俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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神「あっ、来ました。作者の赤色の魔法陳が会見場に姿を現しました」

作「この度は更新の頻度が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした!!」

零「質問宜しいでしょうか。前回更新の際、リバイスの強化フォームが出るまでと仰っていましたがすでにバリッドレックスゲノムは登場してしまっています。その件はどのようにお考えでしょうか」

作「はい...正直ボルケーノを強化フォームと捉えるか否かで言い訳が通じるかと思いましたが既にボルケーノすら登場してしまい言い訳できなくなってしまいました。しかし近年の強化フォームとは従来の定義と外れて...」

卯「こちらからも宜しいでしょうか。この半年あなたのツイートからは小説関連の話題はほぼ触れられず、特撮関連以外ではドラマの感想やコト○マン、ご○ぱず、ウ○娘等のツイートしか見受けられません。一体何をしていたんですか?」

作「はい...ソシャゲを増やした事による執筆の時間の消失、この空き時間で書こうと思ってもその時に限ってアイデアは出来ていないのに次の話の概要だけが独り歩きしていってる状態であります。正直ウ○娘にここまでハマるのは予想外で...」

翔「僕の続編はいつくるんですかー!!!!」

麗「出すって言ってた用語集もう一年以上編集してないじゃないですかー!!!!」

作「ちょっ、質問は一人ずつ!!物投げないで!撃つな!?キックもして来ないで!?」

神「暴動です!暴動が起きてしまいました。作者が...あぁ、自業自得ですね。さて続いては半年振りの最新話をお送りいたします。ブラウザはそのままでどうぞ」


言葉が通じなくても

 部屋に鳴り響くゲーム終了のホイッスルと共に絶えず鳴り続けていた銃声が消える。その部屋にいるのは二人の男女。

 

 片方、水平に銃を構え重心を傾かないように両手で銃を支えている黒髪の男。眼光は鋭くその様子はさながら犯人に詰め寄る刑事のようである。

 

 片方、鉛直に銃を構えその華奢な手には大きいであろう銃を片手で持っている赤茶髪の女。その目付きは穏やかでさながら追い詰められても余裕を見せる犯人のようである。

 

 部屋の壁の一部が変形する音がし、二人がその方向を見ると丁度それぞれの目の前にデジタル表示の数値が映っていた。零矢の前には3、卯一の前には2と表示されている。これが二人のスコアの一の位の数字である。

 

 続いて十の位の発表だ。ルールの関係上この数字で勝敗が決まると言っても過言ではない。表示された数字は二人とも8、つまり零矢が卯一より一点多いということになり、零矢は思わず

 

「よしっ!!」

 

 とガッツポーズをした。だが相手は普通とは言えない卯一である。その場合、勝敗が決まるのは過言であることを零矢は思い知ることになる。

 

「えっ!?」

 

 十の位の発表で終了ではなく百の位が発表された。零矢はもちろん0、しかし卯一の数字は2だった。つまり卯一が不利なルールであるにも関わらず零矢よりもトリプルスコア以上を記録したということであった。

 

「よし!」

 

 待ってましたと言わんばかりに卯一がガッツポーズをした。それを見て零矢は卯一の課したルールが彼女にとってハンデとして全く機能していないことを理解した。

 

 思い返せば勝った時の特典から釣り合っていなかったのだ。卯一は強制的に答えるという条件の質問、それに対して零矢は卯一に対して何をしてもいいという破格の特典。

 

 零矢の歳を考えればその特典は与えるべきではない。卯一が零矢から好意を抱かれてるというのを知っているなら尚更だ。ゲームに勝ったら自分の言いなりになってもらうと言われたら口約束であるものの従うしかない。

 

 だが零矢は恐らくそういうことを言わない。現に零矢が喜んだのはその特典を手に入れることができたからではなく勝負に勝ったと思ったからである。

 

 つまりこの勝負どちらに転んでも卯一に損はない。零矢は卯一の口車に上手く乗せられてしまっていたのだった。これを策士と言うべきか性悪と言うべきか。

 

「もしかして負けるはずがない勝負を仕掛けました?」

 

 まんまと引っ掛かってしまった零矢が卯一に尋ねると

 

「まぁ...ね。聞きたいことあったし、それに明らかに得があるような勝負には何かしら問題があるんじゃないかって疑って欲しかったし...ゴメン」

 

 流石に自分がした理不尽を自覚した卯一が謝るが

 

「また上手くなったら...勝負してください。次は勝ちます」

 

 零矢は理不尽に怒りを覚えるのではなく勝負に負けた悔しさの方が強かったらしく、そう宣言した。

 

「うん...待ってるね」

 

 そんな歳上の余裕のような笑顔を向ける卯一を零矢は不覚にも可愛いと思ってしまい、照れるように目を反らした。惚れた弱みである。

 

 それから程なくして二人は部屋を出るとモニターのある広間へと戻る。零矢の包帯が汗でほどけかけているのに気づいたクラティオがすぐさま救急箱を開け、零矢を乱暴に椅子に座らせると包帯を取り替える。

 

 その間に卯一はアーセナルから現在の翔と麗華の様子の説明を受け、二人が何とか舟に乗船できたことを知った。

 

 バベルの塔という問題点はあったものの特に今の所問題点はなさそうだと考えた卯一は先程の勝負で手に入れた特典の事を考えていた。

 

 それは零矢が何故自分の事を守ってくれるのかという質問。客観的に見れば零矢が卯一に惚れているのは明白であり、卯一もそれに気付いているのでこれは意味のない質問に思える。卯一は自他共に認める天才でありそれに気付かないはずはない。

 

 だが恋愛未経験の卯一にとって惚れているという言葉の真意を図ることは困難であり、零矢が惚れたのは自分の心の強さにであり、妖美もとい美神卯一自身に惚れたわけではないのでは、と勘繰っていた。

 

……もしかして後輩クン...自分より強いとわかった相手に対して惚れるって言葉を使う子なのかもしれないし...でも何か上手く言えないけど...モヤモヤするんだよなぁ

 

 その単語を自分以外には使ってほしくない、端から見ればおこがましいにもほどがあると思うような気持ちを抱いた卯一はそっと胸に手を当てる。

 

 零矢が誰に惚れてもそれは彼の自由だと理解している。しかし、彼が他の異性にも同じ顔をしているのではないかと考える度、卯一の心はざわついてしまう。

 

……さっき運動し過ぎたから心拍数が上がってるんだよね...きっと

 

 何とか落ち着きと歳上の威厳を取り戻すとそっと零矢の方へ歩みよって行く。それを見たクラティオが何かを察したのか、治療の手を止めそそくさとアーセナルと共に武器庫の方へと戻っていく。

 

「えっ、中途半端なんだけど...おーい、クラティオ?えっ!?」

 

 何故取り残されたのか理解が追い付かない零矢が意見を求めるように卯一の方を見ると、距離がかなり近づいていることに気付き戸惑ってしまうが

 

「ねぇ...さっき私が勝ったから絶対に答えなきゃいけない質問をして良いかな?」

 

 と聞かれ断る筋もないと零矢が同意すると

 

「キミ、何で私のこと守ってくれるの?頼りない先輩だから?それとも歳上の居候だから?」

 

 と卯一は尋ねた。逃げるようにわざと選択肢を出しながら。本当は零矢が自分自身に惚れていて欲しいという気持ちと、強い女性として恋愛感情抜きでの憧れの意での惚れているであって欲しいと。

 

 本当は前者の方が卯一にとってこの上ない嬉しさであるが同時に後ろめたさを感じてしまうからだった。卯一には家の事も、大学の事も、その他諸々の事も零矢が生き返るのにとって障害となってしまう物がたくさんある。

 

 しかも零矢の持つ優しさはいつか自分が生き返ることよりもこちらを優先してしまうかもしれないという怖さが卯一は拭いきれなかった。

 

 だからもし零矢が好きだからという答えだったら断るつもりでいた。それを知らない零矢がその答えを口に出そうとした瞬間...

 

「異常発生です!!急に麗華さんと意思疎通が出来なくなりました」

 

「急に翔の言葉がわからなくなった。どうすれば良いのか教えて欲しい」

 

 ほぼ同時に鳴り響く翔と麗華からの救援依頼。それに驚き二人は瞬時に距離を開ける。もし今の空気が続いたらと思うと二人は気が気でなかった。

 

……正直助かった...心臓バックバクしてた

 

 卯一は深呼吸した後でマイクを装着して二人に話し掛ける。だが

 

「えっ、すみません。もう一回お願いします」

 

「ごめんなさい、わからない。日本語です...よね?」

 

 二人同時に疑問を投げ掛けてくる為、卯一の思考は一旦停止してしまう。

 

「同時じゃなくて交互に喋れる?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 明らかに卯一側からの言葉が二人に通じていない。何を言っても全て疑問点で返ってくる。おかしいと思った卯一は一度最初の交信を思い出す。

 

……お互いの言葉が聞き取れないって言ってたよね...しかも私の言葉を日本語かと疑うってことは...

 

「「言語シャッフルか!!」」

 

「「えっ、何?」」

 

 卯一と零矢の結論が、それに対する翔と麗華の質問がそれぞれ被る。被った卯一と零矢の二人は先程の空気も合ってすぐに顔を反らしてしまう。

 

 言語シャッフルはバベルの塔が崩壊へと進む原因である。それによって人々は意思疎通が不可能となったのだ。今まさに翔と麗華はその状態に陥っている。やはりバベルの塔があったのはそういう事態が起こる事の伏線だったようだ。

 

……どうしよう、こちらからの意思疎通が不可能だし、二人が何語を話しているのかさえわかれば何とかなるかもだけど...

 

 悩んでいる卯一の力になりたいと零矢が案を絞り出す。

 

「メッセージ機能ならどうですか?」

 

「日本語がわからなくなってる可能性があるから無理かも」

 

「なら数字は?」

 

「数字は全世界共通じゃない」

 

「なら写真で...」

 

「そうよ!写真、図を描いた暗号を送れば例え文字が無くても推測は可能...後輩クン手伝って!」

 

「はい!」

 

 すぐに卯一は裏紙を用意すると素早く十二個の正方形を縦四、横三に並べそれぞれのマスに別々の記号を入れていく。そしてその文字と同じものや似た者を用いて文のように書き、それを零矢に撮らせ二人に送った。

 

「これを二人が解いてくれれば良いけど...」

 

 もはやそれを神頼みするしかなく、もどかしい思いを抱きながらも卯一はモニターを睨んでいた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 互いの言葉がわからなくなってからしばらくたってどこからかメッセージを受信したのに気付き二人はGod-tellを取り出す。送信元が誰なのかは字が読めずにわからなかったがタイミング的に零矢か卯一だろうとは感じていた。

 

 そこには二枚の写真。一枚目には十二個の正方形の中にそれぞれ記号が描かれており、二枚目には一枚目にあったのと同じ正方形の中に記号とそれに似て正方形の中に上下左右に記号が寄せてあるものが並べられていた。

 

……どういうこと?まさか私にだけこう見えてるのか?

 

 疑問に思った麗華が翔の方を見ると、翔も確認を取るようにGod-tellを麗華に見せる。そこにはやはり同じ画像が送られて来ているのがわかる。

 

 一枚目に描かれた正方形の中の記号は

 

         ■ ● ▲

         ▼ ★ ◆

         ○ ◇ □

         ▫ ◉ ◦

 

であり白や黒で作られた簡単な図形だった。あまり規則性は見られない記号だったがこれが正方形で囲まれる事で何らかの意味をなすと言うのが推測出来る。

 

 二枚目は一枚目と同じ物と、正方形の中心から上下左右に少しだけずれた記号が並んでいた。略図にすれば

 

 ●↓ □→ ◉← ▼↑ ● ▼↑▫ ▼→

 

 ■← ▲← ▲↓ ▼↑ ■↑ ◉←

 

 ◆ ● ▼↑▫ ▼→ ★→ ◦

 

という感じでこれに正方形が付き、矢印はずれている向きを表す。それぞれの記号間には一定の間隔があることからそれぞれの記号一つ一つが何かしらの意味を持つのだろう。

 

 十二個の記号には規則性が見受けられず並べられた記号は同じ量ではなく、不規則な量で並んでいる。何かの暗号かと二人は思考を凝らすが何の事かさっぱりわからない。

 

 しばらく考えていると再び画像が送られて来る。そこにはリンゴとコップと鉛筆が並んでおりそれぞれ手前に

 

 □← ◉↑ ●↓▫

 

 ●↓ ▼↑▫ ◆↑▫→

 

 ■→ ◉↑ ◆←▫→ ▼↑

 

と記されていた。今度はこの記号と物が対応しているのを表している事に気付き、先に送られて来た二枚目に当てはめていく。するといくつかは当てはまったがまだ内容は見えてこない。

 

 するとまた一つ画像が送られて来て、今度はGod-tellが映っていた。画像の中のGod-tellの画面にはメッセージを打ち込むフリックボードが表示され誰かの指がそれを指していた。

 

 そこで二人は同時に結論にたどり着く。一枚目がフリック入力のそれぞれの行と記号が対応しているのを表し、二枚目以降の上下左右にずれた記号はフリック先を表していたということに。

 

 つまり送られて来た文章は

 

 こ れ を つ か っ て

 

 い し そ つ う を

 

 は か っ て ね 。

 

となる。何だか文字にしてみると脅迫状みたいだし、謎トレみたいなやり方だなと二人は思ったがこれで言葉は通じなくとも意思疎通を図ることが出来る。

 

 二人は床に記号を彫って自分が今相手の言葉が未知の言語に聞こえるということを伝えあった。しばらくすると再びメッセージが送られてくる。

 

 今度は今何が起きているかの説明だった。バベルの塔があった理由、それゆえに自分達の言語が変えられてしまったこと。時間は掛かったが二人はようやく自分達が置かれている立場を完全に理解した。

 

……でも言葉が通じないのにどうやって心を通わせればいいんだ?

 

 今の状況を説明することもまして信頼を深めることも出来ない。何故舟に乗せる気になったのかすら今ではわからないだろう。

 

 翔はそう悩みながらも麗華を連れてノア達がいる部屋へと向かい始める。部屋に着くとやはり皆混乱しているようで互いに何かを伝えようと叫ぶも、受け手がその言葉の意味がわからずそれに対して叫ぶ、その繰り返しだった。

 

 ノア達に現代技術であるフリック入力の暗号が理解出来るとは思えない。どうしたら良いものかと二人が悩んでいるとノアが諌めるように何かを言った。すると騒いでいた他の人達は一瞬で静かになる。

 

 やがてセムを指差すと動物を見てこいと言うように階段を指差した。それが通じたのか彼はすぐに立ち上がると階段を下って行った。

 

 文字を使わなくとも意志疎通を図っているノア達に困惑するも、これは習慣とジェスチャーを交えているからということに二人は気づいた。

 

 家族の中でノアの発言は絶対であり、的確な指示を瞬時に出しそれに指示された者が従う。この時代では家族という団体でしか成せない方法で意志疎通を図っていたのだ。

 

 それならば何か自分達に出来る事はないのかと二人は必死に考え、舟の甲板に出て外の様子を確認しようとノアに上に行くとジェスチャーするも首を横に振られて断られた。

 

 そこで二人は雨と波、そして動物の鳴き声が響き渡る中微かに人の悲鳴のようなものが聞こえるのに気づく。既に舟が地面から浮き上がる程の水位、そんな水位になれば人が生き残るのはほぼ不可能だろう。

 

 つまり外から聞こえてくるのはノアの預言を信じなかった者達の悲鳴だった。思わず翔は助けようと走り出すもノアに止められる。

 

 ノアは首を横に振った。振るしかなかった。外で悲鳴を上げる人々は助けられない。助けてはいけない。何故ならそれがこの物語のルールであるから。二人が箱舟に乗れたのはイレギュラーな展開であり、これ以上イレギュラーを増やしてはいけない。

 

 翔が麗華の方を見ると、翔より先にその事実を理解していた麗華はただ拳を握り締めることしか出来ず悔しさを滲ませていた。それを見て翔は諦めたようにノアに掴まれた腕の力を抜く。

 

 その瞬間だけは五月蝿かった雨音も波の音も動物の鳴き声もひどく静かに思えたのだった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 塔が崩れだしてから約二十分程、どんどん上昇する水位は既に民家の天井を軽々と越し、眼下には流れる人と塔の破片が波に飲まれていく繰り返し。

 

 耳には塔の残りを削らんと降り注ぐ雨音の轟音と流される人々、落下する人々の断末魔、そして次は自分かという嘆き。

 

 そんな非日常的な状況で周りのどの人よりも大人しく、またはこの状況が飲み込めない子供のようにイーとチーは手を握りながら黙って眼下を見つめていた。

 

 イーは空いた手に持ったカプセルをそっと放すと地面に落ちる前に踏み潰す。カプセルが割れ中から紫色の煙が噴出し、やがてそれが形を成していく。

 

 醜い魚のようなそれは浜辺に打ち上げられた水を求める魚の如く跳ね回るが足場を崩して水の中へと落ちてゆく。

 

 失敗か、そう二人が思っていると眼下で水に溺れる人々を食らい先程よりも巨大になった魚――ニーズヘッグが見え二人は安堵する。

 

 ニーズヘッグは見境なしに人や沈んだ水死体を食らってその体積を増やし、塔へとかじりついて更に多くの命を食らおうとする。

 

 自分達の足場が危ういにも関わらず二人は落ち着いた様子で

 

「翠女神は能力で霊獣を操れるけど他の人は違う」

 

「だから誰でも従わせることが出来て、尚且つ翠女神から支配権を奪われない霊獣...多分その試作品だから...」

 

 呪文のように呟くと縁に足を掛け二人同時に飛び降りる。身体が空気抵抗を受ける感覚が全身に駆け抜け、徐々に眼下の波が近付き、中から待ってましたと言わんばかりにニーズヘッグが巨大な口を開ける。

 

 二人の男女が魚の化物に飲み込まれたのと同時、バベルの塔は音を立てて崩壊し、全て波の中、もしくはニーズヘッグの体内へと消えた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 異変に気づくのに時間は掛からなかった。外から聞こえる人々の悲鳴それが段々少なくなっていた。普通に考えれば体力切れで溺死したのかと考えるが一人辺りの声量は大きくなっている。溺れる寸前の人間からはそんな声は聞こえないはずだと思っていると舟が何かにぶつかって揺れた。

 

「何!?」

 

「塔の残骸が流れて来たんでしょうか?」

 

 翔の考えている事は大方予想できたが麗華は塔から距離があった上、残骸では舟全体を揺らすことなど出来ないはずではと睨んでいた。麗華の予測を裏付けるように再び舟が揺れる。

 

 揺れに耐えることが出来ずよろけそうになったノアを翔が庇い、麗華は固まって座っていた女達の側へと駆け寄る。異変を感じたセム達も戻ってそれぞれの妻の元へと駆け寄った。

 

 男達にその場を任せると麗華は階段を駆け上がり甲板ヘ向かう。それを見た翔も後を追うように階段へと駆けた。

 

 甲板へ出る戸を開け麗華が外に出ると降り注ぐ雨粒が止めどなく甲板を叩き視界もままならない状況だったが揺れを感じた側の縁へと走る。

 

 縁から下を見ると日もなく漆黒の海面に巨大な影のような物を見つける。すると翔が追い付き同じく海面を見るが何も見えない様子だったので麗華はGod-tellを取り出し『探査』のボタンを押してライトを着けた。

 

 翔も同じようにライトで海面を照らすと海中に黒い巨大な魚のような物が映る。それは海中に沈む死体を食らい徐々にその体積を増やしていた。

 

 目を凝らして見ると背の部分に羽のような物が生えているのが確認でき、どう考えても魚類には思えず異様な見た目をしていた。

 

 すぐに写真を取り卯一にその概要を送ると返ってきたメールには

 

(よくわからないけど特徴が似てるのはバハムートとかかな、気を付けて)

 

 と書いてあった。そう言われても二人ともバハムートなど知らず、麗華もバハムートという霊獣は見たことがない。残りのGDの二人が呼び出したのかと思いつつ麗華は操る為に手を伸ばすが

 

……反応しない...違う!?こいつ意思を持ってる、しかもかなり強固な意思...まさか中に誰か入ってる!?

 

 すぐに手を引っ込める。それを不思議に思った翔が怪訝な顔をするも麗華は首を横に振って伝える。すると舟の中から女性の悲鳴が聞こえて来た。

 

 その場を麗華に任せ翔が舟の中に戻ると先程いた場所に水が入り込んでおり、また動物を乗せている部屋まで浸水している様であり、水を舟の外に出すには人手が足りない為、麗華にメールを送ろうとGod-tellを取り出すと先に麗華からメッセージが届いていたらしくその内容は

 

(行ってくる)

 

という一言だけだった。すぐに翔が甲板へと向かうもそこには残っていた麗華の姿は見えず、あるのは甲板を叩きつける大量の雨粒だけ。まるで虹神麗華という人間が最初から存在しなかったかのような錯覚に翔は襲われた。

 

 しかしそれが錯覚ではないという事を示すように海面の下から一筋の光が飛び出す。それはこの薄暗い世界に似合わない光輝く翡翠色、麗華が纏う魔王の矢。その矢が雲を切り裂くように上空へと飛び出して来たのだ。それはつまり

 

……この光も届かない海の中で麗華さんは戦っているのか!?

 

 気配を察知して襲い掛かる霊獣に圧倒的不利な状況下で麗華が一人戦っている事を意味していた。

 

 麗華は魔王装備を纏い自らが放つ翡翠の矢が放つ矢によって相手の位置を捕捉し、間に合わなければ己の鍛えられた感覚によって喰らい付く霊獣を躱していた。

 

 海水の抵抗により身体も十分に動かせない海中にて霊獣の攻撃を躱せば相当な体力を消費するのは明白だ。尚且つ麗華が纏っている魔王装備は使用者の意識が弱くなればその身体を乗っ取ってくる。

 

 そうなれば箱舟を壊しかねない。しかし海中専門の神力は無いため溺れない為にも魔王装備を纏うしかない。よって自身の活動限界を理解している麗華が霊獣の相手をするという彼女の判断は最適解であった。

 

 加えて彼女は窒息しない為に大気を霊子で作った複数の小さな箱に閉じ込め、それをネックレスのように掛けて酸素を得ていた。

 

 今まで魔王装備を使って息切れを起こした事はなく、今現在も鎧の中に海水が浸水してくることはない。完璧な密閉状態で恐らく鎧内部には一定の酸素濃度がある事は推定していたが今回の空気詰めネックレスは念のためである。

 

 再び気配を感じ取り目の前の漆黒へと矢を放ちながら、麗華は霊獣に直接触ることができればどうにかできるのではないかと考えていた。ただしその行動に移るにはそれ相応の覚悟がいることは明らかである。

 

 だがここでやらねば誰がやる。そう思った麗華は口を開けて突進してくるバハムートを身体を捻りながら逃れその体躯に触れた。その直後

 

((殺す。このニーズヘッグで船も翠女神も何もかも殺してやる!!))

 

 重なるような声がバハムートの中から呻くように響いてきた。正確にはこの霊獣はバハムートではなくニーズヘッグと言うらしいが今はどうでも良い。この霊獣の中に少なくとも二人、強い意思を持った者が入っているのが確定した。

 

……こいつを止めるには中の人間ごとやるしかない...

 

 麗華は旋回する霊獣に照準を合わせて弓を引いた。抵抗のある水の中、必殺技を打つなら最低限五メートル以内に近付いてから。それを条件にしつつ気配で相手の様子を探る。

 

……私は信じる物の為に...信じる物の...

 

 だがここで脳裏に時神家で囲んだ食卓がちらついてしまった。相手は霊獣に取り込まれているとはいえ、自分がやろうとしているのは殺人になるのではないかと。

 

 翔にここは現実ではないから、なんて言葉を投げ掛けてしまったのは自分の中で殺人がやむを得ない手段として未だに残っていたからなのではないかと。

 

 そしてその隙を晒した代償は大きく、麗華が照準を合わせようとした時には既に霊獣は目の前まで迫っていて、回避に間に合わなかった麗華の左腕を鎧ごと食いちぎり舟へと追突した。

 

……しまったッ...!!

 

 左腕が失くなったことにより弓を構える事が出来ず、更に破損部分から海水が鎧内に少しづつ浸水していた。また、出血したことにより体力が更に持っていかれてしまう。

 

 浸水に悩んでいたのは麗華だけではない。舟の中にいる翔達も先程よりも水量が多くなってしまい対処に手間取っていた。

 

……このままじゃ沈んでしまう!何か手は...

 

 麗華がGod-tellの画面に浮かべたものは『氷結晶石』というアイテム。記憶が正しければこれは妖美卯一が天界で使用した物。だが威力があまりにも高く天界では空を穿つ程の氷柱を形成していた。

 

 これを使って穴を塞いだところで舟が傾く恐れがあり、中の人すら無事のままでいられるのかといえば望みは薄い。なら霊獣に撃ち込むか、そう思っているとGod-tell内にもう一つのアイテムを目にした。卯一が言うにこれは

 

……『吸収珠(アブソーブボール)』...名前からして威力を吸収するアイテム...なのか?もし彼女が『氷結晶石』と同時に使う前提で持ってきたのなら...これに賭けるしかない!

 

 麗華は霊子を用いて義手を作り弓を固定し、牽制の為に何度か霊獣に矢を放った。今頭に思い付いた作戦は翔の協力が前提であり、麗華が舟の真下で弾丸を放つとほぼ同時に翔が床に向けて珠を投げる。そうすれば舟は氷でコーティングされるだけに留まり中まで侵食はしない...はずである。

 

……気付いて...翔!!

 

 念じながら霊獣を惹き付けながら攻撃を躱しつつ舟の下へと潜っていく。

 

……早く...早く...早く!!

 

 そして何度目かの突進を躱した後で、翔からの合図が耳に入った。言葉を理解できない今、厳密に言えば合図なのかどうかすら定かではない。だが少なくとも今の二人の間の信頼は、言語の壁すら越える事は想定していた。

 

 その想いは舟の上の翔も同じであり、麗華の未来を予知することでその意図を察し、GK銃にGod-tellをセットしていた。画面に映る吸収珠を選択し銃口を床へとむけ引き金に指を掛ける。

 

 そして、麗華が舟の最下部に向けて弾丸を撃つと同時に翔が内から床へ弾丸を撃つ。

 

結晶弾(クリスタルショット)!!」 「吸収弾(アブソーブショット)!!

 

 小さな氷の弾丸が舟にぶつかった瞬間、目にも追えぬ速さで舟の表面が、それにとどまらず周りの海水までもが連鎖的に凍結する。

 

 だが舟全体が氷塊になることはなく威力が吸収されたことにより、当初の目論み通り表面だけを氷でコーティングすることに成功した。

 

 浸水が氷によって食い止められたことを確認した翔は直ぐ様甲板へと向かい麗華を探す。表面が凍結した甲板はさながらスケートリンクの様であり海上では少し凍える程の寒さだった。

 

 余りに舟の中の気温が下がるようでは動物達の命の危険が考えられるが穴の場所以外で火を焚けば少しはマシになるかと考えるほど翔の中にはいくらかの余裕が生まれてしまっていた。

 

 次の瞬間、甲板を飛び越えるようにバハムート、もといニーズヘッグが海面から飛び出してきた。その恐ろしい体躯を暗闇で見せ付けるように頭上を舞う霊獣から滴り落ちる海水を浴びれば翔の余裕などボヤのようにかき消されてしまった。

 

……そうだ、まだコイツが残ってる。それに神力もまだ...

 

 取り敢えず麗華に報告のメールを、そう思った時視界の隅で何かが光っているような気がした。見ると甲板の上にポツリと翔が持っている物と同じ型の携帯端末が何かの上に乗っていた。

 

 海水と一緒に麗華のGod-tellが落ちて来たのか、そう思いながら近づいていくとGod-tellが何の上に乗っているのかがはっきりと見えた。

 

 翡翠の鎧を着けた人間の腕...洪水に巻き込まれて流された人々から千切れたものではない。この腕は間違いなく

 

「麗華...さんの?」

 

 言葉にして確定してしまえばあり得ない程の恐怖とそれと同じ程の憎悪が翔の中に沸き上がって来た。降り注ぐ雨も、気温を下げる氷さえも冷静さを取り戻すには冷たさが足りない。

 

 遅れて甲板にやって来たノアの家族達の方を見ることもなく翔は手元に召還した槍を構えると呪文を唱えようとする。

 

 目の前の雨粒が止まって見える程、翔の感情はどす黒いもので染まっていて...否、雨粒は止まって見えるのではなく無数の水滴が宙に静止していた。それに気付く頃には翔は少しだけ冷静さを取り戻していた。

 

「ようやく我に返ったか」

 

 自身とノア達の丁度中間、白い何かが立っている。幽霊の類いかと思ったがどうやら足はしっかり生えていた。

 

「冷静になったのならいいことを教えてやろう。お前があの化け物を倒すに足りないものがある」

 

 動けない翔をよそにその人物はゆっくり近づいてくる。そしてすぐ横まで来ると耳打ちするように言った。

 

「愛と信頼で大切な者を殺す覚悟だ」




次は番外編の方出す...と思います!

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