俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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林「満を持して私、参上。クソガキども覚悟しな」

零「口悪い初登場はあんまりよくないだろ」

林「は?」

翔「まぁまぁ、えっと...雨雲さんでしたっけ。かなりお歳をめされていらっしゃる感じですかね?」

麗「それはそれで失礼だと思う」

巳「よっ、林。来てたのか?」

林「おっ、大津...」

巳「年下には優しくしないとな、仲良くしろよ?」

零・麗・翔(そう言えば一番年上はこっちだった...)

巳「あと、大津“さん”な、巳羅姉でも良いけど」

林「くっ...早く本編行ってくれ...」


ぶつかり合う信念

「あれ、どこに行った?」

 

 金髪の少女を心配して路地裏まで来た勇は少女を見失っていた。そこまで距離は開けていなかったはずだがそこには全く人の気配が無かった。親と合流したのだろうか、それなら心配無いかとその場を去ろうとするとどこからか話し合う声が聞こえて来た。

 

「結晶石三つですね、いつもありがとうございます」

 

「こちらこそ、換金してもらって感謝している」

 

 何かの取引を行っているのかと興味を引かれた勇はその声がする場所を恐る恐る覗くと先程路地裏へと一人で消えた少女が風呂敷に包んだ緑色の石のような物を大人の男性に渡し、見返りに札束をもらっている場面だった。

 

 あの子供闇の取引でもしてるのか、と勇が息を潜めて覗いていると、札束を懐にしまいこんだ少女は男に対し

 

「それよりも下手な尾行はつけないでもらいたい」

 

「え、あれあなたのボディーガードじゃないんですか?」

 

「違う...まさか一般人か?」

 

 自分の事を言われていると確信した勇は足音を殺しながらその場を離れそのまま大通りへ戻ろうとするが、角を曲がった所でその少女が待ち構えていたのに驚き後ろに尻餅を着く。

 

「誰、お前?」

 

「俺はただの学生だけど...」

 

「あ"?じゃあ何でついて来たの」

 

 高圧的な口調で勇を見下すその少女は生意気と言うより瞳の中に哀しみを帯びたような印象を勇は受けた。まるでこちらの世界に足を踏み入れるべきではないと警告するように。

 

「俺はただ子供が一人で路地裏なんて入るから心配になってついてきただけだ」

 

「ストーカーの言い訳にしては良く出来てるわね」

 

「お前子供じゃないのか」

 

「今年で21よ、文句ある?」

 

 小学生にすら見える見た目で実年齢が自分よりも上だった事に勇は驚きを隠せないでいた。思えばつけている時点で厳格のあるような歩き方をしていたし、小学生にしては近寄りがたい雰囲気を出していた事を思い出す。

 

「余計なお世話...まぁあいつらに色々世話してやってる私が言える事じゃないか。お前名前は?」

 

「黒田 勇だ」

 

「勇か、私は雨雲 林だ。これから言うことは秘密にしておけよ、私は...」

 

 林が何かを話そうとしたその時、遠くから爆発音が響いた。それに遅れて逃げ惑う人々の叫びが聞こえてくる。何かの催しではないことをすぐに察した勇は緊急事態が起きたのではないかと推測し直ぐ様大通りへ向かおうとするが、それを林が止める。

 

「あいつら人間じゃない」

 

 林が指差す方向を見るとこの季節には相応しくないお揃いのコートを来た数人が逃げ惑うわけでもなく、歩きながら出入口の方へ向かって行くのが見えた。

 

 人間ではないという言葉の意味がわからず勇が困惑していると見ていたのとはまた別のコートの数人がこちらの路地裏へ入ろうとして来る。林がすぐに勇を連れて取引を行っていた場所まで戻るとそこに既に取引相手はいなかった。

 

 この路地裏は一つの出入口への近道でもある。そうなればこいつらは出入口を制圧でもするつもりなのかと疑った林はコート達の前に躍り出ようとするがそれを勇に止められる。

 

「お前、人間じゃないってどういう事だよ!?何でそんな奴らがここにいるんだ?」

 

「それをこれから調べるんでしょうが!!」

 

「危険だろ、取り敢えず俺達も逃げ...」

 

 再び爆発音が鳴り響き勇は林を庇うように頭を伏せる。その爆発はメインエントランスの位置からでありその路地裏には幸いにも被害は及ばなかった。しかし再び爆発音が鳴り響く。

 

 流石に覆い被さられたままでは動けないので林は勇を気絶させるかと考えているとふと懐かしさが頭をよぎった。

 

(林...私の可愛い娘)

 

 笑顔で林の事を抱える母親が林の頭の中に映る。既に二十年以上前の記憶が何故今甦ったのか理解が追い付かない林は咄嗟に勇を払いのける。

 

……あんな母親...何でッ

 

 林の拳を握る力が強くなっていく。それを見て転んでいた勇はすまない、と声を掛けるがその声は林の耳には届いていなかった。勇がもう一度謝ろうとすると林の両目が光り出していることに気付く。

 

 それに気付くと同時に林の回りに風が吹き出したのを感じた勇は後ずさりするように林から離れる。まさか林も人間ではないのではという疑問を勇が抱いていると深呼吸をして気持ちを落ち着かせた林が風を纏ったかのように宙に浮き、勇と同じ目線になった。

 

「私は天狗だ。お前ら人間が忌み嫌う、かの山の主だ。お前は私に会わなかった、そう思って自らの日常へ戻れ。私に関わってもろくな事がないぞ」

 

 余計な事など何も知ることなく平穏な日常を送って欲しい、そんな言葉を林は言おうとしたが結果として自らを蔑むことしか言えなかった。だが

 

「俺は構わない、あんたは俺にとって守るべきもの...そんな気がする」

 

「意味がわからない...だが、ふふっ。私も人間に毒されているみたいだな」

 

 勇は林の正体を知った所でさほど驚きもせず、距離を置くこともなかった。それを見て林は人間も一枚岩ではない事を感じた。自身の存在を忌み嫌うのではない、受け入れてくれる存在を心の中で求めていた林はそれが既にあることを実感する。

 

「少しぐらい人間の役に立ってやってもいい...ついて来い、勇。もしあのコート人間もどきが爆発事件の犯人なら私が吹き飛ばしてやる...私のこと、守れよ?」

 

「え...あぁ」

 

 吹っ切れたような表情になった林は宙に浮かびながらコート達の後を追跡する。それを追いかけるように勇は走り出した。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「おいおい、誰か他に倒して回ってるのか?とんだロスだな」

 

 それぞれの出入口へ向かって顔無しの軍団を対処しようと思っていた零矢は行く先々で出入口に到達出来ず足を折られて地面に転がっている個体や、吹き飛ばされたように壁にめり込んだ個体を確認したのだ。

 

 メインエントランスから近い順にそれぞれの出入口を回っていた零矢は残り三分程で半分の出入口を回り終えていた。しかしその内の二つは既に顔無しは倒されており無駄足となった事を零矢は実感する。

 

……後半分、俺が行かなくても誰かが対処しているかもしれない...そろそろ警備隊が突入して来る可能性もあるしここは退くべきか

 

 一度足を止めメインエントランスの方から脱出するべきかと考えていると、最初に爆発が起きた場所の辺りで再び爆発が起きる。

 

……どうする?他の出入口を確認しに行くか、それとも麗華かウイッチさんと翔の方に手助けに行くか...確か箱舟ノ書はあっちの方...

 

 位置を確認するように零矢が方向を指差すとそのタイミングでその場所から爆発音が響いた。その時、無意識にも零矢はその方向へ駆け出していた。自分が今何をしているのかを冷静に考えられる状態になった時点では既に零矢の走る速さは最大速度に達していた。

 

 明らかに人手が足りないのは麗華の方である、それを理解しながらも零矢は自身の想い人の方が心配になるほど冷静さを欠いていた。

 

……頼む...生きててくれ!!

 

 何度呼び掛けても卯一は応答しない。最早ブレーキを掛けることすら出来ず、零矢は爆発地点まで走る。地を駆け壁を蹴り屋根を飛び越え一心不乱にその場所を目指して走り続けた。途中でようやく連絡が復活し一度止まって零矢は卯一の安否を尋ねる。

 

「そっちは大丈夫ですか!?」

 

 しかし零矢がマイクに向かって叫びながら気付いたのは目的地と丁度逆にある出入口の目の前で逃げ遅れたのか少年が転んでいるのを発見する。その脇の壁に爆弾のタイマーのような物が光っているのが目に入った。

 

「待って...」

 

 卯一の声が聞こえる前に今度は逆側に走り出した零矢はGod-tellから天照大御神を選択し、駆け抜けようとするも体力切れのせいで変身がすぐに解けてしまう。

 

 咄嗟に一つ残ったワイヤーを街灯の支柱に巻き付け、それを縮ませることで推進力を得て宙を駆けながらその少年の元へ向かう。もし全ての爆弾が一斉に爆発するならば後一分もない事に気付いていた零矢は辿り着いた所で爆弾を処理する事は不可能だと判断し『紅蓮の剣』を取り出した。

 

魔王解放!!

 

 地面に着地し、推進力を殺さないように走り続けながら零矢は神事屋Tシャツを脱いで叫ぶ。

 

「そこのガキ!!伏せろォ!!変身ッ

 

 零矢は地面に飛び込みながら鎧を装着し手に持ったTシャツを転んだ少年に頭から被せる。そして爆弾の残り時間を確認すると

 

……後二秒!!

 

 直ぐ様その子供に覆い被さるように地面に伏せた。次の瞬間爆発音と共に崩壊した壁の破片が零矢の背中を強打する。それだけではなく壁が崩壊した事により建物が倒壊し零矢の上に瓦礫が降り注いだ。それでも少年を自身の身体で潰してしまわないように腕に力を掛け息が出来るスペースを作る。

 

 やがて崩壊が止まったのか零矢の身体にのし掛かる瓦礫がそれ以上重くなる事はなかった。しかし既にその時点で人間が耐える事など出来ない程の重さが零矢の上にはのし掛かっていた。零矢の腕は既に限界を迎え、脚は圧迫されて感覚がない。

 

「ぐっ、ハァァァァァッ!!!!

 

 背中に乗った瓦礫を気合いで押し上げ零矢は立ち上がると鎧を着たままでは声が届かないのでTシャツを被せたままの少年に出入口の方向を教えるように指を指す。年は泣き叫びながら出入口の方へと走って行った。どうやら腕も脚も骨折しておらず無事なようだ。

 

 しかし零矢が安心したのも束の間、視界が揺らぎ激しい頭痛が襲う。まるで意識を乗っ取るかのような感覚を零矢は覚えていた。体力切れ、つまり装着者に抵抗の意思がないと判断された場合、強制的に身体を乗っ取ろうと鎧が目を覚ます。

 

 それを対処するためには鎧と連動している武器を投げ捨てそこから離れる事だがそれをまだ知らない零矢はただ抗うことしか出来なかった。

 

「止め...ろ!ぐっ...ぐあああああっっっ!!」

 

 意識が鎧側に移ったのを表すように頭を押さえていた手が下に垂れ下がる。そして白い目がギラギラと光り出すと鎧は出入口付近にいる人間を殺戮する為に進行を開始する。

 

「よせ!!零矢ぁ!

 

 出入口から走って来た巳羅に呼び掛けられ鎧はその足を止めるが脅威はないと判断し再びその足を踏み出した。

 

 既に零矢の意識は無いと理解した巳羅がポーチから

発煙筒のような細長い拳サイズの円柱を取り出し側面に付けられたトリガーを押す。すると片方の先端から何かが溢れだし、やがて鞭のごとき長さまで伸びた。そしてもう片方の先端にあるボタンを巳羅が左手の掌に押し付けると

 

Electric!!

 

 と電子音が告げ、鞭全体が電気を帯びる。威嚇するように地面に鞭を叩き着けた後で、それを鎧が剣を握った腕へと巻き付ける。感電により鎧が剣を離したタイミングでトリガーを引く。

 

Electric Burst!!

 

 という電子音と共に鞭の電圧が一気に引き上がり辺りに火花が飛び散った。鎧が痺れている間に巳羅は剣を回収し

 

「Back!!」

 

 と叫ぶと鎧は強制的に零矢から剥がれ剣に装甲が戻って行くと、その剣が零矢のGod-tellへと吸収される。そして鎧の支配から解放された零矢が地面に倒れた。

 

「おい、しっかりしろ!零矢!」

 

 Tシャツを渡していた為、上に何も着ていない零矢を巳羅は抱え出入口へと歩く。巳羅は対処法を卯一からの連絡で聞いたが実践で成功した事に安堵した。

 

 やがて出入口が見えるとそこを警護していた警官に二人は抱えられる。巳羅は怪我をしていないので救護されるのを断り、零矢の手当てを頼むと警官の一人が

 

「君はさっきメインエントランスで注意喚起していた人じゃないか、どうやってまた入り込んだんだ!」

 

 能力を使って再び入り込んだ巳羅は流石に正直に言うわけにもいかず苦笑いで誤魔化した。すると連絡を取り合っていた卯一と翔が駆けよって来る。

 

「零矢先輩は?」

 

「今、あっちで手当てして貰ってる」

 

「じゃあ、巳羅さんが止めてくれたんですか?」

 

「あぁ、何とかな。って卯一?」

 

 巳羅の言葉に耳を傾けることなく卯一はスタスタと零矢が手当てされているテントまで歩いて行く。それを不審に思った巳羅と翔が追いかけると、卯一は手当てが終わったのか身体や頭に包帯が巻かれた零矢に話し掛けた。

 

「何で使ったの...使わないでって言ったでしょ?」

 

「すみません。目の前の事に精一杯で聞こえなくて...ごめんなさい」

 

「ごめんじゃないよ...今回は巳羅姉が助けてくれたから良いものの、暴走したリスクはわかっていたはず...それなのにどうして他の方法を考えなかったの?」

 

 卯一の口調に違和感を覚えた巳羅は二人の話しに割り込んで卯一に事を説明する。

 

「卯一、零矢は爆弾から子供を守る為にあの鎧を使ったらしい。その子供が出てきた時に言ってたからな、だからあまり零矢を責め...」

 

「他の方法はなかったの?天照の力を使うとか捕縛射撃を使うとか、ワイヤーを使えば何通りか対処はあったはずよ」

 

「天照は体力切れで変身出来なくて...捕縛射撃は思いつきませんでした。目の前の子供を助けるには俺が鎧を着て盾になるしかないと...思って」

 

「魔王装備は使用しただけで甚大な被害を及ぼす危険性もあるし、次に使ったら管理局に確実にマークされる。そんな事になったら神事屋はもう続けられない。あぁもう、私がもっと早く言っておけば...」

 

「そんな事言って...いつになったら先に言ってくれるんですか...」

 

 零矢の雰囲気が変わる。これはマズイと察した巳羅と翔が零矢をなだめようとするも、零矢は卯一を睨みながら怒声を浴びせた。

 

「いつまでたっても自分に直接関わりのない情報は後出しで追加して!結局あなたは自分の保身の事しか考えてないんでしょ!?」

 

「何、その言い方!?私はリスクを考えた上で魔王装備を使用するべきだったって言ってるの!!」

 

「なら、子供を見殺しにするべきだったって言うんですか!!」

 

「私だったら他の方法で...」

 

俺はあなたじゃないんですよ!天才で周りを伺いながら人助けなんてそんな器用な事、俺には出来ない」

 

 バンッと机を叩くと零矢は立ち上がり卯一の横を通り抜けてTシャツを返して貰おうと少年を探し始める。残された卯一は血が滲む程強く拳を握り締める。そして振り向くと制止しようとする巳羅を振り切り再び零矢の元へと行く。

 

「私が器用?自分の不器用を棚にあげないでよ。私がどれだけ考えながら行動してるのかも知らないのに自分勝手な事言わないで!!」

 

「じゃあ、箱舟ノ書をさっさと取り返してあなたが少年を救えば良かったんじゃないんですか!!一番近かったんですから」

 

 その言葉が卯一の胸に突き刺さる。まるで自分の力不足を責めるような言い方に完全に堪忍袋の緒が切れた卯一は零矢を突き飛ばす。

 

ふざけんなっ!!私がどれだけ辛いかなんて知らないくせに!!結局君だって私のこと下に見てるんじゃん!!君を選んだ私が馬鹿だったよ!!」

 

「はぁ!?そっちこそいい加減に...」

 

いい加減にしろ、馬鹿共ッ!!!!

 

 言い合いを続ける二人に巳羅がビンタをかます。能力を発動して周りにこの言い合いが聞こえないようにしていた巳羅も流石に我慢の限界だった。

 

 翔という後輩がいる目の前、能力を使用していなければ爆発で混乱している人々の前でこのような醜態を晒す二人を見ていられなかったと言ってもいい。巳羅は二人を交互に睨み付けながら

 

「感情的な言い合いなんて見苦しいだけだ。お互い頭を冷やせ」

 

 と言うと能力を解除し突っ立った状態の卯一を連れてその場を去った。残された零矢を翔が立ち上がらせ二人で少年の捜索へと入る。その間、気まずさが翔の心を覆いつくしたせいで翔は零矢に話し掛ける事が出来ず、ただその肩を担いで歩くしかなかった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

……翔とウイッチさんは無事なのか?

 

 麗華が屋根の上を走りながら箱舟ノ書の展示エリアへ向かっていると、激しい爆発音が周りから同時に鳴り響いた。地面が揺れ、屋根から落ちないように麗華は足場を作ってそこに飛び乗ると、辺りを見回す。

 

……メインエントランスから一番離れた出入口の四つから煙、メインエントランス前の広場からも煙、後はここからだとよくわからないな

 

 どうやらかなり爆弾は仕掛けられていたようで様々な建物が倒壊し、崩れるのを麗華はただただ見ることしか出来なかった。このまま宙を歩いて二人の安否確認に行こうかと思うも、空中だと隙だらけになってしまう為断念し、スタイリッシュに地上に着地すると地割れや瓦礫に気をつけながら二人のいる場所へと向かう。

 

 麗華がその場所に着くと既にそこには誰もいなかった。だが折れかかっている街路樹の幹や、地面に何かを擦ったような跡、壁に叩きつけられたような跡から既に戦闘に何らかの決着が付いていた事を予想する。

 

「零矢、お前まだ場内にいるか?」

 

 ふと零矢に話し掛けてみるも反応がない事に不信感を抱いた麗華はまさか爆発に巻き込まれたのではと危惧し再び呼び掛けるも応答はなかった。

 

……あいつの事だから生きてるとは思うけど...ん?

 

 地面を見つめると、自身が立っている所を含めある一定の範囲の場所だけ砂や埃が無い事に気付く。そしてその両脇の壁に砂が吹き付けられたかのように付着しているのを発見し、何故そうなっているのかを麗華は考察した。

 

……風...そう言えばそんな能力を持っていた奴が管理局の件の時にいたような...そいつが翔達を連れて退避したのか

 

 だとしたら零矢も一緒にいたのかもしれない、連絡が取れないのは通信状況が悪いからだろうと結論付けた麗華はひとまず大通りの方へと戻る。

 

 メインエントランスの方へ行くと爆発の跡地に自分も使っていたのと同じ形状のワイヤー射出機が落ちているのを発見する。

 

……これは零矢のか?何でここに

 

 その時背後から気配を感じ振り向くと半透明な見た目のクレアが立っていた。

 

「Wow...透明化でも気配を察せるなんて。ウイッチ以外にもいたとは驚きですよ」

 

 そう言いながら麗華のワイヤーを手渡す。だが麗華が気になったのはクレアが黒い小箱のような物を複数抱えていた事だった。それを麗華が指差すと

 

「あぁ、これですか?何かあの後で設置された爆弾を全部取り外してきたんですけどどうやって対処するのかわからなくて」

 

 と微笑みながら話した。どうやら先に設置されていた爆弾やコピーに付けられていた爆弾の爆破時間とは異なった時間に設定されているらしくまだ不発だった。

 

 爆団長は再びいくつか爆弾を取り付けた後、海の方の出入口から出ていったらしい。なのでクレアはその間に取り付けた爆弾を全て外して持っておいたのだった。

 

「後どれくらい?」

 

「えーっとですね...後...あ、一分無いです」

 

貸して!」

 

 直ぐ様クレアから爆弾を奪い取ると一つ一つの周りに包み込むように霊子の壁を生成する。そしてそれを離れた間隔になるように地面に置きながら走った。

 

 二人はメインエントランスから脱出しようと決め、走りながら爆弾を全て置き終えると麗華がクレアの手を握る。そして爆発が背後から起こった瞬間にエントランスから外へ出ると、警察が警護しているど真ん中へと飛び込む。

 

 二人の姿はクレアの能力によって見えていない為、そのまま野次馬の中に紛れ込みながらクレアは能力を解除する。

 

「ギリギリ...」

 

「危なかったですね...ありがとうございます」

 

 二人が息を切らしながらメインエントランスの方を見つめているとクレアのポケットに入っていた携帯が着信を告げた。それに出ると相手は景子からで卯一もクレアも連絡が着かなくて心配したという内容だった。

 

 クレアの通話の様子を見ながら麗華は思い立ったように翔へ電話を掛ける。しばらく呼び出し音がした後で翔の声が聞こえたので麗華はほっと胸を撫で下ろした。

 

 取り敢えず合流する事になり、二人は互いに別れを告げるとクレアはその場に残り、麗華は人混みを掻き分け別の出入口の方へと向かっていった。

 

 麗華が翔の言っていた場所まで着くとそこには上半身が裸に包帯を巻かれた零矢が翔に肩を預けながら誰かを探しているのを目にする。

 

「二人とも無事か?」

 

「はい、何とか」

 

 翔の方は顔に擦り傷が目立ち、どことなく背中を庇っているような様子から背中を怪我しているのではと感じた麗華はそれを話すと

 

「悪い、翔。もう大丈夫だ、今度はお前が麗華に肩貸してもらえ」

 

 と言って零矢が翔から自分の腕を外す。折れているのか判別は出来ないがどう考えても零矢の方が重傷だと思った麗華は流石に一人で二人に肩を貸すと記念写真で肩を組んでる運動部の様になってしまうので援軍を頼もうと卯一はどこかと尋ねた。

 

「あぁそれが...ですね」

 

 しかし事を把握している翔が気まずそうにするのを見てまさか病院に搬送されるほどの重傷を負ってしまったのではと麗華は心配になるが翔が事の詳細を説明する。

 

 その会話を耳に挟みたくなかった零矢が再びあの少年を探していると、人波の中からひょっこりと顔を出した例の少年が駆けよって来る。

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

「Tシャツ返してくれる?」

 

「はい。じゃあバイバイ」

 

 と礼を言って去って行った。大事になるかと思っていたが案外あっさりと感謝されて終わってしまったが零矢は少年の笑顔を守れただけ良しとし、Tシャツを着ようとするが

 

……鎧見られてるよな...流石に口止めしないとヤバイか

 

 と思い鎧の姿の事を口外しないようにと頼む為にもう一度その少年を追い掛けようとするが聞き慣れた声がしたので後ろを振り返る。

 

「いた!!書記も後他の二人も!良かった~、まだ中にいるかと思って警察の人に頼んでたんだよ」

 

 弥生が息を切らした様に膝に手を付きながら零矢達を見て呟く。すると後ろから他の執行部のメンバーも顔を出した。弥生は避難を終えてから何度も零矢の携帯に電話を掛けていたがそもそも携帯をGod-tellに替えていた為、電話が繋がらなかったのだ。

 

「取り敢えず全員無事で何よりだよ、本当に良かっ...」

 

「良くないですよ会長」

 

 麻奈が弥生の言葉を遮るように発言する。そして怪我をした零矢の身体を睨みつつその前に歩み出る。

 

「私達の仕事に避難誘導はありません、大学生ボランティアならともかく高校生の私達は足手まといになる前に避難するという取り決めです。挙げ句の果てに警察の方々にも厄介になって、本人には電話は繋がらない」

 

「そんな言い方...」

 

 呆れるように話し続けるのを翔が止めようとするも今度は翔と麗華の方に向き直り麻奈は続けた。

 

「大体、あなた達も連絡は着かないし現に怪我もしているじゃないですか。それは爆発で負った傷でしょう、つまり中に留まっていたということですよね」

 

 確かに二人とも携帯にかなりの着信が寄せられていたが敵との戦闘に気を向けていたあまりそれに応答する事は出来なかった。事実を突き付けられ三人とも何も言えないでいると、それが図星だと判断した麻奈は止めを指すように言い放つ。

 

「自分達は正しい行いをしたと思っているでしょうがあなた達がした事は結局他の誰かに迷惑をかけたということです。下らない正義感に刈られて団体行動を乱した事に変わりはない」

 

「いい加減に...」

 

 何も知らない麻奈が冷酷に言い放つのを聞き捨てならなかった麗華が反論しようとするもそこに零矢が声を荒げるように割り込んだ。

 

「俺が悪いんだろ!俺が連絡を怠って中で避難誘導をしていたから、俺が正義感ではなく理性的に動く事が出来る人材に声を掛けなかったから...全部俺のせいだよ...フッ、そう言いたいんだろ?」

 

 自虐的に微笑みながらそう言う零矢に卯一と喧嘩したばかりだという事実を把握している翔と麗華は自棄になっていると思い、他の執行部のメンバーに事を説明しようと試みるも、弥生は零矢の剣幕に押され黙り込み、後輩の二人は無表情を装いながらも厄介者の零矢が消えるかもしれないという事実に微笑を隠せないでいた。

 

「良いぜ、辞めて欲しいなら俺がこの責任を背負って辞めてやる、書記は柊さんが継げば良いだろ」

 

「あなたが責任を取るというならばそれが妥当じゃないんですか?」

 

「何とでも言えよ...俺はもう...」

 

「ワオ、見つけまシタ!!」

 

 二人の会話に突如どこから来たのかブロンドヘアの外国人が割り込み、零矢の腕をとった。

 

「先ほどハ助けてイタダキ、ありがとうございマス。私日本語まだまだ勉強途中ネ、Englishで説明してくれてvery very thank you デス」

 

「え...はぁ」

 

 この人物を助けた覚えがない零矢は困惑していた。麻奈や他の執行部の面々も急に現れたこの人物の世界に取り込まれてしまっている。唯一この人物の正体を知っている翔と麗華は何故こんな片言で喋っているのか不思議でしょうがなかった。

 

「Youのお陰でbombで怪我しなかったデース。Youの誘導のお陰デス。感謝の気持ちでmy heartはfulfil。ですカラ、Don't be angry with him 彼ハ私の命ノ恩人デス」

 

 零矢の手を握りながら片言の日本語でそう話すとクレアは手を話し投げキッスをしながら人混みへと去っていった。呆気に取られる零矢をフォローするべく翔と麗華がクレアに合わせる。

 

「やっぱり先輩の正義感があったからこそ、あの人も助かったんですよね!」

 

「英語で案内なんてなんて優秀な男なんだお前は!」

 

 二人とも片言の日本語で零矢を持ち上げ執行部からの脱退を防ぐ。このままでは零矢は想い人も学校の居場所も全て失ってしまう、それはあまりにも気の毒だと思った二人なりの慈悲だった。

 

「え...俺あの人知らないんだけ...」

 

「誘導に必死だったんですね、人を選ばず助けるなんて尊敬します!」

 

「子供も爆発から救ったらしいし本当に優秀だな!」

 

 いつもと違う様子の二人に零矢は違和感を抱くも必死になっている様子から自分が執行部を辞めさせられないように弁明してくれているのだと気付き二人の話に合わせようとする。

 

「あー...多分助けた、かも。よく覚えてないけど」

 

「流石先輩!!男らしい...」

 

「茶番はよしなさい!!」

 

 流石に不審に思われた麻奈に会話を遮られる。そもそも同じクラスの麗華はそこまで喋る方ではない、それが必死に弁明している時点で何かがおかしいと思ったのだ。

 

「とにかく、この責任は取ってもらうから...行きましょう会長、先生方への説明に怪我人はいらない...」

 

 そう言い残すと弥生と後輩二人を連れて人混みの中へと消えていった。後に残された三人はしばらく沈黙を続けた後全員が笑い出す。

 

「フフッ、翔褒め方が例文みたい...フッ」

 

「そういう麗華さんだって...ククッ、優秀ってことしか言ってない...アハハ」

 

「フハハッ、お前ら...ありがとな」

 

 零矢が笑いながら神事屋のTシャツを着る。そこにどことない哀愁を感じた二人は何も言うことなくその肩に手を当てる。

 

「痛ぇよ」

 

 そう笑う零矢にそれは身体かそれとも心の方かと聞くような事はせずそっと背中を押しながら現場を離れる。

 

 やがて会場から大分離れた所まで来ると、二人は零矢に別れを告げる。零矢はじゃあな、と軽く別れの挨拶を告げると自らの帰路につく。それを見送りながら

 

「今回は私と翔とウイッチさんで神代の時代に行った方がいいかもしれないな」

 

「取り敢えず、ウイッチさんと合流しないと。先輩は大丈夫か心配ですが...何であそこまで喧嘩しちゃったんでしょうね」

 

「怒りは人を忘れさせるからな...私も翔もいつかはそうなってしまうかもしれない。その時は...」

 

「その時は助けてもらいましょう、ウイッチさんと零矢先輩に」

 

 そう話し合う二人を影から眺める人物がいた。銀色の長髪を指でいじり口に含んだガムを膨らませながらその人物は呟く。

 

「怒り...ねぇ。もし君がその感情に囚われた時は私が君を怒りから救いだしてあげるよ...翔クン」

 

 その人物はガムを吐き出すとそれを思いきり踏み潰す。脚をあげると舗装された地面がひび割れ、ガムは消滅していた。それを確認するとその人物はその場を立ち去っていく。

 

「意外と脆かったか~あの二人の絆。邪魔者が消えて良しとしますかね~」




卯「はい、という事で最近寂しい後書きに何かのコーナーを設けたいと思うのですがどうします?」

ク「本編とのテンションの落差おかしくありません?っていうか私達だけで良いんですか?高校生組とか入れた方が...」

巳「大学生組でコーナー持つ感じ?ってかこの三人か、林は大学生じゃないし」

神「フッフッフ、私を忘れちゃ困るなぁ!」

卯(何で出てくるのあの馬鹿!)

ク「Who are you?」

神「えっ...あー、ッスゥー神聖大学の生徒Mって言うんですけどコーナー頼まれまして...ハイ」

巳「本編にこの子出てた?これから出る子?ってか“神”って表示どこかで...」

神「これはですね...神聖大学の頭の神って意味なんですよ...身バレ防止です」

卯「ま、まぁ入れてあげても良いんじゃない。ってかこれ話して今回終わりか...」

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