俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 こんにちは。
 暑いですね、赤色の魔方陣です。
 暑いので長ったらしい前書きは無しでどうぞ!


光が眠る場所

──零矢と『鈴』の戦いの決着がついた頃──

 

「準備完了っと」

 

 皆、天照大御神が引きこもりパニックの中で一人怪しく男が笑う。男の見た目は三十代後半ぐらいだろうか、眼鏡をかけボサボサの髪型。このパニックで誰も彼を気にする者はいないが普通に見たらヤバい奴の一言につきるだろう。

 

「周りには神がいるからな」

 

 そうこの男こそ『先生』が言っていた『開発者(ドクター)』だ。彼は神がいない所へまわり、岩戸へと近づく。途中、火を囲みながら話している神達の横を通ると話が聞こえた。

 

「よいか、常世の長鳴鳥をなるべく多く集めよ。伊斯許理度売命は天津麻羅を探して八咫鏡を作れ。玉祖命は八尺瓊勾玉を。天児屋命と太玉命は太占の準備を...後は天宇受売命さえくればいいのですが」

 

 神話通りの思金神の作戦を聞きながら『開発者』は、

 

……そんな作戦立てるだけ無駄だ。今頃天宇受売命は『鈴』に...

 

 まるで哀れだなというように笑い、離れ一人岩戸裏の暗闇へと溶けていく。やがて大きな岩戸の裏側へとまわると手に持った薬品のような物を取り出した。毒液(フォッグリキッド)と呼ばれるそのアイテムは流すとすぐに気体になり、隙間さえあればそこから入り込み充満する液体だ。その毒を吸うと身体が麻痺し数時間は動けなくなる。

 

 つまり、天照大御神が例え出ようとしても出ることが出来ない状況にし、『先生』を待ってこの岩戸の裏側から中へ入り天照大御神を誘拐するという作戦だ。

 

「引きこもったのは良いがちゃんと警戒しておくべきだったな」

 

 『開発者』はそう言い放ち液体の蓋を開けようとした──

 

「おい、お前そこで何してる?」

 

「ッ‼⁉」

 

が、後ろから声を掛けられ危うく液体を落としてしまいそうになる。アイテムを後ろに隠し振り向くと、声の主は『開発者』よりもがたいが良く、髪も長い男だった。

 

「答えろ」

 

 その男は威圧的に問い掛ける。着ている服からして恐らく神だろう。

 

「いやっ、う、後ろから入れるか確認しようと思いまして」

 

 あまりの目付きの鋭さに声が上擦ってしまう『開発者』。咄嗟に思い付いた言い訳はこの非常時に随分と間抜けな答えだった。しかし、直後その男が言うことに彼は固まってしまう。

 

「いや、そういうことじゃない。お前が持っている()()について聞いたんだが」

 

 どうやらばれていたらしい。咄嗟に隠したつもりだったがこの男神の洞察力は人並みではない。そう思った『開発者』は後ずさりを始める。

 

「おい、どこへ行く?」

 

 『開発者』が後ずさりを始め、気になった神──須佐之男命は問い続ける。先程よりも目付きが鋭くなっているように見える。それに恐れをなした『開発者』は逃げることを観念し逆に近付いて行った。

 

「いえいえ、ほんの用事を思い出しただけですよッ‼」

 

 拳が届く範囲まで近付いた後、『開発者』は渾身の突きをかました。訓練されたであろう、その正拳突きは通常の相手なら急所を突かれたことでしばらく動けなくなるだろう。しかし、相手が悪かった。先程それ以上のパンチを喰らった須佐之男命にとっては痒いというような一撃であった。

 

「なるほど、用事とはこういうことか」

 

 突き出された腕を掴み締め上げていく。あまりの力の強さにギシギシと音を立て今にも『開発者』の骨は折れてしまいそうだ。締め上げられている『開発者』の顔は苦痛に満ちている。

 

「俺の戦友(ダチ)の方が強かったな!」

 

 そして掴んだ手を解放すると『開発者』をおもいっきり蹴り飛ばした。身体が仰け反り一回転をして『開発者』は地面に叩きつけられる。口から血が出ていることから内臓にダメージを受けたのであろう。

 

「くそッ...舐めやがって...ぐふッ、痛ぇ」

 

 それでも『開発者』は立ち上がろうとする。しかしその行動は数秒後に出来なくなる。身体が動かない。まるで鉄枷を着けているかのように身体が重い。否、身体が重いのではなく腕に力が入らず身体を起こすことさえ出来ない。何故だと思った『開発者』に一つの可能性が浮かび上がる。

 

……まさか⁉毒かッ、蹴り飛ばされた後に蓋が外れてッ

 

 しかし、時既に遅し。毒は一瞬のうちに全身へとまわり『開発者』の身体は麻痺などの異常を来し動かなくなった。問い掛けただけなのにいきなり殴りかかってきて少し蹴ったら動かなくなった『開発者』を見て須佐之男命は困惑の表情だった。

 

 月明かりが再び岩戸を照らす頃、その裏には棒切れのように転がっている一人の男と吸うと少しくらっとするような気体が充満しているだけだった──

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 俺と天宇受売命はとうとう天岩戸へ到着した。ここまで長かった。『鈴』との戦いから一時間程経過しているだろうか。

 

 天岩戸は思いの外明るかった。光が当たらないところがないようにうまく燭台が並べられていた。だが、それでも儀式のようなものに見えてしまい、薄気味悪さが俺の頭から離れなかった。隣にいる天宇受売命を見ると少し気味が悪そう、という感じの顔だったので大体考えていることは同じなんだなと俺は解釈した。

 

 しばらくすると、一人の神が寄って来て

 

「あ、天宇受売命⁉」

 

と、言ったのを引き金に辺りがざわつき始めた。が、別にそのざわつきは何故今さらこんな所へ来たのか、というような侮蔑の会話ではなくやっと来てくれた、というような歓喜の会話だった。喜ばれている本人の顔を盗み見すると恥ずかしそうに頬を淡いピンク色に染め、頭を掻いていた。

 

「何事だ?騒がしいな」

 

 群衆の中から一人の男神が出てきた。整った顔立ち、まわりの神達の胴着みたいな服ではなく着物のような服を着ている。長い黒髪を後ろでまとめポニーテールのようにしているいかにも高貴な神だ。

 

 「月読命!」

 

 群衆の中から誰かがそう呼んだ。

 

……そうか、この神が月読命なんだ...

 

 三貴神でもある月読命は文献があまりない。故に神話好きの俺でも男神ということしか知らない。いかにもザ・ミステリアスな神様だ。

 

「もしやお前が天宇受売命か?待っていたぞ、思金命が呼んでいたからな」

 

「そうなのですか?では急がないと。男の方また後で」

 

 そういうとそそくさと天宇受売命は駆けて行ったが、途中で一度振り返った。その顔はどこか青ざめていてある方向を向いていた。

 

……え?それってどういう...

 

 俺は天宇受売命の意図をなんとかくみ取ろうと思考を巡らせた。が、その思考はすぐに停止してしまう。

 

「ところでお前は誰だ?」

 

 不意に月読命に話し掛けられたからだ。返答に困ってしまう。こんな大勢が集まり、いかにもシリアスな状況で未来から来ました、なんて言ったところで信じてもらえるだろうか。いや、無理だろう。考えているとまた近くから別の男神が出てきた。

 

「あー、ヨミ兄。それ俺の知り合いだから」

 

 スサだった。実に良いタイミングだ。そんな風に思っていると、無事に再開したのを喜ぶのではなくスサは顎でクイッと合図をした。ちょっと来いっていう意味だろうか。俺と月読命は歩いて行くスサについて行った。

 

 しばらくすると岩戸の裏側に来て、そこには誰かが倒れているのに気付いた。髪がボサボサの男だった。死んでいるのかと思ったが、少し動いている。

 

「おい、零矢。そいつの体を探れ。もしかしたらGDかもしれない」

 

 俺が傍らへ行き、倒れている男の体を探っていると、スサがこの男について話した。どうやら岩戸に何かをしようとしていて話しかけると殴りかかって来たので蹴ったらこうなったらしい。キック力ヤバくね?とか思ったがどうやら原因はそうではないらしい。近くに試験管のような物が落ちていた。“神”は恐らくアイテムだろうと言った。

 

……自滅かよ...

 

 そうこうしているうちにネックレスが見つかった。これでコイツはGD確定だ。

 

「ついてないな、GDさんよ」

 

 俺はおもいっきりネックレスを叩いて破壊した。『鈴』の時のように男の体が粒子に包まれる。その時、その男が呻くようにまるで呪うかのように低い声で喋った。

 

「……クソッ……テメェ、傍観者がッ……身近にある危険を感じずしてその歪んだ正義を振りかざしてろ……いつかお前らを……俺の発明で……殺すまでな...」

 

 まるで恨み節のように男は言って消えた。消える寸前の男の笑い顔はとても醜く得体の知れないような恐怖を醸し出していた。俺は後味の悪さを感じながら立ち上がった。奴が最後に話していた言葉が気になった。

 

……何だ、傍観者って?それにお前らって...

 

 そこまで考えて、俺は一つの結論を導き出した。

 

……もし、傍観者がそういう意味なら...

 

「岩戸の表側へ戻ろうぜ」

 

 スサが言い、俺と月読命は歩き出した。その時に俺はイヤホンマイクの“神”だけに聞こえるように言った。

 

「……だとしたらどうだ?」

 

「面白いな。待ってろ、ウィッチを呼んで来る」

 

 “神”はなるほどなというように笑い、一度通信を切った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「お待たせしました‼」

 

 会議の場所に一人の女神が駆け込んで来る。その表情は汗ばんで疲れているように見えたが、美しさは健在のようだ。

 

「天宇受売命⁉良かった、ちょうど天手力雄命神も来たことですし」

 

 会議には様々な神が集まっていた。鏡や勾玉を持った神。明らかに力自慢だろうなという神。頭がよくキレそうな神。会議の近くで占いをしている神。そして、踊り子の神。

 

「作戦の内容を説明します‼」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

「これで役者は揃ったな...」

 

 岩戸付近の背が高い木の枝の上に体をマントで覆った人間が岩戸の方向を見ていた。手にした望遠鏡で色々な神の顔を伺っていた。

 

「なるほど思金神の作戦は今のところ順調で、あのプリンセスは引きこもったままなんだね。ここまでは普通なんだけど...」

 

 望遠鏡の向きを変える。レンズ越しに映ったのは須佐之男命と月読命。

 

「おっ、これは予想外。さてさてどうなるか...」

 

 そして、みずらの髪型をしたネックレスを着けた静観な顔つきの少年。その表情は何か決意を固めたような顔であり、耳に手を当て小声で話しているように見えた。

 

「期待の新人君?」




──全てが天岩戸へと揃う──

 最後の人の言葉みたいですがやっと役者が揃いました。今回ネタ入れませんでした。楽しみにしてくれた人いたらごめんなさい。(いないか...)

 次回予告どうぞ。

──ついに揃う役者達

   「作戦開始ですッ‼」

   岩戸作戦開始。『先生』がその正体を現す。そして、

   「え?何?『チェンジ』って?」

   零矢の戦闘再び──

 後、二、三話ぐらいで零矢は24世紀へ帰還ですかね。
 お楽しみに‼

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