というわけで飛行すること数時間。アルンに来てみたわけだが...
「すごい人の量ね。さすが央都なだけはあるわ。」
「人ごみに酔いそうだな。」
「あーっ!あそこのカフェ美味しそうだよ。みんなで行こうよ。」
俺たちはあまりの人の多さに圧巻されていた。いや、一人別なものに注目してるみたいだが放っておく。
それにしてもすごい人の数だ。道行くプレイヤーたちはみなしっかりとした装備に身を固め、慣れた足取りで居並ぶ店に入っていく。
「これだけ多いと人探しも大変そうだな... どこか当てはあるのか?」
「はい。彼はよく「リズベット武具店」に行くそうです。ほかにもいくつかのプレイヤーショップの人たちとも顔見知りのようですね。それらの店に頻繁に訪れるというデータがあります。」
「だったら、まずはその武具店から言ったほうが早いか。案内してくれ。」
「かしこまりました。」
セレビスのナビゲーションに従って進むと、目的地には数分で着いた。その大きさはあまり大きくはなく、普通の店と同じくらいだった。
「ここがその場所ね。黒の剣士が使うというからもっと大きい店を想像してたんだけど...」
「こんな小さな店で悪かったわね。」
振り向くと、ハンマーをもったレプラコーンの少女が立っていた。
「もしかしてあなたがここのオーナーかしら?」
「そうよ。私はリズベット。ここで武器を作ったりして売ってるの。店はちっちゃいけど、そこそこ人気なのよ。」
「さっきの発言が気に障ったようならごめんね?別にゆきのんも悪気があって言ったわけじゃないから。ほら、ゆきのんも謝って。」
「...わかったわ。先ほどの発言は撤回するわ。ごめんなさい。」
慇懃に頭を下げる雪ノ下にリズベットは苦笑すると、店の中へ案内してくれた。
「ここが私の自慢の店よ。見たところみんな初心者みたいだけど、うちは初心者向けの武器なんかはあんまりやってないから... 向こうがたぶんぎりぎり使えそうな装備かな。ちょっと支度を済ませてくるからそこでいろいろ見てて。」
そう言ってリズベットはカウンターの奥の部屋の消えていった。残された俺たちは自分に合いそうな武器を探してみていた。
「あら、この弓。いいわね。レンジも長いし何よりデザインがいいわ。」
「ふーん。この小刀は風属性ダメージ追加か。俺のと合わしてみるのもいいかもな。」
「ヒッキー、小刀なんて使うんだ。意外。」
「じゃあ何を使うと思ってたんだ?」
「弓。できる限り離れて遠くから仕留めるチキンスタイル。」
「いつもはそうなんだがな。今回は早々に小刀のレアアイテムが手に入ったし、それを伸ばしていこうと思って。」
「チキン谷君はその腐った目だと遠くの敵が見えにくいのよ。それに、こんな目をした人が小刀を持って近づいてきたらきも...威圧感があるでしょう?敵が逃げて行ってくれるし好都合なのよ。」
「今、キモイって言いかけなかったか?」
「さあ?どうせいつものあなたの被害妄想でしょう。」
こいつさらっと俺を被害妄想癖があるみたいに言いやがった。本当にどうしてやろうか。
「準備できたわよ。そっちは何かいいもの見つかった?」
「ええ。この弓とか特によかったわ。この猫の彫刻が気に入ったわ。」
「ああ。この小刀とかかなりいいな。黒くて、多すぎず洗練された機能美みたいなのが気に入った。」
「それならよかった。どれもあたしの自慢の品だからね。しばらくキープしとこうか?」
「ええ。お願いするわ。 ところでその服はどうしたの?ここの制服かしら?」
「ホント。その服わたしも欲しいな。どこで売ってたの?」
二人が興味を示したのはリズベットの着るエプロンドレスのような服だった。
「これはオーダーメイドの一品よ。私専用なの。」
「へー、そうなんだ。デザインはどうしたの?」
「デザインは、ちょっと知り合いに頼んで作ってもらったの。みんなから好評でね、今度色違いのを作ってみんなでお揃いを着よう、なんて話にもなってるの。今度、この服を注文した店に案内しよっか?ほかにもたくさんの服が置いてあるし。」
「お願い!じゃあ、フレンド登録してくれる?ほかにもいろいろ聞いてみたいところあるし。」
「いいわよ。はい、今送ったわ。」
「ありがとー!これからよろしくね、リズちゃん。」
こうしてみると、由比ヶ浜のコミュ力って異常だよな... 出会って1時間もしないうちにフレンド交換するなんて俺にはいやがらせ行為にしか思えない。
「今あなたの考えてることには激しく同意するわ。他にあんなのができるのは姉さんぐらいよ。」
「ナチュラルに心を読むな!お前みたいなやつのほうがよっぽど化け物じみてる!」
「ご主人様、二人とも目だったリ心だったりが化け物なんでそんなことはどっちでもいいです。それよりも早く本題に入りましょう。」
急に飛び出してきたセレビスのおかげで何とか話題を軌道修正することに成功した。由比ヶ浜は少し頬を膨らませていたが。
「ああそうそう。で、用件てのは何?またキリトのやつが何かしでかしたの?」
「いや。その黒の剣士に頼みがあってきたんだ。」
「あいつに、頼み?」
「ああ。雪ノ下、話してもいいか?」
「ここは私が話すわ。」
雪ノ下が一歩前に出てリズベットに今の状況を話した。ストーカーの単語が出た時点で少し眉をひそめていたが、
付きまといの話になるとだんだん眉が中央によって行き、討伐部隊の話になると切れる一歩手前まで来ていた。
「そういうことなら任せなさい。私が責任もってキリトを連れてきてあげるから。他にも何人か心当たりがあるからその子たちも呼ぶわ。大丈夫。すぐにストーカーなんて黙らしてあげるから。」
「あ、ありがとう。」
「よかったね、ゆきのん!」
どうやらリズベットはかなり熱血漢のようだった。なにせあの雪ノ下が若干引いている。
ダメもとで来ていたんだが、予想外に話が進んで俺もセレビスも少し驚きを隠せない。
「よし、こうなったらさっそく準備しなきゃね。ここ最近、新生アインクラッドの階層攻略戦でモンスター倒せてないから鬱憤がたまってるの。これは腕が鳴るわね。」
憂さ晴らしに殴られる予定のストーカーたちに、合掌。
「みんなの武器、貸してみて。今から修理しとく。1,2時間もしたら仕上がると思うから、それまでの間は町を見てみたら?ゆいゆいに店の場所送っといたからそのナビゲーションピクシーに案内してもらいなよ。」
そう言ってリズベットは自分の作業に取り掛かり始めた。
「じゃあ、試しにそこ行ってみるか?」
「ええ。気分転換にはいいかもしれないわね。
「じゃあ、陽乃さんも呼んで4人で行こうよ。」
「えっ...姉さんはちょっと...」
雪ノ下は嫌がっているが、そんなことあまり言わないほうがいいと思うぞ。そして案の定、その後ろに黒い影が近づいていた。影は雪ノ下の肩を掴むと言った。
「ひゃっはろー。みんな元気―?じゃあさっそくみんなで行こうか?」
ほらな。噂をすれば影、ってやつだ。