俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 こんにちは。
 暑い日が多いですね、赤色の魔法陣です。
 今回は、とうとう『鈴』と零矢の決着です。リアルタイムで2ヶ月もかかったことに驚いています。
 今回は、『先生』サイドの視点からスタートです。
 どうぞ‼


ペナルティ

 零矢と『鈴』が戦っているのとほぼ同時刻、天照大御神が閉じ籠もり騒がしくなっている天岩戸にて。一人の男が自らが手に持った物を暗い瞳で見つめていた。

 男のコードネームは『先生』。『鈴』と同じくGDの一員である。『先生』が持っていた物とは携帯電話のような形をし、GD内で『誓いの証』と呼ばれる物だった。自らの神への怒り、憎しみを誓い手にいれた物である。

 だが、この男がこの物に対する思いは違った。これは自分の命を繋ぎ止めた物だからだ。

 

 GDにはペナルティというルールが存在する。それは特殊な状況下ではない限り作戦で三回失敗した者にはGD内で戦闘能力が最も高い暗殺集団、『死神』の異名を持つ者達に首を跳ねられ処刑されるというものである。しかしそれではメンバーが作戦に参加しづらくなる。そこで彼らのボスが出した提案は作戦が成功したらライフを一つ増やすというのであった。その成果があったのかGDのメンバーは時に怯えながら、ある者は気が狂ったように作戦に参加した。

 

 しかし、作戦を実行するなかで『先生』は三回失敗し、処刑される身になった。処刑される日まで少しの自由が与えられた。『先生』は学校へ赴いた。隠れ蓑として高校教師をやっていたからだ。そこで見つけたのが疲れたのか机に突っ伏して寝ていた学校一の天才少女、妖美卯一だった。彼女は『先生』の教え子であった。頭脳明晰、容姿端麗、才色兼備の誰からも敬われていたであろう彼女は暇さえあれば何かを作っているリケジョ(と言えば聞こえはいいだろう)だった。

 

 ふと、彼女の傍らに目をやると開発途中なのだろうか、携帯端末のような物が置いてあった。その時、『先生』はGD内で言われていた事を思い出した。

 

(何か携帯端末のような媒体に我々が作ったアイテムを収納し、それがいつどこでも取り出せるような物を開発出来れば良いのだが、今はあれの開発が重要だろうし...)

 

 『先生』に考えている時間など微塵もなかった。その場にあったその物を盗み、持ち帰った。その働きが認められ、三つライフが戻されたのであった。

 

 

「おい、どうした?」

 

 仲間からの問いかけに自分が深く考えていた事に気付く『先生』。

 

「あぁ、何でもない。頼むぞ『開発者(ドクター)』」

 

「わかってるさ」

 

 『開発者』と呼ばれた男は軽く返事をし、暗闇に消えて行った。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「あ~あ、随分とカッコつけてくれちゃって」

 

 通信をウィッチが切った後、しばらくして私はモニターを見ていた。ウィッチは「ちょっと今日もう休むって店に言ってくる」と言って出て行った。まぁあいつの事だから原因はあれだろうが。

 

 モニターの中では零矢が『鈴』と戦っている。零矢は音波が自分には効かないのだろうと思っているのだろうがそれは違う。『最強』の効果がつけられたアイテムには特殊効果が付属する。しばらくの間状態異常無効、攻撃力が上がる。ゲームでいわば無敵時間のようなものだ。つまり、あいつはそういう状態ってこと。

 

 だが、これにより私の疑問は確実になった。須佐之男命を倒し、『最強』の名が付いたアイテムすらすぐに使用できる。やはり零矢(アイツ)は普通じゃない。それに訓練されているであろう『鈴』と互角、いやそれ以上に強い。まるで()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

……ま、関係無いけどね~。私の言う通りに動いてくれれば

 

 そうこうしている内にまた新たな展開になっているらしい。面白そう、と思ってしまう。やはり私の好奇心は異常だな。誰もいない空間で一人そう思った。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 月の光が地上で戦う二人を見放すかのように再び雲へと隠れる。それまで地面を照らしていた淡い光は消え、地上は闇に包まれる。その闇に紛れ戦い続ける。

 

……このままじゃ、攻撃出来ない

 

 そう零矢は思う。攻撃しようとしても『魔法の鈴』で気付かれる。不利な状況である。

 

……お前の浅はかな行動など手に取るようにわかる...

 

 鈴は余裕の表情だった。まるで敵の出す音が全て聞こえているかのように。

 

 先手は零矢だった。足下の砂利を掴み、上空に投げる。その音に魔法の鈴が反応を告げる。

 

「上か...」

 

 そう呟いたのを聞いた零矢は、

 

……かかった‼

 

 と心の中で叫び、声のした方向へ移動する。上からの音が鳴れば注意を向けなければならないはず、その隙に一撃を噛ましてやると考えた零矢は大股で音を殺して鈴へと近付き、拳を突き出したが

 

「とでも、言わせたいんだろうな」

 

 その拳は難なく受け止められ、隙が出来た腹に零矢は逆にカウンターを喰らう。

 

……何⁉

 

 地面を転がりながらも体勢を建て直し再びお互いが見えなくなるまで後退して零矢は考える。

 

……『魔法の鈴』は音を感知して知らせるアイテムのはず、それならって思ってあらゆる方向から音を感知させる為に砂利を投げたのにあいつは俺がどの方向からくるかわかっていた。何故だ?

 

 そう考えつつ零矢はもう一度砂利を掴む。そして鈴がいた方向へ投げた。そして自分も駆け出す。

 

……また引っ掛けか?来いよ?

 

 鈴は投げられた砂利を軽く払いのけ、零矢の襲撃をカウンターの蹴りで吹き飛ばす。

 

……あれじゃあ、俺の仕込んだタネにも気付いてないな

 

 鈴は目の零矢に失望する。しかし、その失望は数秒後驚愕へと変わった。

 

「なっ⁉剣がないっ」

 

 己の右腕を見る鈴。その声を聞いて自らの考えが合っていた事に安堵する零矢。

 

……よし‼今ので大体予測出来た。やっぱり俺の位置や大きな動きは何かの方法で把握出来るらしいが剣を盗った時のように最小限の動きまでは感知出来ないみたいだな

 

 態勢を立て直す為にまた後退し鈴の市会から消える零矢。そして頭をフル回転させ、ある作戦を思いつく。だがこれを実行するには少し勇気と痛い目を見なければならないのを承知の上で実行出来る作戦である。

 

……なるべく慎重に...ぐッ...痛ぇ

 

 そうとは知らず零矢が武器を使って攻撃して来るだろうと鈴は予測した。そしてその予測はすぐに現実となった。接近してくる零矢。突き出される剣。それを躱し、カウンターを撃ち込もうとしたが、

 

「後退した...⁉」

 

 鈴の視界に零矢はいなかった。しかしすぐ前までは確実にここにいたはず、消えるなどあり得ないと鈴が思っていた次の瞬間、能力によって上空から急降下する物体を把握する鈴。頭上から零矢の手首に設置していた鈴が鳴り響く。

 

……上か...‼

 

 頭上へ向け、構える。その瞬間、鈴はこの世のものとは思えない殺気を自身の下から感じた。目線を下に向けるとそこにいたのはあり得ない者。

 

「音は上からしたはず...何故気配に気付けなかった⁉」

 

 そこには零矢が左目を銀色に輝かせながら右拳を握り締めて構えていた。

 

「もらった...‼」

 

 拳を振り上げる零矢。渾身のアッパーが鈴の顎にヒットし、その身体さえも浮かせた。うち上がっていく身体と対照的に鈴が見たのは、降下していく()らしき物。

 

……まさか、コイツッ‼切りやがったのか⁉俺から盗った剣で自分の手を⁉

 

 自らの左手を手首の所から切断した零矢は異常な程の痛みに汗を浮かべながら耐えている。そして体勢を戻す。

 

「3...」

 

 重力に逆らえず再び引き付けられるように頭を下にして落下してくる鈴。

 

「2...」

 

 冷酷にカウントする声が響きながら地面に切断した零矢の左手がゴトッと鈍い音を立てて落ちた。

 

「1...」

 

 零矢は小回りをした後で左足を軸にし、右足を振り上げた。その一撃は丁度落下した鈴の胸部へと命中する。

 

 零矢の頭の中に思い出が映る。

 

(いいか、弟分(ガキ)。よく見ておけよ?)

 

 それは自らの姉貴分が生きていた頃の思い出。彼女はアッパーで敵に見立てた大木を浮かすと、小回りをした後で左足を軸にして、右足を振り上げた。そしてヒットした後でまるで空気に溶け入るかのようにこう言った。

 

回し蹴り(スピニング)...‼」

 

 思い出の中と同じ言葉を呟き、零矢は鈴を十m以上も吹き飛ばす。転がり地面に何度も身体を打ち付けた鈴はもう立ち上がることは出来なかった。

 

「がはっ、何だ、今のは⁉」

 

 身体を立たせることも出来ず血を吐きながらもがく鈴。

 

「うわぁ、凄」

 

 一部始終を画面の中から見ていたが棒読みの“神”。

 

「っし!決まった‼っていッてェェッ!」

 

 場違いな程喜びながらも腕を押さえて倒れこむ零矢。

 

「凄い...」

 

 痛みが消え、完全に視線を奪われた天宇受売命。

 

 しばらくして“神”が、

 

「期待以上の成果だな。倒れたあいつのネックレスをとって破壊しろ。それであいつは24世紀へ強制送還だ」

 

 と言ったので、零矢は倒れた『鈴』の所に行き、ネックレスを破壊した。『鈴』の身体が粒子となり消えて行く。

 

「クッ、くそがっ...」

 

 そんな声は零矢には聞こえたのだろうか。零矢は自分の手を探し見つけると、

 

「Summon、『最強の傷薬』」

 

 アイテムを召喚し、口で蓋を開け傷口に液体を垂らす。

 

「ッ...‼」

 

 再び痛みが襲う。その痛みに耐えながら手を傷口へとくっつけた。すると切れた手はつながり痛みは消え、手の指一本一本も問題なく動かせた。

 

「あー、良かった‼治らなかったらどうしようかと思った」

 

「お前、危ない賭けをしたな」

 

 “神”が皮肉るように言う。それに対し、零矢は

 

「いいだろ、別に」

 

と言って、天宇受売命の方を向き、

 

「女神の笑顔を取り戻せたんだから」

 

と言って笑った。それを見た天宇受売命も微笑んだ。その何秒かは暗い地上で唯一笑っていた二人だった。

 

 そして次に月明かりが出てきた頃、

 

「見えました‼あの光、あそこが天岩戸です」

 

 零矢と天宇受売命は天岩戸の付近へと着いた。




──光が閉じ籠っている地へついに到着──

 なんか最後の方、グロかったですね。お食事中とかに見ていた人がいたらごめんなさい。
 とうとう決着しました。え?『鈴』の能力って何だったの?というのがわかるのはこの世界から出た後でしょう。
 そして今回、主人公達の来た世界が24世紀ということをあらすじ以外で始めて書きました。この世界から300以上未来ですね。

 では次回予告。

──零矢と『鈴』の決着がついた頃、天岩戸では

  「お前、何やってんだ?」
     
   須佐之男命再登場、そして零矢達は天岩戸到着

   さらには、

  「何事だ、騒がしいな」

   あの神様ついに登場──

 次回の更新は7月中旬過ぎぐらいになりそうです。お楽しみに。

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