お前にふさわしいソイルは決まった!!   作:小此木

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第18話

 

 

 

~2年と数カ月前~

 

 

 

「…クッ、此処までか。………悔しいが、俺では貴様の()()に太刀打ちできん。」

 

数多(あまた)いる敵兵の前で、一人の巨漢の男が片膝を付き、そう言葉を発した。

 

「…最後の、頼み、を聞いてくれるか分からんが、見ず知らずの俺を助けてくれたあの村は襲わないくれ。……後生だ。」

 

満身創痍の状態で頭を下げ()懇願(こんがん)するしかない自身に怒りさえ覚える彼。

 

「ハイハイハイ、そんな懇願(こんがん)しなくても、あんな村に興味ありませんから気にせず……死んでください。」

「……此処までのようだな。(エドラスと云う世界に飛ばされたお陰で此処まで生き永らえた。が、お嬢。再びお会いできず申し訳ありません。)」

 

対峙するは、眼鏡に猫の耳を連想させる特徴的な白いテンガロンハットの女性と、それに付き従う全身を覆う白い外套の兵士。傍から見てもその戦局は圧倒的に女性側に傾いている。巨漢の男の敗北は決定事項だった。

 

「ハイハイハイ!貴方の死因は、この研究施設を見てしまった事ですね。では、来世があるなら来世で幸せに過ごしてください!!」

 

彼女の号令で襲い掛かる謎の兵隊。

 

「…おじょ「助太刀するぜ!これがな!!」う!?」

 

そこへ突如響いた青年の声。

 

「狙いは、バッチリなんだなこれが!!()()()()()()()()()刃拳(ハーケン)!!」

 

青年、黒髪の青年が両方の拳を()()()場所から謎の敵兵目掛け降り抜いた。

 

「ま、待て!こいつ等は相手の()()に合わせ別の個体が()()し…なぃ!?」

「ど、どうして相手に合わせた〝リザードマン〟が出現()()()の!?」

 

為す術もなく上半身と下半身に分断され倒れていく謎の兵士達。そして、それを見て驚愕する敵対していた二人。

それもその筈。巨漢の男―フィンガース―が対峙していた、あるモノを造り出す為にダフネが偶然生み出した〝リザードマン〟は、対峙していた対象と同じ〝魔法〟を使う個体が()()で出現する仕組みになっていた。そのリザードマンが出現()()、尚且つ目の前のリザードマンも多少は対抗しているのだが、それでも簡単に屠られて行ったからだ。

 

「そんな事知ったこっちゃねぇぜ!それに、まだ終わってないんだな、これが!!ロケットソウル…違った!ハートを狙い撃ち…とか言ってな!!盾破(トンファー)!!」

 

青年の両手の拳から繰り出された闘気の矢が、残っていたリザードマンをいとも簡単に屍に変えられていった。

 

 

 

 

~数十分前某所~

 

 

 

 

「……痛てて、って。あれ?此処は何処だ?」

 

此処は砂浜?俺こんな所で何して<ジャリ!!>ッ!?

 

「うぇ!?ペッ、ペッ!!口の中が砂まみれじゃねぇかよ!!でも、何で俺はこんな所で寝てたんだ!?」

 

落ち着け…まずは状況の整理だ。俺は…誰だ?何でこんな所で寝てたんだ?

 

「アイツらは…アイツら?」

 

俺には仲間がいたのか?クソッ、思い出せない……これは記憶喪失ってやつか!?

 

「………ま、何とかなるだろ。まずは情報収集だ。此処が『何処』で『いつ』かを誰かに聞かないとな~。てかこの〝星〟に意思疎通(いしそつう)ができる相手は居るのか?」

 

さ~て、知的生命体はいるかなっと。

 

 

 

 

「オイオイ、俺の体軽すぎるんじゃね!?」

 

さっきは浜辺だったのに、ちょいと走ったら森の中を走ってるって、どう云うことだよ!?

それに、体が軽い!!綿の様に軽いぜ!!

 

「って、それよりも現地住民が居るかどうかの確に<ドン!!>ん!?」

 

山の(ふもと)から大きな衝撃と音…だと?確かめに行ってみるか。

 

 

 

 

「おっさんが、集団暴行にあってる!?」

 

あ…ありのまま今起こっている事を話すぜ!お、俺の目の前で巨漢なうえに包帯で顔を隠した怪しいおっさんが、白装束の集団にリンチに遭ってる!!な、なにを言ってるか…って、そんなこと考えてる暇はねぇ!!怪しかろうが、何だろうが集団で襲われている人を見かけたら、

 

「助けるのが、俺の性なんだよ。これが!!」

 

 

 

 

 

 

破れかぶれで突っ込んで行ったけど、まぁ大丈夫だったぜ。物騒な拳法が自然と出たがな!!

 

「ハ、ハイハイハイ!!凄いですね貴方!!こうなったら、アレの起動実験用の的になって下さいな!!」

 

な~んか、嫌な予感がするぜ。これは、おっさん逃がした方が良いかも…

 

「おいおっさん!」

「…なんだ。」

「今から全速力で逃げろ!!」

「…済まん。体が動きそうにない。」

 

マ、マジっすか!?

 

『ハイハイハイ!初めて出会った〝ドラゴン〟に恋い焦がれて造ったのが、この『ドラゴノイド』です!!そして、偶然手に入れた〝土の魔水晶(ラクリマ)〟をコアにすれば、あら不思議。私の操作で動く人工ドラゴンの出来上がりです!!』

 

あらら。でっかいトカゲが出現したぜ。

 

『ハイハイハイ!じゃ、殺っちゃって下さい!!』

「嘘ぉ!?殺す気満々じゃん!?」

 

おっさん守って、こんなデカブツに対抗するには、対抗するには…アレだぁ!!

 

 

 

 

■□■□

 

 

 

 

『我は無敵なり、』

 

ダフネが人知れず山の(ふもと)に造った施設に一人の男の声が響く。

 

『我が表技に敵う者無し、』

 

その男は名も名乗らず、ある村唯一の魔導士の助太刀をした。

 

『我が一撃は無敵なり!!』

 

そして、その男は何の迷いも、恐れもなく自分よりも遥かに大きい…10メートルを超える敵へ挑む。

 

神悪(ガイヤ)!!』

 

男は地面に拳を突き立てた。

 

『ハイハイハイ!何をやっても無d<ドワオ!!>キャァァァァァァァァァ!!』

「なっ!?うお!!(な、何だこの技は!?)」

 

彼が拳を突き立てた直後、彼を中心とした衝撃波が施設全体を襲った。

この技は表技の最源流に当たる技であり、地面に拳を突き立て360度、全方位に神音の超振動を放つ技である。それに意外と器用な彼は、少し加減し自身の後ろにいるフィンガースへの衝撃は最小限にすると云う芸当もしていた。

 

「あ、ヤベ。やりすぎちまったか?」

 

男の目の前には、ドラゴノイドがバラバラに破壊された姿で倒れ、コアであり操縦席だった場所から吹き飛ばされ気絶(奇跡的に生きていた)したダフネと、

 

「…こ、ここまでの破壊力の魔法。初めて目の当たりにしたぞ!!」

「そ、そうなのか?」

 

完全にガレキと化した施設の無残な光景が広がっていた。

 

「…礼を言う。俺の名はフィンガース。この近くの村で魔導士をやっている者だ。」

「こっちは、たまたま通りかかっただけなんだがな。俺の名前は…名前は?俺の名前って何だっけ?」

「「………。」」

 

沈黙がその場を支配した。

 

「ま、待てよ。今思い出すからな!!ブラック=ハウ…なんか違う。アクセル=アル…これもしっくり来ない。ブラッド=スカイウィン…別人だなこりゃ!!」

 

腕を組んで悩み続ける青年。

 

「ブラック…ウインド…おっ、なんかそれっぽい名前になった。今日から俺はブラック=ウインドって事で宜しく!!」

「あ、ああ…。」

 

 

~sideフィンガース~

 

 

…懐かしいな。アイツと初めて会った時のことを久しぶりに思い出した。

 

ダフネを捕まえた後、彼女は激しい抵抗や喚いたりしたが、評議院に突き出すと言ったら大人しくなった。だが、それを聞いたブラックのヤツに説得され渋々この村に住まわせてやったわけだが…ダフネには色々手を焼かされた。

指示は聞かないし、勝手に変な実験をするし、挙句はあの変な食べ物……苦肉の策で記憶喪失のブラックを監視に置き、村の発展に協力させ…今年(ようや)く『何でも屋』を出店できるまで更生し、店が軌道に乗り出した。

 

「…で、今日は何の用で来たんだ?」

「…この前話した男の特徴をもっと詳しく教えるんだゾ。」

「…分かった。それにしても賞金稼ぎで名高い〝疾風〟がこれほどまでヤツの事が聞きたいとは…他言はしない。特徴を教える代わりに教えてくれ。奴は何をしでかしてたんだ?」

 

何故ここまで疾風がブラックにこだわるんだ?ま、まさか、アイツ闇ギルドに所属していて賞金首だったのか!?

 

「そ、それは「ハイハイハイ!フィンガース大変、大変!!」な、なんだゾ!?」

「…どうしたそんなに慌てて?」

「アイツ、ブラックが大魔闘演武(だいまとうえんぶ)へ選手として出場してるわ!!」

 

………は!?アイツ何やってんだ!?

 

「…本当なのか?」

「ハイハイハイ!今映像魔水晶(ラクリマ)持ってくるから!!」

 

…また何かに巻き込まれたのかもしれんな。

 

『こ、こんなことが!?始まりは圧倒的有利だったユキノ選手ですが、ブラック選手の放ったたった一つの技で星霊<ビシ!!>ッ!?訂正!!星霊を倒し、驚く事に闘技場を守る魔法壁にヒビを付けました!!よって勝者ブラッ―』

 

「…間違いない。ブラッ「か、風ぇー!?」くぅ!?」

 

ど、どうしたんだ?何故、疾風が叫ぶ!?

 

「ウッグ、ヒック…」

「な、何故泣く!?」

「あ~、ハイハイハイ。フィンガース、他人を泣かす魔術に目覚めたんですか?」

「ち、違う!!」

 

ど、どうすれば!どうすればいい!?

 

「やっと、やっと見つけた…<パサッ!>」

 

疾風がフードを取っ!?

 

「お、女!?」

 

お、驚いた。疾風は女性だったのか…ま、まさかブラックは!?

 

「ハイハイハイ!流石鈍感男!私は気付いていましたよ!何故なら、私は美の伝道師ですから!!」

「そ、そうなのか…」

 

 

~sideout~

 

 

今日、『ダフネの何でも屋』に店主ではない女性のすすり泣く声が聞こえる。

 

「よ゛がっだ!よ゛がっだん゛だゾー!!」

 

賞金と〝何か〟を求め数々の依頼をこなし、今や知らぬ者がいないと言われる噂の賞金稼ぎ〝黒い疾風〟の泣き声。

 

「…そうか、ブラックはお前の旦那だったんだな。」

「だ、旦那!?…<プシュー!!>」

 

疾風ことエンジェルはフィンガースの一言で嬉しすぎて昇天。

 

「ダ、ダフネ!緊急だ!!担架だ!担架!!」

「ハイハイハイ!変態は女性に触れないでください!!何人か女性の方呼んできます!!」

「へ、変態ではない!!」

 

今日も『ダフネの何でも屋』は平和だ。

 


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