零「そうですね、ジーニアスと言い、魔王と言い」
霊「ちょっと待って、それまだ本編で言ってないやつ」
翔「何で前書きでネタバレしてるんですか⁉」
神「つーか、何で破神がここのレギュラー化してるのさ」
霊「いや、私本編でずっと出てるし、むしろ時神なんて誰も覚えてないでしょ」
翔「そんな事いったらGDだって忘れられてますよ!」
零「何それ、ゴリラモンド?」
卯「ゲーム、ドクターじゃないの?」
神「いやお前らがボケぶちかますなよ...ほら、本編始まるぞ」
何とか間に合った。流石に疲れた。あの量は一人用じゃないだろ。
それを押し付けた人の方を見ると、目を背けたくなるような姿だった。見えない壁にまるで生け贄のように張り付けられた身体。両手足、腹部と緑色の矢が杭の如く刺さり、その箇所からは血が滴り落ちている。
左足の脛付近にはぽっかりと穴が空いていて傷口がただれているようだった。見たところそこからの出血量が一番多そうだ。それに口から吐血したのか、下に血溜まりができている。
「誰かと思ったらお昼の子?」
先程吹き飛ばした相手が訊ねてくるが、無視して傷薬を召喚する。
「へぇ、回復させてあげるんだ。まぁまた痛めつけるけど」
無視を続け、手足に刺さった矢を一本ずつ抜いていく。抜く度に傷口から血が出てきて俺の手と服を染める。全て抜き終わると彼女は体勢を崩し俺に倒れかかって来た。大丈夫、まだ息はしてる。
「キミ達恋人って奴?じゃあ教えてあげるよ、その子の痛がってた顔とっても可愛かったよ」
そんな鎧の揶揄する声に耳を傾ける事なく、彼女の頭上から薬をかけてあげる。すると傷口がふさがって血は止まり、流血によって青ざめた表情は気のせいか赤みが増したように見えた。
「無視してんじゃねぇよ」
先程のような軽い口調ではなく、チンピラのような声が背後から感じた。恐らく刃を振り上げているのだろう、がそんな事どうでもいい。
振り向きざまに右足で顔面目掛けハイキックを叩き込んだ。装甲は硬く、むしろこちら側にダメージが入ったと言っても過言ではないが関係無い。
俺は今自分でも抑えきれない物が心中で暴れている気がした。この気持ちを表すならぶちギレと言うのだろうか、目の前のコイツに無性に腹が立って仕方ない。
「いったいな!!」
よろけたもののすぐに体勢を立て直し、次の攻撃へと移ろうとする鎧。しかし、その動きよりも速く俺の両脇腹の横からニュッと顔を出した銃口から弾丸が放たれた。それは直撃し、鎧を後ろへと飛ばした。が...
「痛ッ...ちょッ、痛いんですけど⁉」
「威力最大だから仕方ないね♪」
弾丸を放った本人──ウィッチさんが仕方なさそうに言う。今、俺は両脇腹を殴られたような感覚がした。まぁ、当の彼女も反動で尻餅をついたのか腰を痛そうにさすっているが。
再び手に持ちっぱなしだった傷薬を頭からかける。勿論彼女にも。この薬の期限はあと数分だし、最終決戦まではもたないだろう。問題はいかにダメージを受けずコイツを倒すか、か。
「ねぇ...霊獣は?」
「倒しましたよ、一匹残らず」
彼女はハァ、とため息をついた。言うならば言うことを聞かない子供に呆れる親のようだ。恐らく彼女が俺に大量の霊獣相手を押し付けたのは、きっと...
「君は...私が考えてること尽く覆してくるね」
「それは逃げなかった事ですか?」
彼女の眉がピクリと動く。どうやら当たっているらしい。彼女は怪訝そうな顔でこちらを向いた。その茶色い瞳が俺を睨み付ける。それに臆する事なく話す。
「あなたは無理する俺に逃げる事を、諦める事を覚えさえたかったのかも知れませんが、あいにく俺は逃げないので」
嫌みのように聞こえただろうか。さっきより目付きが鋭くなった気がする。
「そんなに早く生き返りたいの?」
彼女は起き上がろうとする鎧へ向け、また発砲して体勢を崩させた。そちらを見もせずに。心なしかその銃撃は俺に対しての威嚇とも思えた。
「逃げたくないんですよ、自分の事もですけど。あなただって業を背負って必死に戦ってる、無理してる。その人の背中を見送って一人逃げるなんて出来ない」
「綺麗事だね」
「そうですね...」
それでも高天ヶ原の彼女の必死さを見て、猫探しの後に血で汚れた俺の手を笑顔で握ってくれたのを見て、心からこの人の力になりたいと思った。今までそこまで人に尽くそうと思ったことは無かった。誰かの為に心から動きたいと思ったことは。
「でも決めたんですよ、神事屋になった時に。誰かが戦ってる隣から逃げない、自分の事からも目を反らさないって。だからたとえ今日と同じことをされても、俺は貴女から逃げない」
伝わって欲しい。口下手だから難しいかもしれないけど、貴女の横で戦いたいと。だからそんな事しなくてもいいということを。
彼女は再びため息をつく。しかし、今度は仕方ないか、という感じだった。茶色い瞳から闇が消えていく。いつもと変わらない綺麗な笑顔に戻った。
ん、と言って片手のGK銃──二丁拳銃の際に俺から借りたもの──を胸に押し付けて来た。
「その綺麗事最後まで突き通す気があるなら...私と一緒に戦ってくれる?」
天使のような微笑みを浮かべながら彼女は問い掛けた。無論、答えはとうの昔に決まっている。
「勿論、最初からそのつもりですよ」
俺も笑顔でその銃を受け取る。軽いはずの銃がなぜかずっしりと重く感じた。それはきっと手が疲れているとかそういう理由だけではないだろう。
「何で!?さっきまでその攻撃は効かなかったのに!」
起き上がった鎧が吠えるように彼女に対し問い掛ける。それに答えるように彼女は口を開いた。
「あら?言ったでしょ、天っ才の発明だって♪」
どうやら調子も戻ったらしい、これで大丈夫だろう。
「まぁ、どれだけ種を仕込んでようがボクは倒せないけど」
「どうかしら?今度は二人よ。さっきまでとは一味違うんじゃなくて?ねぇ、後輩クン♪」
ハードル上げてきますね...まぁウィッチさんらしいと言えばそうですが。何か妙に生き生きしてらっしゃらない?でもそっちの方がやりやすいから困らないんだけど。
すると、彼女が小声でもしGK銃を使うなら右のレバーを手前に引いて、トリガーを最低でも5秒は押しっぱなしにして、と囁いた。そして俺の前に移動しながら左手の銃を魅せ付けるようにクルリと回すと、
「さぁ!」
と言って俺の方を振り向きウインクをする。だが咄嗟の行動の意図が読み取れず俺は困惑した。すると彼女が何か口パクで伝えようとしていた。
「え、ちょっ。わかんないです」
「もう!」
と言って俺の背中を叩く。と言ってもそんなに本気ではなく言わばツッコミ程度の強さだった。
「決、め、ぜ、り、ふ!」
「あぁ!なるほど!!わかりました」
やっと意味がわかり、彼女も思っている事が伝わったと思い再び俺の前に移動する。
「気を取り直して、コホン。さぁ!」
「お前の罪を数えろ!」
「いや、そっち~!?」
間髪入れず再び彼女がつっこんだ。どうやらまた間違えてしまったらしい。おかしいな、手首のスナップとか意識してやったつもりなんだけど...
「他のやつ、それも良いけどさ!別のあるでしょ?」
「振り切るぜ?」
「違う!」
「地獄を楽しみな?」
「何故そのシリーズばっか!?」
「ごちゃごちゃうるさいな!」
存在を忘れられていたと思ったのか激怒した鎧が弓を引き翡翠の矢を飛ばす。その矢が何本にも分裂し目の前に迫ってきた。最早避けるのは不可能と見えるが
「Summon...
「Summon...
彼女が天岩戸の時に俺が使った剣を俺がそれよりも少し大きな赤い剣を召喚し、向かってくる矢を弾いていく。
一発も命中することなく矢を防いだと思い鎧を見ると、既に上空へ向けて矢を放った後だった。
俺は剣を逆手に持ち、駆け出す。その動きに気づいた鎧がこちら側に再び弓を構えた。それを見て右側に方向転換しつつ上空から降り注ぐ矢を避けていく。鎧は標準を会わせようと方向を変えるので全力で走った。
鎧を中心とした円の反対側まで来た俺は、ついに鎧の方へ走り出す。放たれた矢を剣で弾きながら距離を詰め射程距離に入った所で剣を持ち変えて振りかざす。
が、鎧は弓を引いたまま弧で剣を弾き、俺は体勢を崩した。すぐさま、矢の標準を俺の眉間に合わせるが、
「ッ!?」
鎧が一瞬ぐらつく。どうやら彼女が最大威力の弾丸を撃ち込んでくれたらしい。俺は右手の剣を地面に刺し、それと右足を支えとして左足で胴に蹴り込んだ。
やはりダメージは入って無いようだが体勢を崩すには十分だった。自らの体勢をすぐに立て直し、剣を振り下ろす。鎧は弓を構えたが間に合わず斬撃は左肩から斜めに入った。
「グッ...それ、もしかして...ッ」
この剣だとダメージが入るのか?どうやら剣撃が効いているようだ。
「だったら解放する前に殺るだけだよッ‼」
「うおッ⁉」
奴の背中から翼が生え、その衝撃で後方へ飛ばされた。そんな能力まであるのかよ、その鎧。
鎧は空高く飛翔し弓を上に構え矢を発射した。
「
矢が空中でいくつにも分裂し無数の矢が雨の如く降り注ぐ、かと思いきや矢は鎧の頭上一メートル程で宙に静止していた。まるで時が止められたかのような感覚。
「な~んて、すぐに降ると思った?」
空を見上げ焦る俺を嘲るように響く鎧の声。コイツ、破神霊香の能力を使って矢が降るのを止めてやがる。
「また逃げられても面倒だし、痛めつけてから串刺しの方が確実だよね」
鎧が地上の俺目掛け、矢を放つ。攻撃が上空へ届かない以上鎧の攻撃は全て避けきるしかない。しかも任意で能力が解除できる場合、隙を見せたら即アウト。GK銃じゃチャージ中に気付かれるだろうし、さてどうしたものか。
すると、急に鎧の攻撃が止まった。今度はウィッチさんに狙いを定めたらしい。彼女も十分矢の落下範囲に入っているからだろう。放たれた矢を剣や銃で弾いていてとても反撃はできなさそうだ。
「さっきまでの軽口はどうしたのかなぁ?」
尚も笑いながら矢を放ち続ける鎧。そんな鎧に対し、彼女は俺にも聞こえるように大きな声で言った。
「あ~あ‼こんな時に蛍光灯の光みたいに速い物があればあなたを打ち落とせるのになぁ!」
蛍光灯?...そうか、そういうことか!
「はぁ?意味わかんな」
鎧はそう言って矢を放った。彼女はそれを剣で上に弾き銃を構え、矢に対して発砲する。
「舐めないでよ♪」
弾を受けて推進力を得た矢は鎧へと向かっていくが鎧はいとも簡単にその矢を凪ぎ払い、再び弓を構える。が、彼女の意図を読み取った俺は弾かれた矢にワイヤーを繋ぎ、上空へ飛翔していた。このワイヤーの特有の性質を生かして。
「舐めてるのはどっ...」
「お前だよ」
鎧と同じ高度まで飛んだ俺は無防備な奴の背中目掛け一閃を繰り出す。ウッといううめき声がして、鎧が振り向こうとする前に、心で念じた。
……コイツをなにがなんでも叩き落とす‼
左拳に力が集まるような感覚がし、それを全力で奴の背中に叩き付けた。
「グハッ⁉」
落下する奴の姿を横目に対空中にやるべきことはやらなくては。俺は捕縛射撃で、矢を止めている壁を全て壊した。これで矢は俺と鎧に降り注ぐ。後は彼女に任せ...
「
なんと彼女はGK銃から赤車を撃ち、それにワイヤーを結び付けて飛翔して来た。落下中の俺は彼女に向かって精一杯手を伸ばす。彼女も手を伸ばして俺の手を掴み赤車の中に引き入れた。
直後降り注ぐ矢の雨。安全な赤車の中でカン、カンと矢が弾かれる音が続く。そして地に着地したような衝撃の後、彼女は俺に掴みかかった。
「言ったでしょう、一緒に戦うって!ちゃんと約束守ってよ...」
もの凄い悲しそうな表情で声を荒げる彼女。その瞳にはうっすらと涙も見えた。それを見て俺は自分の約束を意図も簡単に破ろうとした事を恥じた。
「本当にごめんなさい」
「わかったなら...いいよ。行こう」
そう言って彼女は車のドアを開けた。
※ ※ ※ ※ ※
ドアを開けると、先程までの野原には幾数もの矢が突き刺さっていた。兵共が夢の跡、まさに戦場だ。だがそこには死体等はなく、ただあるのは落武者の如く立ち上がる翡翠の鎧。
「...お前らァァァァッッッッッ‼」
断末魔の叫び声を上げながら弓を持ち、もの凄いスピードで走ってくる。その鎧には所々傷が付いていた。ダメージは通ってるらしい。
射程距離に入った鎧は地面を蹴って飛び上がり、弧の刃で私を切り裂こうとした。私の前に後輩クンが入り、刃を受け止める。
「...はぁぁぁぁッッ‼」
「グッ‼」
激昂した鎧の勢いに彼が負けそうになる。このままだとまずい。私はアレを使う決意をして、彼からGK銃を掠めとる。God-tellを装着させる場所に私のGK銃の銃口を押し入れ、ライフルのようにする。私の銃にGod-tellをセットし、
「行くよ!“神”‼」
「了解ッ!」
「後輩クン、奴を弾いて‼」
彼は何とか踏ん張って、刃を弾いてくれた。すかさず彼の前にライフルを持って出る。
「私を支えて、絶対に離さないで‼」
顔は見えなかったが彼はしっかりと後ろから私の肩を支えてくれた。この必殺技の威力に負ければ二人ともアウト、耐えればセーフ。それでも良い...いや良くない。彼が逃げないように私も逃げない、だから耐えてやる、二人で!
「「「
銃口から極太の銀のビーム砲が放たれ鎧を捉えた。勿論、反作用の威力も凄まじく後ろに吹き飛びそうになる。彼が肩を支えてくれていなかったら仰け反ってしまっただろう。腰が折れそうだ。
「「いッけぇぇぇッッッッッッ‼‼」」
気合の叫びと共に耐え続けた。どれだけ経ったのか、やがてビーム砲は終息し、反作用も無くなった。下をみると自分達の足元にローラーでも通ったかのように地形が削れていた。
「はずれ...だな」
「「はぁッ⁉」」
私と彼の声が重なる。いや、あの威力ではずれ扱いって当たりだったら耐えれてなかったって事じゃん。まさに諸刃の剣だったって事か、こっわ。
ボサボサになった前髪を掻き分け銃を分割する。この技あんま使わないようにしよ。
「...んッ」
うめき声がしたかと思うと、鎧が全て剥がれ破神霊香の姿に戻っていた。持っていた弓は見当たらない。遠くへ飛ばされてしまったのか。
意識が覚醒した破神霊香に近づく。こちらに気づいた彼女は自らペンダントを出し、好きにしろ、と言った。
すると、後輩クンが弓を見つけて来て、彼女の傍らにそっと置いた。その弓がまた別のペンダントに変わった。
「……アグ、どうして?」
「大事な物だろうと思ってな」
しかし、彼の行動は再び敵に武器を渡したという事になり、そんなのタブーである。だけど、
「少しいじめちゃってごめんなさいね、痺れてない?」
自分でも訳がわからない事を言っていた。敵を心配している?何で?
「……甘い奴ら」
私も彼に少し毒されているのかもしれない。いや、私自身は元々非情になりきれないのだ。本当はこの子も被害者のようなものだから、若い時から死ぬほど苦労している様子に親近感を得たのか。私もまだ十分若いが。
「じゃあ、行こうか。後輩クン」
「良いんですか?」
「もう彼女に戦闘の意思は無いよ、壊さなくてもいずれ自分で壊すよ」
車のドアを開け、私が助手席に、彼が後ろに乗り込む。さっきは戦いに集中していたから気づかなかったが、羽が邪魔だな。取ろう。そうこうして私達は決戦の地へと出発した。
※ ※ ※ ※ ※
そこは大勢の天使達が、お互いに剣を振るって戦っていた。同族で殺し合っている、まさに地獄絵図だ。こんな状況で力をもらうのはかなり危険だろう。
「何か策はあるんですか?ウィッチさん」
「実は、誰から力をもらうかって言うのにはヒントがあって、確か『全てを癒す大天使』だからミカエル、ガブリエル、ラファエルの誰かだと思うんだけど」
考えてもわからないし、このまま待っていても彼らの方からやって来るなんてこの状況ではあり得ない。となれば、この戦場から見つけ出すしかないのか。
「多分考えてる通り、この中から見つけ出すしかない。だけど戦争に巻き込まれるのは避けれそうにない。だから見つけて力をもらったらすぐに連絡、そして退いて」
「わかりました」
俺達は傍らに置いた銃を握り、ドアを開けてそれぞれ別の方向へ駆け出した。倒れている天使や負傷している天使をじっくりと見回しながら、探す。
顔はわからなくても威厳みたいなものでわかるはず。しかし、全くそのような天使は見つからない。傷の手当てでもしに一旦退いているのか?
すると横の方に彼女の姿が見えた。羽がないから周りと違ってわかり易い。向こうもまだ見つかってないのか。
すると、彼女の方も俺に気づいたらしく状況確認のためか走ってきた。
「後輩クーン、そっちはど...」
急に彼女の足が止まる。異変はそれだけではない。彼女の腹部から刀身が飛び出していたのだ。一瞬の出来事に思考が止まる。
「お前、魔族か?この私、ミカエルも見たことない顔だ。やはり魔族だろ」
彼女の後ろに立っていた天使が彼女に問う。朱色の短髪に鋭い目付き、俺らの単色な服とは違って赤や金等の色をベースとした布を重ねた誰が見ても高貴な服に羽衣のような物を纏っていた。左手には金色の盾...ではない、恐らく天秤か何かを黄金色の鎖で左腕に巻き付けていた。
どうやら羽を取っていたせいで魔族と勘違いされたらしい。ミカエルが剣を抜くと彼女は崩れるように倒れた。
「芝居は結構だ。魔族ならその程度の傷、どうって事は...」
「何してんだよ」
俺は我慢出来ずミカエルに切りかかった。もう傷薬は時間切れで使用不可能、つまり傷を治すことができない。
「ッと...伏兵か?まぁいい」
俺の剣は簡単にいなされ、右腕をとられてしまった。その腕を後ろで締め上げられる。
「残念だったな、この腕もらうぞ」
締め上げる強さが上がっていく。あまりの苦痛にうめき声が出たが、何とか剣を地面に投げそれを左手で取り切り上げる。が、その一撃は簡単に弾かれた。
「中々やるようだが素人だろ、そんなのに負ける程甘くはないわ!」
自身に満ち溢れたように素早く剣撃を繰り出すミカエルに致命傷を喰らわないようにいなす防戦一方へとなっていく。
やがてあまりに剣にばかり目が行っていたせいで、膝を入れられ、回し蹴りを喰らわせられた。後方へ飛ばされそうになるのをこらえたが、もはや体力の限界だ。鎧の時のダメージもまだ回復してない。
……コイツに...勝てない?
たとえ立ち上がってもさっきと同じ攻撃を喰らえば、もう立てないだろう。そしたら力をもらうなんて不可能。破神霊香に持ってかれるだろうな。
「ッざけんな...」
「まだ立つか、回復もせずに。そうか、この魔族の為か。だがお前らごときが何を背負ってようがこの天界を背負ってる私に勝てるわけ無いんだよ‼」
やっと立ったところに蹴りを入れられ、今度こそ倒れた。もう立てそうにない、敵いそうにない。どっちが天使なんだか。背負ってるものの為に手負いの二人を狙うなんて天使のやる事かよ。そんな奴に負けるのか?
(世界は広いからな、私より強い奴なんてウジャウジャいるだろ)
あぁいたさ。GDや神やたくさんなぁ!そいつらに負けねぇって思ってたのに、戦ってきたのにこんな体力切れなんかで大切な人を救えないなんてふざけんなよ!
(まぁ、関係無いだろ。自分が負けられないって思うなら立ち向かえばいい話だし、結局お前に足りないのは勇気なんじゃねーの?)
俺は剣を握りしめる。今ここでコイツ倒して力もらって帰る、二人で!そう約束したじゃないか。この身体が少し壊れようと、帰りゃ良いんだ。なら多少の痛みぐらい耐えてやるよ。
「ダメッ、後輩クン!君まで動けなくなったら!」
“勇気と無謀は違うだろ”
「ッ⁉」
彼女の声を遮り、低い声が脳内を駆け巡る。彼女が発したわけでもないし、勿論ミカエルでもない。誰だ?
“お前がしてるのは只の無謀な行為だ。それは本当の勇気とは違う。勇気とは自らが滅ぶ代償を持つ力を前にしても怖じけずそれに手を伸ばす事だろう。その力を俺が貸してやる。合言葉は...”
彼女の声が届かない。まるで口パクをしているかのように。しかし謎の低い声は脳内に直接話しかけるように言った。
俺は剣を強く握りしめ、立ち上がりその言葉を呟く。
「……
握りしめた剣から眩い赤い光が溢れ出す。燃えるような赤が辺りを包み込み、火が消えるように収まる。その美しくも儚く、邪悪な赤い光は不思議と俺の体力を戻してくれた。否、体力だけではない。コイツに立ち向かうと言う勇気の感情が心の奥底で燃え始めた。
その思いが殻を破るかの如く、剣の装甲が弾け飛ぶ。それらは人魂のように浮かびながら周りを取り囲んだ。こんな時、何と言えばいいのか。そんなのあれしか無いだろう。
「変身」
その一言と共に周りの装甲は一斉に身体に集まり、鎧へと変わった。そして顔の前にはガラスのような物が被さり中が黒いガスで満たされていく。顔全体がガスで満たされたが息は出来るし、前も見える。
「それが本当の姿か、正に悪魔だな」
ミカエルがそう言ってくるが自分の姿は見えないので何とも言えないが、用はカッコいいって事だろ?
俺はさっきより少し小さくなった剣をミカエルに向けて構える。
「心...火を燃やしてぶっ潰す」
「やってみろ」
俺は気合の咆哮と共に斬りかかった。
──赤の魔王降臨──