俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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霊「……え時間の関係で今回は私一人?……新展開どうぞ。……慣れないなぁ」


第5章 僕と私と命懸けの日常物語
執行猶予


(まぁ、誕生日近いしその日まで猶予与えてやるよ)

 

 それから長い夜を越えて。私は学生寮の中に戻っていた。無論今は朝の九時である。

 

 私と同じ年頃の子達は笑いながら学校へ行き、そして真面目に授業を受ける。そんな普通の日課を送っている事だろう。

 

 そこに混じれず遊び飽きて放って置かれた人形のように部屋の隅に私は転がっていた。部屋の中の荷物はもうほとんどない。GDが上手く取り計らったのか部屋の貸し出しの期限は二日後。四月二十八日の金曜日、私の誕生日の前の日までである。

 

 寮には親元と住めるようになったという程で話が進んでいたそうだ。しかも昨日の内に全て電話による対応で。全く末恐ろしい組織である。

 

 恐らく二十九日の夜、いや下手をすれば日中、流石に二十九日になった瞬間なんてことはあり得ないだろうが殺りに来るだろう。ならば、私が取る行動は...

 

「えっ?もう出ていくの?まだ...」

 

「……ええ、お世話になりました」

 

 そそくさと別れを告げ、一ヶ月も居なかった学生寮を地味な深緑色のTシャツに薄い黒のパーカーを羽織り、えんじと白のチェックのスカートをはき、足はスニーカー、サングラスとつばのついた白い帽子をかぶって跡にした。

 

 と言っても行くあても無く、ただ死ぬまでの猶予をどう過ごすか考える為に街に出ただけである。正直お金もない。それぐらい寄越せよ、とは思うが。

 

 二十九日まで後三日、野宿するとして着替えもこれしかないし服を買うお金もない。なぜ金だけ置いていってくれなかったのか、組織よ。先に飢えるぞ、組織よ。向こう的にはそれでも良いのか。

 

 朝ご飯は寮で食べてきたからいいものの、お昼は何か買わなければいけない。恐らくこの星じゃ炊き出しなんてのもやっていないし、残り予算でどうやっていくか...

 

「っ⁉」

 

「うわっ!」

 

 ずっと考えていたせいで曲がってきた人に気づかずぶつかり倒れてしまう。すぐに立ち上がり相手に手を伸ばしたところで、相手が誰なのかに気づいた。

 

「あぁ、お構い無く...って、は、破神霊香さんッ⁉」

 

「……ッ時神翔!?」

 

 こいつ私が病院送りにしたはずなのに、回復がいくらなんでも早すぎないか?まさかこの年で『聖なる力』の能力に完全に覚醒しているのか?

 

 あり得ないし、そんなこと信じられない。私でさえ覚醒に五年かかったのに?こんないかにも現代っ子がそう易々と覚醒するなんて許せない。

 

「あ、あの別にただ偶然会っただけですから、恨みとかないですか...」

 

 慌てふためく彼に拳を腹部目掛けて突き出すがバックステップで避けられた。

 

「いや戦うつもりなんてな...」

 

 続けて左足を蹴り出し、続いて右足で回し蹴り。これも右足を退いて身体を縦にし、その後にしゃがまれ避けられた。完璧に読まれている。

 

「ッ!?白...あ、いやッ!!み、見てないですから!!チラッとだけなんか...」

 

「……うるさい!」

 

 彼の後方に霊子の壁を生成させ、小走りからの膝蹴りでバックステップを誘発させる。彼は私が予想した通りに動いたので、私は足場を形成しそれを踏んでもう一度蹴った。

 

「クッ...‼...痛ぅ」

 

 今度は避けれなかったのかまともに顎にくらい、彼は口から血を流していた。今までの読みは偶然?それとも彼の能力なのか?もし後者なら今のも避けれたはず。

 

「……あなた舐めてるの?……殺すよ」

 

「だって、その...避けると、また見えて...嫌がるから」

 

 戦いの最中に何だその余裕は?本当にイラついて顔面に拳を入れてやろうと思った瞬間、

 

「なんだ?喧嘩か?」

 

「カップルの別れ際じゃない」

 

「最近のカップルは威勢がいいな」

 

 集まっていた人々の声で完全に怒りのエネルギーが無くなってしまい野次馬がうるさくなる前に彼の襟首を掴んで人目の無い所まで引っ張って行った。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……ちょっと聞きたい事がある」

 

 バンッ、と壁に手を突き、彼女は僕の逃げ場を無くした。俗に言う壁ドンである。逆じゃないですか?

 

 世の可愛い女性達はこんな風に殺意で満ち溢れたような顔で迫られてるの?しかもこんな人通りの無い道で?誘拐じゃん、拉致監禁じゃん、ナンパってそんな危ないものだっけ?

 

「……聞いてんの?」

 

「は、はいッ!」

 

 しかも機嫌が悪そうだし、仮にもさっき殴ってきた相手である。警戒は怠らない方が良いだろう。

 

「……あなたの能力は何?……(ヒドゥン)、それとも(ホーリー)?」

 

 能力の種類なんてあるの?てっきり『聖なる力』だけだと思ったのに、『隠された力』ってのもあるんですか。って言うか聞いて無いんですけど。

 

「……言わないなら」

 

 片方の手で彼女は僕の顎をクイッと上げた。だから逆ですよ、色々。

 

「……やっぱり、血止まってる」

 

 そう言うと彼女はゆっくりと手を話した。いったい何を確認したんだ?血?さっきの流血のこと?口を袖で拭うと固まった血が絵の具のようについた。

 

「……『聖なる力』の方か...」

 

「ち、ちょっと待って何でわかったんですか?」

 

「……『聖なる力』保持者にはいくつかの特徴がある。……一に身体能力が格段的に上がる。……あなたや神木零矢、妖美卯一、全員当てはまる」

 

 そう言われれば確かに、僕はさっきもの凄いキレのある動きをした気がする。それ以前も予知の能力を使う際は確実に動きが俊敏になっているような気がした。

 

「……二に保持者がその能力を発動する際に右目が光る。これが見分けるのに一番手っ取り早い。『隠された力』の方なら両目が光るから」

 

 確かに前に能力を発動しようとした時にその場に居合わせた他の人になんか目が光ってないかと言われた事があった。

 

「……心当たりある?」

 

「微妙に」

 

「……そう。……そして三に」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「三に傷の治りが常人より早い。これが今わかっている私達の力の事。まぁ二番目の事はまだ確定したわけでは無いけどね」

 

 私達は退院したという翔君の家に行こうと歩いていた。その際に後輩クンがあまりにも傷の治りが早いと言うのでそれに関係する事を教えていたのだ。

 

 しかし、何で彼は翔君より傷の治りが遅いのだろう?傷の程度は同じ、それなら彼の方が先に良くなるはず。それに、彼の能力である『双命』の詳細は未だに不明である。本当に『聖なる力』なのか?彼だけ光るのが左目と言うのも気になる。

 

「ウィッチさん、あれ」

 

「ん?」

 

 彼が指差す方を見ると、道路の反対の路地裏で女性が男性の顎をクイッと上げていた。見るからに逆ナンである。

 

 ただの情事かと思い目を反らそうとして顔を見た瞬間凍りつく。やけに知っている顔だった。片方は今まさに会いに行こうとしていた人物、もう片方は共闘した人物だった。

 

「か、翔君にもは、春が来たんだよ。きっと、ね?つ、強そうな彼女だし、結果オーライじゃん?」

 

「そ、そうですね?こ、これで翔もリア充に...って」

 

「「良い訳あるかッ‼」」

 

 額から冷たい汗が落ちる。それは彼も同じだった。どういう事だ?あの二人に特別な接点など無かったはず、まして相手は敵である。

 

「もしかして弱味を握られて脅されているんじゃ?」

 

「あり得なくないかも、行こ!」

 

 こうして私達は目的を変え、こっそりと路地裏を覗く事に。そこでは霊香ちゃんが先程私が彼にした説明と全く同じ説明を翔君にしていた。GD内でも共通事項なのか。

 

 しかし、何故それを翔君に?考えられるメリットは無いはずである。

 

「えーっと、ここじゃなくて場所変えた方が良いんじゃないんですか?」

 

「……何で?」

 

「あそこ」

 

 話を聞いていると翔君と目が合ってこちらを指差してきた。霊香ちゃんが振り向く前に共に覗く彼の襟首を掴み死角に隠れる。

 

 まさか私達に気づいて翔君は密告したのか?しかも隠れたせいでそれ以降の話が聞こえない。格なる上は、

 

「後輩クン!銃持って」

 

 突撃するしかない。二人いれば霊香ちゃんを逃がす心配はないし、話を聞く事ができる。

 

 私達は合図の後に一気に飛び出し、銃を構えた。

 

「動かないで‼...ってあれ?霊香ちゃんは?」

 

 そこには翔君が呆れた顔で一人立っていて、それ以外には誰もいなかった。彼が翔君に詰め寄り胸ぐらを掴んで問い詰めた。

 

「どういう事だ、翔?」

 

「先輩方がくると面倒になりそうだから逃げてって言っただけですよ、ダメでしたか?」

 

 予知の力を使ったのか。確かにここで戦闘は危険だし、嘘を言っているようにも見えないから翔君の言っている事は本当だろう。

 

「何で彼女と?」

 

「偶然会って、ここに連れて来られたんです。僕にもさっぱりわかりません」

 

 人質としてって事か?目的は『聖なる力』保持者の拉致っていうミッションを与えられたという事か。

 

 しかし、つい昨日一緒に戦った霊香ちゃんが急にそんな事をするようには思えない。恐らく私の思い違いか、もしくは何か理由が...

 

 そこまで考えて携帯のバイブレーションが鳴っている事に気づいた。よりによってGod-tellではない携帯の方である。またあの集まりか。差出人不明のメールには時間と場所が書かれていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「ゴメン、ちょっとヤボ用がね。お昼どっかで食べて、夜までには帰るから」

 

 彼にそう断ってそそくさと現場を後にした。バレる訳にはいかないのだ。この案件は。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「何なんだ、いったい?」

 

 その後翔と別れた俺は一人駅に向かって歩いていた。急に翔を襲う霊香、急に用ができるウィッチさんに謎が謎を呼ぶばかりである。

 

 後者に関しては今日は仕事も入ってないし、大学も臨時休業だから友達と出掛けたなんてことも考えられるが、前者は意味不明だ。現実世界でもとうとう積極的に襲って来るぞという合図なのだろうか?

 

「痛ッ」

 

 未だに傷が痛む。そういえばさっき翔は傷が完治していたが俺はまだ完治していない。無理に神の世界に行ったからか?それに...

 

 ふと前を見ると、金髪の小五~六辺りの少女が数メートル前を歩いていた。外国の子か?と思ったが何故か下駄を履いている。

 

 変な子供も増えたものだなと思っていたら少女のすぐ前にパイプを何本も積んだトラックが停まっているのに気づいた。しかもそれを縛る紐は猫が引っ掻いて既にボロボロになっている。

 

 これはもしかしたらヤバいと思い、俺は駆け出した。金髪の少女は本を読んでいてまだ気づいてない。すると、後二メートル前後で紐がちぎれ、パイプが少女の頭に崩れ落ちる。

 

 俺は飛び込み少女を突き飛ばして彼女を事故から救ったが、代わりにパイプは俺の身体めがけて降り注いできた。また病院かよ、と思ったところで俺の意識は途絶えた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 聞きたい事を聞きそびれた。やるせない気分である。

 

 私は再びサングラスを掛け、なけなしのお金で買ったおにぎりを食べながら、歩いていた。

 

 そういえば昔もそうだった。なけなしのお金で、てに入れた主食を父と分け、あの星を生きてきた。脳裏にそんな思い出が浮かぶ。

 

 あの頃から私は努力し、苦しみここまで強くなった、はずだった。それなのに、時神翔達は才能だけで私に対抗できるまでになった。

 

 完璧に嫉妬だ。そんなのわかっている、わかっているのに。死神部隊には嘲笑われたし、ボスには見放された。そんな私は生きてる意味はあるのか?

 

 足がよろめき倒れる。死ぬのか、私は。こんなところで。誰も見返せずに。嫌だな、死ぬのは。関係ないか、死という瞬間に個人の意見なんか。

 

「だ、大丈夫ですか⁉」

 

 見知らぬ通行人が声を掛けてくれるが返事をする気力も湧かない。しばらく黙っていると、今度は数人の足音がした。

 

「どけ、オッサン。こいつ俺らの知り合いだから」

 

「そうそう、ただの栄養失調だから、いつもあることだし」

 

 どうやら後から来た数人が初めに声を掛けてくれた人に対して口論を始めたらしい。足下しか見えないがこんな時に助けてくれる知り合いなどいただろうか?と言うか、いつもあるとはどういう事なのか。

 

「ほら、いくぞ」

 

 そう言われて手を肩に掛けさせられ立ち上がらせられる。そのまま、抱えられて徐々に人気の無い道へと、場所へと連れていかれる。

 

 そういう事か。流石に気づいた。こいつらは知り合いでも何でもない、それならむしろ...好都合だ。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 あれから一時間も経ってないはずなのに霊香さんは見つからない。あの時、すぐ後で会う約束をしたのだがどこを探してもいない。

 

 仕方ない、能力を使うか。

 

未来透視(フューチャービジョン)‼」

 

 今から数分先の未来の光景を意識的に見る事ができるこの能力。名前が厨二病っぽいのはご愛敬だ。

 

 この能力を使用中は尋常でないほどの集中力が必要なものの、時間の流れが止まる。そして意識だけが精神世界へダイブして未来の光景を見せる。

 

「目標、破神霊香。時間、三分後」

 

 光景を見たら現実に帰還して未来の光景で見た場所を探す。この能力は恐らく時間を指定できてもそこの場所がわからないという点だ。

 

 現実に戻った僕は映っていた路地裏を探す。しかも映像の内容もヤバかった。一刻を争う内容だ。だけど、

 

「地道に探してくしかないのか...」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「美空、今日の予定は?」

 

 高層ビルの最上階、特殊強化硝子で囲まれた部屋の真ん中に置かれた高級なソファーに腰掛け、金の装飾が施された白地のティーカップを眺めながら、美神コーポレーション社長、美神 寅次(みかみ とらじ)は秘書兼ボディガードの鋭鉄 美空(えいてつ みそら)に問いかける。

 

「正午から例の集会が入りましたので、多少予定変更ですね。開発部の見学は延期という連絡をとっておきました」

 

 美空はスーツのポケットに引っ掛けた眼鏡を掛け手帳を確認しながら言った。

 

「なんかお前今日堅くないか?」

 

 美空の口調に違和感を覚えた寅次は彼女に問いかけた。と言うのも二人は十数年来の仲なので社長と秘書という関係でありながら二人きりの時はタメ口で話しても良いというルールを設けているのだ。

 

「集会の際にタメ口なんて叩いたらクビなので」

 

 二人の関係は寅次の両親は承諾している。何故なら彼の両親も彼女とは数十年来の知り合いだからだ。

 

 しかし、集会の場だけは威厳を保っておかなければならない。外から見れば寅次はトップ、美空は部下だからだ。

 

「まぁ、後一時間程ですし、どうせ場所も見つかりにくい所でしょうから...さっさと準備して」

 

「急に戻るなよ」

 

 寅次はさっきみたいに敬語を使って凛としていた方が美人なのに残念だと思いながら立ち上がり、部屋を出て準備に取り掛かった。

 

 対する美空は別の場所に行きスーツケースに入った衣装を確認する。

 

「今回はいらっしゃるでしょうか」

 

 入っていた衣装は白いベネチアンマスクに兎が描かれたマスク。金髪のロングヘアーのカツラにウサ耳のカチューシャ、そしてバニーガールの服だった。

 

「卯一様は」




──知り合い?──

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