俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 こんにちは、赤色の魔法陣です。
 前・後編の今回は後編です‼こっちのが長くなった気がしますがそこはご愛嬌。
 スタートの視点は零矢でございます。日常かと思いきやバトルも入ってますので楽しんで頂けたら嬉しいです。どうぞ。


猫探し(後編)

 妙に薄暗い路地裏に足を踏み入れる。太陽光を遮り、ジメジメした雰囲気はいかにも人を寄せ付けないオーラを放っていた。

 

 更に奥へと進んで行く。どこかのアパートの壁はカビたり、苔が生えまくっていて、空気が悪い。すると、猫の鳴き声が聞こえて来た。どうやら一匹、二匹どころじゃない。

 

 鳴き声が聞こえてくる角を曲がって行く。路地裏がこんなに広いなら下手すると迷ってしまいそうだ。するとすぐ近くから声が聞こえた。この角を曲がった先だろうか。

 

 恐る恐る角から顔を覗かせると十数匹の猫達がたまっていた。その中に一匹、写真と同じ猫がいる。ミケだ。

 

 俺は安心して近づいて行った。後はこの路地裏をどうやって抜けるかだ。もう少しで手が届きそうだった時、ふわっと空気が動いたような気がした。

 

「え?」

 

 俺は咄嗟に条件反射で両腕をクロスさせ、顔を覆った。直後、両腕の隙間から見える赤い液体。その正体を体の痛みが教えるまでそう時間はかからなかった。

 

 両腕を見るとTシャツの袖より下は刃物のような物で切りつけられたような痕があった。猫かとも思ったが視界にそれらしいものは捉えていない。

 

 混乱して角まで後退しようとすると何かに袖を掴まれ逆の壁に叩きつけられた。

 

「ガッ...!」

 

 呻き声のような変な声が出た。何なんだ?見えない何かがいるのか?

 

「おいおい、どうやって姿消してんだ...よ?」

 

 言い終わる前に腹に一発入れられた。口から赤い液体が吹き出す。体に力が入らなくなり、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。息がし辛い。俺は力を振り絞ってこの場にいるはずの人に伝える。

 

「ゴホッ...が...み、ヴィッチざんに...伝え、て」

 

 口内に血が混ざって気持ち悪い。鉄の臭いが鼻を突いた。ただ言葉を言っているはずなのに、一言一言を声を発するだけで辛い。

 

「了解、Summon!『イヤホンマイク』‼...ウィッチ、聞こえるか?」

 

 どうやら決死の言葉は届いたようだ。そして最も信頼している人に届いてゆく。

 

「何?今頼まれた買い物中なんだけど‼」

 

 いつものようなテンションで話す彼女に場に合わない笑顔がこぼれる。人が重症だって時にこの人は...

 

 何だか少し力が湧いてきた。恐らく勘違いだろうがいつもの余裕も、無謀ささえも。

 

「え?見えない何か?...それって...後輩クン、『探索(サーチ)』の光を!」

 

 ポケットからGod-tellを取りだしボタンを押す。ライトを向けると、まばゆい光を放って何もない空間に浮かぶ複数の石のような物が見えた。

 

 次の瞬間、石の周りにオーラが発生し異形の物の形を作り上げた。人の背丈ぐらいある大きな体、鋭い牙と爪、目は獲物を見つけたライオンのような狂気を帯びていた。猫に見えるその容姿は一つだけ普通の猫とは違う箇所があった。

 

「尻尾が二本...猫又か」

 

「だったらそいつは人を喰らうよ」

 

 猫又、用は猫の妖怪だ。しかし、何でそんな物がここに?だけど伝説上ではこいつは人を喰らうと言われている。本当かどうかは知らないが用心するに越した事はない。

 

 俺はゆっくりと立ち上がる。正直まだ腹の辺りが痛い。口から血を吐き出し、臨戦体勢をとった。

 

「GINYAAAAA」

 

 鳴き声をあげ、その鋭い爪を突き立てようと猫又は突進してくる。俺は瞬時にワイヤーを召喚し、上空へ飛翔した。そして上空からのかかと落とし。決まった...かに思えたが、

 

「いっ痛ぅぅッ⁉」

 

 コンクリートのように体が固かった。威力を付けたかかと落としでもこちらがダメージを負ってしまうなんて。猫又はすぐに回転し爪で切り裂いて来る。ワイヤーを縮めてギリギリで避けた。

 

 しかしどうする?負ったダメージはかなり蓄積されているし、攻撃も通じない。

 

「...何だ...期待外れ、か」

 

 今、どこから声がした⁉慌てて辺りを見回すと、屋根の上に人影があった。マントを目深にかぶり表情は良く見えないが、言葉の通り不機嫌なんだろう。期待外れ、と言うことはこの猫又と何か関係があるのか?

 

「期待してくれちゃった感じ?」

 

 俺は挑発するように問い掛ける。しかし、人影は一切動くことなく、

 

「...死ね」

 

 いや、ストレート過ぎるだろ。絶対コミュ症だよ、友達いないよ。

 

「...何かムカつく...猫又」

 

 呼び掛けに応じ猫又が再び突進してくる。やっぱり関係があったか。動きを見切って左へ回避する...が、猫又は読んでいたかの如く左側に攻撃を繰り出してきた。腹を目掛けたストレートを受け止めるが固さ故に威力を殺し切れずまたもや壁へと吹き飛ばされる。

 

「...やっぱりダメじゃん」

 

 ムカつくけど正論だ。このままじゃ一方的に攻撃され続けていずれこちら側が体力切れで負ける。ワイヤーしかない今奴を倒せるアイテムは無い。かと言って周りのものを利用しても固くてダメージは通らないだろう。

 

 そこまで考えて一つの考えが浮かんだ。まだ『変身』があるじゃないか。あれならこの状況を打開できるかもしれない。俺はGod-tellの『変身』のボタンを押そうとしたが寸前でウィッチさんに止められた。

 

「もしかして『変身』しようとか思ってないよね?あれは神の世界観にいたから神の体に乗り移れただけであってこの世界で使ったら、魂だけになって消滅するかもしれないから。それにあの世界は多分偽物だよ」

 

 衝撃の事実を聞きながら俺は絶望感に満ちていた。じゃあもう勝ち目が無いじゃないか。猫又はそんな俺を容赦なく掴み投げ飛ばす。地面を転がりながら俺は上を向いた。

 

 空にはまだ昼だと言うのに白い月が浮かんでいた。それを見て思い出す。

 

 例え俺があった神達が創作された偽物だったとしても俺はあの神達を救ったことに変わりはない。もしその代償として俺を今救ってくれるなら、力を貸してくれるなら。

 

 俺は『変身』のボタンを押す。体が徐々に透けていった。だが怖いなんて感情はこれっぽっちも無かった。猫又が首筋目掛けて爪を向けて来た。イヤホンマイクから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。突き出される爪、それが自分の首を切り裂くより先に...手元に表れた剣で猫又の腕を切り裂いた。

 

 突然の出来事に驚く猫又。否、猫又だけではなく驚いたのは自分自身もだ。体中から力が溢れてくるのを感じる。腰には鞘があり、右手には立派な日本刀のような物が握られていた。これはさっき俺がイメージした月読命と同じような感じだった。

 

「まさか⁉『変身』ってこの世界でも出来るの?」

 

「そう...みたいですね」

 

「でも体は変わってないみたいだぞ、むしろ零矢が月読命に近付いてるみたいだ」

 

 俺は猫又に向き直る。猫又は恐れをなしたのか向かって来ようともしなかった。なら、こちらからお返しと行こうじゃないか。

 

 剣を構え直し、一気に距離を詰め何回も切り裂いていく。猫又の反撃を許さず連撃し足を切り裂き体勢を崩した後で相手の体を踏み台にしてジャンプ。

 

「さあ、終わりにしようか?満月斬り(フルムーンスラッシュ)ッッッ‼」

 

 剣を振り下ろし真っ二つに切り裂いた。断末魔の叫びをあげ猫又は崩れていく。やがてその原形を残さずただの石ころになった。

 

 それを確認し、人影の方を向いた。すると人影は懐から何かを取りだしこちらに向けていた。咄嗟に構えると、何かは風を巻き起こし石ころが吸い込まれていく。

 

...くッ...ん?

 

 やがて転がっていた石が吸い込まれた後、人影は飛び降りてきた...かに見えたが空中で一回止まりもう一度跳躍して視界から消えた。まるでマジックを見ているようだった。

 

 あいつはGDだったのか?そんな疑問を浮かべながら猫を連れて依頼人との待ち合わせ場所へ向かった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 依頼人の家に着くと既に先客がいた。ちゃっかり上がってお茶をもらって飲んでいた。先客は俺を見るやいなや近くに寄って来て、

 

「全く無茶なことしてくれちゃって‼君本当に大丈夫だと思ってたの?」

 

「まぁ、ちょっとはね、でも何でいるんですか?ウィッチさん、お仕事は?」

 

 ウィッチさんは呆れた、という顔をして事の状況を説明する。

 

「あの電話の時の仕事が最後だったの、私は三件も持ってたのに君は随分かかったね。こんなに傷付いて...後でお仕置きだから」

 

 何だか寒気がする。この人のお仕置きとか正直何されるかわかったもんじゃない。でもどこか安心してしまう。一緒に住んでまだ数日しか経ってないのに何故他人にここまで信頼をおけるのだろうか?

 

 懐からミケが飛び出し少年の元に駆けて行く。少年はミケを抱きしめ頭を優しく撫でた。猫もそれに応え顔を擦り付けた。なんとも微笑ましい光景だ。

 

「で、お金の話なんだけど」

 

 前言撤回、なんて悲しい光景だ。感動のシーンはすぐに現実に引き戻された。

 

「内の若手を二時間使ったし、怪我をするほど危険な仕事だった事を含めると、ご料金は占めて一万円ぴったりでどうかな?」

 

 いや、たかが猫探しで一万も取るのはどうだろうか。確かに怪我はしたが、無事な訳だし。

 

「と、言いたいところだけど初めてのご利用なので代金は九割引きで、お茶もらったし更に半額、占めて五百円ですね」

 

 少年の曇った顔はパッと明るくなった。すぐにポケットから五百円玉を出すと彼女に手渡す。彼女は少年に

 

「ご利用ありがとうございました。またのご依頼をお待ちしております」

 

 と言って俺の手を引いて家を出た。後ろを見ると少年が頭を深く下げて、ミケが鳴いていた。俺は頭を挙げた少年に手を振りながら彼女に話し掛ける。

 

「最初からその値段だったんじゃないですか?」

 

「まさか、ちゃんと稼ぐ時は稼ぐものよ。まぁ、今日の収入は一万円とちょっとだけど、初めての日としては十分でしょ」

 

 彼女は俺に微笑む。何か無性に安心感を感じてしまうが気のせいだろう。気付くと、俺は彼女と手を繋いでいた。俺の手は少し血で汚れているのに、彼女は関係なく握り締めてくれた。

 

 俺の安心感はこれなのだろう。彼女は俺を邪険として扱わない。一種の仲間として、同じ境遇の者として俺の手を握ってくれているのだ。俺はそれに母性にも似た感情を垣間見たのだ。

 

 思えば母親とも父親ともあまり手など握った思い出などあまりない。昔誰かと握った事はあった気がするが、多分誰かと手を繋いだのはそれぐらいだろう。

 

……暖かい

 

 そんなぬくもりを感じながら帰路へとついた。あの少年もミケと暖かく眠れるだろうか。そんな思いを感じながらまた歩いて行く。いつもの帰り道には孤独しか感じなかったこの道が食卓が楽しみな道に変えてくれたのは紛れもない彼女だろう。

 

「あ、お惣菜切れてるんだった!後輩クン、スーパーに行こう!」

 

 どうやらまだ食卓には着けなさそうだ。俺は頷くと傷を隠してスーパーへと行った。




──手にしたかけがえのない日常──

 何か日常を書いたつもりなんですが以外にストーリーは進んでます。今回はやはり零矢とウィッチさんの間の絆とも言うべき感情でしょうか、それの芽生えが見えたお話でした。普通に考えれば一週間もまだ一緒に居ないのに信じ合えるのはあり得ないですが似た二人は気が合うのでしょう。

 そろそろ新学期ですね。そろそろ俺達と神達と空想神話物語一周年ですよ!全然進まないですね!でも気長に暇だから見よみたいな感じでも良いので読んで頂けたら幸せなことこの上ないです。

 で次回は零矢学校復帰です。新キャラが出る...かも?

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