俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 熱出して更新が遅れました、ごめんなさい。


先輩として

……あの姿...破神霊香と同じ、鎧?

 

 零矢が纏った鎧は炎のごとき紅蓮の色で、霊香の時とは違い弓や矢の意匠があった場所は全て剣の意匠に置き換わっていた。

 

 クラウンのところには剣が右向きに付いたようになっており、両側頭部には幾重もの剣を扇子のようにしたパーツがヒロイックさを強めている。鎧もこれと言った模様は無いが、呼吸が出来ないほど隙間無く零矢の身体にピッタリとくっついていた。

 

 剣はと言うと、付いていた余剰パーツが外れ、刀幅が少し狭い両刃の刀になっていた。顔は霊香のと同じ漆黒に白い眼、こちらから零矢の表情を伺う事は不可能だ。

 

 それを見て卯一は少し気になる事があった。それは霊香が鎧を纏った際に自我を失い、鎧の人格の方に乗っ取られていたことである。しかし先程の口調と戦い方からしてまだ零矢の自我が失われているとは思えない、個人差、時間差etc.何らかの法則性があるのかと卯一は考えていた。

 

 そこまで考ると腹部の激痛で卯一は一気に現実に引き戻される。集中のし過ぎで忘れられた痛みが再び卯一に襲い掛かる。卯一は強く腹部を押さえた。手の中に収まりきらなかった生暖かい液体が指の間から溢れる。

 

 鎧を纏うまで零矢は劣勢だったが、今はパワーが加わったおかげで零矢の方がミカエルを押していた。卯一の思惑としては零矢にミカエルを退けさせ、ラファエルにこの傷を回復させてもらうというものだった。

 

 零矢はミカエルの剣を全て弾き返し、蹴りや拳でダメージを与えて行く。天使とは言え、連続で繰り出される打撃による猛攻はミカエルに回復する隙を与えない。このままならば、ミカエルは体力が尽きる前に撤退するしかない。卯一は心の中で零矢に声援を送り続けた。

 

 直後、ミカエルは空を舞う一つの影に気づき顔を歪める。その影は満を持したように空から舞い降りた。白髪のオールバックにミカエルとは対照的に紫で統一された衣服。右手には剣をもったどことなくミカエルに似た感じを受ける天使だ。傍目から見れば加勢に見えるがミカエルの反応から別の何かだと卯一は感じた。

 

「...ッ⁉ルシフェル、まさかお前の手先か?」

 

「さぁ、知らないな?」

 

 卯一の予想通りその天使はミカエルの加勢ではなかった。むしろこの戦争を起こした張本人のルシフェルだった。更にヒントにある全てを癒す大天使、つまりラファエルではないゆえ、このまま敵に回るならミカエルと一緒に退ける必要が出てきてしまった。

 

「とぼけるな‼」

 

 しかし卯一の考えとは裏腹に、ミカエルがルシフェルに斬りかかった。卯一はこのまま放っておけば戦いながらどっかに行くのではないかと考え、零矢もそれに気づき、卯一の方へと向き返るが、

 

「逃がすか‼」

 

 と言う叫びとともにミカエルが自らの剣を投擲する。零矢はギリギリで気づき間一髪弾くが、ミカエルは空中で弾かれた剣を掴み斬りかかった。

 

「馬鹿が」

 

 ささやくような声、誰にも聞こえないようにそう言ったルシフェルは右手に魔力を貯め始める。しかし、その言葉を聞き取った卯一が零矢に対して、

 

「後輩クンッ!前見て!」

 

 零矢はルシフェルの意図に気づき、渾身の一撃でミカエルを弾き飛ばして避ける体制をとった。しかし、少し後方を見てそこに踏みとどまった。

 

 放たれた光弾は零矢に真正面から当たった。卯一は衝撃で目を閉じる。卯一が再び目を開けると、鎧は白い煙で包まれていたが目立った傷は無いように見えた。そこでようやく卯一は零矢が自分を庇って攻撃を受けた事に気づく。

 

「貴様...仲間を?」

 

 ミカエルが信じられない、というような目でルシフェルを睨んだ。

 

「だから知らんと言っているだろう。味方の顔などいちいち覚えていられるか、一体ぐらい減っても構わないさ」

 

 それに対しルシフェルは零矢などに目もくれず掌を上に向け、ミカエルに言い放った。

 

「...そこまで堕ちたか」

 

 ミカエルの言葉はルシフェルの怒りを買うのには十分だった。その言葉が合図だったかのようにルシフェルが猛攻を始める。素早い剣技を繰り出し、距離を取られたら光弾を放つ。がミカエルもそれをさばき応戦している。二人共地上では物足りなかったのか羽を広げ空中戦にまで発展した。

 

 取りあえず今なら抜け出せるかもしれない、そう思った卯一は零矢の方を見ると、膝を着いたままピクリとも動かず、ずっと同じ体勢のまま止まっていた。

 

……カッコつけてるのかな?何でそのポーズ?...いや、違う。まさか...⁉

 

 次の瞬間、零矢は何かに取り憑かれたようにゆらゆらと立ち上がると、

 

「ウアアアアアアアアッッッッッッ‼‼‼」

 

 と、咆哮した。瞬時に卯一は危惧していた事が起きた事を悟る。つまり、自我の喪失。そこにいるのは零矢であって零矢でない者。それを表すかのように、鎧の目の部分がギラギラと光っている。

 

 咆哮は空中の二人にも届いたらしいが、二人共怒りの咆哮としか考えず、気にも止めずまたお互いに戦い始めた。それを目で捉えていた鎧は、背中から、禍々しい羽を生やし飛び上がる。二人が気づいた時には時既に遅し、横に凪ぎ払った一閃が斬撃波となり二人にヒットした。

 

 墜落する二人、それを見下す鎧。斬り合いからかなりの実力者と伺える二人を同時に地に落とす事からリミッターが外れ、力が更に上がっているのが眼に見える。

 

……私じゃ止められない...

 

 急降下して着地した鎧は、ルシフェルに狙いを定めて掴みかかる。ルシフェルは苦しそうにもがき、零距離から光弾を放ってなんとか抜け出した。その隙をチャンスだとばかりにミカエルがルシフェルに斬りかかろうとするが、標的を変えた鎧に弾かれた。すっかり三つ巴

になっている。

 

 だがもう天使二人は体力が切れかかっているのか、動きが鈍くなっている。このままでは鎧が二人を一方的に蹂躙するのに時間はかからない。もしそうなれば最悪殺害まで発展すると考えてもおかしくはない。

 

……そんな思い、彼に味会わせない!

 

 卯一の心の中で決意が固まる。やはり自分が残りのアイテムを駆使して鎧を零矢から引き剥がすしかない。しかし意に反して身体は血が足りないのか上手く動いてくれない。

 

 その間にも零矢は二人を戦闘不能になるまで追い詰めて行く。が、急にミカエルの動きが素早くなった。戦いの傷も治り顔色も良くなっている。

 

「間に合ったか」

 

「ギリギリでしたね」

 

「何だよあいつ」

 

 卯一の急に背後から三人の男の声がした。その声の主達は卯一の前まで歩いて来る。

 

 一人は燃えるような赤い剣をもったターコイズのような緑色のロングヘアーで穏やかな目をした、卯一や零矢よりも少し年上に見える天使。

 

 もう一人はアクアマリンのような水色の髪が腰付近まであり、髪止めの代わりに百合の花を着けている落ち着いた雰囲気を受ける年上の女性のような天使。

 

 最後は最初の天使と似た赤い盾を持った茶色の天然パーマで無邪気さが伺える翔ぐらいの年の見た目の天使。

 

 三名ともミカエルと同じ階級なのか、全く同じ服を着ていた。と言うことは、

 

「まさか、四大天使?」

 

「あ?魔族かコイツ」

 

 卯一の呟きに反応した子供っぽい天使がこちらを睨む。まずい、せっかく全てを癒す大天使ことラファエルに会っているはずなのに、疑われたら、零矢を止めることができない。

 

「こらこら、ウリエル。闘争本能を剥き出しにしないで、今はあっち」

 

「ミカエルは回復したがあれはどうする、ガブリエル?」

 

 女性のような天使がウリエルと呼ばれた子供っぽい天使をなだめ、ターコイズの髪の天使がその天使に向かってガブリエルと言ったって事は、このターコイズの天使がラファエルという事になる。卯一は願ってもいない幸運に息を呑んだ。

 

「んー、じゃあこういうのはどうでしょう?私とウリエルでミカエルのサポートを、あなたは回復をお願いできますか」

 

「それ、賛成」

 

「了解だ」

 

 作戦が決まったのか、ガブリエルとウリエルが鎧の元へ飛んで行き、運良くラファエルがその場に残った。卯一はラファエルにこのダメージを回復してもらうにはどうすべきかと思考を巡らせる。

 

「おい、お前。あいつはどんな悪魔なんだ?」

 

 思いのほか、先に口を開いたのはラファエルだった。しかしこの様子だとラファエルも自分を魔族に見ているのだろう、そこから回復してくれるまでに持っていくのは困難ではないか、と卯一は考えていた。

 

「あの子は魔族なんかじゃない...人間なの。天使ならなんとか出来るでしょう?助けてあげて」

 

 かすれるような声で卯一はラファエルに懇願した。回復してくれる見込みが無いなら、現在の戦力で対応するのに賭けるしかない、それが卯一の出した結論だった。

 

「人間...か。ここにいるはずないのにな、自分の事を人間と思っている類の悪魔ならここで止めるべきだな。こう言ったら何だがあの三人相手じゃ助けるのは無理だろうな、お前が後に行くところに先送りされるだけだ」

 

 しかし現実は甘くなかった。卯一は自分が頼んだところで誰も聞いてくれないなど、誰も助けてくれたりしないなど予想していた。

 

 卯一の脳裏に甦る遠い日の思い出。親友が死んだ日。助けてと言う虚しい叫びは雨の中に消え、その後の記憶は卯一の中には無い。

 

 その頃から卯一はあまり人を信じなくなった。しかしあの頃の自分とはもう違うと、強くなったと胸を張るつもりが結局この様で、約束した後輩一人守れないなど変わっていないのも同然だ、と悔しさで唇を噛み締める。

 

 腕に力を込める。叫びたくなる痛みをこらえ四つん這いの状態まで卯一は身体を起こした。

 

「よく回復しないで立てるな、だが出血多量でもう動けないだろ」

 

「人間を甘く見ないでよ...これからあの子が味会う心の痛みに比べれば...こんなの、軽い方よ」

 

……やってやるわよ、一人は慣れてるし。ただ風穴のオプション付きなだけでしょ

 

「心の痛み?堕ちて苦しむ事か」

 

「ふっ、ふふふっ、あはははっ。そうね、このままじゃ彼は確かに堕ちるわ、空想でも幻想でも人を殺したと言う罪悪感に」

 

 明らかに頭が狂ったように嘲る卯一。その足は震え、もはや立っているとは言えなかった。しかし、銃を構えてラファエルに向かって言い放つ。

 

「だけどそんな苦しみはいらない、ずっと自分を縛り付ける物だからよ。だから彼は堕とさせない。私が止める、どんな障害があったとしても。私のようにならないように、それが...」

 

状況とは裏腹に自信満々に言い続ける卯一はラファエルには魔族よりも恐ろしい何かに見えた。卯一はその方向を見ないまま鎧に向かって弾丸を放つ、それはダメージなどとても与えられるようなものではなかったが対象を卯一に変えるには十分だった。

 

 

 

 

 

 

「先輩として、私が彼にしてあげられる事だからね♪」

 

 

 

 

 

 ラファエルの方に向かって笑顔を投げる。ラファエルは恐怖で身体が動かせなくなった。この状況下で、その状態で、まだ鎧に歯向かう事に。そして卯一は全速力で走った。すぐ後ろに鎧が迫り、斬撃を放つのを紙一重で避け、射撃し反動を利用して距離を取る。すかさず胴に向け数発、それは剣で弾かれたがもはや手負いの動きではなかった。

 

 弾丸が弾かれるなど予想済みであった卯一はニヤリと微笑む。その手からは細い糸のようなワイヤーが後方に伸びていた。今のはワイヤーを張るための時間稼ぎだったのだ。さすがに手負いで分が悪いと理解していた卯一は紙一重で避けてばかりを避け、ワイヤーの機動力を頼るようだ。

 

 鎧が向かってくるのを確認し、後方に張った二本のワイヤーを作動させ、卯一は後ろに移動する。だが、鎧はそのスピードにも難なくついて来た。

 

……ワイヤーのスピードにも追い付いて来るの?だったら...

 

 一度ワイヤーが縮むのを止めて両膝を胸の前まで持ってくる。後方から引っ張られる力が消えた事により、移動するスピードが遅くなり鎧が卯一の目と鼻の先の距離まで近づく。鎧が剣を振るうより先に卯一は両足の裏を鎧に付け、バネのように思いっきり足を伸ばして蹴り飛ばした。

 

「『発条脚(スプリング)』ッッ‼」

 

 急に逆ベクトルの力を受けた鎧は受け身を取るのもままならず土煙をたてながら倒れ込んだ。対する卯一はなんとか受け身を取って着地する。

 

 機転が利いたのもあるが、銃撃以外で鎧にダメージを与える事が判明した。つまり、頭さえ使えばダメージを与え続ける事が出来る、得意分野じゃん、と卯一は確信した。

 

 それに鎧を引き剥がす方法は何もダメージを与え続ける事だけではないかもしれない。もし破神霊香の時と同じなら鎧ごと吹き飛ばしたら良い。だがその場合中身である零矢にも戦闘不能になるほどのダメージが入る事になる。

 

「さすがに油断したぜ」

 

「⁉」

 

 鎧から声が発せられる。勿論零矢の声ではない。零矢よりも少し低い声だった。ふと卯一の頭の中に一つの可能性が思い浮かんだ。鎧も意思を持つと言うのならば話さえ付ければ零矢を解放させる事も可能ではないか、と。

 

「ってことで、本気で殺るぞ」

 

 そんな事はなかった。稀に見る絶対話が通じないという類いだ。そうなると暴力的解決以外方法がない。

 

「...っと」

 

 突然、くらくらと体勢を崩しそうになる卯一。下を見ると、激しく動き回ったせいで出血が激しくなっていた。アドレナリンのおかげでまだ痛みはあまり感じてないが、卯一は限界を感じていた。

 

「後輩...ク」

 

 悔しさと悲しさが込められた手が鎧に伸ばされたのもつかの間、鎧の姿が一瞬にして消えて、気付いた時には剣を構える鎧が卯一のすぐ側に立っていた。鎧は自らの中身を救おうとした人間であろうとも関係なく、機械的に手に持った剣を振り下ろす。

 

「まだだ!」

 

 鎧が剣を振り下ろす前に割り込んだ一つの影、それはターコイズ色の髪をなびかせ卯一に振り下ろされたはずの剣を赤い剣で受け止めていた。火花を散らしながら剣を弾き、ラファエルは今にも倒れそうな卯一を抱え飛び上がった。すぐに追おうとする鎧には追わせまいともウリエルとガブリエルが立ちはだかる。

 

「どういうつもりだ、ラファエル⁉」

 

 魔族を助けた事に困惑したミカエルがラファエルに言及する。ラファエルはしばらく黙ってから口を開いた。

 

「慈悲...だな。こいつはその赤い鎧の者を命を賭けて助けようとしている。最期の願いくらい叶えてやっても良いだろうと思っただけだ」

 

「そいつは魔族なんだぞ!それに鎧を救ったところで俺達に歯向かう可能性だって...」

 

「なら、なぜ先にルシフェルと戦わない?今が絶好の機会だと言うのに、実の兄だからとためらってるのか、ミカエル?」

 

 ミカエルはラファエルの言葉を聞いて口を閉じてしまった。神話上ミカエルとルシフェルは兄弟であるという設定もあると言うが、天界大戦争の時もその繋がりはミカエルを縛り続けていたのかもしれない。それは人間が認知できる事ではない。この物語に生きる者だけが縛られる物だ。

 

「私は慈愛の天使だ、君たちのように戦闘には向いてない。だがな私にも信念がある。これ以上ここで必要以上の犠牲を出したくない。同じだろ、ミカエル?この子達がもし人間ならば私達は守るべき対象を亡きものにしようとしているんだぞ?」

 

 ミカエルは少し考えた後、赤色の髪をクシャクシャと掻いて仕方ないというようにため息を着いた。

 

「...あぁ、同じだよラファエル。もうこれ以上犠牲を出すのはごめんだ。それが、魔族と勘違いされている人間でもな」

 

 話が終わると、卯一はだんだんと出血量が減っていっている事に気付く。身体に空いた風穴をラファエルが回復して治してくれているようだった。やがて、滴り落ちていた血液が無くなると、卯一は支えなどいらず自らの足で立ちあがれるようになった。

 

「そういう訳だ、人間。私達で君の後輩とやらを助けようではないか」

 

 ラファエルが手を差しのべる絶望の縁に立たされた者に対する慈悲の掌が。卯一はその手をしっかりと握り、

 

「よろしくお願いします♪」

 

 と笑って答えた。握った手から力が流れてくる。身体も心も癒す慈愛の力。卯一は前にも似た感覚を味わったのを思い出す、そんな風に体内ににそれは流れ、そして一部となった。

 

 God-tellの『変身』のボタンを押す。身体が光の粒子となり、側にいたラファエルと一つになっていく。

 

 蝶の如く広げられた汚れのない純白の羽、見る者の戦意を喪失させ楽園へと導く天使の象徴。大天使ラファエルがそこにはいた。

 

 元の自分と補色のターコイズの髪をなびかせながら、卯一は身体の変化を実感していた。

 

……ちょっと身体が重いな、まぁ胸が無い分足下は見れるんだけどね

 

「どういう事だ⁉人間がラファエルに憑いたのか?」

 

「私も初めてだからよくわからないけど、その解釈で問題無いんじゃない?」

 

 驚くミカエルにいつもの口調で答える卯一、そしてGK銃を二人の天使と戦闘中の鎧に向かって放った。

 

「次はお前か?」

 

「悪いけど次も私よ」

 

 自らも他人の身体を使う者だからか、言葉の意味を理解したらしく、無駄な言葉を発さずに二人の天使を吹き飛ばし、卯一に斬りかかってくる。

 

 それを右手に握った剣で鎧の攻撃を受け止め、左手の銃で胴に数発撃ち込み反撃する。すぐに斬撃波を放つのを、卯一は後方に羽を広げて飛翔しながら避け銃に携帯端末を取り付ける。

 

 着地と同時に剣を地面に突き刺し、両手で標準を定め、卯一は弾丸を放った。

 

天任せの一撃(シークレットエンジェルショット)ッッ‼」

 

 鎧は素早い動きで弾丸を弾いていたが、地面に着弾した弾丸の爆風に堪えきれず宙へと舞い上がった。そこに、羽を広げて反動を相殺した卯一が剣を抜いて一閃を放つ。

 

天使の斬撃(エンジェルスラッシュ)ッッ‼」

 

「調子に乗るなァ‼」

 

 鎧は不安定な体勢のまま卯一の剣を受け止め弾き返した。予想外の反撃に反応出来ず卯一は倒れ込む。鎧は着地すると早々、禍々しい羽を広げ、

 

「エンジェル、エンジェルうるさいな。そんなに天使が好きなら、今この場でお前を天使にしてやるよ」

 

 と言い飛び上がった。そして右手の剣を天に掲げる。禍々しいオーラが剣に集まっていき、やがて刀身は元の数十倍にも巨大化した。

 

……うそ...あんなの避けきれないじゃん...

 

勇紅神破斬(イェネオススラッシュ)

 

 鎧は掲げた剣を振り下ろす。この瞬間、その場にいた天使、卯一は自らの死を確信した。そして天界はこの鎧によって破壊されると。

 

「……純翠神破弓(アグネスストライク)

 

 不死鳥の如き翡翠の矢が振り下ろされる剣に追突し、拮抗した二つの力が爆裂四散する。その場にいた殆どが何が起きたのか理解が追い付いていなかった。

 

「邪魔すんなよ、アグネス...いや、違うな。人間か」

 

 鎧の光る目の先にポツンと浮かんでいたのは、翡翠の鎧に身を包んだ一人の人物。

 

「破神...霊香?」

 

「……借りを返しに来ただけ、そこの天使にね」

 




──まさかの救援──

次回は年末です

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