俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 こんにちは。1ヶ月ぶりぐらいですか?赤色の魔法陣です。
 なんか英語のタイトルですね。カッコつけてますね(お前の事だろ)。
 それはさておき、今回は全話の中で最長です。今回のお話はこれからも繰り返し使うものがあるのでお見知りおきを。(とか言って神聖解錠とかもう何ヵ月も使ってなくね...)
 どうぞ。


The sun in the rock

「なるほどね。筋は一応通ってるけど予想が多いね」

 

 “神”から後輩クンの推理を聞いた私はしばらく考えた後でそう答えた。それはちょうど私が仕事場に今日はもう休む、と声を掛け、『研究室』へと戻って来た時のことだった。私はその推理を立てた後輩クンに驚いたがそれよりも驚いたのは彼がGDを既に二人倒していたことだった。思ったより戦闘能力が高いようだ。

 

「おいウィッチ、大丈夫か?」

 

 考え込んでいた私を心配して“神”が声をかける。正直今の私の心理状況はヤバい。敵に盗られた自分の発明品を使われ、ましてやそれで大事な後輩を傷つけられた。それがどれ程の屈辱だったかを覚えている。自分しか作れないから、と過信して作っていた頃の私が憎い。

 

「大丈夫だから行った方が良いんじゃない?」

 

 諭すような口調で“神”に言う。彼女は頷くと通信を切った。切り際に無理すんなよ、という声が聞こえた気がする。

 

……無理するって、普通...

 

 私はため息をつき、食器棚からコップを取り出し、コーヒーを入れる。砂糖をたっぷり入れた甘々のコーヒーだ。たまに友人とかに、そんなに入れて平気?とか聞かれるが、よく頭を使うので疲れるのだ。モニターの前の椅子を引いて座る。憂鬱な気分の中、視線を上げると彼の姿が映る。

 

……帰って来たら何か料理作っといた方がいいか...彼の頑張りを讃えてあげないとね

 

 そう思うと少し元気が出てきた。それにしても今日の占いの運勢は良かったのにこの嫌な感じはなんだろう?そんな疑問を飲み込むように私はコーヒーを啜った。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「聞いて来たが先輩ちゃんは予想が多いという意見でしたよ?」

 

 おだてるように“神”が報告する。予想はしていたが、厳しいな。現実に涙目になる。泣きそう、いや泣かないけど。それに俺の推理はどこかの探偵のように証拠を集めて推理を展開するという訳ではなく、思想ばかりの推理である。まさにハーフボイルドだ。

 

 そうこうするうちに岩戸の表側に着いた。やけに騒がしい。月読命が近くにいた神を捕まえて話を聞く。それによるとついに作戦が開始されるらしい。それを聞いた俺は二人に近付こうとした瞬間、

 

……‼⁉...なんだこれ...体が動かない...

 

 俺の体は金縛りにあったように動かなくなった。動け、という命令を脳が出しているはずなのに四肢が硬直している。回りの時間が止まったように感じられ、まるでこの世界で自分だけが取り残されてしまった気分だ。マイクからは声も聞こえない上、辺りも松明の木が崩れる音すらしない。

 

(ダメだなぁ、予想ばかりの推理じゃ)

 

 脳内に直接響くかのように声が聞こえる。近くに気配は感じるが殺気がまるで感じられない。神か?と思ったが時間を止める神など日本神話で聞いたことがない。

 

(そんなんじゃ、しらばっくられて終わりだ)

 

 何を言っているのだろうか。この声の主は誰なのだろうか。そんな疑問が頭の中を飛び交う。

 

(証拠が足りないならそれに見合うactionを起こさなきゃ)

 

 無駄に発音の良い英単語を喋っているその声の主の気配は段々と近付いて来る。

 

(ちゃんと考えればわかるでしょ?残りのGDはお前が他の二人を倒したのが想定外だったはず)

 

 得体の知れない者が近付いて来る恐怖が頭の中を締めている。GDまで知っているということは本当にどういうことなのか。

 

(じゃあお前の想定外のactionで一番困るのは...)

 

 声の主がすぐそこまで迫っている。姿は見えないが動物の本能というものだろうか。心臓が高鳴る。世界に自分の心臓の音が響いてるのでは?と思うほどに。

 

(だ~れだ?)

 

「‼‼」

 

 体が動く。咄嗟に辺りを見回すが声の主らしきものはいない。そんなに遠くには行っていないはず、もしかしたらすぐ近くでこちらの様子を伺っているかもしれない。しかし、今確かに耳元で囁かれた気がした。

 

「おい、零矢。大丈夫か?凄い汗だぞ」

 

 スサに言われて気付く。額に物凄い汗をかいている。何でもない、というと俺は胴着で額の汗を拭った。あの時間は何だったんだろう?まさに一秒にも満たない時間だったのか、それとも何時間も経っていたのだろうか。声の主が言っていたactionとは何だろう。もしヒントなら...

 

 そこまで考えていた時、突然太鼓のような音が辺り一面に響いた。

 

「皆の者、聞け‼今からより天照大御神を天岩戸から出す作戦を開始するッ‼」

 

 その空気を震わせるような怒号が響いた後で静かに笛の音が聞こえて来る。風に溶け入るようなそのメロディーに合わせ、特設ステージのような所に巫女服を着崩したような服装の女神が現れる。霊草を両手に持ち踊っているのは天宇受売命だ。ダンスと言うよりは舞と言った方がいいのだろう。

 

……何と言うか一時間程前に話していた子供っぽい天宇受売命より色っぽいような、いや絶対色気あるだろ

 

 と自分で言えてしまう程、踊っている天宇受売命は妖艶に見えた。

 

「おお、凄ぇ。見に行こうぜ」

 

 その姿に見とれたのかスサが俺の肩を叩き、まるで引き寄せられるかのようにステージの方へと連れていかれる。

 

……action...敵にとって想定外のaction...

 

 そこまで考えとうとう思い付いたactionは一か八かのactionだった。成功率は決して高いとは言えないしむしろ途中でミスをすれば殺されかねない。しかし、それをやるしかない。俺はため息をついた後で息を思いっきり吸って叫んだ。

 

「中止ぃぃッ‼作戦中止ッ‼」

 

 俺の一言で躍りはしゃいでいた神々は固まった。否、天岩戸全体が静寂に包まれた。そして全員の目線が一斉に俺に向けられる。それはそうだろう。作戦をどこの誰かも知らない奴に止められたのだから。

 

「いいかッ‼よく考えろ。責任を放り投げて引きこもる神が高天原を納めてるんだぞ⁉そんなの有り得ないだろ?だったら他の神に例えば月読命とかに任せた方がいい、そうだろ?」

 

 マイクから一体何を言っているんだ、と言う“神”の声が聞こえる。回りの神々も同じだ。その中でしびれを切らしたスサが掴みかかって来る。

 

「おい、零矢テメェ自分が何言ってるかわかってんのか?」

 

 憤怒の形相で俺を掴むスサは神よりも悪魔のようだ。しかし俺はそんなスサの手を払いのけ、続けた。

 

「元はと言えば原因はお前だ。ということで姉弟仲良く下界へ追放ってことで丸く収まるから良いだろ?」

 

 スサの事を悪魔呼ばわりしたがこの状況では悪魔はこっちだろ、と思う。流石に作戦だと言っても非情過ぎる。だがこれで相手がactionを起こしてくれるかは正直神頼みだ。自らが神を冒涜しているのに神頼みとはどれ程都合の良い奴なのか。

 

 そんな考えの中、スサが拳を振りかぶっているのが見えた。それを食らったら怪我じゃすまないだろうなと思っていると...

 

「⁉...グッ」

 

 別の方向から拳が飛んできた。月読命だ。俺はその拳を喰らって地面に倒れこむ。その表情は憤怒までとは言えないが明らかに険しくなっていた。

 

「追放だと?ふざけるな。姉上を探すのにどれだけ時間がかかると思ってるんだ、しかもその間私は高天原を...」

 

「動けないから拐うまでに時間がかかるから...だろ?」

 

 月読命の言葉を遮りながら、俺は断言した。困惑する神々の中で月読命だけは冷静に倒れた俺を見下していた。戯れ言を、的な言葉を言うのだろうか。

 

「何故そう思う?説明してみろ」

 

 違った。以外だなと思ったがここは奴に合わせて言った方が良いと判断した俺は立ち上がり胴着についた土を払い理由を説明し出す。

 

「まずさっきのあんたの言動。神々なら恐らく下界に行った天照大御神も時間をかければ必ず見つかるはずだろ?なのにあんたは何か不満そうだった。まるで自分が探しに行けないからとね」

 

「私は姉上を敬愛している。それならば探しに行きたいと思うのは普通だろ?」

 

 反論してくる月読命。何気にシスコンと認めているようなものだが...姉弟の仲の良さにほっこりするが今はそんなこと感じている暇はない。気持ちを整理して俺は反論に対する反論を語る。

 

「でもさ、天照大御神がいなくなった高天原はずっと夜だろ?それだとあんたがずっと高天原の空を管理しなきゃ行けない。到底探しに行く時間なんてないのはわかっているはず。それなのにあの激昂の仕方。恐らくあんたより他の神の方が探すのは早いはず。八百万も神々がいるんだ、一人ぐらいそういう神がいてもおかしくない...ん?」

 

 そこまで言って、俺は言葉を止めた。

 

……じゃあさっきの時間が止まった感覚も八百万の神々の内の誰かの仕業なのか?しかし、口調的に初めて合ったという感じがしなかったし、この短時間であれほど情報を掴めるか?しかも掴んだのなら思金神に言えばいいはずだ。ということは神ではない()()()ということか。

 

 得体の知れない者の正体を詮索した所で今結論が出るわけでもない。取り敢えず得体の知れない者と仮定し、止めていた話のエンジンを再びかける。

 

「失礼...だから別の理由があると思ったってわけ。自分が見つけ出さなきゃ行けない理由が」

 

 月読命の方を見る。随分と余裕そうな表情だ。何か策でもあるのだろうか。それとも単に俺の推理が間違っているのか。俺は指を立て、

 

「そして2つ目。謎の男を強制送還させた時の奴の言葉...」

 

(傍観者がッ……身近にある危険を感じずして...)

 

「最初は俺への忠告だと思った。でもさ、普通傍観者って何もせずにただ見ているだけの確信犯のことだろ?俺は今にも奴を強制送還しようとしてたんだから傍観者はおかしい。それに身近に...からは俺の方向見てたのに傍観者の時は目線を反らしてたし。でそのあとの身近に...からは忠告だとすると俺の付近に敵つまり自分の仲間、傍観者がいるってこと。スサと戦ってるからスサは違う。だったらあの場にいるのはあんただけってこと」

 

 長い予想を全て言った。結局それは単なる想像でしかない。ここでしらをきられると詰む。正直最後はあの人に頼るしかない。

 

「そして3つ目。それは踊り子さんに聞きましょう?」

 

 岩戸中の視線が天宇受売命に注目する。自分が指名されるとは夢にも思っていなかったのだろうあたふたしていた。

 

「あの時...俺と別れた時振り返って月読命を見たのは何でですか?」

 

「そ、それはですね、私達を襲った人と同じような気を感じたからで...」

 

……マジっすか...

 

 まさかの答えに思考が停止する。てっきり確信があって見ていたのと思ったから。証拠には少し不足する証言だ。まずい。逃げられる、このままじゃ。現に月読命めっちゃにやけてるし。

 

「50点未満だな、そんな予想ばかりじゃ。期待したが所詮その程度か」

 

 呆れたように言う。この状況を楽しんでいるのか?どうするかと思っていると、マイクから懐かしの声がした。

 

「要するに君の予想で月読命を重要参考人にまで出来たんだから、身体検査すればいいじゃん?ネックレスを隠しているならそれで見つかるし。って言うかその予想は当たってるよ。だって50点とかそんなテストみたいな概念こんな時代にあるわけないし」

 

 満点回答ですよ、それ。あいつ口滑らしてるし。身体検査っていう手があったか。俺は問題の糸口が見え月読命に近づいて行く。

 

「以下の予想により、身体検査をさせていただきます。この回答で文句ないよね?」

 

 俺は1メートル付近まで近づくといきなり笑い出した。そして見事だと言った瞬間腰にかけた剣の柄を握り、引き抜いた。咄嗟の斬撃に俺はバックステップでよけ、重症を防ぐ。胸にかすった。間を取った後で自分の身体を『探査』したが異常はない。毒とかの剣ではないらしい。

 

「攻撃して来たってことは認めたってことでいいんだよね?」

 

 俺は月読命、いや恐らくGDの一人に問う。しかし、奴は落ち着いた顔で言う。

 

「それは疑いをかけられて身体検査されるなんて誰だっていやだろ?それに、調べたいなら力ずくで来い」

 

 明らかに挑発である。むしろ身体検査とかわかる時点でここの時代の人じゃないと思うんだけど。さっきの(ベル)と同じ、力に自信があるのかGDは。罠とかあるんだろうなきっと、と思いつつ俺はその挑発を受ける。

 

「良いね、やっぱ俺は考えるよりこっちの方が楽だ」

 

 間合いを詰め、先制の一撃を相手の顔面に叩き込む。さっき殴られたお返しだ。奴は受け身をとってすぐに立ち上がったが、口からは血が出ていた。口の中を切ったのだろう。それを見かけ俺はアイテムを出す。

 

「Summon...『最強の傷薬』」

 

 そう思ったのだがアイテムが出てくる気配が一向にしない。

 

「え?Summon...『最強の傷薬』‼あれっ?何で」

 

「あー、零矢。一時間過ぎてるぞ」

 

 “神”からの言葉で思い出した。アイテムは一度召喚すると一時間後には使用不可能になる。思えば、岩戸に来たり、謎の男を強制送還させたりと時間的に一時間なんてとっくに過ぎていた。苦虫を噛み潰したような顔になる俺。単純に計算外だった。これからは回復不可、相手は剣持ち。他のアイテムを見ると、鏡みたいな物と剣みたいな物。

 

……剣はあるけどどうせ肉弾戦も強いだろうし、一時間でダメージを抑えながら決着つけるのは...

 

 その時、God-tellに謎めいたボタンがあるのに気付く。『変身(チェンジ)』という名前が付いた画面の右上にあるものに目のキラキラを抑える事ができない。

 

「え⁉何?チェンジって⁉やっぱこういうのあるんじゃん。で、フォトンブラッドとか出てきたり...」

 

「しないから」

 

 無邪気に質問した俺はウィッチさんのキツい言葉で意気消沈した。せっかく凄い物が出てきたと思ったのに。言い方が威圧的だったのは気にしない。

 

「喋ってて平気なのか?」

 

 GDが間合いを詰め、縦へ一閃。俺が横へ避けると、読んでいたかのように蹴りを放つ。それが手に当りGod-tellが飛んで行ってしまった。ステージ付近に落ちるGod-tell。拾いに行こうとするも奴がそれを許すはずもなく攻撃の手を緩めない。剣vs素手という圧倒的不利な状況の中俺は防戦一方になっていく。回りの神々は喧嘩と称して楽しむ者もいれば軽蔑のような目を向ける者もいる。勿論、その目線は全て俺に向けられている。誰にも言えない孤独感を噛みしめ俺は...

 

「チェンジはそういうのじゃない...」

 

 否、まだいた。マイクの向こうに、遥か先の次元にまだ自分を見ていてくれる者が。その存在が俺を孤独から解き放った。その存在が俺のやっていることは間違いではないと証明してくれている。

 

「チェンジは自らの精神を神の身体へ移行させる行為の事。それをすれば人間が神の力を得ることができる。だけどその時受けたダメージは全て神側へ蓄積される。どういうことかわかるね?そういう気持ちじゃ心は通わない」

 

 心が通わなければ、神に身体を貸してもらえるはずもない。それならこのまま殺されて強制送還で終わり。そうして俺の神話は終わる。冗談じゃない。俺は生き返る為にここへ来たんだ。こんなプロローグだけで終わってたまるか。

 

「上等ですよ。それを使ってあいつを倒して俺が本気(マジ)だってこと証明してみせる...」

 

 俺は覚悟を決めて奴に向き直る。奴は一瞬曇ったような顔をしたが再び構え直す。間が場を包む。灯籠の光が俺達を照らしている。薪のガタッと崩れた音がした時、俺は動き出した。

 

「はぁぁぁぁっっっ‼‼」

 

 烈迫の気合いと共に奴に向かって行く。大振りの奴の攻撃を躱し脇腹へ蹴りを叩き込んだ。奴がよろけた隙に向きを変えステージの方へ走る。

 

「男の方ッ!」

 

 天宇受売命が手を挙げ叫んでいる。その手ににぎられているのはGod-tell。この時、俺は心を通わせるならこの神しかいないと思った。天宇受売命がGod-tellを投げる。それを掴み、『変身(チェンジ)』のアイコンを押した。

 

「させるかッ!」

 

 奴は剣を投擲する。その剣に俺は胴を貫かれた...かに思えた。

 

「何ッ⁉」

 

 身体が無数の光となって俺は分散した。そして天宇受売命の回りに集束する。そして俺は天宇受売命の身体の中へ入り込んだ。天宇受売命の身体から弾かれるように俺とは別の光が出てきて自動飛行しているGod-tellの中へ入る。

 

「天宇受売命...?」

 

 ポンッとスサが()()()を叩く。

 

「何?スサ」

 

 俺はスサに聞いた。この反応でスサはおろか、岩戸全員が唖然した。




──神にチェンジ...──

 今回はウィッチさんの心情も出ましたね。最後の方にネタを入れましたが軽くあしらわれました...

 気にせず次回予告。

──「御神事、開始...」

   チェンジした零矢vs『先生』
   岩戸対決の行方は      ──

 次回もバトル回。また長いかもしれないです。ではまた。

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