零「あれ?いつもよりテンション低いですね」
翔「まぁ仕方ないですよ」
零「って翔お前今回出るの?」
翔「いないですね、二ヶ月もいないですね」
神「ウィッチ喜べ、今回はお前がでずっぱりじゃん!」
霊「……私もなんだけど」
卯「そう言えば‼...って後半はなぁ。御食事中の方お気をつけてのシーンあるしなぁ」
霊「……取りあえずどうぞ」
零「何でお前が言うんだよ...」
別に助けに来たつもりじゃない。なんて言う嘘は通じないか。
見ていられなかった。君がボロボロになっていく姿を、逃げたって誰も文句言わないのに果敢に立ち向かっていく姿を。
だから、
「来ちゃった♪」
少々顔が強張っているだろうか。笑顔が下手だな、私は。
「なぁに?助けに来たのにその顔は?」
何で、と言うより嘘だろみたいな顔を彼はしていた。前、私はあなたに全て任せて研究室に引きこもっていたから、この世界に来たのが嘘だと思ってるのかな?
「え...いや、そ...その格好って事は...穿いてらっしゃら...」
「なっ...⁉」
反射的に彼の倒れた周りを寸分の狂い無く撃ち抜く。大丈夫当たってない...多分。
「ばっ、ばっかじゃないの‼何で助けに来た人に対しての第一声がそれなのさ!この着替えは“神”に言えば変更自由なの‼」
叫びながら背後に発砲する。近付いて来てる事なんてわかっている。こう言うのは待つのが礼儀でしょ。
「次言ったらそのペンダント吹き飛ばすからね!」
彼の方を向きながら攻撃の手は緩めない。空から近付こうが、地から近付こうが無駄だ。音や、風、気配でどこにいるかなんて予想できる。
「お前、ツンデレ通り越してるぞ。こっわ」
「うるさい!チャージして」
「りょ」
彼を背に向き直り、私は手にしたGK銃のくぼみにGod-tellをはめ込む。設計図通りしっかりはまった。それをはめることで、God-tellに『
試した事はないがまぁこれが実戦でもいいか。予定通り、霊石の結合を弱める弾丸を放つこのGK銃は霊獣に対して絶大的な威力を持つ。私が来たのは、彼にこのアイテムを渡し損ねたからでもあるんだけど。
「“神”ッ‼」
「OKだ、ぶちかませ‼」
銃口にエネルギーが集まるのを見て、破神霊香が霊獣に退くように合図を出したが、もう遅い。GK銃を両手で持ち胸の前で構える。
「「
銃口から出る極太の白いエネルギーが撤退する霊獣達目掛けて向かっていく。反動が凄いなこれ。
「大当たりっ!」
“神”がテンション高く告げる。え、はずれとかあるの?必殺技に?だが、エネルギーが命中した場所は戦車でも通ったかのような跡が付き、そこに霊獣はおろか霊石さえ無くなっていた。
「……嘘でしょ、百匹近くの霊獣をアイテムを使ったとはいえ一撃で?」
「どう?私の発・明・品♪」
しかし、強力だがこの技も使いようかも。霊石まで破壊するとは予想外だった。これ人に当てたら死ぬんじゃないか?
試しに後輩クンに♪と思ったが、これで一発退場されたら洒落にならないのでやめよ。ってか、何考えてるんだ私、助けに来たんだぞ私。
そんな彼は薬で既に回復していたが、今のを見て驚きを通り越してもはや呆れているようだった。わかるよ、馬鹿げてるよね、この威力。
「はい」
私は持って来ていたもう一つのGK銃を彼に渡した。因みにGK銃はワイヤーと同じで現実でも使えるアイテムだ。
まだ彼に説明してないような気がするが、現実にも存在しているアイテムは時間の制約を受けない。つまり、神の世界観に持ってこれるアイテムのポケットを消費すること無く持ってこれたのだ。
「えっ...もう一つのGK銃?」
「君用の、大事に使ってね♪」
因みにGK銃は鎌さんに頼んで4本作ってもらった。残りは翔君用と、後はスペアだ。
「無理だったら逃げても良いんだからね」
私は諭すように彼に言う。その年でそんなに使命感を感じる必要なんてない。早く生き還りたいのはわかる、死んだ事はないが心残りがあるなら尚更だ。
でも君が苦しむ必要はない。必要以上の苦痛から逃げたって構わない。生きる為だけに逃げるなら。
「無理じゃないですよ、余裕ッス」
また、強がっちゃって。少し可愛いなと思ったけど、まだそう思ってるならこちらにも考えはある。
「じゃあさ、
少しは逃げる事を覚えさせた方がいいかもしれない。明らかに不公平な条件を押し付けてみた。これで私は破神霊香を倒す。その後決戦の地まで行き力を手に入れて、彼が戦っていようが先に帰る。
それで助けに来たつもりか、と問われたら言葉に詰まるが可愛い子には旅をさせよ、逃げる事を覚えさせるには良い条件ではないか?
そうしているうちに当の破神霊香はグリフォンに乗ってどんどん小さくなっていった。先に決戦の地まで行くつもりだろう。
「じゃあ、よろしく。Summon...『赤車』」
「マキナまで持ってきたんですか...」
目の前の敵を倒しながら進むなど非効率的な事はしない。この車で追い付いてやる。では、後輩クン。ご武運を。
ファーラーに頼み最高速度で頭上のグリフォンを追う。道路じゃないからいくら飛ばしても犯罪にはならないのが良い。
このまま先回りしても良いが、結局は彼女と戦うはめになるので取りあえずここらで撃ち落とすか。
気を利かせたファーラーが車の屋根を変形し、風避けに早変わりする。私はGod-tellをGK銃に取り付け、ブレないように風避けのくぼみにはめ込み、構える。
「コネクト・ワイヤー!」
先端によく使うワイヤーのフックを模したエネルギーが溜まっていく。外したら気付かれるのでアレを使うか。
「
緊急事態に使う事がある私の能力。別に何か力が上がるとか操れるとかではなく、集中力と計算速度が人間の限界値を超すだけだ。これで相手の位置、風圧、発砲のタイミングを計算する。...うん、完了。
「
完璧なタイミングでフック型のエネルギーを発砲する。フックの後に付いているワイヤーを模したエネルギーロープさえ曲がることなく、グリフォンの胴体目掛けてフックが突き刺さった。空中でグリフォンが霊石に還り、破神霊香の身体が宙に投げ出される。
足止めだけならこれで十分だろう。しかし、私は足止めをしに来たわけではない。グリフォンを倒した後でも残っているエネルギーロープを空中の破神霊香に巻き付ける。それから、風避けからGK銃を取り外し、頭の上に挙げる。
……ゴメン、ちょっと痛いかも
そして、それを思いっきり振り下ろした。それはエネルギーロープを伝い、破神霊香さえも地面に向かって加速させた。その速さで地面に落ちれば即退場だ。
が、破神霊香は空中で何かを掴み、体勢を立て直して地面への衝突はおろか、まるで天から舞い降りたかのようにゆっくりと着地した。
それを見ながら、赤車とエネルギーロープを元に戻す。後輩クンみたいな化け物だななんて思いながら、上空をサーチすると、薄い壁のような物が見えた。あれを使ったのか。
「……危ない」
少し怒ったような声色だった。しかし、その青い瞳にはまだ余裕がうかがえる。相手にも見られていないのかな?
「あら、残念。一瞬で現実に戻れたのに」
慣れない挑発を仕掛ける。私こんな悪役みたいな台詞言ったことあったっけ?しかし、彼女は顔色を一切変えずに、
「……じゃあ、あなたは痛ぶってから戻してあげる。……トラウマになるほど」
宣戦布告をしてきた。
トラウマねぇ...確かに人には一つや二つトラウマになる出来事がある。恥をかく、絶望する、目の前で凄惨な光景を見させられるなど、誰だってあるはず。勿論私も例外ではない。私のトラウマはいつだって鮮明に目の前に現れる。『天才』の能力のせいで忘れることなんてできない。
「私のトラウマ、塗り替えられるかしら?」
笑いながら応えた。今この瞬間の笑顔はうまくいった気がする。満開の悪い笑顔だ。
「……こっち側の人?……ならあなた、イカれてるでしょ」
「当たり前でしょ?天才って言うのは頭のネジが外れてるのが定義だからね♪」
万人共通の事項だ。これ以上語る必要なんてないだろう。それは相手も同じようだ。
私は電気銃を召喚して2丁拳銃にし、声高らかに宣言した。
「さぁ、
※ ※ ※ ※ ※
いちいち口数が減らない女だ。前の男と似たようなイラつきを感じる。多分、二人から感じる謎の余裕、なめきった態度。今までの人生を楽しみに費やしてきた奴等なんかに私の気持ちがわかるものか。
確か女、妖美卯一の手にしている武器は電撃を纏った弾丸を放つ銃だったはず。それならば、霊子で壁を作れば避けれる。が、問題はもう片方の銃だ。霊石ごと消した事から、霊石の主成分である霊子も消される可能性は高い。
いや、待て。力を貯めていた時はともかく、連射していた時は一撃で倒せていない事から、一発一発の威力はそんなに高くない。なら...
私は目の前に霊子の壁を作った。無論相手もそれを認知しているようで、注意すべきカラフルな銃の引き金を引いた。目の前の壁が四散する。予想通り、一撃の威力は壁を四散するエネルギーしかないようだ。
続いて三枚の壁を作った。手をかざしていたから、作ったことはわかっているだろうが三枚とは思わないだろう。威嚇のつもりか、電撃の弾を放って来るが壁に当たって砕け散った。
何を思ったのか、電撃の弾を連射して来る。勿論全て四散してしまう。
……何が狙いだ?カラフルな銃の方は全く動かしてない。エネルギーチャージをしている?
ようやくカラフルな銃の弾を撃って来た。が、さほど威力は変わってないみたいだ。
……遊んでるの?ムカつく
私は二枚目の壁と言うよりは足場に乗り前方へ飛翔する。つまりわざと隙を作った状態になった。敵は待ってましたとばかり両方の銃を構える。どうやら私が急ぐのを誘ってたというわけか。
電気、カラフルと順番に弾丸を放つ。痺れさせてから倒そうと言う魂胆か。目の前に三つ目の壁があるとも知らずに。それで電撃を弾いて、カラフルの方で壁が壊れた瞬間に蹴りを入れてやる。喉元辺りが良いだろうか。
空中でシンバルキックのような構えを取ったその時、身体に電撃が走った。体勢が崩れて落下する。どうして?先に電撃の弾の方を撃ったのに?
「天才の発明品に仕掛けが何も無いって思う?弾丸を速くするモードとか」
銃弾の速度を変えれるのか?だから、後で電撃が来たと。敵は電気銃を私に乱射してくる。直撃の痛みさえ少ないものの身体の自由が徐々に効かなくなってきた。壁を作るも、読まれているかの如くカラフルな方を一発撃ち、壊してから電気銃を撃ってくる。
「……ふ、じゃけぇ...にゃ...ってッ...‼」
「もうろれつが回ってないじゃない?言ったでしょ?ワンサイドゲームだって」
喋りながら手を止める事なく電気銃を放つ。悪魔かこの女は。ヤバい、意識すら朦朧としてきた。嫌だ、こんな惨めに負けたくない。
「……ア...グッ」
胸に付けた緑色のペンダントが光る。全てを癒すような緑色の光が、身体の痺れを取っていった。どこか懐かしいような、いやさっきまで隣にいたような暖かさにも似たような感覚。
独りだった私のいつも近くにいてくれた、見守ってくれていた
「……お昼振り」
「アハッ、痺れてるレイカ可愛かったけどなぁ、珍しいね、二回も呼ぶなんて」
敵が困惑している。それはそうだろう。姿形が見えない何かと話しているのだから。
「……あの態度と胸がでかい女殺るよ」
「レイカが嫌いそうなタイプだね」
緑色の光を放つペンダントが身長と同じくらいの大きさの翡翠の弓矢に変わった。
「……
呪文の詠唱と同時に弓矢が弾け飛ぶ。手にはさっきよりは小さく、しかし弧に鋭利な刃がついている弓があった。そして、弾け飛んだパーツがそれぞれ大きくなり、鎧の形を模して、私の身体の周りを取り囲んでいた。
「……変身」
その掛け声とともに、鎧が一斉に私めがけて飛んでくる。目の前が真っ暗になったと思った瞬間、私の意識は飛んだ。
※ ※ ※ ※ ※
翡翠色の
ここまで言ったら某仮面...ゴホッ、うん、みたいだが、一際異彩を放つものがあった。それはその仮面とも言うべきもの。内側にあるだろう破神霊香の顔など見えない漆黒で、目の場所だけが猛獣の如く白く輝いている。
「やっぱ使いやすいなぁ、レイカの身体」
「あなたさっき話してた奴?破神霊香はどうしたの?」
「ボクの中で眠ってるよ、キミが痛め付けたせいで疲れちゃったんだよ」
まさか鎧側に別人格があるなんて。しかも変身したら自我は愚か意識まで無くなるなんて。
「とんだ欠陥品ね」
「欠陥品...どうだろうね、ボクに言わせればそれはキミ達の方じゃない?」
喋り終わるや否やそれは目の前まで瞬時に移動してくる。咄嗟の出来事で判断が遅れた。
「...くうッ...⁉」
たった一押し、突き飛ばされる程の勢いだけだったはずなのに、私はのけぞったように十数メートルほど飛ばされた。頭の蛍光灯が割れ、皮膚に刺さる。
寝たままの体勢で電気銃とGK銃を同時に放つがあの翡翠色の鎧には効いてないらしい。何で?GK銃を喰らえばノックバックみたいな感じになるはずなのに。
「そんなオモチャ効くわけないじゃん」
鎧は手に持った弓を構える。すると、弦のようなエネルギーが弧の両端から伸びエネルギーの矢が現れる。あれが後輩クン達を重傷付近まで追い詰めた原因...
すぐに立ち上がり、横に避けようとするが運動が出来ない私がそんな機敏に動けるはずもなく、
「......ッッッッ‼‼」
左足を撃ち抜かれた。今流れている血とは比べ物にもならないほどの量がぽっかりと空いた足から滝のように流れてくる。それから少し遅れて地獄のような痛みが全身を駆け巡った。
「んッッ‼...アアッ...ぐ...」
言葉が出ない、今すぐにでも泣き叫びたいのに我慢しなければならないのが辛い。身体からドッと脂汗が出るのがわかる。
「泣いてるの?かーわいい!良いね、その目。もっと見たいな」
すぐに近くに鎧は来て電気銃を拾う、って何で?まさか...嫌だ!それだけは、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‼
「お返し」
目を反らす。見たくない。直後焼けるような痛みが足から伝わってくる。
「アアアアッッッ‼...痛い痛いッ!...ヴッ、ひ...にぁ...い」
ろれつがまわらない。足がちぎれたように痛い痛い痛い。涙が涎が止まらない、嗚咽と吐き気もまた。私に左足はついているのか?それすらも考えたくない。
「もうちょっと可愛がれるかなぁ」
掴まれて立たされる、もう自力で立つほどの力なんて残ってない。作ったのか壁に寄りかからせられた。
その後杭を打たれるかの如く両手両足に矢が撃ち込まれる。もう痛いとか感じない。早くペンダントを壊してとしか思えない。もう全部投げ出して逃げたい、そんな考えしか頭の中を巡らない。
そんな事を思っていると目線の先──自分の腹部に一本の矢が刺さった。身体の中から何かが込み上げてくる。もはやそれに逆らう気力など無かった。
「...ゲホッ...ゴポッ、ガハッ...ハアッ、ハアッ、ハアッ」
下に血溜まりができる。もう死にたい。
「これまでかな」
首筋に鋭利な刃が当てられる。これでようやく...私は帰れる、普通の世界に...
「バイb...」
「捕縛銃撃ッッッ‼‼」
「ッ⁉何このヒモ、うわっ‼」
刃の感覚がしなくなった。かすれた目で前を見ると、そこにいたのは鎧ではなく、
「...させるかよ」
私が言葉の壁で突き放した彼だった。
──到着──