俺達と神達と空想神話物語   作:赤色の魔法陳

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 こんにちは。
赤色の魔法陣です。
 いよいよ決着の時。そして...
 最後までお楽しみください。


零矢VS須佐之男命(3)

 誰もいない野原で二人の男は戦っていた。片方は自分にたてついた者を倒すため、もう片方は自らが誓った約束のため。激しい撃ち合い。片方が拳を突きだせば、片方が避け、片方が蹴りを入れようとすると片方が蹴り返す。片方が後ろへさがったら片方が前へ進む。

 

 その二人のうち一人の男──神木 零矢を“神”は違う次元から見ていた。

 

「あいつ思ったより良い感じじゃないか」

 

 先程いきなり叫んでから零矢は須佐之男命に対し、優勢になっていた。それを見て、“神”は微笑む。

 

「吹っ切れた感じか。まぁあれなら平気だろ」

 

 “神”は最近退屈だった。自分が見惚れるほどの戦いをする者が最近いなかったからだ。だが、零矢の戦いは自分が満足出来るものだ。こんな時に不謹慎だとウィッチに怒られるだろうと思いながら“神”は言った。

 

「面白いものが見れそう♪」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

……何なんだこいつ、さっき吹っ切れてから見違えるほど強くなった気がする。身体から自信と覇気が溢れてくるように。こいつ...何者だ?

 

 先程から劣勢になってきた須佐之男命は考えにふけっていた。自分の前の敵の信念はいったい何なのだと。何がこいつを奮い立たせているのか。何が俺より優れているのか、と。

 

……そんなこと関係ねぇ

 

 しかし、そんなこと今は関係ない。そんな考えは戦いにおいて邪魔なだけだ。目の前の敵の信念が自分よりも強いなら、自分だって強い信念を探せばいい。それだけのはず、なのに

 

うるぁぁぁぁっっっ!!」

 

 止まることを知らないのか零矢の拳は威力もスピードもどんどん上昇していく。しかも闇雲に打ち続けているわけではない。片方の拳を捌き隙になった場所を的確に狙っている。もし一発でも喰らえば須佐之男命が反撃を試みる前に零矢が一方的に蹂躙してしまう程の迫力だった。

 

 何とか反撃の一発を入れようと須佐之男命は考え、拳を両手で捌きながら右足で蹴ろうとするが零矢はすぐに察知し地面を蹴って右側に移動する。

 

 そして今度はその右足で地面を蹴り、二人の間に空いた距離を一気に詰め零矢は拳を突き出し、須佐之男命もそれを迎え撃とうと拳を突き出す。両者の拳は空を切りながら互いの顔面付近に迫った。

 

「強ぇな、お前。名前は?」

 

 互いの拳を互いの手で受けとめながら須佐之男命は自分の敵に問いかけた。

 

「神木 零矢、人間だ」

 

……人間だと?人間が神と同じぐらい強いのか?

 

 須佐之男命は驚き、手を離した。零矢もそれに合わせ、戦闘体勢を解くように手を離す。

 

「ハッ、人間がこんなに強いとはな、驚きだぜ」

 

「全員が強いってわけじゃないけど人間には無限の可能性があるからな。それより...」

 

 零矢は再び険しい顔つきになると問いかける。

 

「あんた、何でこんなことすんだよ?」

 

 それは須佐之男命にとって予想外の問いだった。

 

「わかんないだよ、俺。何回あんたの話を読んでも何であんたがこんなことをするのか。あんた、自分の姉と誓約(うけい)したんじゃ...」

 

「あぁ、したさ。っていうか何で知ってる?」

 

 その問いに今度は零矢が戸惑う。

 

「あー、え~と。違う次元から来たって言っても通じるのか?とりあえず、あんたの話が伝わって本になってる世界から来たんだけど、その...」

 

 零矢は上手く説明が出来ず須佐之男命から目線を外し、明後日の方向を向きながら話す。

 

「要するに、俺のこと知ってるわけだな。昔のこともこれからのことも」

 

「あー、まぁそうだ」

 

……まったくどっちが質問してんだか

 

 須佐之男命は頼りなさそうに頭をかいている零矢に対してそう思った。これがさっきまで互いに殺し合っていた仲かと思うと何だかおかしく感じられる。

 

「話してやろうか?」

 

「何を?」

 

「俺の昔の話。まぁ知ってるかもしれんが」

 

 そう言って須佐之男命は自分の過去を話し始めた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「お前は高天原を、お前は夜の世界を、お前は海原を治めよ」

 

 俺達『三貴神』を生み出した伊邪那岐命はそれぞれの場所を治めよと言った。アマ姉が天、ヨミ兄が月、そして俺──須佐之男命が海を。俺達は言われた通り、それぞれの場所へ向かい、それぞれの場所を治めた。それに満足して、伊邪那岐命は家に帰った。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 家に帰った伊邪那岐命は異変に気づいた。海が荒れている。海が荒れることで悪霊がたくさん生まれてしまっている。

 

……どういうことだ?海はスサに任せたはず

 

 しばらくすれば何とかなるだろう。そう思っていた。しかし、月日が流れ何年経っても、海は荒れたままだった。

 

「様子を見に行くか」

 

 そう思い、須佐之男命のところに行った伊邪那岐命は驚愕した須佐之男命が海に向かい泣いていたからだ。大声で泣くせいでさらに悪霊が増えている。

 伊邪那岐命は須佐之男命に聞いた。

 

「どうした?スサ、何で泣いてる?」

 

 その問いに須佐之男命は泣きながら答えた。

 

「うっ、ぐすっ、父さん。なん、何で俺には、ひっく、母さんがいないんだ?」

 

 まさかの答えだった。シングルファザーの家庭である伊邪那岐命にとって答えづらい質問。

 

……思春期かよ...

 

「あー、母さんはな、黄泉にいるんだよ。黄泉で死者を統制してるんだよ」

 

 もちろん、この答えは伊邪那美命が黄泉にいる以外嘘である。しかし、それを信じた須佐之男命は、

 

「じゃあ、俺、根の堅洲国に行く。そこに行けば母さんに会えるんだろ?」

 

 根の堅洲国とは黄泉の国のすぐ近くにある国である。

 しかし、伊邪那岐命はそれを承諾しなかった。

 

「やめとけ、お前には海を治めろって言ったはずだ。それに...母さんに会ってどうする?」

 

 須佐之男命は黙り込んだ。どうやらその先は考えてなかったらしい。

 

「お前、黄泉の国に母さんが何でいるかわかってるんだろ?母さんは死んだんだよ。だからお前に襲いかかってくるかもしれない。だから自分の心だけに思っておけばいい。会って絶望するくらいなら会わない方がいいのさ」

 

 伊邪那岐命ももう一度会いたいと思い、黄泉の国に行ったことがあった。しかしそこにいたのはあの美しく可愛らしかった伊邪那美命ではなく、腐り恐ろしい姿になった化け物だった。それを見て伊邪那岐命は絶望した。だから子供である須佐之男命にそんな思いはさせたくなかった。

 

……こうすることがスサにとって一番いいんだ

 

 そう思った。しかし、

 

「何で絶望したの?父さんは母さんを愛していたんじゃないの?」

 

 須佐之男命は反論してきた。

 

「それはだな...」

 

「父さんの意気地無しッ‼母さんを見て俺が絶望するわけないだろ‼」

 

 最初は子供のわがままとして聞いていた伊邪那岐命も須佐之男命の無知にだんだんいらだってきた。

 

「いい加減にしろッ‼お前はあの国が、母さんがどうなってるのか知らないからそんなことが言えるんだ‼もういい、日本から出て行け、黄泉の国は行くなよ。さぁ、早く‼」

 

 須佐之男命は地面を震わせながら去って行った。しばらくして頭が冷えると、

 

……少々、怒り過ぎただろうか

 

 伊邪那岐命は自分の大人げなさを反省した。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

……せめて、アマ姉にお別れを言っておこう

 

 そう思った俺は高天原へ行った。しかし、俺を出迎えたのは何百もの矢を持ち、みずらの髪形で弓を構えたアマ姉だった。

 

「えっ、アマ姉⁉何その格好、男?」

 

「私はれっきとした女なんですけど。ってか人前でアマ姉とか呼ぶなよ?何しに来たの?」

 

 はっきりと威圧感を込めてアマ姉は言った。変なことを言ったらすぐに矢を放つだろう。

 

「俺はただ、別れを言いに来ただけだ。別に高天原を攻めに来たわけじゃない」

 

「じゃあ誓約(うけい)しなさい‼」

 

「わかったよ」

 

 誓約(うけい)とは占いのようなもの。

 俺とアマ姉は身につけていたものを一つずつ交換し、水で洗い、噛み砕いて吐き出した。そこから生まれた神で俺の潔白が証明された。

 

「どうよ?」

 

「ご、ごめん」

 

 それから俺は高天原に住むことになった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「それから俺が何しても姉貴は神力でかばってくれた。俺はそれに頼っていたんだな」

 

 須佐之男命は自らの過去を語った。俺はその話は知っていたが生の話はやはり違った趣がある。だが神相手に同情をするのもどうかと思い

 

「そ、そうだな。あんたは自分の役目から逃げてただけだ」

 

 おうむ返しの様に言った。

 

「そう言えばお前、何で俺に怒ってたんだ?」

 

「何でって、あんたが機織り部屋で起こした事件で一人死んだからだ」

 

「そう...なのか。悪い、しっかり反省して弔うよ」

 

 須佐之男命は落ち込んだように言った。どうやら、反省の意はあるらしい。

 

……これで良い...のか?和解って事で

 

 何故さっきまで戦っていたのかわからなくなった。俺はふと自分のを見ると何度も拳を奮い続けていた為、甲は擦りむけ、掌は爪が食い込んで出血していた。空しさを感じながらも手の血を胴着で拭き取ると須佐之男命に手を差し出す。

 

「俺も悪かった。ただの人間があんたに偉そうなこと言って」

 

 須佐之男命では手を握って言った。

 

「お互い様か、あとあんたじゃなくてスサって呼べよ、零矢」

 

 その瞬間握った掌からもの凄い力が自分の身体に入って来たような気がした。身体の芯から沸き上がるような力が熱と共に全身を駆け巡る。

 

「あぁ、スサ」

 

 俺は手を離すとしばらく自分の掌を見つめた。

 

……何だ、今のは?神力?

 

 すると、スサが空を見上げながら不思議そうに言った。

 

「何か、太陽が動くの速くないか?」

 

「えっ⁉」

 

 それを聞いて俺も太陽の方を見る。太陽は異常とも思えるスピードで沈んでいく。直ぐ様周りが真夜中の様に暗くなり、松明の灯りだけが闇に浮かんでいる。

 

「どうなってる?さっきまで昼だったはず」

 

「まさか、これって。ウィッチさん」

 

 俺はイヤホンマイクに話しかける。

 

「多分私が思っていることと君が思ってることは同じ。始まったんだよ...」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「さぁ、始まったぞ!これからGD(ゴッドドミネーター)の作戦を始めよう」

 

 黒ベースに緑のラインが入ったイヤホンマイクに向かい話す。

 

「踊るぞ、俺達のパーティータイムだ」

 

 




 謎の組織の名前がわかりましたね。
 では、次回予告。
──ついに始まる天岩戸の事件。須佐之男命、零矢がその場所に向かう中、零矢の前にあの神様が登場する──
 お楽しみに。

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