俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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「「「「超大型連休だ!イェーイ‼」」」」

神「半分過ぎたのは言わないのな」

卯「全然気にしなかったわ、私達の大型連休が後何年立てば来るとか」

翔「気にしてたんですね...」

霊「……って新キャラが急に増えすぎ」

零「扱いきれなくなるとかないと良いけどな」

神「それは...作者の技量...」




「なんだか庭が騒がしいな」

 

「どうやら霊獣が現れたようです、(マウス)

 

 (タイガー)と呼ばれる青年...馬鹿兄貴が子と呼ばれる初老の男性...私の父にそう説明した。今回の全体のガードは馬鹿兄貴の当番だからだ。

 

 実はここにいる十二人中、我が美神家は四人もいる。勿論それは他のメンバーにはバレていないはずである。

 

 直後、屋敷全体を揺れが襲った。全員が場所決め役だった(スネーク)と呼ばれる妖艶な女性を見る。実は彼女の正体を知っていたりするのだが。

 

「どうやら侵入者が二人...いや三人ほど入っております。おこがましいかもしれないですが話し合いは延期した方がよろしいかと。残りは若い面子で片付けますので」

 

「ホッホッホ、生きが良いな。じゃあ若いのに任せて年寄りは退散しますかね」

 

 ボアと呼ばれる老人が巳の意見を受け入れ早速立ち上がり、それに合わせて子、(カウ)(ドラゴン)(モンキー)(ロースター)が立ち上がり、馬鹿兄貴が先導して行った。

 

「私見てきます」

 

「じゃあ俺らも」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「うわぁ、凄い壊れようだね」

 

 崩れた壁はまるで何かが投げ込まれたかのようだった。しかし、戦闘中であろうあの美空が簡単にやられるはずがない。なら、考えられるのは霊獣の攻撃の流れ弾だろう。

 

 ふと、瓦礫に目をやると血痕のようなものが見えた。もし攻撃の流れ弾なら血痕は付かないはず、まさか⁉

 

 私は確認のために馬鹿兄貴の元に走った。途中でホースとシープの間をすり抜け、先導を終えた馬鹿兄貴と鉢合わせした。

 

「どうした?(ラビット)

 

「あなたの部下の誰か負傷してたりしない⁉」

 

「はぁ?美空が戦闘中、三班が年寄どもの護衛、それ以外に負傷の連絡は来ていないが...」

 

 ということは先程の血痕は侵入者が運悪く負傷した時の血と考えられなくない。そうするとすれ違った午と未が危ないかもしれない。

 

 私は来た道を全力で走って戻る。だがそこにいたのは思いもよらない人物だった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……全く手のかかる奴」

 

 スタンガンで気絶した時神翔を抱え私はどこかの公園まで来ていた。それにしても何でこいつは私の居場所がわかったのだろうか。

 

 まさか予知系の能力...そんなわけないか。もしそうならあのスタンガンは避けれたはずだし。

 

 そんな事より問題はこれからどうするかだ。昼ご飯代とこいつの手当代で私の財布は完璧に底をついた。もはや駄菓子を買うお金も無い。

 

……北街の廃墟なら少し食べ物が残っているかもしれない

 

 もうここには戻って来ないだろう、だからもうこいつと会うことも無い。私はそう思いつつ彼をベンチに寝かせた。

 

「……ありがとう」

 

 気絶している彼に掛けた言葉は自分でも思っていなかった一言だった。私が誰かに感謝した。それも無意識下で。

 

 死ぬ前にはいつもとは違う物が見えるとはよく言ったものだ。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「時間がないぞ?フハハハハッ!」

 

 どうやら午は私がなす術が無いと思っているらしい。確かに拳銃は手の届かないところに行ってしまった。しかし、このスーツには銃撃装置が仕込まれている。

 

 つまりすぐに構えて二人の腕めがけ発砲、その隙に後輩クンを救出する。理論上は可能のはずだ。

 

 私は仮面の下で目線を未の方に向け構えるべき腕の角度を計算する。同時に正面にいる午の腕の位置を確認して...

 

「聞こえてなかった?脱げって言ったよね、そのスーツ何か仕込んでるでしょ」

 

 気づかれてる⁉もしそうなら今すぐ...

 

「天才だか秀才だか知らないけど状況が飲み込めないあたりまだガキでしょ」

 

「例えそのスーツに何かあったとしてもこのガキも死ぬ可能性は無くないんじゃないのか?」

 

「ッ‼…………」

 

「黙ってるってことは図星か、ほらどうする?」

 

……脱げば良いんでしょ、この状況で二人とも助かるなら...それで彼が死なないなら、私だけが我慢すれば...

 

 銃撃装置が付いた腕の鎧を取り外し、床に落とす。

 

……別にこれぐらい...これぐらいッ

 

 マスクを外し、ベネチアンマスクを取る。その時下衆な午の口笛が聞こえた。身体中を嫌悪感が駆け巡る。鳥肌が立って手が震えて来る。

 

 つけ耳を取り、胸の衣装に手を掛け、そして

 

 

 

 

「グァッ⁉」

 

 突如響いた低い呻き声に私の手は止まった。気づけば大量の汗をかいていた。

 

「どうした、未...お前⁉」

 

 午が未の方を向いて驚いたような声をあげた。私が未の方を向くより先に未が私の視界の横を飛んできた。そして午と衝突し、二人は倒れた。

 

「女に何させてんだ、テメェ等...」

 

 そこには流血しながらも立ち上がり、午に対して正に鬼のような形相をした彼だった。頭からの出血が目に入り、まるで血の涙のようになり、左目をギラリと白く光らせた彼は見るものに威圧はおろか恐怖を与えるのには充分過ぎた。

 

 激怒した彼の手に『紅蓮の剣』が召喚される。彼が呪文を唱えると剣の装甲が弾け飛び電球に被弾して辺りの光を奪う。その装甲が再び彼に集まったかと思うとそこには紅蓮の鎧を纏った彼が暗闇に浮かび上がっていた。

 

 これからその紅蓮の鎧がさらに返り血によって染まるかもしれない、そんな事が容易く想像できたとしても私に止める権利があるのか?その考えが足枷となり私の動きを止める。

 

 彼は午の上でうずくまる未を蹴り飛ばし、午の胸ぐらをキツく掴みあげた。もがき苦しむ午は彼のボディに蹴りを入れるが傷一つつかない。

 

 彼は空いた手に剣を構える。このままでは屋敷ごと崩壊する可能性だってある。それだけは避けたい、それに...

 

 彼には傷ついて欲しくない、誰かを殺すようなことはして欲しくない。

 

 その思いが私の足枷を外し、身体を動かす。剣を振り下ろす彼の前に入り込み、手を広げた。赤く煌めく剣が目と鼻の先で止まる。

 

「どけ、人間。お前との決着は後だ。それともこの場で切り殺されたいか?」

 

 天界の時と同じこの紅蓮の鎧の持ち主の声。やはり彼の意識は乗っ取られていた。しかしその声に怯んでなどいられない。

 

「どかない!これ以上あなたの好き勝手で後輩クンを傷つけさせてたまるもんですか!」

 

「面倒だな、お前」

 

 鎧が手に力を込め剣を振り下ろす。私はいずれ来る痛みに目を瞑り耐えようとした。しかし、予想とは違い剣は途中で止まっていた。

 

 刃のところに何かが巻き付いている。どうやらそれが鎧の攻撃を止めたようだ。私はこの鞭のような武器に見に覚えがあった。ということは、恐らく私を助けたのは...

 

「行ってらっしゃい、坊や」

 

 直後暗がりから出てきた何者かが鎧にドロップキックをかまし、手から剣を落とす。その隙に私は『紅蓮の剣』を彼のGod-tellに戻し、装甲を解除させた。

 

 風化していくように鎧が塵になり、中に入っていた彼が姿を現した。所々血だらけの彼が倒れる前に胸に抱え込む。どうやら腕も折れているようだし、応急処置が必要なようだ。

 

 彼の服からGod-tellを見つけ出すと『運転手』に繋ぐ。

 

「……先輩?」

 

「?...翔君⁉」

 

「ご用でしょうか?卯一様」

 

 私達を助けたのは翔君だった。今日会うのは二回目である。しかし、驚いている場合ではない。私は『運転手』に位置情報を送り迎えにくるように頼んでから彼に疑問を投げ掛けた。

 

「何でここに?」

 

「あぁ、えっとですね。霊香さんを追っていたら着いたって言うか?」

 

「霊香ちゃんまでここに⁉君の能力、追跡とかにも使えるんだ...」

 

 おおかた霊香ちゃんの行動を予知したってところか。確定し得る未来を見れる能力、それでおいて代償は対して無さそうだけど...

 

「話は終わった?ウィッチ」

 

「巳羅姉、やっぱり。でも何で翔君と?」

 

 暗闇から出てきたのは私よりも少し背が高い蛇柄のドレスを着た女性。わざと目元が見えないように前髪を垂らし根暗な装いをしている。目を凝らすと実は左目に眼帯をしているのがわかる。

 

 その正体は私と同じ大学に通う三年の大津(おおつ) 巳羅(みら)。巳と呼ばれる彼女とは十年来の付き合いでもある。

 

「何か可愛い坊やが歩いてたから捕まえただけ」

 

「坊やって言わないでください‼捕まえたって言ったって、幻想見させられただけですよ」

 

 彼女の能力、幻想(イリュージョン)は自身の設定したテリトリーに踏み入った者に幻覚を見せたりするという事ができるらしい。故にこの屋敷も幻覚無しだと只の廃墟に見えるのだろう。

 

「それよりのんびり話している暇はないわ。この屋敷急遽建て替えたせいで柱もそう丈夫なものじゃないから崩れるのも時間の問題よ」

 

 ふと振り返ると午と未の姿はなかった。逃げたのだろう。逃げるのだけは早いなあの午。

 

「でもまだ霊香さんが中に‼」

 

「坊や今置かれている状況がわからないなら本当に子供よ。逃げる時をきちんと見極めなさい」

 

 巳羅姉に言われた言葉を悔しそうに噛み締めながら彼は後輩クンの肩を担ぎ上げた。

 

「急いで、手口はこっちよ」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……冷蔵庫にも食べ物は無し、只の廃墟か」

 

 あれから北街の廃墟にやって来て食料を探したが、これと言ってめぼしそうなそうなものは見つからなかった。

 

 入ったら突然豪華になったように見えたこの屋敷もどうやら幻覚か何かで豪華に見せられていたらしい。上の階から複数の気配がある。

 

「……早く出るか」

 

 そう思いドアを開けた瞬間...

 

「匂うなと思ったらやはり侵入者か」

 

「ッ‼」

 

 天井から何かが降って来た。犬の剥製のような物を被った四つん這いのそれは素人にも見てとれる程の殺意を剥き出しにしてくる。

 

「……犬?」

 

「干支の(ドッグ)の方だ阿呆、お前が外の化け犬の飼い主か?」

 

「……意味わから...」

 

 直後、屋敷を揺れが襲った。突如来た予想不可能な揺れに体勢を崩した瞬間、自らを戌と言った男は襲いかかって来た。

 

「ッ‼」

 

 咄嗟に空中に壁を作り一撃を躱したが、戌は素早い身のこなしで次の一撃を繰り出して来る。それを見越して、正面から蹴りを入れるが殺気を感じたのか、当たる前に避けられて距離をとられた。

 

「あれ、お前中々できる?」

 

「……黙れ、私の方がお前より強い」

 

「へぇ、言ってくれるなぁ」

 

 戌は頭に来たのか真正面から突進してきた。私は目の前に壁を作り足止めしようとするが、まるでどこに壁があるのかわかるように戌は華麗に躱していく。

 

「はい、王手」

 

 私の懐に潜り込んだ戌は強力な一撃を私の腹部に入れる。壁を生成するのに間に合わなかった私はまともにダメージを受け、崩れ去る。

 

「口だけかよ、脆いな。才能に溺れたガキじゃねぇか、努力が足りねぇんだよ」

 

……ふざけるな...足りないだと?私は組織の中でさえ努力を怠らなかったのに誰よりも頑張ってたのに...妖美卯一や時神翔みたいに才能だけの奴等に...

 

「意識だけは取ってくか...ん?火事か、酸素が薄く...」

 

……負けてたまるか‼‼

 

「……窒息ノ箱(ボックス)ッ‼」

 

 戌の首回りに箱状に壁を作り、密閉する。徐々に酸素が少なくなっていくだろう。そうすれば意識が飛ぶのはそっちだ。

 

「このガキッ...」

 

 四つん這いだった戌が二足歩行で襲いかかって来るが見切れる程遅かった。それにその状態で運動するなど酸素の供給が間に合わなくなり窒息する時間が早くなる。

 

 私はこの瞬間を待っていた。相手が油断した一秒に技を入れる。そのタイミングを何回も練習したからだ。

 

「……二足歩行できるんだ。……どっちが努力が足りないかわかったでしょ」

 

 殴りかかる戌に足払いをして宙に浮かせ、自分はすぐに体勢を戻す。周囲の壁を分解し、そのエネルギーを自らの左手に収束させて破壊力を増幅させた一撃を叩き込んだ。

 

「……霊魂ノ拳(フィスト)

 

 その一撃は戌の身体にダメージを与えるだけでなく、背後の壁をも破壊した。戌は視界から完全に消えた。死んではないとは思うが三階だから落ちて助かるかは微妙なところだが。

 

 再び揺れが襲う。今度は地面が傾いているような感覚がした。恐らく屋敷事態が崩れている。脱出しなければ。しかし、私の足は動かなかった。怪我をしたわけではない。

 

……ここに居れば終われる...誰にも知られず死ねる...

 

 死にたい欲望、自殺にも似たその感情は私を夕焼け色の空の元へと戻さず、崩れ去る暗闇の中に鎖で繋ぎ止めた。

 

 壁に空いた穴から夕日が入っていた。それは徐々に視界から消えていき、暗闇になる。私はようやく訪れる平穏を期待して目を閉じた。


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