捻くれぼっちプレイヤー   作:異教徒

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第2話:キャラメイキングとバグチート

ALOをプレイして、まず最初にすることはキャラクターの作成だ。

大抵の人はここでかなり時間をかける。なぜなら、今後のゲーム内での容姿がここでほぼ決まってしまうからだ。

故に、ここで悩みぬいて決まったキャラクターとともにゲームをプレイしていく覚悟で選択をしていく。

しかし、比企谷八幡は違った。

まず名前だが、なんの捻りもなく『80000』に決定した。

これには彼なりの過去の教訓から基づくものである。彼も昔はいくつかの捻った名前を付けていた。

しかし、『∞×10000』という名前の意味をだれも理解してくれず、『読みにくい』『打ちにくい』と酷評を受け、それ以来は『鶴岡』などの読みやすく、自分にのみわかるネーミングをすることにしたのである。

そして次は種族の選択に入った。

「ふーん。十種族の中から一つ選ぶのか。」

なれない仮想スクロールに苦戦しつつも何とか全ステータスを見ることに成功した彼は、迷うことなくスプリガンを選択した。

彼はゲームではぎりぎりの距離からデバフをかけ続けて動けなくなったところを遠くから弓や魔法で仕留める、徹底したチキンスタイルを貫くプレイヤーで、デバフ専門種族となれば完全に彼の得意分野である。

「何より、ソロプレイに使えるトレジャーハントも完備とくれば、俺のためにあるようなものじゃないか。」

こうして、八幡の種族はスプリガンに決定した。そしてスプリガンが不人気種族であると知るのはもう少しだけ後のことである。

そして最後に容姿の選択である。これには課金することで追加のオプションを選ぶことができるが、彼は自分の容姿をそのまま選択した。つまりは腐ったような目もそのままである。

こうして完成したキャラクターを見て、彼は満足げにうなずくと珍しく颯爽とした足取りで妖精界へと足を踏み出した。

 

そして地上へ真っ逆さまに落ちていった。

 

「うわああああああああああああ!?」

情けない悲鳴を上げながら自由落下していく様はここに雪ノ下雪乃がいたら満面の笑みを浮かべるほどに哀れだった。

「やばい、死ぬ、死ぬううううううう!」

もはや普段のキャラさえ崩壊してひたすらに落ちていく彼を救ったのはただの偶然だった。

「うぎゃああああああ....うん?」

途中からやけくそに手を振り回していると、突然手元にコントローラーのようなものが現れた。

それを操作してみると、何とか飛行がコントロールできるようになった。

実はマリオカートが得意だったりする彼にとって、この程度のことは朝飯前だった。

そして緩やかに減速して着地した先はどこともわからない森の中だった。

「ふむ。普通、ここらへんでチュートリアルの一つぐらいあってほしいんだが...」

その言葉に答えるものは誰もいなかった。ただしーんとしているだけでモンスターが現れる気配すらない。

仕方なく頑張って出した地図を頼りにあちこちを歩き回っていると、どこかで話し声がした。

「おい、準備はいいか?」

「ああ。そろそろターゲットが近づいてくるはずだぜ。」

息をひそめてあたりをうかがうと、布で口元を覆ったいかにも盗賊といった格好をしたサラマンダーが二人茂みに隠れていた。

「しかし、マジかよ。ここをレイド帰りのパ―ティーが通るなんて。」

「本当さ。証拠に、近くでレイドイベントが行われてんだよ。それも初心者向けのな。」

「で、俺たちがそいつらからアイテムを根こそぎいただくと。」

「そうさ。なんでも初心者には不釣り合いなほどのレアアイテムもあるらしい。これを見逃す手はないだろう?」

「それもそうだな。あー、お宝が待ち遠しいぜ。」

「しっ。誰か来たぞ。」

そうこうしてるうちに5人のパーティーがやってきた。

「よし、合図で行くぞ。3、2、1、かかれ!」

茂みから飛び出してきた盗賊たちに一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに皆が戦闘態勢に入るパ―ティーを見て、二人の盗賊はにやりと笑うと、おもむろに小刀を構えた。

「さあ、かかって来いよ初心者さんよお?」

まず始めにインプの少年が魔法をたどたどしく唱えて放った。

それに合わせて後方に控えるウンディーネの少女が必死に支援魔法をかけ、ノーム二人が壁を作り、シルフの青年が風を起こしてもう一人の注意を引き付けていた。

それはまだまだ拙くはあるが立派な連携の一つで、今までの努力の証といえるものだった。

「はん。それがどうした?」

小刀の一振りで強烈な熱風が巻き起こり、前衛のノームもろとも魔法を吹き飛ばした。そしてもう一人が小刀を振ると、今度は冷気の嵐でウンディーネとシルフを氷漬けにした。

「さて、一つ提案だが、今ここでアイテムを全部置いて帰るなら見逃してやってもいいぜ?」

「誰が脅しなんかに従うか!これはパ―ティーのみんなで手に入れたアイテムだ。お前らなんかには絶対渡さない!」

敵意をむき出しに叫ぶ少年に、二人は顔を見合わせ大声で笑うと少年の方へ向き直った。

「じゃあ死んどけ。」

  

一方その頃八幡はどうしていたかというと、ひたすら息をひそめていた。

彼は、厄介ごとには極力かかわらない主義で、ゲーム内でのPKも積極的な容認派ではないがそういう遊び方もあるという程度には理解を示していた。

なにより、今出て行ったら初心者の自分では戦うどころかターゲットにされて身ぐるみはがされるのが落ちであると考えていた。

なのでこうして潜伏魔法と幻惑魔法の重ねがけをして潜んでいた。

はたから見ればただの茂だが、見破れる人からしたらモンスターが隠れているように見える。

こうして、二重の潜伏を行い難が過ぎるのをじっと待っていた。

(ちっ!こんな最初からPKに出くわすなんてほんとついてない!)

思わず舌打ちしたいのをこらえてじっと縮こまると、こっそり戦況をのぞいてみた。

すると、案の定インプの少年が追い詰められていた。ぎりぎり紙一重のところで攻撃をかわしてはいるが、どんどん間を詰められていた。そしてその背後には八幡。

(おいおい冗談じゃないぞ!?なんでこっち来るんだよあっち行けよ!)

しかし、そんな願いもむなしくついに八幡の目の前まで後退してしまう。

(くっそ。こうなったらイチかバチか...)

サラマンダー二人がインプに飛びかかった瞬間、八幡は黒煙を展開した。

「うわっ!なんだ?いったい誰が...」

「焦るな!相手のインプがかく乱で仕掛けただけだ!こんなの、熱風で吹き飛ばせる!」

そう言ってサラマンダーは小刀を振ろうとしたが、その手には小刀はなかった。

「食らいやがれ!」

彼が困惑していると、もう一人のサラマンダーから放たれた斬撃は見事に人影を断ち切った。

サラマンダーの、人影を。

「なっ!?おまえ!?」

「えっ?」

同士うちによる一瞬の戸惑いのスキに、インプの少年は残った一人に魔法を打ち込んだ。

「がっ!?くそ、てめえ。小汚い真似を...」

「小汚いのはお前だろ。」

「!? 誰だ!?」

霧の中から八幡は顔を出すと、立て続けにデバフを打ち込んでサラマンダーのスピードを0近くまで落とした。

「動けねえだと...てめえ、スプリガンか?」

「そうだよ。この種族のデバフってほんと便利だな。」

「やっべえ...スプリガンで黒髪で強いプレイヤー...

まさか、黒の剣士!?」

残念ながら、サラマンダーの予想は全然違う。実際は初めて一時間もしない超初心者なのだが、そんなことを知らない人からしたら噂で聞く見た目によく似た高レベルプレイヤーを連想しても仕方ない。

そしてこの状況を利用しないほど甘い八幡ではなかった。

「ああ、そうだよ。俺が黒の剣士だ。これ以上ひどい目にあいたくなかったらとっとと帰れ。」

「ひ、ひいいいいい!?」

つい数十分前の八幡と同じ声を上げて退散したサラマンダーが見えなくなるのを確認して八幡は振りむいた。

「これでもう安心だろ。怪我はないか?」

 

これが八幡のALO内での人気者への第一歩となるのだが、これが後々大騒動になろうとはだれも想像もしていなかった。

 


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