコメントを控えさせて頂きます」

 

「そう言うと、肯定してるみたいでしょ!?対等ですよ」

 

 

 

…あ、今、ちょっとバカップルっぽかったな、オレたち…

 

 

 

》普段はなんて呼ばれているんですか?

 

「…彼女の本名の…下の名前ですね。『夢野つばさ』で呼んじゃうと、どうしても芸能人感が出ちゃって、余計な気を使うので」

 

 

 

…この場で『チョモ』と呼んでいることを明かす必要はないだろう…

 

 

 

》つばささんは?

 

「高野くん…です」

 

 

 

…うそ付け!思いっきり呼び捨てで『りさと』じゃねぇか!!…

 

 

 

と表情を変えず、心の中で笑ってみる。

 

 

 

》つばささんは、高野選手を大切な人とおっしゃってます

 

「そうですね…彼女がサッカーをやりたいから、教えて欲しいと言われて…最初は師匠と弟子みたいな関係だったと思いますが…覚えが良すぎて、あっと言う間に教えることがなくなりました。本当にそこはすごいなと思います、今はお互い刺激を与え合うというか…切磋琢磨している『良きライバル』って感じですかね。

 

》つばささん、大切な人というのは、そういう意味でよろしいんでしょうか?

 

「はい…まぁ」

 

》というと、お互いに恋愛感情はないと?

 

「恋愛感情ですか…」

 

つばさは言葉に詰まった。

 

恐らく同じことをオレも同じことを考えている。

 

「恋愛感情?」

 

助けを求めるように、その言葉を繰り返し、ヤツがカメラ越しにオレに問いかけてきた。

 

「実はそこのところ、僕たちもよくわかってないんですよ。いわゆる普通の彼氏・彼女の関係かと問われると、実はビミョーなところで…。そもそも何をもってそう言うか、その定義がよくがわからないので」

 

》お互いの将来について考えたりということは?

 

「ないですね」

 

「はい、今はまだ何も」

 

「なので『熱愛』みたいな表現はちょっと違うかな…と。仲良くしてるのは事実ですけど」

 

》結婚については、どうお考えですか?つばささんからお願いします。

 

「まだ、考えていません」

 

》高野選手は?

 

「同じく。彼女は、その時々で頂点に立ってますけどね…僕はまだサッカー選手として…言ってもチームではレギュラーでも何でもありませんから…。まぁ、もし『彼女と結婚するのであれ』ば、それなりに結果を残さないと『格差婚』とか書かれそうですし、それはちょっと本意ではないので、時期が来るまで当面ないと思います」

 

『格差婚』という言葉に、報道陣が苦笑した。

 

 

 

単純にサッカー選手としての収入は、オレの方が多い。

 

しかし、トータルで言えば、スポンサー契約の数は10倍くらい違うし、なんと言ってもアーティストとしての印税が入るから、ヤツのほうが明らかに多い(実際いくらもらっているかは知らないが)。

 

オレが海外でも移籍しない限り、そこはなかなか追い越せないだろう。

 

 

 

》…と、おっしゃってますが?

 

「私は…そこは、それほど気にしてません」

と、ヤツは少し微笑んだ。

 

》先ほど家族ぐるみというような発言があったかと思いますが。高野選手、ご両親はどう思われていますか?某テニスプレーヤーの場合、かなりお父さんが反対したりしてますが?

 

この質問にはドッと笑いが起きる。

 

「よそのことは知りませんが、関係は良好だと思いますよ。少なくとも僕のお金で買い物とかしませんし…って、彼女の方が稼いでいますから」

 

オレの返しも、なかなかシニカルだろ?

 

》改めて、今後のお二人の仲は、どのように進展していくのでしょう

 

「まぁ、今、話した通りですね。我々もわかりません。成り行きの中で一緒になることもあるかも知れませんし、そうじゃないかもしれませんし…」

 

「はい。静かに見守って頂ければ」

 

》話しが少し戻りますが、高野選手がこのような事故にあって、オリンピックのプレーには影響がありませんでしたか?

 

「ないといえば嘘になります。やはりすごくショックでしたし、そこは2人の共通の目標でもあったので…」

 

そこで一瞬、ヤツの言葉が途切れ、下を向いた。

 

様々な想いが胸をよぎったのだろう。

 

 

 

》つばささん?

 

 

 

「…すみません…そうですね…一時は最悪の事態も考えましたから…それは…。…ですが、意識が回復してからは、彼も私に余計な気を使わせないよう、気丈に振舞ってくれましたし…本番前だけですね、少しナーバスになったのは。試合中はプレーに集中していたので、そこは影響なかったかと思います」

 

》オリンピック期間中、高野選手が女性を病室に連れ込んだとの報道もありましたが、それについては…つばささん、いかがですか?

 

「特になにも…。その人は一緒に事故に巻き込まれた方で…。私が彼を見舞いに行ったときに、初めて顔を合わせたのですが、すぐに仲良くなりまして…。それで私の方から『留守をお願い』していったので、報道されているようなことは事実ではありません」

 

》であるならば、なぜその時にそういうコメントを発表しなかったのですか?

 

 

 

「それは、サッカーに集中したかったからに決まってるじゃないですか」

 

 

 

オレの少しだけ強めの口調に、報道陣が静まり返った。

 

 

 

 

 

~つづく~

 


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