俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 明けましておめでとうございます。赤色の魔法陣です。
 取りあえず急いで書いたので拙いかもしれませんが本年はこれから始めますので、どうぞ。


第3章 俺と私と間の日常物語
神聖区


……あれ?ここどこだ?

 

 目が覚めた時、俺はどこかに立っていた。見つめる先には雲一つ無い澄んだ青空。ここは屋外、どこかの屋上か?

 

「ってまさか⁉」

 

 俺は立て掛けられた落下防止柵へ駆け寄り、そこから下を眺める。間違いない、ここは神聖学園高校の屋上だ。しかも、目線の先は俺が落下して死んだ場所。

 

「何で...?」

 

 動揺を隠せない。俺は家で寝ていたはずだし、それに休養中だから学校に来ようとも思っていなかった。ましてやここは自分が落下した屋上だ。夢遊病にしては出来すぎている。

 

 直後背後からドアが開く音がして振り向く。

 

 誰か...いる。誰だ?そこに誰かいるのは認識しているのに目が霞んだようになって全体のシルエットがぼやける。耳にはノイズが走り、鼓動が早い。この感じは岩戸でやたらactionという単語を連発していた奴が話しかけてきた時の感覚と似ている。

 

 その『誰か』は徐々に近づいて来る。顔には墨で塗り潰されたように真っ黒で口元しか見えない。男か女かもわからない。まして人間かどうかも。

 

 取りあえずこのままではまずいと思い、後ろに下がろうとするが金縛りにあったかのように体が動かない。

 

 気づけば『誰か』は目と鼻の先まで来ていた。俺は力を振り絞り、震える声で話し掛ける。

 

「あんた...誰だ?」

 

 『誰か』は手を顎に当てて悩んだ素振りを見せたあと、しばらくして答えた。その声はボイスチェンジャーを何重にも重ねたように聞こえたが言った内容ははっきりとわかった。

 

「そうだね...

 

    “神”

 

 とでも名乗っておこうか」

 

 その瞬間視界が反転し目の前が真っ青になる。そして段々と校舎の屋上が離れていくのが見えた。間違いない、落下している。地面は徐々に近づいて、そして...

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「ぐあっ⁉...あっ!...あ?」

 

 目覚めると自室のベッドの上だった。今のは俺が落ちた時の夢か。シャツを握ると凄い量の汗をかいていた。体が熱い。God-tellを見ると時刻は八時半を過ぎていた。俺は思わず二度見する。熱い汗が冷や汗へと瞬時に変わっていった。

 

「ヤバッ⁉遅刻する‼」

 

 ベッドから跳ね起き、下着、制服を取り階段をかけ下りる。疲れてたとはいえ、こんなに寝坊するとは。一階に着くと直ぐに寝間着を脱ぎ制服に着替えネクタイを閉めた。まだ三十六分、後九分有ればなんとか行ける‼鞄を抱えて家を出て、鍵を閉めたところで気づいた。

 

「あれ?俺今休学中じゃね?」

 

 馬鹿馬鹿しくなり、鍵を開け家に入ってネクタイを緩めた。怪我して休んどけと言われたのに忘れてた。あと、一週間学校行かなくて良いのか、ラッキー。

 

 俺はトーストを焼いてる途中にシャワーを浴び、普段着に着替え、トーストをくわえながらTVの電源をつけた。特にこれと言ったニュースもなく(まぁ気になったのは最近何もないのにいきなり何かが壊れるとか意味のわからないのはあったが)、録画しているものを見ようかと思っても全部一度は見たものだったので暇を持て余していた。

 

 朝飯を食べ終え、高三の割に勉強する気にもなれず、午前中はどこかに出掛ける事にした。ポストを確認しに行くと、新聞が入っていたので開くが内容はほとんどTVと同じ。その代わり、チラシに今日は日用品や食品が特売と書かれていたので、これを買いに行くとしよう。専業主婦か俺。

 

 寒くはないので普段着はこのままボーダーのTシャツとジーパンで軽いショルダーバッグを持って家を出た。

 

 まず、左に曲がり神聖商店街の方向へ歩く。この商店街はこの元の東京二十三区が解体されて新しくこの神聖区が作られた頃からあるらしい。並ぶのは、定食屋やスーパー、駄菓子屋や洋服屋などがある。世は宇宙時代とは言え、こういう田舎みたいなのは別に嫌いじゃない。今回のお目当てはこのスーパー。俺は一人暮らしだから基本ここで日用品は取り揃える。

 

 スーパーに着いて特売コーナーに行くと何も置いていない。まさかの売り切れのようだ。専業主婦って怖ぇ...

 

 仕方ないので馴染みの駄菓子屋で飴を買い、口にくわえながら駅を目指す。あのスーパーはチェーン店みたいなものでここ南街の他にも東街、西街、北街に一つずつある。どれかと言えば東街のスーパーは大きいから先にそっちに行くか。俺は東街行きの電車に乗った。

 

 電車に乗って外を眺めていると目の前に大きな山が見える。これは神聖区の中央に位置する天狗山と言われる場所だ。名前の由来は行方不明者が多いからだろう。この山に夜一人で入ってはいけない、もし入ったら道に迷い二度と出られなくなるとここら辺の子供は小さい頃から聞かされていたらしい。まぁ、俺は聞かされてなく、小学生で始めて知ったが。

 

 そうこうしてる内に東街に着いた。俺は駅から出てスーパーを目指す。この街の有名所と言えばやはりあそこだろう。空に目を向けると他よりも高いビルが見える。美神コーポレーションだ。若くしてやり手の社長、美神(みかみ) 寅次(とらじ)が経営するその会社は他惑星との移動手段となる物や、物流など惑星同士を繋げる仕事をしていて、神聖区の中だと二番目に有名な場所である。社長がよくTVに出るのを見るし。

 

 上ばかり見て歩いているとスーパーは目の前にあった。...が

 

「えっ⁉売り切れ?」

 

 どうやら遅かった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

……彼、何してるかな

 

「どうした、ウィッチ。考え事なんかして」

 

 いきなりGod-tellから話しかけられ、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

 

「ゴホッ、“神”、驚かせないでよ」

 

「いや、別に驚かせた訳じゃないが」

 

 そう言って画面の中の彼女は悪戯そうに笑う。

 

「もしかして?昨日の零矢の事?まぁ、あんな事言ってたもんね。ずぼらなウィッチにもとうとう春が来ましたか」

 

「ハアッ⁉ずぼらじゃないし、春とか来てないし‼」

 

 するとドアをノックする音が聞こえた。おかしいな、休憩中のはずなのに。ドアを開けると占い館の部長だった。

 

「電話中だったか?失礼。しかし、告げなければいけない事があってな。この度我等占い館は火星に出店が決まったのだが移転費用で予算がつきてな、人件費を払う余裕がないからバイトは昼までに荷物をまとめて出ていけ、と言うことだ。七年間お疲れ様、これ今日までの給料」

 

 しばらくポカンとしていたがすぐに我に帰る。要するにクビになったと言うことだ。しかし、問題はそこではない。

 

 私は中学生の時からここの寮が安く(高校になると占い館でバイトという条件付き)住んでいたのに、今日からホームレスではないか。しかも地下に秘密の研究室まで作ったのに。まぁ、研究室は別の場所からアクセスすれば良いけど。しばらく車暮らしか。

 

 私は大人しく荷物をまとめ、礼を言って出た。そして人気のない場所まで行き、

 

「はぁ。Sommon、『赤車(レッド・マキナ)』」

 

 やるせない気で高級車のような見た目をした車を召喚した。それに荷物を乗せ、助手席に座り込む。

 

「こういう事だからしばらくよろしく、『運転手(ファーラー)』」

 

 運転席に乗っている人型アンドロイドにこれまでの経緯を話す。『運転手』は『赤車』の運転手だ。顔は目が大きく凛々しい。アンドロイドと言わなければ人だと言っても気づかないだろう。随分と会うのは久し振りだ。

 

「さて、目的地は...ここじゃない別の街にご飯食べに行こうかな」

 

「...了解しました」

 

 車が発車する。私は外の光景を眺めながら昨日の出来事を思い出した。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「君にはこれからに期待させてもらうよ」

 

 本当の事だ。体力、戦力共に申し分ない。これほど期待の新人なんていない。この子がいればGDに対抗できる。まぁ素直に従ってくれればだけど。

 

 私は見送るように彼に手を振ると和の世界で天照大御神が彼に言っていた言葉を口に出した。

 

「私の最後の希望...か」

 

 その言葉は彼には聞こえなかったようだが一番面倒くさい奴に聞かれていた。

 

「あれ~、ウィッチそれどういう意味?」

 

 どういう意味ってそりゃ、私達の最大戦力になり得る最後の希望でしょ。他になんかあるの?

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「...卯一様。卯一様。西街に着きました」

 

 どうやら眠っていたらしい。『運転手』に起こされた。西街か、何食べよう。『赤車』はそのままでも良いが見た目が外車っぽいので誰かに見られるとまずいからしまうか。

 

 全く、こんな自由にどこかに出掛けられるなんて家出した七年前ぶりぐらいか。早く移住する場所見つけないとな。

 

 そう思っていると見慣れた人物が買い物袋をひっさげてスーパーから出て来るのを見掛け、まさかと思い声を掛ける。

 

「もしかして...後輩クン?」

 

 彼は驚いてこちらを向いたがすぐに笑い返した。せっかくだから昼は彼と一緒に食べる事にしよう。私達は安い定食屋に入った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「いや、驚きました。まさかこんな所で知人と会うとは」

 

 四件目のスーパーでようやく目的の物を買えた俺は独特な呼び方をされ、振り向くとやはりウィッチさんだった。

 

「そう言えばどうして西街へ?」

 

「ん?デートかな~」

 

 食べていたラーメンを喉に詰まらせて咳き込む。彼女から水を差し出され取りあえず落ち着いた。

 

「もう、冗談。そんなに驚く?で後輩クンは?」

 

「鬼嫁にお使い頼まれて」

 

 お返しだ。今度は彼女がラーメンを喉に詰まらせ咳き込む。なんか面白いけどこのままだと可哀想なので水を進めた。

 

「冗談です。まだ結婚できる歳じゃないし。一人暮らしなんで買い物に来たんですけどどこも売り切れで」

 

「へぇー、一人暮らしなんだ。ご両親は?」

 

「さあ?外国か、どこかの星かわかりません」

 

「ふーん、なるほどね」

 

 以外に薄いリアクションだった。普通の人は、えー、凄いとか、お前も大変だな、なんて言うのにこんな反応をされたのは初めてだ。なんと言うかありふれているものを改めて聞いた時のような。例えがわかり辛いか。

 

「ウィッチさんは今日あの占いの仕事はオフなんですか」

 

「あぁ、あれね。今日クビになって社宅失ってホームレスになった」

 

 流石にこれは驚いて、喉ではなく気管に入ったかもしれず激しく咳き込んだので店員さんがお冷やを持って来てくれた。普通の会話のトーンで話すので話のインパクトがじわじわ来る。

 

「え?あの研究室はどうするんですか?」

 

「あぁ、あれは別の場所からでもアクセスできるから大丈夫だし、多分人には見つからないと思う」

 

 まぁ、これと言った目立つ物もなかったから見つかる事はないだろう。呪文もあるし。って家はどうするんだ⁉

 

「家はどうするんですか?実家とか?」

 

 すると、実家という言葉に彼女は肩がピクッと反応した。ヤバい、地雷踏んだだろうか。

 

「いや、実は私中学から家出してるんだよね。今更...ね?」

 

 あぁ、俺よりこの人の方が一人暮らし歴長いんだ。確かに凄いしっかりしてるのは年齢のせいだけではなく長い一人暮らしがそれを培っていたのか。

 

 俺達は定食屋を出ると彼女に人気の無い所に行こうと誘われ、トンネル内へ。何かあるのかと思ったら彼女は自分のGod-tellから赤色の車を召喚した。彼女は助手席に乗り込むと、俺に乗りなと言う。流石に運転席ではなく後ろだった。誰が運転するんだ?と思ったらアンドロイドが運転するらしい。

 

「『運転手』、彼の顔認証しといて。また乗せると思うし。で東街ね」

 

「...了解しました」

 

 アンドロイドは俺に顔を向けると目が光りその顔のわりに物凄い不気味だった。その後、車が出発し、窓の外を眺めていると少し動き回って疲れたのか、俺は眠ってしまった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「後輩クン、どこら辺?...ってあれ?寝ちゃったの?」

 

 彼は大人っぽいがこういうところは子供らしい。さっき言ってた通り、両親が近くにいないと人は大人になるのは早いが甘え方をしらないまま大きくなってしまうのだろう。私も、あまり人に甘えない。全部自分でやれる、そう思っている。

 

「どうやら、君と私は似た者同士なんだね。『聖なる力』を持った者同士が出会うなんてそれだけでも珍しいのに...」

 

 そう言えば、私も誰かに甘えた事がある。ずっと昔、小学生になる前ぐらいかな。でも思い出せない。記憶にもやがかかったみたいに。

 

 車内時計を見ると時刻は十四時を過ぎていた。今日の給料も合わせ、財布の残りはもう五万を切っている。今はまだ良いが明後日からは大学があるし、ホテルは取れないだろうから真面目にピンチだ。彼を置いたらすぐにバイトを探さなければ、車暮らしでもキツい。神事屋を再開しようにも本部がないと話にならないし。

 

「卯一様、東街に入りました。零矢様を」

 

 私は後ろを向いて彼を起こす。彼の言う通りに道を進んで行くと、あの占い館が見えた。もう売地と言うビラが張ってある。彼の家は以外にもそこから近くにあった。

 

 彼を家の前で降ろすと、すぐ切り上げようとしたが彼に呼び止められ、振り向く。

 

「あの、家どうするんですか?」

 

「ん~、まぁ車暮らし?」

 

 私は焦りを見せないように振る舞った。仮にも私の方が二歳も年上であるから情けないところは見せられない。だから岩戸でああなったのは私の屈辱でもある。

 

「良かったら...家を貸しましょうか?」

 

 そんな事を思っていたとしても、人は驚きに耐えられないのだろう。今の私はどんな顔をしているだろう。たった一言でまるでPAUSEをされたかの如く私の時間は止まった。

 

「今両親も居ないし、部屋も空いてるので。それにウィッチさんには色々貰ったし」

 

 こんな無償な優しさを提供してくれる人などあった事がない。私は頷こうとした。頷きたかった。しかし、私の本能がそれをさせなかった。

 

……待て待て私、よく考えろ。こんな良い条件なんてある?後輩クンを完全に信用した訳じゃないし。むしろ、一軒家に年頃の男と女が同棲だよ⁉後輩クンも高校生だから家に友達とか呼ぶ事なんて、ましてや彼女とか誘えるでしょ?一人暮らしなら。それなのに私とシェアハウスだなんて、本当に裏は無いのか?まさか、下心があるとか?確かに恋には下に心があるとか言うけど、基本夜は後輩クンと二人きりであって、必ずしもそういう関係にならないとも言い切れないし。下手するとあんな事やこんな事もされてしまうかもしれないし。それに仮にそうならなかったとしても周囲にはなんて説明すれば良いの?親戚って言えば良いのかな?でもこの歳で二人で住むなんて怪しまれるだろうし...

 

「あの...ウィッチさん、大丈夫ですか?頭抱えて」

 

 彼に言われて気づく。私はなんて妄想をしているのだ。もしかしたら本物の親切かもしれないのに私はそれをないがしろにしようとしているかもしれないのだ。反省。しかし、もうそれしかない。

 

「だ、大丈夫だから!で、あれなんだけど、もし借りるならいくらかかるの?」

 

「え?別にタダで良いですよ」

 

「タダ⁉」

 

……いやいやいや、タダはない、タダは‼せめて...

 

「わかった。その代わりタダはダメ!私が掃除炊飯洗濯をやるからそれで良いよね⁉こっ、これは後輩クンが人が良すぎて騙されないか心配だからね⁉タダは簡単に言っちゃダメ!」

 

 落ち着け、私。慌てすぎて口調がツンデレみたいになってる。って言うか、彼が提案しているのに私が提案し直してどうすんだ。

 

 私は彼に半場強引に承諾させ、トランクから荷物を取り出し彼に促されるまま家に入った。




 なんとか、新年に間に合いました。残り数分なので次回予告はカットさせていただきます。内容はまだ今回の引き続きと言うことで少しラブコメっぽいかもしれませんが、今年もよろしくお願いします。

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