捻くれぼっちプレイヤー   作:異教徒

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 遅れてごめんなさい。本当にごめんなさい。

 今回はアルゴ回です。アルゴと会って少しだけ二人で遠出をするお話です。

 ではでは、どうぞ。


27話:鼠と蝙蝠の邂逅

 「で、いつになったら私と葉山センパイの家は用意してくれるんですか?」

 

 「...悪い。もう少しだけ待ってくれ。」

 

 その日、俺は一色に早くホームを用意するよう催促されていた。最近はいろいろ立て込んでいたからか正直忘れかけていた節がある。

 何はともあれ、ここで一色の機嫌を損ねるわけにはいかないので平身低頭してすぐに用意することを約束した。

 一色は「約束、守ってくださいね?」と半ば懐疑的な目線だったが引き下がってくれた。

 

 「あ、それでですね。最近葉山センパイがよく紅茶を飲んでると聞いたんですけど、先輩はどうですか?」

 

 「紅茶?雪ノ下が用意してくれてるからある程度はわかるが、それがどうかしたか。」

 

 「ならよかったです!じゃあ、明日の2時に千葉駅前よろしくです!」

 

 「はあ!?いや、ちょっと待て。明日は土曜日だしプリ...映画を見行く予定なんだ。悪いが他を...」

 

 「先輩?」

 

 「おわっ!?」

 

 グイっと下から覗き込むように視線を合わせてくる。ちょ、目が怖い怖い!ハイライトさん仕事して!

 

 「先輩に、拒否権があると思いますか?ましてや仕事を放りだした先輩に休みがあるとでも?」

 

 「ございません...」

 

 「分かればよしです。じゃあ、明日はよろしくお願いしますね?」

 

 そういうと一色はにこやかに去っていった。...あいつ、生徒会長になってから妙な心理的な駆引きを覚えたな...。デビルいろはす怖い。

 

 しかし、これ以上一色のホームの件を放置すれば俺の身が危ない(精神的な意味で)。

 社畜のごとく働くとしますか...。ところで最近、社畜体質になってきてるような...。き、気のせいだと信じたい。

 

 

 

 「ふーん。それで、オレっちに相談しに来たって訳カ。」

 

 「キリトに聞いたら紹介されたんだ。ゲーム内においては最も信頼できる情報屋って触れ込みでな。」

 

 「んん?うたがってるのカ?人を見た目で判断するのはよくないゾ。」

 

 「いや、単に俺の希望物件が存在するかって話だ。」

 

 「そういや希望を聞いてなかったナ。どういった内容をお探しなんダ?」

 

 「...3人用かつ内二人が迂闊に出くわさないような物件。」

 

 こうなったのには一つだけ理由がある。

 

 葉山に協力を頼むときになぜかあーしさんまで付いてくることになったからだ。

 うっかりあーしさんと一色が出くわす修羅場フラグにしか見えない。葉山が止めるかと思いきや笑顔で承諾。おかげでこっちに面倒が回ってきた。急な条件変更のせいで当初あった候補は大半が没になった。

 

 「フーン?訳アリなんだナ。ま、深く聞かないでおくケド。」

 

 「そうしてくれ。こっちは資金の工面もしなくちゃならないからあまり余裕がないんだ。」

 

 「ちなみに予算はいくらホド?」

 

 「10000000ほど。」

 

 「!? そ、そんな大金どうやっテ...」

 

 「企業秘密。まあ、1、2週間もあれば貯まるだろ。」

 

 「.........80000って、恐ろしく腹黒カ?」

 

 

 完全に恐ろしいものを見るような目つきになっていたが、手元のスクリーンだけは高速で動きしばらくすると指を止めた。

 

 「...あっタ。ウンディーネ領の海沿いの豪邸。オーナーの趣味で仕掛けが豊富。さらに防音にも優れル。部屋は15部屋。」

 

 「悪くないな。価格は?」

 

 「5000Kユルド。」

 

 「よし。そこにする。情報料はいくらだ?」

 

 「まだだヨ。ちゃんと現場を見に行ってないからそのあとでいいヨ。」

 

 自分の情報に自信を持ったうえで初めて取引をする、か。それなりに信用してもよさそうな情報屋だな。

 虚偽の情報を売りつけるようなことはしないとキリトからきいていたが、仕事人気質?のような自分の中のルールがあるのだろうか。だからこそキリト達から信頼を置かれているわけだ。

 

 「じゃあ、それに俺もついて行ってもいいか?」

 

 「もちろんだヨ。クライアントの目でしっかり確認してもらった方が早いからナ。」

 

 

 それからしばらく俺とアルゴはウンディーネ領まで飛んでいた。アルゴは飛行操縦もうまく、危うく置いて行かれそうになり慌てて加速しなければならない程だった。

 AGI全振りで育成したらああなるのかとでも思いながら聞いてみると10000ユルドと言われた。そこら辺はやはり商売人と言ったところか。

 

 

 しばらくして到着したのは海沿いの大きな家だった。確かに海は見えるし雰囲気も悪くはない。ただ、一つ何点を挙げるとするなら...

 

 「なあ、ここら辺モンスターの出現率が高くないか?」

 

 「...そうだナ。少し調べてみるカ。」

 

 しばらくの間俺たちは周辺を散策してみた。お互いに気配遮断は高いのでなるべく戦闘は避けるようにして進んでいた。すると、しばらくして湿原が見えてきた。そしてその周囲の森からは大量の邪神級モンスターが出現していた。

 一体一体がかなりの脅威で、少なくとも材木座やキリトがいなければ突入は不可能だ。しかもそれらが多数。正直言って、キリト達でも攻略は困難と見た。

 

 「なるほどな。立地が悪すぎてあの値段か。なら納得だな。」

 

 「これはちょっといくらなんでもモ、無理だナ。キー坊を呼んでも苦しいナ。」

 

 「この周辺に、何かそれらしきクエストはあるか?情報があれば買うぞ。」

 

 「うーん、ちょっと待ってくれヨ。.........あっタ。」

 

 「内容は?」

 

 「『ロトの塩柱』ってクエストだナ。この神殿の最奥にある柱から女性を救出するクエスト。もっとも、周辺の邪神とボスが強すぎて誰も攻略で来てないみたいだナ。」

 

 「そうか。よし、じゃああの物件を買おう。」

 

 「正気カ!?こんなの家に入るだけで一苦労ダゾ?」

 

 「安心しろ。買ったら攻略する。それまでは値下げ用に放置しておくさ。」

 

 「やっぱり80000は腹黒だナ。」

 

 そういわれると少し傷つくものがあるのだが。

 まあ、半分事実だから仕方ないと言えば仕方ないが。

 

 「さて、帰るか。アルゴ?帰り道は...っ!?」

 

 「エッ?」

 

 背後から狼型の邪神級モンスターが強襲をかけてきた。念入りに気配遮断はかけておいたはずなのだが、それ以上にあちらの敵感知能力が高かったのか!?

 

 「ウウォルガアアアァァ!!!」

 

 とっさにアルゴを突き飛ばして噛みつきをよけるが、その直後に狼の尻尾から半透明な蛇のような触手がこちらに伸びてきた。

 

 「チッ!セレビス!こっから最短で危険区域を抜け出すルートを割り出せ!」

 

 「了解です!...南に300メートル、フィールドの切り替え地点があります。そこまでいけば追ってくることはないかと!」

 

 「分かった。アルゴ、今のところに向かって走れ!お前なら何とか逃げ切れるはずだ!」

 

 「俺っちはいいけど、80000はどうするんダ!?」

 

 「そんなの決まってるだろ。」

 

 俺は両手に小刀を握って狼に突進する。そのまま空気の刃で蛇を切り捨てる。が、直後に再生を始めた。不死身かこいつ!

 狼の名前を見ると『imitate chimera wolf』...直訳すると贋作のキメラの狼か?贋作となれば真作もいるのが常道だが...

 

 「まずはこいつを仕留める。」

 

 そのまま再び蛇の首を切り裂く。今度はそこに炎であぶる動作を加える。すると今度は再生をしなくなった。まあ、ありふれた手段ではあるが。日本じゃ神代から使われてきた戦法だし。

 しかし、この狼は尻尾を封じられた程度で収まるような奴ではなかった。加速してこちらに噛みついてきた。

 とっさに回避するも牙が腕を課する。するとそこから毒のバッドステータスを付けられる。確認に気を取られた隙にさらにもう一撃。今度は移動阻害のバッドステータスだった。お前は俺か。

 どうにか回避しようにも先ほどの移動阻害が邪魔になる。幻影をつかって立て直そうとすれば一瞬で見破られる。

 

 完全に相手のペースだった。

 

 「クッソ。これ以上はじり貧。...まあ、アルゴは逃がせたし、いいか。」

 

 俺はあきらめ気味に肩の力を抜くと、そのまま狼に特攻をかけようと___

 

 「待たせたナ、80000!」

 

 「アルゴ?なんで戻ってきて!?」

 

 慌ててナイフを構えなおして足をえぐるように無理に態勢を変える。ぎりぎりでヒットし、狼は大きく距離を取る。これでひとまずは生き残った。

 だが、逃げたはずのアルゴがなぜここに?

 

 「このポーションを投げロ!あいつはそれが弱点ダ!」

 

 「分かった!」

 

 受け取ったポーションをそのまま狼に投げつける。先ほど足をやられたオオカミはもろにそれを被る。

 

 すると、突然震え始めてみるみるサイズが縮んでいった。最初が巨大サイズだったのに対して今ではやや大きいが人ひとり乗せれるぐらいの大きさまでに縮んだ。ついでに邪神級から一般エネミーまでにランクが下がった。

 これなら、行けるかもしれない。

 

 「ゼアアッ!!!」

 

 『ラピッド・バイト』からの『ミラージュ・ファング』。他にもソードスキルの連撃を叩き込んで何とか体力を1割まで減らした。

 しかし、順調にいきすぎたせいか、油断していたのか、狼がアルゴの方へ突進するのを見逃してしまった。

 

 「マズっ!アルゴ、避けろ!」

 

 間に合わない、そう思いながら投げた『クイック・スロー』は狼の背中にあたって狼は地面に激突して動かなくなった。

 慎重にとどめを刺そうと狼に近づくと、狼からクエスト発生マークが上った。

 

 「...アルゴ、これは、どういうことなんだ?」

 

 「えッ!?あ、ああ、そうだナ。多分何かのイベントの一部だと思ウ。順当に考えて『ロトの塩柱』の一部だろうナ。」

 

 アルゴは息を切らして顔が赤くなっている。ALOでも息が上がると顔が赤くなるのか。初めて知った。

 

 「えっと、狼を調べればいいのか?なんかまだ攻撃しそうだけど。」

 

 俺は恐る恐る狼をつついてみると、ピクリと動きこちらを向いた。

 短刀を構えて俺は威嚇すると、腹を俺に向けて仰向けになった。これってもしかして...

 

 「「降参の、ポーズ?」」

 

 

 それからしばらくすると、狼を仲間にするかという問いが現れたのでYESを選択すると、狼の名前の設定欄が現れた。

 変更は不可とのことなのでしばらく悩んだ末に『ウォセ』にした。アイヌ語のウォセ・カムイからとった。意味は吠える神と言ったところ。

 

 「フーン。慣れれば意外とかわいいもんだな、コイツ。」

 

 「.........」

 

 「アルゴは触らないのか?」

 

 「えっ!?いや、俺っちは犬が苦手だカラ...」

 

 「狼だから犬とは親戚だけど違うから大丈夫だろ。」

 

 「うう...わかったヨ。す、少しだけだゾ?アト...」

 

 「あと、なんだ?」

 

 「...80000が、ちゃんと隣にいるなラ、イイ。」

 

 ものすごく小声で服の裾をつまみながら言われると破壊力が抜群。こうかは ばつぐんだ!

 

 「お、おう...。いいぞ。」

 

 

 それからしばらく、互いに無言でウォセの背中をなで続けていた。お互いに顔を赤くして、ウォセだけが暢気に伸びをしていた。少しだけ動物の鈍感さが羨ましかった。

 




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